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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる

第二話 ノウザン公(上)

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 サトー王国のサトー国王の味方についている“魔”の領域のやんごとなき三公はノウザン公、ヴィータ公、リヨン公であった。
 いずれも“魔”そのものであり、その考えも人とはかなり違うものであった。
 三公が直接、人の界に手出しすると、この世界の神々の領域を乱しているということで、神々から睨まれてしまう。だから彼らはサトー王国のサトーに助勢する時も、自らの手でそれをやることなく、配下の者達に命じて手伝わせるようにしていた。
 サトーは、自身が占領した地を、自身の配下達に任せる一方で、逆らう者に対しては容赦がなかった。
 まず、敵であるその国の国王やその血が連なる貴族達は抹殺に近いほど殺し尽くす。サトー曰く「後日、反乱されるとまずいから」の一言である。
 そしてそれ以外の反乱分子の始末については、ノウザン公やヴィータ公、リヨン公に任せた。結果的に、大量の人間が、人界から“魔”の領域へ運ばれて、隷属させられている。そんなサトーのやり方に「人類の敵」と糾弾する者達も多かったが、サトーは全くそのことを意に介しておらず、「あちらへ連れていって処分してくれているから助かる」と平然と述べるくらいであった。サトーにとって人の命は極めて軽いものだった。
 おそらくこの世界の歴史上、サトーほど大量の人間を殺め、そして“魔”とこれほど緊密に関係した者はいないだろう。そして今後も現れることはないと思われる。
 後年、サトーは、異世界から召喚された人の皮を被った悪魔であると述べるものもいたが、この時のサトーはまだ人間であった。

 サトーが王国を建国した場所は、旧アルダンテ王国であった。今もその王国の王城のあった場所に、サトーは居を構えている。その城は十八年前、“血の月事件”があり、王城にいた者のほとんどが殺され、無残な骸をさらしていたいわくつきの場所であった。しかし、サトーは城にあった遺体の全てを片付けさせ、その痕跡を洗い流させた。「洗えば使える」と、惨事のあった場所でも平然としている様に、「恐ろしい方だ」と彼に仕える者達は畏れ慄いている。

 何千、何万という人々を平気で殺めるサトーであったが、三公はこのサトーが、十八年前はただの少年であったことを知っている。眼鏡をかけた小柄な、どこか弱々しいといえる少年は、十八年前にこの世界に勇者と共に召喚され、そして勇者を殺して力を得た。

 それから彼は、この大陸の統一を目指している。


 
 そのサトーのそばにいる、魔の領域のやんごとなき者の一人であるノウザン公は、旧カリン王国の人間達と戦いつつも、その中に厄介な者がいることに気が付いていた。
 驚いたことに、その者には“魔法”が効かない。だが、その者自身は“魔法”が使える。更に、周囲には優秀な兵士達を固め、旧カリン王国内での戦いでは、サトー王国軍を追い上げる様子がしばしば見られた。ノウザン公は何度もその者に苦汁を舐めさせられた。

 その厄介な敵、レスターことシルヴェスター王子には、恋人がいるという噂が流れて来た。
 その恋人がいるという、イスフェラ皇国の今の所在地まで情報として流れて来た。

 ノウザン公は、これはいい情報を聞いたと思い、早速、その恋人を攫い、人質にしてしまおうと考えた。

 恋人を攫えば、あのシルヴェスター王子とて、平常心ではいられまい。
 厄介で面倒くさいシルヴェスター王子の弱みを握れるかも知れない好機に、ノウザン公はほくそ笑んでいた。
 王子の前で、恋人を犯し、最後は腹を引き裂いて見せてもいい。あの王子はその時、どんな表情をするのか、考えるだけでも楽しかった。
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