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留学生
第48話 アポロン
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「なんだと!荒木真央が敗れたと言うのか!?」
そこは広い吹き抜けのフロアだった
見上げる程高い天井には巨大なシャンデリアが吊るされ、そこから眩しい程の光が全体に降り注がれている。
そのため、まるで真夏の日の元の様にフロア内は明るかった。
「信じられん……」
声の主は豪華なソファーに腰掛け、黄金のガウンを羽織っている金髪碧眼の美青年だった。
普段は涼し気な目元も今は大きく見開かれ、報告を持って来た部下を驚愕の表情で凝視している。
彼の名はアポロン・リュコス。
ギリシア屈指の大富豪である、リュコス家の一人息子だ。
「間違いございません。ギフテッド学園の闘祭。その頂上決戦において、荒木真央様が破れたそうです」
「彼女はこの世で唯一、私を打ち負かしたクイーンだぞ?その彼女が、他の誰かに負けるだなどと……」
「世の中は、広うございますので」
驚愕するアポロンの言葉に対し、部下の女性――前髪をきっちり揃え、首筋から先を編み上げている――は淡々と答える。
「くっ!端末を!」
アポロンが腕を伸ばすと、傍にいたゴスロリ服の女性がタブレットを彼に手渡した。
その女性の髪形も前髪で切りそろえられ、首元から先は三つ編みになっている。
このフロアにいる人間は全部で20人。
アポロンを除けば、そのすべてが女性だ。
19人いる女性は全て彼の配下であり、皆同じ髪型をしている。
更に報告を持って来た女性を除けば、全員が黒のゴスロリ服でその恰好が統一されていた。
「なんだと!?」
アポロンは素早く端末を弄るが、その画面には大きくエラーと表示される。
もう一度同じ操作を繰り返すが、やはり同じ様にエラーが出るだけだった。
「何故彼女に繋がらない!?」
「お忘れになられたのですか?荒木真央には、先月から通信をブロックされてますが?」
「ぬ……く。そうだった。彼女は奥ゆかしい性格だったからな。頻繁に連絡されるのが恥ずかしくて、照れ隠しにブロックしていたのだったな」
正確には照れ隠しなどではなく、余りにも頻繁に意味のない通信を行った結果、彼女に面倒くさい相手と思われブロックされているだけだった。
彼はそれを良い様に解釈している様だ。
「仕方がない。出かける準備を」
「どちらへ向かわれるおつもりですか?」
女性が白い目で訪ねる。
だがそれに気づく事無く、アポロンは胸を張って答えた。
「ふ、言うまでも無かろう。日本だ!傷ついた彼女の心をケアできるのは、将来の夫たる俺だけだからな!」
通信をブロックしている相手に駆け付けられても、心のケア所か、果てしなく迷惑をかけるだけだ。
そもそも、荒木真央は戦いに負けた程度でへこむ様な少女ではない。
彼が行っても、只々純粋に迷惑になるだけだろう。
「その間、学園はどうされるおつもりです?」
ここは日本から遠く離れたギリシア。
能力者育成を目的に作られた教育機関――日本で言う所のギフテッド学園――の建物内だ。
そして彼はその教育機関の理事長を務めていた。
「うちの生徒の事は、お前達に任せる!」
アポロンはその場にいる人間にそう告げる。
だが配下の女性からは冷たい言葉が返って来た。
「任せられても困るのですけど?」
配下の女性は眉根を顰めて答えた。
日本へは軽く十時間以上はかかる。
その為、少なく見積もってもアポロンは三日以上学園を開ける事になってしまうだろう。
まあ本来三日程度ならたいした問題ではないのだが、アポロンは非常識な人間だった――元々は品行方正な人物であったのだが、恋に狂い、今や常識など糞くらえ状態だ。
そんな彼が恋する相手の傍に行けば、暫く返ってこないのは目に見えている。
