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外伝 はじまりの物語  第一章 召喚された少年達と勇者の試練

第十話 二つ目の試練(上)

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 シーラ王女の案内で、一行は暗い森の奥深くにある、コポコポと小さな泡をひっきりなしに吐きだす泉に辿り着いた。
 その泉の水は、どこまでも透明で澄んでいた。
 とても魔人が生まれる泉とは思えない、綺麗な泉である。

 事前に、その泉の封印の方法を鈴木は聞いていた。
 泉の水が溢れ出すその場所に、勇者の剣を突き立てるのだ。
 それだけで、これから生まれる魔人の命を、聖剣が吸い込むらしい。

 その話を聞いた沢谷雪也は「なんか変なの」と話していた。
 友親が「何が変なのか」と尋ねると「勇者の剣なのに、命を吸い込むというところだよ」と答えていた。

 ただ、コリーヌ王女の説明するところ、それは別に変なことではないらしい。
 王宮にも、別の似たような剣があるという。
 その剣は、その突き刺された相手の、能力を吸い取る剣だという。なかなかなチートな性能だ。
 
「その剣のせいで随分と争いが起きたという話です」

 声を潜めて魔術師カルフィーが話してくれた。魔術師の間ではよく知られた有名な剣らしい。
 王宮にあるその剣は“黄金の剣”と呼ばれていた。
 物騒な能力の癖に、ゴージャスな名前である。

「剣の柄も刀身も金色なんです。神代の剣とされ、国宝に指定されています。ただ、能力が能力なので争いの原因になりました」

 そうなってしまう理由も理解できる。
 その剣がもし、他者の能力を吸い込むというのなら、吸い込まれた者はその能力を失ってしまうのだろう。
 当然奪われた側は怒り、能力を返せと言うはずだ。
 しかし、奪うほどに素晴らしい能力なら、返すはずもない。争いが起こるだろう。

 雪也は聞いた。

「その剣はどうなっているの?」

 カルフィーは答える。

「王宮の宝物庫の中で、封印されているという話です。もう長いこと、誰もその剣の姿を見ていませんね」



 そして、鈴木が勇者の剣の柄に手をやって、泉に近づこうとした時、ふいにシーラ王女が友親にしがみついて叫んだ。

「生まれようとしている。急いで!!」

 鈴木は走った。
 何が生まれようとしているのかと尋ねる必要もなかった。
 泉の水面が、ブクブクブクブクと激しく泡立ち、あれほど透明で綺麗だった水に陰りが生じていた。
 その水の中から何かが起き上がろうとしている。

 間に合わないか。

 ザブザブと泉の水が溢れ出し、水牛のような巨大な二本の角を頭に生やした、隆々とした筋肉が盛り上がった大男が現れた。
 言われずとも、非戦闘員であるシーラ王女、友親、雪也、委員長を守るように何人かの騎士達が陣形を作り、その他の騎士とコリーヌ王女が加勢しようと鈴木のそばに走ってくる。

「生まれたてなのに武器を持っているなんてずるい!!」

 雪也が怒ったような声を上げていた。
 そう、泉から生まれたばかりだというのに、その水牛のような頭を持つ魔人は、大きな戦斧を手にしていた。

「ここから出ないで下さいね」

 カルフィー魔術師が、何やら魔法陣のようなものを、シーラ王女を中心に張った。その陣の中には、シーラ王女、カルフィーを含めた二人の魔法使い、そして友親と雪也、委員長が入っていた。

 鈴木は目を走らせ、雪也達が魔術師達に守られて安全な場所にいることに、内心安堵しながら、腰に下げた勇者の剣を鞘から抜いた。

 他者の能力を奪うとされる剣が、“黄金の剣”と呼ばれる煌びやかな外見のものであるのとは対照的に、鈴木が持つ“勇者の剣”は、何の変哲もない、装飾の一つもない無骨な、ただの剣にしか見えなかった。
 だがそれは、他人が手にしても、鞘から刀身を抜くことが出来ない、選ばれた勇者だけが使うことができる剣なのだった。

 何度かその剣で、相手を倒す練習をしていたが、その剣の威力は凄まじい。
 目の前に立った相手を一刀両断、その後ろにあるものまで斬り倒してしまう。

 斬れぬものはないような切れ味なのだ。

 鈴木の後ろから騎士達や、コリーヌ王女が走ってくる。
 だが、彼らが来る前に、鈴木は剣を思い切りよく振り下ろした。

 大きな戦斧を手にした水牛のような角を持つ魔人は、その体を真っ二つにして倒れた。

 あまりにもあっさりと魔人を倒したことに、コリーヌ王女も騎士達も驚いている。
 
 友親は慌てて、シーラ王女が無残な死体を見る事のないように、その両眼を手で塞いでいた。真っ二つになった魔人の身体は、なかなかグロイものがあり、友親は吐きそうな顔をしている。それに気が付いたカルフィー魔術師が「大丈夫かトモチカ!!」と心配して声を上げていた。

 雪也も魔人のグロ遺体を見ないよう、視線を下の方に向けないようにしながら、鈴木のそばまで走ってきた。

「凄いな!! 鈴木は!!」

 ちょっと青ざめた顔をしているけれど、子供のように素直に賛嘆の声を上げる雪也を見て、勇者の剣を腰に下げた鞘に納めた鈴木は微笑んでいた。
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