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外伝 はじまりの物語 第一章 召喚された少年達と勇者の試練
第十一話 二つ目の試練(下)
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それから、勇者鈴木陸は魔人の生まれ出る泉に、“勇者の剣”を差した。
透き通った泉の中に、まるで鍵穴のように“勇者の剣”の刀身を差し入れられる穴が存在していた。
その穴に、カチリと音がするまで、鈴木は剣を差し込んだ。
この処置をすることで、この泉から魔人は生まれ出ないという。
“勇者の剣”が差し入れられている泉を見下ろしながら、雪也が尋ねた。
「この後“勇者の剣”を泉から抜いても魔人は出てこないの? 鈴木はこの剣をこれから先も使うから、ずっとこのまま泉に差しているわけにはいかないよね」
「一度差せば大丈夫だと聞いています」
王国の第一王女コリーヌが説明する。
「“勇者の剣”を一度差し入れれば、封印され、二度差し入れれば、また封印は解除されるそうです」
その説明に、三橋友親も、石野凛も、そして鈴木陸も何かを察したように顔色を変えた。
だが、言葉にはしない。
「ふぅん。じゃあ間違えても鈴木の剣をもう一度差さないようにしないといけないね」
雪也だけが当たり前のことを口にしていた。
これまで、封印が解除されていた状態であったのだ。
つまり、王女の説明だと前任の勇者が、その封印を解除して泉から魔人を産み出していたということになる。
そして現行の勇者鈴木がそれをまた封印した。
何故、前任の勇者は封印を解除して魔人を生み出すようにしていたのだろうか。
なんとなしに、そこに聞いてはならないような、闇を感じた。
その日の夜、野営の焚火の前に集まっていた鈴木陸、石野凛、三橋友親の三人は、考えに沈みこんでいる様子があった。雪也が彼らの様子に「どうしたんだよ」と声をかけると、友親は言った。
「早く、この世界から元の世界に戻ろう」
「そうね」
すぐさま石野凛も同意する。そして鈴木陸も頷いている。
「元の世界に戻ることには賛成だよ」
雪也ももちろん同意する。
もう、三か月以上、元の世界から離れて旅をしている。
元の世界の便利で豊かな、そして楽しい生活がひどく懐かしい。
きっと両親も友人達も心配している。
トラックに跳ねられた自分達が、元の世界に戻った瞬間、死ぬ可能性もあることに、その時雪也は初めて気が付いて、青ざめた。
「でも、元の世界に戻った瞬間、俺達、トラックに跳ね飛ばされた直後になるんじゃないのか!? 死んじゃうんじゃないのか!?」
その疑問に、鈴木陸が手を挙げて答えた。
「大丈夫だ。あのトラックは、トラック自体が召喚魔法の一種だという。召喚が無かったことにされ、トラックも存在しなかったことにされて、時間が巻き戻されるらしい」
女神によると暴走異世界召喚トラックは、あの時、あの道路を走らないことになる。
つまりは、小道を歩いていた生徒達の身には何も起きなかったことになるのだ。
雪也は胸元に手を当て、明らかにホッとしていた。
「そうなんだ。じゃあ、元の世界にそのまま帰って、今まで通りの普通の生活に戻れるんだね」
「そうなる」
安堵している雪也を、鈴木は目を細めて見つめる。
それから鈴木は、焚火の前で両手を組み合わせ、少し迷うような口ぶりで言った。
「あちらの世界に戻ったら、会いに行ってもいいかな」
「勿論だよ!! 俺も鈴木に会いたい。あっちに戻ったら、みんなとまた会いたいよ」
その雪也の言葉に鈴木は微笑んでいる。
そして、勘の良い女、委員長石野凛は(鈴木君が会いたいと言っているのは、ユキだけなんじゃないのかしら)と思って、どこか生温かな目で、そのことに気付いていない雪也と微笑んでいる鈴木の二人を見つめていたのだった。
「こっちの世界は、食材も道具も不便でさ。あっちに戻ったら、勇者として頑張った鈴木の好きなもの何でも作ってやるよ!!」
「お前は鈴木のおかんか」と、内心その台詞を聞いて思う三橋友親。だが、彼も賢明にも口を噤んでいた。
「鈴木は何が好きなんだ? 教えてくれよ」
その言葉に、鈴木は答えた。
「ハンバーグが好きだ」
「ハンバーグだな!! 俺も大好きだ!! 美味しい奴いっぱい作ってやるからな」
いったい何の会話をしているのだと思いながらも、雪也と鈴木が明るく話している様子を友親は眺め、チラリと石野凛に視線を走らせると、彼女も訳知り顔で頷いていた。どこか子供の雪也に、鈴木のアプローチが届くのには相当時間がかかるだろうと思ったのだった。
元の世界に戻れたら、鈴木にハンバーグを作ってやる。
そう決めた雪也はどこか楽しそうで、目玉焼きをのせるハンバーグと、デミグラスソースたっぷりのハンバーグのどちらがいいか聞いていた。「どちらも好きだ」と真面目な表情で答える鈴木。それに「じゃあ両方とも作らないといけないな」と答えている雪也。
異世界に来てから、勇者の旅に同行してよく歩き、よく運動して食事もほどほどにしているせいか、痩せたと言っている委員長、石野凛。委員長だけではない。鈴木も友親もユキも、太ることなんてなかった。