絶対に三日では済まない。
場合によっては一月、もしくはそれ以上開ける事になるだろう。
「これは決定事項だ!」
そう強く言い切られ、配下の女性は口を噤んだ。
ここ最近の恋に侵されたアポロンは、人の言葉になど耳を傾けない。
言っても無駄だと悟り、彼女はやれやれと首を竦めた。
「分かりました。ですが、流石に今すぐというのは問題があります。ですので、一週間ほど時間を下さい。それと期間は最大で一ヶ月です。宜しいですか?」
「ぬ……一週間か……」
最大限の譲歩なのだが、アポロンは不満げに顔を歪めて考え込む。
だが暫く考えたのち、渋い顔でそれでいいと答えた。
「ありがとうございます」
アポロンに一礼すると、配下の女性はフロアを出ていく。
外に出た所で彼女は大きく溜息をついた。
彼女の名はクリュティエ。
アポロンの幼馴染であり、今は彼の専属秘書を務める――学園ではなく、アポロンの家に雇われている――女性だ。
「何やってんだろ……私」
以前のアポロンは優しく聡明で、美しい顔立ちと家柄が合わさって、ありとあらゆる女性を虜にする魅力的な男性だった。
クリュティエもそんな彼に幼い頃からほのかな恋心を抱いており、彼女が秘書を務めているのも、少しでもアポロンの傍にいる為に他ならない。
だが――荒木真央という魔性の少女に恋をして以来、彼は変わってしまった。
配下の女性達に荒木真央のコスプレをさせる等、今のアポロンは以前の彼と比べると、もはやキチガイに等しいレベルにまで落ちてしまっている。
「なんで嫌いになれないかなぁ……」
だがそれでも、彼女の彼に対する気持ちは変わる事が無かった。
荒木真央に完璧に振られれば――もうほぼ完ぺきに振られている状態ではあるが、本人は認めていない――元の彼に戻ってくれるかもという淡い期待が、彼女の心を引き留めてしまっているのだ。
「ま、しょうがない。今は割り切って仕事するとしましょう」
クリュティエはそう呟くと、主に課せられた使命を果たすべく歩き出した。
そこは広い吹き抜けのフロアだった
見上げる程高い天井には巨大なシャンデリアが吊るされ、そこから眩しい程の光が全体に降り注がれている。
そのため、まるで真夏の日の元の様にフロア内は明るかった。
「信じられん……」
声の主は豪華なソファーに腰掛け、黄金のガウンを羽織っている金髪碧眼の美青年だった。
普段は涼し気な目元も今は大きく見開かれ、報告を持って来た部下を驚愕の表情で凝視している。
彼の名はアポロン・リュコス。
ギリシア屈指の大富豪である、リュコス家の一人息子だ。
「間違いございません。ギフテッド学園の闘祭。その頂上決戦において、荒木真央様が破れたそうです」
「彼女はこの世で唯一、私を打ち負かしたクイーンだぞ?その彼女が、他の誰かに負けるだなどと……」
「世の中は、広うございますので」
驚愕するアポロンの言葉に対し、部下の女性――前髪をきっちり揃え、首筋から先を編み上げている――は淡々と答える。
「くっ!端末を!」
アポロンが腕を伸ばすと、傍にいたゴスロリ服の女性がタブレットを彼に手渡した。
その女性の髪形も前髪で切りそろえられ、首元から先は三つ編みになっている。
このフロアにいる人間は全部で20人。
アポロンを除けば、そのすべてが女性だ。
19人いる女性は全て彼の配下であり、皆同じ髪型をしている。
更に報告を持って来た女性を除けば、全員が黒のゴスロリ服でその恰好が統一されていた。
「なんだと!?」
アポロンは素早く端末を弄るが、その画面には大きくエラーと表示される。
もう一度同じ操作を繰り返すが、やはり同じ様にエラーが出るだけだった。
「何故彼女に繋がらない!?」
「お忘れになられたのですか?荒木真央には、先月から通信をブロックされてますが?」
