573 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第七章 新たなる黄金竜の誕生
第一話 抱卵
しおりを挟む
ユーリス=バンクールが産んだ真っ白い竜の卵。
ユーリスとシルヴェスター王子は、卵を布の袋に入れて、胸元で温める作業を代わる代わる行っていた。
いわゆる“抱卵”である。
ユーリスは、かつて自分が卵を抱いて孵化させたウェイズリーのことを思い出して、懐かしそうな顔をしていた。
「ウェイズリーもこうやって温めて孵したものです」
ただ最初は、いつの間にか宿の寝台の上に転がっていた竜の卵をどうすればいいのか分からず、叔父のリヨンネに押し付けた。押し付けたはずなのに、また宿の寝台の上に再出現して転がっていたために、驚き呆れ、このまま放っておくのは可哀想だと思って温めたものだった。
ユーリスの手元にある、この真っ白い卵は、シルヴェスターとウェイズリー、そしてユーリスを親とする卵であった。
ユーリスは考え深げに、滑らかな真っ白い卵を優しく撫でる。
すると、卵は嬉しそうに震える。
「早く、孵らないかな」
そう言うと、シルヴェスターは微笑み、ユーリスの額に口づけた。
「そろそろ私が代わって温めようか」
「ええ、お願いできるでしょうか」
ユーリスが胸元から卵の入っている袋をそっと大切そうに取り上げると、シルヴェスターが今度は自分のシャツの前を開いて卵の入っている袋を斜めにかける。シャツの前を開けたことで、シルヴェスターの首筋や固く引き締まった筋肉のついた胸が見える。シルヴェスターは、学園時代からダンカンの冒険者ギルドにいて、王子の身分でありながら、実戦に身を置いていた。その身体には贅肉の一つもついていない。ユーリスは笑みを浮かべ、卵を渡しながらも王子の首元に顔を埋めた。シルヴェスターの首筋にそっと口づけを落とす。柔らかな唇の感触と吐息。シルヴェスターは身を軽く震わせた。
「ヴィーの匂いがする」
ユーリスも掠れた声でそんなことを言う。
「……誘惑しているのか」
身を寄せて来るユーリスの顔を見つめてシルヴェスターがそう言うと、ユーリスも笑った。
「そうですね。誘惑しているのかも知れません」
ユーリスの艶やかな黒髪の後頭部に手をやり、シルヴェスターはその唇に自分の唇を重ねた。互いの唇を食むような口づけをしばらく続ける。だが、胸元にある卵のことが気になるのか、シルヴェスターは困ったように眉を寄せる。
ユーリスの身を引き寄せ、これからそのまま本格的に愛し合おうとしては、胸元の卵を潰してしまいそうだ。
かといって卵を温めないわけにはいかないだろう。
そう考えているシルヴェスターに、ユーリスは言った。
「少しくらいなら、温めなくても大丈夫だと聞いています」
「お前をゆっくり時間をかけて愛したいのに」
シルヴェスター王子は不満そうだ。
そしてシルヴェスター王子の胸元の卵もまた、不満を表すようにブルブルと震えている。
親達からないがしろにされていると感じているようだ。
「確か、竜騎兵団には竜の卵を温める魔道具があると聞いたことがあります。その魔道具を購入しましょうか」
孵卵器である。
それを聞いたシルヴェスターは目を輝かせ、愛しい伴侶の身体を抱きしめながら「それは、早急に手配しなければならないな」と宣言していたのだった。
ユーリスとシルヴェスター王子は、卵を布の袋に入れて、胸元で温める作業を代わる代わる行っていた。
いわゆる“抱卵”である。
ユーリスは、かつて自分が卵を抱いて孵化させたウェイズリーのことを思い出して、懐かしそうな顔をしていた。
「ウェイズリーもこうやって温めて孵したものです」
ただ最初は、いつの間にか宿の寝台の上に転がっていた竜の卵をどうすればいいのか分からず、叔父のリヨンネに押し付けた。押し付けたはずなのに、また宿の寝台の上に再出現して転がっていたために、驚き呆れ、このまま放っておくのは可哀想だと思って温めたものだった。
ユーリスの手元にある、この真っ白い卵は、シルヴェスターとウェイズリー、そしてユーリスを親とする卵であった。
ユーリスは考え深げに、滑らかな真っ白い卵を優しく撫でる。
すると、卵は嬉しそうに震える。
「早く、孵らないかな」
そう言うと、シルヴェスターは微笑み、ユーリスの額に口づけた。
「そろそろ私が代わって温めようか」
「ええ、お願いできるでしょうか」
ユーリスが胸元から卵の入っている袋をそっと大切そうに取り上げると、シルヴェスターが今度は自分のシャツの前を開いて卵の入っている袋を斜めにかける。シャツの前を開けたことで、シルヴェスターの首筋や固く引き締まった筋肉のついた胸が見える。シルヴェスターは、学園時代からダンカンの冒険者ギルドにいて、王子の身分でありながら、実戦に身を置いていた。その身体には贅肉の一つもついていない。ユーリスは笑みを浮かべ、卵を渡しながらも王子の首元に顔を埋めた。シルヴェスターの首筋にそっと口づけを落とす。柔らかな唇の感触と吐息。シルヴェスターは身を軽く震わせた。
「ヴィーの匂いがする」
ユーリスも掠れた声でそんなことを言う。
「……誘惑しているのか」
身を寄せて来るユーリスの顔を見つめてシルヴェスターがそう言うと、ユーリスも笑った。
「そうですね。誘惑しているのかも知れません」
ユーリスの艶やかな黒髪の後頭部に手をやり、シルヴェスターはその唇に自分の唇を重ねた。互いの唇を食むような口づけをしばらく続ける。だが、胸元にある卵のことが気になるのか、シルヴェスターは困ったように眉を寄せる。
ユーリスの身を引き寄せ、これからそのまま本格的に愛し合おうとしては、胸元の卵を潰してしまいそうだ。
かといって卵を温めないわけにはいかないだろう。
そう考えているシルヴェスターに、ユーリスは言った。
「少しくらいなら、温めなくても大丈夫だと聞いています」
「お前をゆっくり時間をかけて愛したいのに」
シルヴェスター王子は不満そうだ。
そしてシルヴェスター王子の胸元の卵もまた、不満を表すようにブルブルと震えている。
親達からないがしろにされていると感じているようだ。
「確か、竜騎兵団には竜の卵を温める魔道具があると聞いたことがあります。その魔道具を購入しましょうか」
孵卵器である。
それを聞いたシルヴェスターは目を輝かせ、愛しい伴侶の身体を抱きしめながら「それは、早急に手配しなければならないな」と宣言していたのだった。
23
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる