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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第三章 再びの出会い
第二十四話 領分を越える(下)
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三人の皇女達はおのおの刺客を雇った。つまり三人の刺客がユーリスの命を狙うことになった。
皇女シンシア、サラン、ヘルミは、誰の刺客が一番最初にユーリスの命を摘み取るのか、競争しようという話になっていた。
彼女達にとって、市井にいるユーリスの命など、そこいらに生えている草花と同じで、踏みにじっても構わないものであった。ただその草花は、シルヴェスター王子に大切にされ、愛されている。それが許せない。
最初は命まで奪うつもりはなかったのだが、もはや三人の皇女達の勢いは止まらなくなっていた。
そして夜の闇の中、皇女らの命を受けた三人の刺客は“竜の牙”の建物の中にそれぞれの手段で忍び込んだ。当然、彼らは黄金竜の雛ウェイズリーのテリトリーに侵入することになった。黄金竜ウェイズリーの愛してやまない番のユーリスのいる部屋へと足を踏み入れたのだ。途端、三人の刺客は、先の刺客と同じように自分達が大きな間違いを犯したことを察した。
寝台の上でムクリと身を起き上がらせたウェイズリーは、黄金色の瞳を光らせていた。「キュイキュイキュルルルルルゥゥゥゥ」と唸るような声を上げている。
一度では懲りず、二度も虫がやって来た。
それも今回は三人である。
ウェイズリーは、その虫の大元を叩かなければダメだと分かった。
そうでなければ、虫は何度だってやってくるかも知れない。なんて煩わしい虫なのだ。
刺客達がウェイズリーの威迫に慄然としている前で、ウェイズリーは金色の芽で刺客達を襲った。
刺客の男達の足元から、何百本という金色の芽がゾワリと一斉に生えたかと思うと、その金色の芽は、刺客達を貫いた。
だが、今回はすぐに殺しはしなかった。
刺客の男達は、恐怖に目を見開いている。
その金色の芽が自分の体の中を蠢き、そしてまさぐり、探っているのがわかる。脳の中まで洗われるその異様な感覚。おぞましさに悲鳴を上げそうになったが、声を上げることを禁じられていた。だから、彼らは皆目を見開き、涙を流し、口をパクパクと動かすしかなかった。恐怖だった。逆らうことのできない絶対の覇者に対する恐怖。
彼ら全員、この仕事を引き受けたことを心底後悔した。
だが、後悔は遅かった。
ウェイズリーは誰が、この虫達を寄越したのか理解した。
だからこの虫達をそのままその者に返してしまえばいいと思った。
「キュルルル!!!!!!」
黄金竜の雛ウェイズリーが命じると、三人の刺客の男達は、ぎこちなく動きながらも、今来た方向へ戻り始めた。
後は適当にやってくれるだろう。
そう思って、ウェイズリーは愛しいユーリスのそばに身を丸くして横になった。
三人もの刺客の男達が、ユーリスの部屋に押し入ったことなど、ユーリスは全く気付かずに、今も眠り続けている。
スースーと寝息を立てるユーリスの整った顔をウェイズリーは、幸せな気持ちで見つめていた。
恋人のシルヴェスター王子はまだ帰って来ない。
だから、今、ユーリスの眠る寝台の上にいるのはシルヴェスター王子ではなく、黄金竜の雛ウェイズリーなのだ。
シルヴェスターがいない今、ユーリスはウェイズリーのものだった。
シルヴェスターが帰ってからのことを思うと、心が苦しくてたまらなくなる。
だから、今はもう考えないようにしている。
「キュルルルゥキュウ(ユーリス、大好きだよ)」
甘く鳴いて身をすり寄せる。
番は静かに眠り続けていた。
そしてその頃、イスフェラ皇国の皇宮では大変な騒動が起こっていた。
三人の刺客が、三人の皇女の命を狙って、捕らえられたのだ。
危うく殺されそうになった皇女達は真っ青になり、震えている。
その三人の刺客は、皇女達のそばについていた護衛騎士達に阻まれ、幸いにも皇女達に危害が加えられることはなかった。
しかし、皇女達が驚いたのは、その三人は自分達が仕事の依頼をした刺客であったからだ。ユーリス=バンクールを狙うように依頼したのに、何故、自分達が狙われることになったのか理解できない。