「でも、鈴木君は元の世界に戻ったら、そんなにユキに好物の食べ物を作ってもらえたら太りそうね」
「…………」
鈴木は委員長の言葉に無言だった。
透き通った泉の中に、まるで鍵穴のように“勇者の剣”の刀身を差し入れられる穴が存在していた。
その穴に、カチリと音がするまで、鈴木は剣を差し込んだ。
この処置をすることで、この泉から魔人は生まれ出ないという。
“勇者の剣”が差し入れられている泉を見下ろしながら、雪也が尋ねた。
「この後“勇者の剣”を泉から抜いても魔人は出てこないの? 鈴木はこの剣をこれから先も使うから、ずっとこのまま泉に差しているわけにはいかないよね」
「一度差せば大丈夫だと聞いています」
王国の第一王女コリーヌが説明する。
「“勇者の剣”を一度差し入れれば、封印され、二度差し入れれば、また封印は解除されるそうです」
その説明に、三橋友親も、石野凛も、そして鈴木陸も何かを察したように顔色を変えた。
だが、言葉にはしない。
「ふぅん。じゃあ間違えても鈴木の剣をもう一度差さないようにしないといけないね」
雪也だけが当たり前のことを口にしていた。
これまで、封印が解除されていた状態であったのだ。
つまり、王女の説明だと前任の勇者が、その封印を解除して泉から魔人を産み出していたということになる。
そして現行の勇者鈴木がそれをまた封印した。
何故、前任の勇者は封印を解除して魔人を生み出すようにしていたのだろうか。
なんとなしに、そこに聞いてはならないような、闇を感じた。
その日の夜、野営の焚火の前に集まっていた鈴木陸、石野凛、三橋友親の三人は、考えに沈みこんでいる様子があった。雪也が彼らの様子に「どうしたんだよ」と声をかけると、友親は言った。
「早く、この世界から元の世界に戻ろう」
「そうね」
すぐさま石野凛も同意する。そして鈴木陸も頷いている。
「元の世界に戻ることには賛成だよ」
雪也ももちろん同意する。
もう、三か月以上、元の世界から離れて旅をしている。
元の世界の便利で豊かな、そして楽しい生活がひどく懐かしい。
きっと両親も友人達も心配している。
トラックに跳ねられた自分達が、元の世界に戻った瞬間、死ぬ可能性もあることに、その時雪也は初めて気が付いて、青ざめた。
「でも、元の世界に戻った瞬間、俺達、トラックに跳ね飛ばされた直後になるんじゃないのか!? 死んじゃうんじゃないのか!?」
その疑問に、鈴木陸が手を挙げて答えた。
「大丈夫だ。あのトラックは、トラック自体が召喚魔法の一種だという。召喚が無かったことにされ、トラックも存在しなかったことにされて、時間が巻き戻されるらしい」
女神によると暴走異世界召喚トラックは、あの時、あの道路を走らないことになる。
つまりは、小道を歩いていた生徒達の身には何も起きなかったことになるのだ。
雪也は胸元に手を当て、明らかにホッとしていた。
「そうなんだ。じゃあ、元の世界にそのまま帰って、今まで通りの普通の生活に戻れるんだね」
「そうなる」
安堵している雪也を、鈴木は目を細めて見つめる。
それから鈴木は、焚火の前で両手を組み合わせ、少し迷うような口ぶりで言った。
「あちらの世界に戻ったら、会いに行ってもいいかな」
「勿論だよ!! 俺も鈴木に会いたい。あっちに戻ったら、みんなとまた会いたいよ」
その雪也の言葉に鈴木は微笑んでいる。
そして、勘の良い女、委員長石野凛は(鈴木君が会いたいと言っているのは、ユキだけなんじゃないのかしら)と思って、どこか生温かな目で、そのことに気付いていない雪也と微笑んでいる鈴木の二人を見つめていたのだった。
「こっちの世界は、食材も道具も不便でさ。あっちに戻ったら、勇者として頑張った鈴木の好きなもの何でも作ってやるよ!!」
「お前は鈴木のおかんか」と、内心その台詞を聞いて思う三橋友親。だが、彼も賢明にも口を噤んでいた。
「鈴木は何が好きなんだ? 教えてくれよ」
その言葉に、鈴木は答えた。
「ハンバーグが好きだ」
「ハンバーグだな!! 俺も大好きだ!! 美味しい奴いっぱい作ってやるからな」
いったい何の会話をしているのだと思いながらも、雪也と鈴木が明るく話している様子を友親は眺め、チラリと石野凛に視線を走らせると、彼女も訳知り顔で頷いていた。どこか子供の雪也に、鈴木のアプローチが届くのには相当時間がかかるだろうと思ったのだった。
元の世界に戻れたら、鈴木にハンバーグを作ってやる。
そう決めた雪也はどこか楽しそうで、目玉焼きをのせるハンバーグと、デミグラスソースたっぷりのハンバーグのどちらがいいか聞いていた。「どちらも好きだ」と真面目な表情で答える鈴木。それに「じゃあ両方とも作らないといけないな」と答えている雪也。
異世界に来てから、勇者の旅に同行してよく歩き、よく運動して食事もほどほどにしているせいか、痩せたと言っている委員長、石野凛。委員長だけではない。鈴木も友親もユキも、太ることなんてなかった。
「でも、鈴木君は元の世界に戻ったら、そんなにユキに好物の食べ物を作ってもらえたら太りそうね」
「…………」
鈴木は委員長の言葉に無言だった。
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