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外伝 護衛の独り言 ~指輪の見せる夢
第十一話 後味の悪い完了(下)
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翌朝、ジャクセン様はいつものように起床し、いつものように一部の隙もない身なりで、身支度を終えていた。朝食を奥方や子供達と取った後、王都の店舗へ足を運ぶ。
昨夜の出来事による不調など全くなかったかのような様子に、私は安堵する一方で、弱さを決して外には見せようとしない彼のことが心配でもあった。
昨夜、彼はひどくショックを受けていた。顔は蒼白となり、身体を震わせていた。
そんな彼の様子を今まで一度として見たことがなかった。
けれど今は平然とした様子で、仕事に励んでいる。
執事のダリスから、ウェスティン伯爵家とは今後一切の面会と取引を断るように言われると、彼は奇妙なほど大人しくその言葉を受け入れていた。
実際、その日の昼頃には、ウェスティン伯爵家の二人のご婦人が、例によってバンクール商会の本店を訪ねてきたが、門前払いを受けている。
それで、後日、伯爵家から手紙が送られてきた。
内容は、三日間の約束は終了したということ。
感謝の言葉と共に、ジャクセン様のお手元に残された指輪は謝礼として差し上げるとあった。
そう。ジャクセン様はウェスティン伯爵家からあの相手の望むまま夢を見せる指輪と、その夢を覗き見ることの出来る指輪を預かったままであった。彼はその指輪を箱に詰めて、デスクの引き出しの奥に仕舞いこんでいた。
約束を無事に果たしたということで、ブラウン商会との取引もそのまま継続になっている。
そのままいつも通りの日々が、いつも通りに流れ始めていた。
ウェスティン伯爵家が、ジャクセン様を、口づけの相手として白羽の矢を立てたことは、伯爵の一目惚れのような単純な想いではない気がしていた。
では何だというと、それが分からないため、いつまでも、もやもやとした気分の悪い思いがしている。
ややもすれば、あのダフネ伯爵夫人やその母クラリッサ夫人の言葉だって、真実ではなかったかも知れない。処女であったはずのダフネ伯爵夫人の寝台での乱れっぷりや、それを平然と迎えたレイノール伯爵の様子もおかしかった。
そして、二日目の晩に指輪を差し出した、クラリッサ夫人の笑む様子が忘れられない。
『これは、貴方の綺麗な綺麗なご主人様が、何を見ているか覗くことができる指輪ですのよ』
内緒だと言って押し付けられた指輪。
護衛の私にそれを押し付けたことを、ジャクセン様は疑問に思っていた。
だが、私はなんとなしにあの夫人が、指輪を渡した理由が分かっていた。
彼女は私の心の奥底に小さな種を撒いたのだ。
すぐそばにいる美しい主人のもう一つの姿を見せつけることで、人知れず、小さな想いが育っていくように。
それを主人は気が付かず
そして、忠実なる護衛はそれを決して口にしてはならないことを知っていた。
昨夜の出来事による不調など全くなかったかのような様子に、私は安堵する一方で、弱さを決して外には見せようとしない彼のことが心配でもあった。
昨夜、彼はひどくショックを受けていた。顔は蒼白となり、身体を震わせていた。
そんな彼の様子を今まで一度として見たことがなかった。
けれど今は平然とした様子で、仕事に励んでいる。
執事のダリスから、ウェスティン伯爵家とは今後一切の面会と取引を断るように言われると、彼は奇妙なほど大人しくその言葉を受け入れていた。
実際、その日の昼頃には、ウェスティン伯爵家の二人のご婦人が、例によってバンクール商会の本店を訪ねてきたが、門前払いを受けている。
それで、後日、伯爵家から手紙が送られてきた。
内容は、三日間の約束は終了したということ。
感謝の言葉と共に、ジャクセン様のお手元に残された指輪は謝礼として差し上げるとあった。
そう。ジャクセン様はウェスティン伯爵家からあの相手の望むまま夢を見せる指輪と、その夢を覗き見ることの出来る指輪を預かったままであった。彼はその指輪を箱に詰めて、デスクの引き出しの奥に仕舞いこんでいた。
約束を無事に果たしたということで、ブラウン商会との取引もそのまま継続になっている。
そのままいつも通りの日々が、いつも通りに流れ始めていた。
ウェスティン伯爵家が、ジャクセン様を、口づけの相手として白羽の矢を立てたことは、伯爵の一目惚れのような単純な想いではない気がしていた。
では何だというと、それが分からないため、いつまでも、もやもやとした気分の悪い思いがしている。
ややもすれば、あのダフネ伯爵夫人やその母クラリッサ夫人の言葉だって、真実ではなかったかも知れない。処女であったはずのダフネ伯爵夫人の寝台での乱れっぷりや、それを平然と迎えたレイノール伯爵の様子もおかしかった。
そして、二日目の晩に指輪を差し出した、クラリッサ夫人の笑む様子が忘れられない。
『これは、貴方の綺麗な綺麗なご主人様が、何を見ているか覗くことができる指輪ですのよ』
内緒だと言って押し付けられた指輪。
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だが、私はなんとなしにあの夫人が、指輪を渡した理由が分かっていた。
彼女は私の心の奥底に小さな種を撒いたのだ。
すぐそばにいる美しい主人のもう一つの姿を見せつけることで、人知れず、小さな想いが育っていくように。
それを主人は気が付かず
そして、忠実なる護衛はそれを決して口にしてはならないことを知っていた。
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