540 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第十四話 語らい
しおりを挟む
その日の夜、シルヴェスターとユーリスは、バンクールの屋敷に泊まることになった。
シルヴェスターは新たに出来た義理の妹達に「シルヴェスターお義兄様」と呼んで慕われ、なんとなく照れくさそうな様子があった。シルヴェスターは家族の幸が極めて薄い王子だった。産みの母は王宮から出され、別の家に嫁がされている。それっきり実の母との縁は途切れている。父たる国王もシルヴェスターに気を配ることはない。“放置された王子”それが、シルヴェスターがかつて呼ばれていた名であった。
少年の頃に出会った“竜の牙”クラン長ダンカンが、彼の親代わりを務め、様々なことを彼に手ほどきしてくれた。
ダンカンは、シルヴェスターが、ユーリスの家に挨拶に行く時には、実の父親のように心配していた。今もきっと、シルヴェスターの帰りをハラハラとしながら待っていることだろう。シルヴェスターにとってクランの仲間達が、自分の家族のようなものだった。
そしてユーリスの家族がまた、シルヴェスターを迎え入れようとしている。ユーリスの父ジャクセンは義理の父親になり、ルイーズや妹達も義理の母や妹になる。そのことを不思議に思う気持ちがある。
五年前にはシルヴェスターを冷たくあしらった、あのユーリスの父親が、今や自分の義理の父親になる未来など、あの時には全く想像出来なかったからだ。
夕食を取った後も、妹のコレットとベアトリスを交えて楽しい語らいがずっと続いていた。コレットとベアトリスは、自分達の婚約者を交えて、また一緒に食事をしたいと言っていた。その時には喜んで参加させてもらうとシルヴェスターも答える。
それから、コレットとベアトリスがおやすみの挨拶をして自室へ戻る様子を見て、ユーリスは父ジャクセンと母ルイーズに人払いを求めた。自分達だけで話をしたいと告げた。
ジャクセンはすぐさま、護衛を含めて召使達を部屋から退出させる。
部屋の中にいる者が、ユーリス、シルヴェスター、ジャクセン、ルイーズの四人だけになったところで、ユーリスは両親に、黄金竜の雛ウェイズリーを紹介することにした。
「ヴィー、ウェイズリーに交替してもらえないか」
それにシルヴェスター王子は頷くと同時に、軍服をまとった凛々しい若者の姿が、一瞬でキラキラと黄金色の光を放つ、小さな竜の雛に変わったのだ。
そして黄金竜の雛は、すぐさまユーリスの胸元に飛び込んでいく。
「キュウキュウキュルルルルルルルルルル」
小さな黄金竜の雛は甘えて鳴いて、ユーリスの胸元に頭を擦りつけている。
椅子に座っていたジャクセンとルイーズは、驚いてそれを眺めていた。
「シルヴェスター殿下が小さな竜に変わっているが、これは一体どういうことなのだ」
「殿下は、黄金竜でもある存在なのです。話すととても長くなるのですが」
父親に促され、ユーリスはこれまで起きた出来事を、父と母を前に語り始めたのだった。
そしてその全ての話を話し終えた時には、夜も随分と遅い時刻になっていたのだった。
「“同化”か。以前、私は黒竜と人間が“同調”した話を聞いたことがある」
ジャクセンはそう語った。
以前、黒竜シェーラと王国の第七王子アルバートが、“同調”した。その結果、アルバート王子は“同調”している黒竜シェーラの能力を振るうことが出来たのだ。
「“同調”よりも深い“同化”を行ってしまえば、もう一人と一頭に元通りに分かれることが出来ません。シルヴェスターと黄金竜ウェイズリーは一体化しています」
「…………それで、お前はいいのか」
ユーリスの恋人が竜と一体化しているのだ。生活に差し障りがあるのではないかと当然心配してしまう。しかし、ユーリスは笑顔で首を振っていた。
「ウェイズリーも私の大切な竜です。困ることはありません」
その言葉に、ユーリスの胸元にいた黄金竜の雛ウェイズリーは、感激したように黄金色の瞳を輝かせて、「キュウキュウゥ」と甘えるような声で鳴いてしがみついていた。ユーリスがよしよしとウェイズリーの頭を撫でている様子に、ジャクセンは「……竜と王子が一体化しているのだぞ。本当に大丈夫なのか」となおも確認するように問うていたが、ユーリスはあくまで笑顔で「問題はありません」と答えていたのだった。
