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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第七章 新たなる黄金竜の誕生

第十二話 顔見せ(中)

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 黄金竜ルドガーが誕生して半年が経過したところで、ようやく、ユーリスは自分の両親にルドガーを紹介しなければならないと考えた。
 本当なら、卵で産まれた時点で紹介すべきところであった。しかし、さすがに両親に人間の男の自分が、「シルヴェスター王子との間に、卵を産みました」と告白することは難しかったのだ。
 そもそも、シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーが“同化”して一体化していることも、父親であるジャクセンから「本当に大丈夫なのか」と心配されていたのだ。今度は男の自分が卵を産んで、竜の子を孵したと聞いたのなら、彼は一体どんな思いを抱くのだろうかと、想像するだけでも恐ろしく思う。

 しかし、いつまでも知らせないわけにはいかないだろう。
 
 ユーリスは、どこか緊張した様子で、小さな黄金竜の雛を胸元の布袋に仕舞いこむ。
 ルドガーは不思議そうな顔で、ユーリスの顔を見上げた。ユーリスの緊張を感じ取ったのだ。

「キュルキュルキュルル?(ユーリス、どこへ行くの?)」

 見ればユーリスはしっかりとした上着をまとい、同行するシルヴェスターもそうだった。

「ラウデシア王国という国に行く。こちらよりも、あちらは寒いから。ちゃんと暖かい格好で行かないと寒いんだよ、ルドガー」

「キュルル?(どうして行くの?)」

「ルドガーを、私の両親に会わせようと思う。いい子にするんだよ」

 そう言って、ユーリスは優しくルドガーの頭を撫でた。

「キュルキュルル? キュイキュイ?(ユーリスの親? どんな人なの?)」

「商売をしている人なんだ。母はルイーズ、父はジャクセンという。大丈夫だよ、ルドガー。私の両親はいい人達だ」

 シルヴェスター王子が、黄金竜ウェイズリーの力を使って“転移”しようと、ユーリスの手を取る。
 ユーリスは緊張した面持ちのまま、頷いた。
 そして二人は、ラウデシア王国の王都、バンクール商会長ジャクセンの屋敷前に“転移”したのだった。



 人目につかぬように、薄暗い夕闇の中、二人の若者はラウデシア王国内に“転移”してきた。
 シルヴェスター王子が大きな鉄門そばに近寄ると、報せをすでに受けていた門番がすぐに扉を開いてくれる。

 ジャクセンには“遠話魔道具”を使って、今日の訪問を事前に報せていたのだ。
 ユーリスの緊張が染ったかのように、シルヴェスターも少しばかり緊張したような面持ちである。二人して、手を繋いで道を歩いて行く。

「ユーリス、お前も緊張しているのだな」

「……両親に、貴方と結婚の話をする時には、こんなに緊張することはなかったのですが。今回、父にどう話せば理解してもらえるか考えると難しくて」

 なにせ一人息子が、竜と“同化”している男と婚姻して卵を産んだのだ。
 卵から小さな竜の雛が誕生している。
 貴方の初孫ですよと、小さな竜を見せたとして、両親がすんなり納得できるか……。
 両親がどんな反応をするのか、想像もつかなかった。

「ジャクセン殿は、お前と同じでとても賢い御方だ。きっとわかって下さる」

「そうだといいけれど」

 シルヴェスターの言葉に、シルヴェスターの中の黄金竜ウェイズリーは一瞬、何か引っかかった思いを抱いた。
 それが何なのか、その時は分からない。

 屋敷につくと、執事がすぐにユーリスとシルヴェスターの二人を、案内する。
 今回、ユーリスとシルヴェスターは、両親であるジャクセンとルイーズの二人だけに話があると言って、人払いを頼んでいた。広い応接室ではなく、ジャクセンの私室に案内される。

 部屋の中にはジャクセンとルイーズがすでに待ち構えていて、いつものようにルイーズが近寄ってきて、ユーリスとシルヴェスターを順に抱きしめる。椅子から立ち上がる、ユーリスとそっくりの顔立ちをしたジャクセンを見て、シルヴェスターの中の黄金竜ウェイズリーは胸騒ぎを覚えた。

 まさかまさかという思いがある。
 だが、もはや動き出している。

 ジャクセンは、シルヴェスター王子とユーリスをソファに座るように促した。
 温かなお茶を淹れてくれた召使が退室したところで、ジャクセンが口を開いた。

「それで、改めて私達の元を訪ねた理由は何なのだ、ユーリス、シルヴェスター殿下」

 ユーリスはシルヴェスターに視線をやった後、意を決したような様子で自分の懐の布袋の中から、小さな黄金竜の雛を取り出し、テーブルの上にそっと立たせたのだった。
 小さな黄金竜の雛ルドガーは、大好きな親のユーリスの温かな胸元から取り出されて、一瞬不満そうな顔を見せたが、その後、目の前に優雅に椅子に座る、自分の大好きなユーリスと全く同じ顔をしている男の顔を認めて、口をぱっくりと開けた後、尻尾をぴんと立たせて驚きを露わにした。

 それからふいに、「キュイキュイ」と甘く鳴きながら、体を揺らして踊り始めたのだった。
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