「ぬ……く。そうだった。彼女は奥ゆかしい性格だったからな。頻繁に連絡されるのが恥ずかしくて、照れ隠しにブロックしていたのだったな」
正確には照れ隠しなどではなく、余りにも頻繁に意味のない通信を行った結果、彼女に面倒くさい相手と思われブロックされているだけだった。
彼はそれを良い様に解釈している様だ。
「仕方がない。出かける準備を」
「どちらへ向かわれるおつもりですか?」
女性が白い目で訪ねる。
だがそれに気づく事無く、アポロンは胸を張って答えた。
「ふ、言うまでも無かろう。日本だ!傷ついた彼女の心をケアできるのは、将来の夫たる俺だけだからな!」
通信をブロックしている相手に駆け付けられても、心のケア所か、果てしなく迷惑をかけるだけだ。
そもそも、荒木真央は戦いに負けた程度でへこむ様な少女ではない。
彼が行っても、只々純粋に迷惑になるだけだろう。
「その間、学園はどうされるおつもりです?」
ここは日本から遠く離れたギリシア。
能力者育成を目的に作られた教育機関――日本で言う所のギフテッド学園――の建物内だ。
そして彼はその教育機関の理事長を務めていた。
「うちの生徒の事は、お前達に任せる!」
アポロンはその場にいる人間にそう告げる。
だが配下の女性からは冷たい言葉が返って来た。
「任せられても困るのですけど?」
配下の女性は眉根を顰めて答えた。
日本へは軽く十時間以上はかかる。
その為、少なく見積もってもアポロンは三日以上学園を開ける事になってしまうだろう。
まあ本来三日程度ならたいした問題ではないのだが、アポロンは非常識な人間だった――元々は品行方正な人物であったのだが、恋に狂い、今や常識など糞くらえ状態だ。
そんな彼が恋する相手の傍に行けば、暫く返ってこないのは目に見えている。
絶対に三日では済まない。
場合によっては一月、もしくはそれ以上開ける事になるだろう。
「これは決定事項だ!」
そう強く言い切られ、配下の女性は口を噤んだ。
ここ最近の恋に侵されたアポロンは、人の言葉になど耳を傾けない。
言っても無駄だと悟り、彼女はやれやれと首を竦めた。
「分かりました。ですが、流石に今すぐというのは問題があります。ですので、一週間ほど時間を下さい。それと期間は最大で一ヶ月です。宜しいですか?」
「ぬ……一週間か……」
最大限の譲歩なのだが、アポロンは不満げに顔を歪めて考え込む。
だが暫く考えたのち、渋い顔でそれでいいと答えた。
「ありがとうございます」
アポロンに一礼すると、配下の女性はフロアを出ていく。
外に出た所で彼女は大きく溜息をついた。
彼女の名はクリュティエ。
アポロンの幼馴染であり、今は彼の専属秘書を務める――学園ではなく、アポロンの家に雇われている――女性だ。
「何やってんだろ……私」
以前のアポロンは優しく聡明で、美しい顔立ちと家柄が合わさって、ありとあらゆる女性を虜にする魅力的な男性だった。
クリュティエもそんな彼に幼い頃からほのかな恋心を抱いており、彼女が秘書を務めているのも、少しでもアポロンの傍にいる為に他ならない。
だが――荒木真央という魔性の少女に恋をして以来、彼は変わってしまった。
配下の女性達に荒木真央のコスプレをさせる等、今のアポロンは以前の彼と比べると、もはやキチガイに等しいレベルにまで落ちてしまっている。
「なんで嫌いになれないかなぁ……」
だがそれでも、彼女の彼に対する気持ちは変わる事が無かった。
荒木真央に完璧に振られれば――もうほぼ完ぺきに振られている状態ではあるが、本人は認めていない――元の彼に戻ってくれるかもという淡い期待が、彼女の心を引き留めてしまっているのだ。
「ま、しょうがない。今は割り切って仕事するとしましょう」
クリュティエはそう呟くと、主に課せられた使命を果たすべく歩き出した。
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