上 下
555 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)

第三話 晴れの日(上)

しおりを挟む
 ユーリスの父親である、バンクール商会長ジャクセンが、ユーリスの婚礼衣装を作ることが決まると、ユーリスはたびたびラウデシア王国のバンクールの屋敷に、黄金竜ウェイズリーの転移魔法で連れていってもらった。
 ジャクセンは、腕利きの針子達を用意して、急ぎ、ユーリスの衣装を縫わせていた。
 本来なら数年かけて作り上げるという婚礼の衣装である。愛息子の晴れ舞台のために、彼は金に糸目をつけず、そして自身の職権をある意味乱用して、それを作ろうとしていた。

 
 長かった冬が終わる。
 昨年はこの世界にとって多くの不幸な出来事があった。
 ラウデシア王国もサトー王国の侵攻によって、ラウデシア王国の王都の四分の一が焼失したり、北方地方の竜騎兵団が強制的に“転移”させられたりと大きな災難続きだった。それどころか魔法王国として栄華繁栄を長らく誇っていたアレドリア王国には星弾が降り、都は壊滅した。他の国々も侵略により落ちたという出来事があった。
 昨年まで、大陸全土でそうした災厄の続いた不幸な年であったのだが、年が改まり、新たなゴルティニア王国という強力な国が誕生することに、人々には大きな期待があった。
 サトー王国のサトーを退けた唯一の国で、強力な黄金竜の守護を頂く王国。それがゴルティニアである。その国は若く、国を新たに建てようという活気に満ち溢れていた。多くの人材を進んで受け入れているその国には、アレドリア王国からの避難民達もそのまま残って居つき、新たに置かれる都も急ピッチで建築が進められていた。

 ゴルティニア王国の新都は、建国を祝う式典への出席のため、各国からの代表者や使者を受け入れる。ゴルティニア新王ダンカンは、この式典開催を「ド派手にやるぞ」と言っていた。現在財務大臣の任を受けている元副クラン長フィアは、「もう逆さにひっくり返してもそんなことをやる資金はないのに……」と恨み言を口にしながらも、無理やり資金をひねり出すようにしていたが、シルヴェスターの中の黄金竜の雛ウェイズリーが「足しにしろ」と言って、黄金の塊やら、大きな宝石の原石やらをどこからともなくゴロゴロと運んできてくれたために、一息つけている状態だった。
 黄金竜ウェイズリーにしてみれば、この式典に合わせて、ユーリスとの婚礼の式典も開かれるのである。粗末なものにされては自分も困るのである。だから、ダンカンの言う「ド派手にやるぞ」という言葉には、共感しかなかったのだった。
 フィアは「本当に黄金竜さまさまですね」と言って、黄金竜ウェイズリーからの莫大な額となる寄付を有難く押し頂いたのだった。


 建国を祝う式典のその日、ゴルティニア王国では祝日とされた。その日、全ての街と村で、酒樽が割られ、祝いのための杯を朝から上げることが許されていた。街のいたるところで新王ダンカンの肖像画が花で飾られる。そこにはダンカンの息子とされるシルヴェスター王子とその伴侶のユーリスの肖像画も掲げられていた。
 街の広場では吟遊詩人が楽器をかき鳴らし、大勢の人々が手を取り合って踊り、歌い騒いだ。
 そして王宮の大広間では、大勢の招待客の前で、長い真紅のマントをひいたダンカンが、重そうな王冠を頭に被り、王笏を手に即位した。今、この瞬間、新たなる王朝が開闢したのだった。

 湧き上がる割れんばかりの拍手と耳を聾するような大歓声の中、ダンカンの息子とされるシルヴェスター王子のそばにいたユーリスも、どこか感激したように頬を紅潮させ、青い目を輝かせていた。どこからか紙吹雪と花々が撒かれている。シルヴェスターも、実の父親以上に自分を大切にし、ある意味守り育ててくれた養い親の晴れ姿に、目を潤ませている。シルヴェスターはユーリスの手を引いて、思わずユーリスの細身を強く抱きしめていた。

「ヴィー」

 ラウデシア王国でも貴族の身分を持っていたが、一介の冒険者であったダンカンが、クラン“竜の牙”を興し、捨て置かれていた五番目の王子を連れて、この西方の国へ渡り、戦いの場に身を投じた。何年にも渡る戦いの末、掴んだこれ以上ない栄光。今日はその晴れの舞台、晴れの姿である。

 シルヴェスターの頬に手を添え、ユーリスは彼の唇に口づけた。

 王宮の外からの喜びの声も歌も響いてくる。

 ユーリスとシルヴェスターはお互いの顔を見つめた後、笑い合い、そしてまた口づけたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...