上 下
9 / 85
氷の女王

第8話 雪解け?

しおりを挟む
「私が知ってるのはそれが全部よ」

「ふむ」

組織の実態は未だ一切掴めておらず、分かっているのはブースターと言われる違法薬物を学園内に陰でばら撒いている事だけだそうだ。
ばら撒かれているブースターなる薬物は一般人には何の影響も及ばさないそうだが、能力者がそれを服用すると劇的に能力が伸びると言う代物だった。

効果だけ聞けば素晴らしい薬に聞こえるが、当然薬物である以上副作用が付いてくる。

高い依存症を発し。
精神が不安定になり。
最終的には精神が崩壊して死に至る。

そういう副作用が。

「やばい奴らだってのは分かったが、なんで俺がその一員だって思ったんだ」

俺は偶々あの場に居合わせただけだ。
にも拘らず、氷部は俺を組織の人間と勘違いしていた。
それが俺には分からない。

「雰囲気から、貴方がかなりの強さだって分かったからよ」

「……え?それだけ?」

その理論だと、強い奴全部組織の構成員になってしまうのだが。

「私を襲った6人は全員、以前私が取り締まった薬物使用者よ。そいつらが私に復讐に来て、しかもその近くにこっちを見張る強い力の持ち主がいる。疑うのは当然でしょ?」

「成程。ていうか氷部が取り締まるって?」

「私が風紀委員の一員だからよ」

風紀委員か。
確かに、真面目そうな氷部にはしっくりくるな。

「学園の治安は、私達風紀委員が守っているのよ」

「治安って……」

随分と大げさだな。
まあでも薬物使用者の摘発みたいな事もしてるなら、全く当て嵌まらない訳でもないのか。

「大げさだと思ったでしょ?でも事実よ。言葉通り、私達風紀委員がこの学園の治安を維持してるの」

「どういう事だ?」

「この学園の生徒は全て能力者よ。何かトラブルが起きても、能力のない人間にそれを抑える事は出来無いわ。マシンガンを乱射し合ってる人間に、一般人が首を突っ込んだらどうなるか分かるでしょ?」

ああ、まあ確かにと納得させられる。
俺の様なゴミみたいな能力の持ち主でも、プラーナを高めれば――身体強化――人外めいた身体能力を得る事が出来るらしい。
そんな奴らを一介の警備員に抑え込めとか言うのは、確かに無理がある。

「学園を出た卒業生に頼むわけにも行かないし。能力者である教師の数も限られているわ。だからこの学園は生徒自ら――つまり私達風紀委員が、何かあった時のトラブルの対処を受け持っているのよ」

理には適っていた。
卒業生の大半は、その様々な能力でエリートコースが約束されている。
態々学園の警備員なんて仕事を選ぶ奴は少ないだろう。

当の風紀が揉めだしたら――所詮学生だし――誰が止めるんだって気がしなくもないが、まあその時は能力を持つ教師の出番になるだけか。

「そこで物は相談なんだけど、あなた――って、そう言えばまだ名前も聞いてなかったわね。私は氷部澪奈。高等部一年よ」

「俺は鏡竜也かがみりゅうや。俺も高等部の一年生だ。まあ正確には明後日からだけどな」

「鏡竜也ね。じゃあ改めて、貴方には風紀委員に入って欲しいの」

何かの冗談かとも思ったが、氷部は真面目な表情で此方を見ている。
どうやら彼女は、本気で学園に来たばかりの俺を勧誘している様だ。

「理由を聞いて良いか?」

「勿論。貴方が強いからよ。この学園の性質上、風紀には強い力が必要になる。その点、貴方は正に適任と言えるわ」

言わんとする事は分かる。
だが人間性もよく分からん奴を誘うのはどうかと思うのだが……

まあそこは置いておくとして。

「悪いけど、少し考えさせてくれないか?まだ学園ここの事がよく分かってないし、知らない場所を守るために頑張ろうとか言われても、正直困る」

「それもそうね。いい返事を期待しているわ」

そう言うと、氷部は座っていたベッドから立ち上がり微笑んだ。
その綺麗な顔に思わずドキッとする。
俺の人生で間違いなくトップに位置する造形と言っていいだろう。

これで胸が大きかったら――別に小さくはないが――本当にイチコロだったかもしれん。

危うく泰三の仲間入りをする所だった。
危ない危ない。

「じゃあ、私はこれで失礼させて貰うわ。こんな夜更けに、男子寮にいつまでもいるのもあれだしね」

「ああ、送ろ――「おおい!親友よ!差し入れだ!」」

急に玄関の扉が開き、誰かが入って来た。
泰三だ。
外に出ようとしていた氷部とバッタリ鉢合わせした奴は固まってしまい、手にしていた雑誌をバサバサと地面に落としてしまう。

「……え?……あ?え?」

俺とした事が、カギを閉め忘れていた。
つうか、インターホンも無しに人の部屋に勝手に入ってくんなよな。

「なんで!?なんで氷部がっ―― 」

音も無く泰三の背後に回った俺は、素早くその首筋に手刀を叩き込む。
そのまま奴は玄関先に崩れ落ちた。
夜遅くに氷部が俺の部屋にいた説明をするのも面倒なので、泰三には夢落ちで押し通すとしよう。

「コミックバインバイン……ね。これがあなたの趣味って訳?」

氷部が泰三の落とした雑誌を拾う。
表紙には、ボンキュッボンのダイナマイツな水着姿のお姉さんが映っていた。

「いや、これはこいつが勝手に持ってきただけで……」

勿論嘘だ。
お宝のシェアは男子にとって基本中の基本。
泰三には俺から打診している。

なんか良いの無いかと。

だが今は緊急事態だ。
許せ泰三。

「ふーん」

氷の様に冷たい、まるで汚物を見つめる様な目で彼女は俺を見て来る。
その表情にさっきまでの温かさは微塵もない。
やはり苦しい言い訳だった様だ。

「貴方を風紀に誘ったのは失敗だったかもね」

そう言うと、氷部は雑誌を泰三の上に落とし玄関から出て行った。
が、何故か直ぐに戻って来た。

「大事な事を言うのを忘れてたわ。今日は勘違いとはいえ、攻撃してごめんなさい」

そう言って氷部が頭を下げる。
態々謝る為に戻って来るとか、中々礼儀正しい奴だ。

「いや、別に気にしてないよ」

「そう、ありがとう。それじゃおやすみなさい。変態さん」

「あ、ああ。お休み」

一瞬雪解けを期待したが、まあ仕方がない。
氷部も御大層な2つ名を付けられているとはいえ、年頃の女の子だ。
思いっきりエチイ本を見られてしまった以上、その称号は甘んじて受けるしかないだろう。

「取り敢えず、泰三を部屋に戻すか」

泰三を抱えようとするが、その前に俺は雑誌類を拾い集めてそっとベッドの下に滑り込ませた。

「友の心遣いを無駄にするわけには行かないからな」

有難く頂くとしよう。

こうして俺の学園初日?は幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

処理中です...