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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第七章 新たなる黄金竜の誕生

第十五話 カルフィー魔道具店への訪問(上)

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 そして場所は変わり、ゴルティニア王国である。
 黄金竜の雛ルドガーの親であるシルヴェスター王子とユーリス。二人もまたどうしたものかと、困惑の中にあった。

 つい先日まで、ルドガーは親であるユーリスにべったりであった。ユーリスの胸元から離れたがらず、黄金竜ウェイズリーがユーリスの胸元に飛び付こうとすると、「シャアー」とルドガーがウェイズリーに鋭い歯を見せて威嚇するほどに、ユーリスを独占したがり、片時も離れずにべったりであった。
 それが、祖父ジャクセンに、ルドガーを顔見せに連れていって以来、すっかりルドガーは、今度は祖父のジャクセンに夢中になっているのである。
 朝、目が覚めるなり、朝食も食べずにそのまま“転移”して、ジャクセンの元へ行っているようなのだ。母ルイーズは、「朝食はしっかりと私がとらせているから安心して頂戴」と言っている。いや、心配しているのは、息子竜ルドガーが、朝食を食べているかどうかではない。問題は、孫(竜)である彼が、祖父のジャクセンに夢中になっていることだった。

 黄金竜ウェイズリーは「キュルキュルル!!(別にいいじゃないか!!)」と晴れやかな表情でそう言っている。ルドガー誕生からの半年間、ウェイズリーはまったくユーリスの胸元で甘えることが出来ず、ストレスが相当溜まっていたのである。ルドガーが別の誰かに夢中になって、あちらへずっと行ってくれるなんて願ったり叶ったりの状況なのである。もはやユーリスの温かくて気持ちの良い胸元は、ウェイズリーの独占なのである。
 ご機嫌になっている黄金竜ウェイズリーとは対照的に、ユーリスの顔は浮かないものになっていた。

「父上のことが大好きなんておかしい。父上は、ルドガーの祖父なのだよ」

 ユーリスとそっくりの顔立ちをしたジャクセン=バンクール。そっくりなのは当然で、彼はユーリスの父親だった。まるで雛型のようによく似ている二人。ジャクセンは四十前後の年齢だと聞いていたが、実際には三十前後、ややもすれば二十代後半にしか見えない美貌の男性である。服飾を扱う商会を率いる立場にあるものらしく、いつも最新の流行の型の素晴らしい衣装を身にまとい、多くの者達の上に立つ者としての威厳と優雅さに満ちている。実際、誰が見ても目を奪うような容姿の持ち主だった。

「それに、母上だっているのに。ルドガーは何を考えているんだ」

 ジャクセン=バンクールが、妻ルイーズと子供達を溺愛しているのは有名な話だった。実際、ルイーズとジャクセンはいつも仲睦まじい。世間では鴛鴦夫婦と言われていた。

「では、ルドガーがジャクセン殿の屋敷へ“転移”するのを止めるか」

 シルヴェスター王子がそう言うと、ユーリスは困ったように眉を寄せて言った。

「……どうやって止めればいいのか分からない」

 なにせ、叶えられぬことはない、不可能を可能にする力を持つ黄金竜。その雛なのである。
 止めようとしてもそれを止める手段を思いつかなかった。
 

 悩み抜いたユーリスが、まず最初に相談する相手と考えたのが、叔父のリヨンネだった。
 リヨンネは竜に詳しい生態学者なのである。自分には思いつかない手段を何か知っているかも知れない。先日の孵卵器の入手の件に続いて、ユーリスは叔父に相談することにした。
 リヨンネは、「黄金竜の雛を止める方法なんて思いつかないな」と早々に白旗を上げていた。だが、彼は別の知見に頼ることをユーリスに勧めた。

 「黄金竜の魔法の力が問題になるのなら、魔法の力を無効化する魔道具でなんとか出来るかも知れない。魔道具作りの専門家に聞いてみよう」と言って、なんと彼は、カルフィー魔道具店にわたりを付けると言ったのだ。
 カルフィー魔道具店とは、この大陸で今、飛ぶ鳥も落とす勢いのある有名魔道具店であった。遠話魔道具の開発により、一気にその名が知られたが、それ以前から、カルフィー魔道具店の魔道具は、高性能かつ洗練されたデザインで非常に人気があった。実際、ラウデシア王国のジャクセンも、早々にカルフィー魔道具店の遠話魔道具を大枚はたいて入手していた。
 カルフィー魔道具店の主人の一人と、紫竜ルーシェが非常に親しいことを知るリヨンネは(紫竜ルーシェはたびたびカルフィー魔道具店から最新式の魔道具を贈られ、その一部をリヨンネは分けてもらったこともあった)、なんと紫竜ルーシェを介して、カルフィー魔道具店の主人の一人であるトモチカをユーリスに紹介してもらうことにしたのだった。

 依頼をするのなら、直接会って頼むのが筋だろうと、ユーリスは直接トモチカに会うという。それならば紹介者の紫竜ルーシェも同行すると主張した。そして自分のパートナーである紫竜が行くのなら、当然主で伴侶であるアルバート王子も同行する。「では私も同行しよう」と言いかけたシルヴェスター王子を制止したのは、ユーリスだった。さすがにゴルティニア王国のシルヴェスター王子までも同席するとなると大事になり過ぎるのだ。だが、“転移”魔法を使って移動するには黄金竜ウェイズリーの存在が必要である。ウェイズリーは、シルヴェスターではなく、自分がユーリスと一緒に出掛けられることを喜び、シルヴェスター王子には「私の中で留守番をするのだな」とどこか上から目線で言って、シルヴェスター王子を苦笑させていた。
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