そして失敗した途端に、その刺客達は、人形のように動きを止めて息絶えてしまった。
まるでとうに死んでいたのに、操られてここまで来て、そして息絶えたという感じであった。
「一体どういうことなの」
蒼白となったヘルミ皇女が、筆頭魔術師イーサン=クレイラに尋ねると、イーサン=クレイラはこう答えた。
「警告でしょう。もう刺客など送ってはなりませんよ」
「…………」
「あまりコレが続くようでしたら、私もこの国を離れなければならなくなります」
その言葉にヘルミ皇女をはじめとした皇女達も、お付きの者達もギョッとしてイーサン=クレイラを見つめた。
イーサン=クレイラがいなければ、この皇国はサトー王国の空からの攻撃を防衛出来ない。
「ど、どうして、そんな」
今更ながら、震えがくる。ヘルミ皇女の手は細かく震えていた。
「ユーリス=バンクールのそばに、触れてはならない存在がいます。御身が大切なら、そして何よりもこの国のことを思うのなら、アレは決して触れてはならないのですよ。皇女殿下方は、どうして私の警告に素直に耳を傾けて下さらなかったのでしょうか」
優しく咎める声に、ヘルミ皇女は言い訳する。
「だって、そんな……」
「私はお伝えいたしましたでしょう。己の領分を越えたものに手を出そうとすると、手酷いしっぺ返しを受けると」
「じゃあどうすれば良かったの!?」
そうヘルミ皇女がすがりつくようにして魔術師イーサンに言うと、イーサンは言った。
「シルヴェスター王子のことは諦め、彼の恋人に手を出すことはやめ、もう二度と、このようなことはしないことです。ただ、すでに殿下方は怒りを買っています」
「!!!!」
ヘルミ皇女達の震えは強まり、ガクガクとその身を揺らしていた。
自分もあの刺客のように、あっさりと殺されてしまうのではないかという恐怖に震えが止まらない。
「ど……どうすればいいの」
「よくよくお詫びをするのですね。そう、とりあえずユーリス=バンクールには殿下方は頭を地に擦り付けて謝り、二度とあのようなことはしないと彼に誓い、そしてお詫びの品を捧げることです」
「そうしたら」
そうしたら殺されることはないのかと、皇女達の視線が尋ねるが、イーサンは肩をすくめた。
「それは最低限しなければならない行為です。許す許さないは、あちらが決めることですから」
皇女シンシア、サラン、ヘルミは、誰の刺客が一番最初にユーリスの命を摘み取るのか、競争しようという話になっていた。
彼女達にとって、市井にいるユーリスの命など、そこいらに生えている草花と同じで、踏みにじっても構わないものであった。ただその草花は、シルヴェスター王子に大切にされ、愛されている。それが許せない。
最初は命まで奪うつもりはなかったのだが、もはや三人の皇女達の勢いは止まらなくなっていた。
そして夜の闇の中、皇女らの命を受けた三人の刺客は“竜の牙”の建物の中にそれぞれの手段で忍び込んだ。当然、彼らは黄金竜の雛ウェイズリーのテリトリーに侵入することになった。黄金竜ウェイズリーの愛してやまない番のユーリスのいる部屋へと足を踏み入れたのだ。途端、三人の刺客は、先の刺客と同じように自分達が大きな間違いを犯したことを察した。
寝台の上でムクリと身を起き上がらせたウェイズリーは、黄金色の瞳を光らせていた。「キュイキュイキュルルルルルゥゥゥゥ」と唸るような声を上げている。
一度では懲りず、二度も虫がやって来た。
それも今回は三人である。
ウェイズリーは、その虫の大元を叩かなければダメだと分かった。
そうでなければ、虫は何度だってやってくるかも知れない。なんて煩わしい虫なのだ。
刺客達がウェイズリーの威迫に慄然としている前で、ウェイズリーは金色の芽で刺客達を襲った。
刺客の男達の足元から、何百本という金色の芽がゾワリと一斉に生えたかと思うと、その金色の芽は、刺客達を貫いた。
だが、今回はすぐに殺しはしなかった。
刺客の男達は、恐怖に目を見開いている。
その金色の芽が自分の体の中を蠢き、そしてまさぐり、探っているのがわかる。脳の中まで洗われるその異様な感覚。おぞましさに悲鳴を上げそうになったが、声を上げることを禁じられていた。だから、彼らは皆目を見開き、涙を流し、口をパクパクと動かすしかなかった。恐怖だった。逆らうことのできない絶対の覇者に対する恐怖。
