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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)

第十七話 黄金竜の巣(下)

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 それからウェイズリーは、自分が作ったという純白の城の一室一室を、ユーリスに案内して回った。ウェイズリーはユーリスの腕の中、非常にご機嫌だった。
 
 なにせこの空中城は、いうなれば自分とユーリスの“愛の巣”なのである。
 ウェイズリーは、シルヴェスターがユーリスに求婚し、いよいよ来年式を挙げると聞いた時、彼は内心幾つかの点で慌てていた。

 一つ目の慌てた点は、伴侶のために早急に巣を用意しなければならないということだった。
 黄金竜たるものが、番を迎えるための巣を用意しないでどうするのだ。
 それも愛しいユーリスのために、用意する巣への妥協は許されない。
 見たことも無いような美しい、素晴らしい、そして便利な城を作らなければならない!!

 そう思ったら、ウェイズリーの行動は早かった。
 彼は様々な世界へ渡り、空を浮遊する大石を見つけたところから、空中城を構想する。
 空中を漂う美しい城。空を行く黄金竜とその伴侶にまったくふさわしいものではないか。
 それからウェイズリーは城の重量に耐えられるほどの大きさの、浮遊する大石を見つけ出し、その上に城を建てた(正直、石を見つけることが大変であって、城を建てることにはそれほど苦労しなかった)。

 二つ目の慌てた点は、おそらくユーリスが、来年の春には“発情期”を迎えるであろうことだった。
 春になれば、成長した竜達は、大なり小なり、雄も雌も“発情期”を迎える。
 ウェイズリーは、小さな竜の姿を頻繁にとっているせいか、“発情期”を迎えていないし、おそらくこのまま小さな竜の姿に変わることを続けていれば、その衝動を覚えることはないだろう。

 しかし、ユーリスは違う。すでに彼は成体だった。
 ユーリスが眠っている間、黄金竜ウェイズリーは自分の伴侶にふさわしいように、彼の身体を“金色の芽”で触れ、変えてしまった。人ならざる強靭な肉体と強い力、そして竜の雄と生殖可能な肉体。
 そう。彼は竜の卵を孕むことができる。

 だが、今のユーリスは、全くそのことを信じていない。
 「竜の卵は雄竜と雌竜の間でしか産み落とせない」と言って、黄金竜ウェイズリーの求婚を拒否し続けていたのだ。今も自分が卵を孕むことが出来るとは考えてもいない。実際、ウェイズリーの中のシルヴェスター王子が求婚したから、黄金竜と結婚することになったという状態なのだ。
 そんな情けない状態ではあるが、ウェイズリーは、番のユーリスに“発情期”が到来した時のために備えなければならなかった。誰にも邪魔をされることのない、素敵な“巣”がその時には必要になる。

 だからウェイズリーは、空を飛ぶ城を、番のユーリスのために用意した。
 

 ウェイズリーが最後に案内した城の最上階にある部屋は、非常に広く立派な部屋で、大きな窓が空を映し出している。そして部屋の中央にはドーンと、今まで見たこともないような巨大な寝台が鎮座していた。

「…………………………………………」

 ユーリスは小さな黄金竜の雛ウェイズリーを抱いたまま、その場に立ち尽くす。
 大の大人が十人ほど横になっても充分耐えられそうな大きさの寝台だった。

 ウェイズリーはユーリスの腕の中から抜け出して、パタパタと翅をはためかせて飛びながら、得意げに言った。

「キュイキュイキュッキュッキュルルルルルル!!!!(ここが私とユーリスの寝室になる。素敵だろう!!!!)」

 トンとウェイズリーは巨大な寝台の真ん中に着地すると、小さな胸を張っていた。

 自分達のために一生懸命この黄金竜が用意してくれたそのいじらしさに、一生懸命さに、内心はその巨大な寝台は何なのだと思いながらも、ユーリスは胸を打たれ、巨大な寝台の上に腰を下ろす。するとウェイズリーはすぐさま近寄って来て、ユーリスの膝の上にぽんと座った。

 上目遣いで見上げられる。

「キュルキュルキュキュキュ?(気に入ったか?)」

 そう黄金色の瞳をキラキラと輝かせて見上げられては、ユーリスは微笑みながら「ああ、とても気に入ったよ。ウェイズリー」と言うしかなく、ユーリスは優しくウェイズリーの額に口付けたのだった。



 それからの三日間、ユーリスは小さな黄金竜の雛を甘やかし、二人で仲良くこの空を飛ぶ稀有な城の中で過ごした。
 それゆえ、空を飛ぶ城の外で起きた出来事を知ることはなかった。
 その頃、遥か地上のカノッサ城の中では、クラン長ダンカンと副クラン長フィアが、一報を受けて顔色を変えていた。
 シルヴェスターやユーリスにも知らせようとしたが、まさか彼らが天をゆく城の中に居るとは知らず、連絡手段がないことに困り果てていた。

 対サトー王国の同盟国の一つ、魔法王国として名を知られるアレドリア王国が、魔族とサトーの“星弾”の強襲を受け、国を滅ぼされようとしていたそんな惨事を知ることなく、一人の若者と小さな竜は、幸せいっぱいの気持ちで天をゆく城の中で過ごしていたのだった。
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