そして椅子に座っているユーリスは、膝の上に座る黄金竜の雛ウェイズリーの背中を撫でながら話し始めた。
「殿下とウェイズリーが“同化”していることは、一部のものしか知っておりません。父上や母上もここだけの話にして頂けると助かります」
「分かった」
両親は頷きあって同意してくれる。
竜と“同化”しているシルヴェスターが色眼鏡で見られることを嫌ってのことだった。すでにシルヴェスターは、黄金竜の力を振るうことが出来ると見なされている。それどころか竜そのものだと知られれば、なんとなしに面倒なことになる気がしていた。
「“同化”している殿下は黄金竜の力を使うことが出来ます。それで私は、彼に連れてきてもらえれば、一瞬でこの国へ移動できるのです。私がどれほど遠い国にいたとしても、距離は関係ありません」
だから先ほど、ユーリスが「どんなに遠い場所に住んだとしても、私は父上に会いに参ります」と口にしたのかと理解できた。そして以前、ラウデシア王国の王都が魔族の襲撃を受けた時に、ユーリスがわざわざジャクセン達家族の様子を見にやって来たことも、その力を使ってのことだったのかと分かった。
それどころか、旧カリン王国の土地でサトー王国軍や魔族を撃退せしめた出来事は、そのシルヴェスター王子の黄金竜の力によるものだろう。ゴルティニア王国は黄金竜の力によって守られており、その土地を侵略したならば黄金竜の怒りが下されると盛んに喧伝されている。
黄金竜の力を使うシルヴェスターは、ゴルティニア王国に無くてはならない存在であり、かつクラン長ダンカンの後を継ぐ者と見なされている。そして恋人のユーリスは、彼を支え、ゴルティニアの王城で副クラン長フィアと共に重責を担っている。
息子とその恋人が遠いゴルティニア王国で、しっかりと足をつけて生きていることを嬉しく思う一方、ジャクセンは一抹の寂しさを抱いていた。息子が自分の手を離れて生きていく。そしてその地で結婚もする。喜ばしいことであるが、やはり、寂しさは拭えない。
隣に座っている妻のルイーズが、ジャクセンの手を握る。
微笑みかけてくれる美しい妻の顔を見ながらも、内心思う。
(子離れの時期がやって来たのだな)と。
シルヴェスターは新たに出来た義理の妹達に「シルヴェスターお義兄様」と呼んで慕われ、なんとなく照れくさそうな様子があった。シルヴェスターは家族の幸が極めて薄い王子だった。産みの母は王宮から出され、別の家に嫁がされている。それっきり実の母との縁は途切れている。父たる国王もシルヴェスターに気を配ることはない。“放置された王子”それが、シルヴェスターがかつて呼ばれていた名であった。
少年の頃に出会った“竜の牙”クラン長ダンカンが、彼の親代わりを務め、様々なことを彼に手ほどきしてくれた。
ダンカンは、シルヴェスターが、ユーリスの家に挨拶に行く時には、実の父親のように心配していた。今もきっと、シルヴェスターの帰りをハラハラとしながら待っていることだろう。シルヴェスターにとってクランの仲間達が、自分の家族のようなものだった。
そしてユーリスの家族がまた、シルヴェスターを迎え入れようとしている。ユーリスの父ジャクセンは義理の父親になり、ルイーズや妹達も義理の母や妹になる。そのことを不思議に思う気持ちがある。
五年前にはシルヴェスターを冷たくあしらった、あのユーリスの父親が、今や自分の義理の父親になる未来など、あの時には全く想像出来なかったからだ。
夕食を取った後も、妹のコレットとベアトリスを交えて楽しい語らいがずっと続いていた。コレットとベアトリスは、自分達の婚約者を交えて、また一緒に食事をしたいと言っていた。その時には喜んで参加させてもらうとシルヴェスターも答える。
それから、コレットとベアトリスがおやすみの挨拶をして自室へ戻る様子を見て、ユーリスは父ジャクセンと母ルイーズに人払いを求めた。自分達だけで話をしたいと告げた。
ジャクセンはすぐさま、護衛を含めて召使達を部屋から退出させる。
部屋の中にいる者が、ユーリス、シルヴェスター、ジャクセン、ルイーズの四人だけになったところで、ユーリスは両親に、黄金竜の雛ウェイズリーを紹介することにした。
「ヴィー、ウェイズリーに交替してもらえないか」