彼ら全員、この仕事を引き受けたことを心底後悔した。
だが、後悔は遅かった。
ウェイズリーは誰が、この虫達を寄越したのか理解した。
だからこの虫達をそのままその者に返してしまえばいいと思った。
「キュルルル!!!!!!」
黄金竜の雛ウェイズリーが命じると、三人の刺客の男達は、ぎこちなく動きながらも、今来た方向へ戻り始めた。
後は適当にやってくれるだろう。
そう思って、ウェイズリーは愛しいユーリスのそばに身を丸くして横になった。
三人もの刺客の男達が、ユーリスの部屋に押し入ったことなど、ユーリスは全く気付かずに、今も眠り続けている。
スースーと寝息を立てるユーリスの整った顔をウェイズリーは、幸せな気持ちで見つめていた。
恋人のシルヴェスター王子はまだ帰って来ない。
だから、今、ユーリスの眠る寝台の上にいるのはシルヴェスター王子ではなく、黄金竜の雛ウェイズリーなのだ。
シルヴェスターがいない今、ユーリスはウェイズリーのものだった。
シルヴェスターが帰ってからのことを思うと、心が苦しくてたまらなくなる。
だから、今はもう考えないようにしている。
「キュルルルゥキュウ(ユーリス、大好きだよ)」
甘く鳴いて身をすり寄せる。
番は静かに眠り続けていた。
そしてその頃、イスフェラ皇国の皇宮では大変な騒動が起こっていた。
三人の刺客が、三人の皇女の命を狙って、捕らえられたのだ。
危うく殺されそうになった皇女達は真っ青になり、震えている。
その三人の刺客は、皇女達のそばについていた護衛騎士達に阻まれ、幸いにも皇女達に危害が加えられることはなかった。
しかし、皇女達が驚いたのは、その三人は自分達が仕事の依頼をした刺客であったからだ。ユーリス=バンクールを狙うように依頼したのに、何故、自分達が狙われることになったのか理解できない。
そして失敗した途端に、その刺客達は、人形のように動きを止めて息絶えてしまった。
まるでとうに死んでいたのに、操られてここまで来て、そして息絶えたという感じであった。
「一体どういうことなの」
蒼白となったヘルミ皇女が、筆頭魔術師イーサン=クレイラに尋ねると、イーサン=クレイラはこう答えた。
「警告でしょう。もう刺客など送ってはなりませんよ」
「…………」
「あまりコレが続くようでしたら、私もこの国を離れなければならなくなります」
その言葉にヘルミ皇女をはじめとした皇女達も、お付きの者達もギョッとしてイーサン=クレイラを見つめた。
イーサン=クレイラがいなければ、この皇国はサトー王国の空からの攻撃を防衛出来ない。
「ど、どうして、そんな」
今更ながら、震えがくる。ヘルミ皇女の手は細かく震えていた。
「ユーリス=バンクールのそばに、触れてはならない存在がいます。御身が大切なら、そして何よりもこの国のことを思うのなら、アレは決して触れてはならないのですよ。皇女殿下方は、どうして私の警告に素直に耳を傾けて下さらなかったのでしょうか」
優しく咎める声に、ヘルミ皇女は言い訳する。
「だって、そんな……」
「私はお伝えいたしましたでしょう。己の領分を越えたものに手を出そうとすると、手酷いしっぺ返しを受けると」
「じゃあどうすれば良かったの!?」
そうヘルミ皇女がすがりつくようにして魔術師イーサンに言うと、イーサンは言った。
「シルヴェスター王子のことは諦め、彼の恋人に手を出すことはやめ、もう二度と、このようなことはしないことです。ただ、すでに殿下方は怒りを買っています」
「!!!!」
ヘルミ皇女達の震えは強まり、ガクガクとその身を揺らしていた。
自分もあの刺客のように、あっさりと殺されてしまうのではないかという恐怖に震えが止まらない。
「ど……どうすればいいの」
「よくよくお詫びをするのですね。そう、とりあえずユーリス=バンクールには殿下方は頭を地に擦り付けて謝り、二度とあのようなことはしないと彼に誓い、そしてお詫びの品を捧げることです」
「そうしたら」
そうしたら殺されることはないのかと、皇女達の視線が尋ねるが、イーサンは肩をすくめた。
「それは最低限しなければならない行為です。許す許さないは、あちらが決めることですから」
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