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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)

第六話 もう一度(下)

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「私もお前を愛しているよ、ウェイズリー」

 愛しい番の青年から、初めて愛の言葉を聞かされた時、黄金竜ウェイズリーはその黄金色の双眸を大きく見開いて、時が止まったかのように動きを止めた。

「……ウェイズリー?」

 それでユーリスが、ウェイズリーの顔を心配そうに見上げる。
 やにわにウェイズリーはユーリスの細身を強く抱きしめた。

「ユーリス!! ユーリス!!」

「どうしたのですか、ウェイズリー」

 耳元で叫び続けるのはやめて欲しいとユーリスは顔をしかめている。それなのに、ウェイズリーはずっとユーリスの名を連呼し、やがてユーリスの顔を見つめ、黄金色の目に涙を浮かべて言った。

「だって、お前が」

 お前が初めて、私に応えてくれたのだから。
 それも、私に「愛している」と言ってくれた。

 もはやウェイズリーは言葉にならないようで、ハラハラと涙を零し続けている。大の男の姿で大泣きである。それを困ったような顔でユーリスはじっと見上げていて、よしよしと言うように、ウェイズリーの頭を撫でていた。

「君はまだまだ子供なのだね」

 そんなことを言われてしまったものだから、ウェイズリーは「違う!!」「嬉しくて涙がこぼれただけなのだ!!」「私は子供ではないぞ!!」と言い張ったのだけど、ユーリスは笑顔のまま「わかった、わかった」と言うだけだった。小人達も笑顔でそんな二人の様子を見つめている。

 それから空中城の大広間で食事の会が開かれ、小人達が歌ったり、踊ったりして黄金竜の主人とその伴侶を楽しませようと懸命に心を尽くしていた。
 その会が終わる頃には、もはやユーリスは疲れ切っていた。

 それでも心を込めて、黄金竜ウェイズリーとユーリスを祝おうとしている小人達からの気持ちが伝わってきて、会の終わりにはユーリスが小人達への感謝の言葉を述べた。その後、ウェイズリーと共に、あの巨大な寝台の鎮座する寝室へ入っていく。

 小人達が作ってくれた真っ白い礼服姿のまま、ユーリスは巨大な寝台の上にバタンと倒れる。
 そのユーリスのそばに、すかさず人の姿のままのウェイズリーがやって来て、ユーリスの耳元で彼の名を甘く囁いた。

「ユーリス」

 そのウェイズリーの黄金色の双眸には、堪え切れない欲が輝いている。
 ウェイズリーの頭には、先刻ユーリスから聞いた「私もお前を愛しているよ、ウェイズリー」という言葉が、クッキリ、ハッキリと刻みつけられていた。もはやユーリスのその声も台詞も、ウェイズリーの記憶に永久保存することが確定である。

 だから、巨大な寝台の上で横になるユーリスの、その頭や額に口づけの雨を降らせると、ウェイズリーはその細身にのしかかろうとしていたのだが、それを止めたのは、ユーリスが安らかな顔をしてスヤスヤと寝息を立て始めていたからだ。

「………………………………………………………………………………」

 ウェイズリーはため息をつく。
 朝から晩まで、ずっとユーリスは建国の式典から二回の婚礼の式典まで、出張っており、心も体もへとへとだった。柔らかくて、気持ちの良さそうな大きな寝台を見ては我慢できるはずもなく、彼は一瞬で眠りに落ちてしまったのだ。

 一方のウェイズリーは、愛しいユーリスとの“初夜”を迎えることが出来るかも知れないという期待が、いやがおうにも高まっていた。でも、ユーリスは眠ってしまっている。その彼を起こしてまで事に及ぶことは出来ない。

 ウェイズリーは深いため息をついた後、自分もユーリスのそばで横になり、彼を抱きしめるようにして眠りについたのだった。






 そう、ウェイズリーは誰よりも我慢強い黄金竜の男だった。
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