それにシルヴェスター王子は頷くと同時に、軍服をまとった凛々しい若者の姿が、一瞬でキラキラと黄金色の光を放つ、小さな竜の雛に変わったのだ。
そして黄金竜の雛は、すぐさまユーリスの胸元に飛び込んでいく。
「キュウキュウキュルルルルルルルルルル」
小さな黄金竜の雛は甘えて鳴いて、ユーリスの胸元に頭を擦りつけている。
椅子に座っていたジャクセンとルイーズは、驚いてそれを眺めていた。
「シルヴェスター殿下が小さな竜に変わっているが、これは一体どういうことなのだ」
「殿下は、黄金竜でもある存在なのです。話すととても長くなるのですが」
父親に促され、ユーリスはこれまで起きた出来事を、父と母を前に語り始めたのだった。
そしてその全ての話を話し終えた時には、夜も随分と遅い時刻になっていたのだった。
「“同化”か。以前、私は黒竜と人間が“同調”した話を聞いたことがある」
ジャクセンはそう語った。
以前、黒竜シェーラと王国の第七王子アルバートが、“同調”した。その結果、アルバート王子は“同調”している黒竜シェーラの能力を振るうことが出来たのだ。
「“同調”よりも深い“同化”を行ってしまえば、もう一人と一頭に元通りに分かれることが出来ません。シルヴェスターと黄金竜ウェイズリーは一体化しています」
「…………それで、お前はいいのか」
ユーリスの恋人が竜と一体化しているのだ。生活に差し障りがあるのではないかと当然心配してしまう。しかし、ユーリスは笑顔で首を振っていた。
「ウェイズリーも私の大切な竜です。困ることはありません」
その言葉に、ユーリスの胸元にいた黄金竜の雛ウェイズリーは、感激したように黄金色の瞳を輝かせて、「キュウキュウゥ」と甘えるような声で鳴いてしがみついていた。ユーリスがよしよしとウェイズリーの頭を撫でている様子に、ジャクセンは「……竜と王子が一体化しているのだぞ。本当に大丈夫なのか」となおも確認するように問うていたが、ユーリスはあくまで笑顔で「問題はありません」と答えていたのだった。
そして椅子に座っているユーリスは、膝の上に座る黄金竜の雛ウェイズリーの背中を撫でながら話し始めた。
「殿下とウェイズリーが“同化”していることは、一部のものしか知っておりません。父上や母上もここだけの話にして頂けると助かります」
「分かった」
両親は頷きあって同意してくれる。
竜と“同化”しているシルヴェスターが色眼鏡で見られることを嫌ってのことだった。すでにシルヴェスターは、黄金竜の力を振るうことが出来ると見なされている。それどころか竜そのものだと知られれば、なんとなしに面倒なことになる気がしていた。
「“同化”している殿下は黄金竜の力を使うことが出来ます。それで私は、彼に連れてきてもらえれば、一瞬でこの国へ移動できるのです。私がどれほど遠い国にいたとしても、距離は関係ありません」
だから先ほど、ユーリスが「どんなに遠い場所に住んだとしても、私は父上に会いに参ります」と口にしたのかと理解できた。そして以前、ラウデシア王国の王都が魔族の襲撃を受けた時に、ユーリスがわざわざジャクセン達家族の様子を見にやって来たことも、その力を使ってのことだったのかと分かった。
それどころか、旧カリン王国の土地でサトー王国軍や魔族を撃退せしめた出来事は、そのシルヴェスター王子の黄金竜の力によるものだろう。ゴルティニア王国は黄金竜の力によって守られており、その土地を侵略したならば黄金竜の怒りが下されると盛んに喧伝されている。
黄金竜の力を使うシルヴェスターは、ゴルティニア王国に無くてはならない存在であり、かつクラン長ダンカンの後を継ぐ者と見なされている。そして恋人のユーリスは、彼を支え、ゴルティニアの王城で副クラン長フィアと共に重責を担っている。
息子とその恋人が遠いゴルティニア王国で、しっかりと足をつけて生きていることを嬉しく思う一方、ジャクセンは一抹の寂しさを抱いていた。息子が自分の手を離れて生きていく。そしてその地で結婚もする。喜ばしいことであるが、やはり、寂しさは拭えない。
隣に座っている妻のルイーズが、ジャクセンの手を握る。
微笑みかけてくれる美しい妻の顔を見ながらも、内心思う。
(子離れの時期がやって来たのだな)と。
24
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる