358 / 711
外伝 はじまりの物語 第一章 召喚された少年達と勇者の試練
第十話 二つ目の試練(上)
しおりを挟む
シーラ王女の案内で、一行は暗い森の奥深くにある、コポコポと小さな泡をひっきりなしに吐きだす泉に辿り着いた。
その泉の水は、どこまでも透明で澄んでいた。
とても魔人が生まれる泉とは思えない、綺麗な泉である。
事前に、その泉の封印の方法を鈴木は聞いていた。
泉の水が溢れ出すその場所に、勇者の剣を突き立てるのだ。
それだけで、これから生まれる魔人の命を、聖剣が吸い込むらしい。
その話を聞いた沢谷雪也は「なんか変なの」と話していた。
友親が「何が変なのか」と尋ねると「勇者の剣なのに、命を吸い込むというところだよ」と答えていた。
ただ、コリーヌ王女の説明するところ、それは別に変なことではないらしい。
王宮にも、別の似たような剣があるという。
その剣は、その突き刺された相手の、能力を吸い取る剣だという。なかなかなチートな性能だ。
「その剣のせいで随分と争いが起きたという話です」
声を潜めて魔術師カルフィーが話してくれた。魔術師の間ではよく知られた有名な剣らしい。
王宮にあるその剣は“黄金の剣”と呼ばれていた。
物騒な能力の癖に、ゴージャスな名前である。
「剣の柄も刀身も金色なんです。神代の剣とされ、国宝に指定されています。ただ、能力が能力なので争いの原因になりました」
そうなってしまう理由も理解できる。
その剣がもし、他者の能力を吸い込むというのなら、吸い込まれた者はその能力を失ってしまうのだろう。
当然奪われた側は怒り、能力を返せと言うはずだ。
しかし、奪うほどに素晴らしい能力なら、返すはずもない。争いが起こるだろう。
雪也は聞いた。
「その剣はどうなっているの?」
カルフィーは答える。
「王宮の宝物庫の中で、封印されているという話です。もう長いこと、誰もその剣の姿を見ていませんね」
そして、鈴木が勇者の剣の柄に手をやって、泉に近づこうとした時、ふいにシーラ王女が友親にしがみついて叫んだ。
「生まれようとしている。急いで!!」
鈴木は走った。
何が生まれようとしているのかと尋ねる必要もなかった。
泉の水面が、ブクブクブクブクと激しく泡立ち、あれほど透明で綺麗だった水に陰りが生じていた。
その水の中から何かが起き上がろうとしている。
間に合わないか。
ザブザブと泉の水が溢れ出し、水牛のような巨大な二本の角を頭に生やした、隆々とした筋肉が盛り上がった大男が現れた。
言われずとも、非戦闘員であるシーラ王女、友親、雪也、委員長を守るように何人かの騎士達が陣形を作り、その他の騎士とコリーヌ王女が加勢しようと鈴木のそばに走ってくる。
「生まれたてなのに武器を持っているなんてずるい!!」
雪也が怒ったような声を上げていた。
そう、泉から生まれたばかりだというのに、その水牛のような頭を持つ魔人は、大きな戦斧を手にしていた。
「ここから出ないで下さいね」
カルフィー魔術師が、何やら魔法陣のようなものを、シーラ王女を中心に張った。その陣の中には、シーラ王女、カルフィーを含めた二人の魔法使い、そして友親と雪也、委員長が入っていた。
鈴木は目を走らせ、雪也達が魔術師達に守られて安全な場所にいることに、内心安堵しながら、腰に下げた勇者の剣を鞘から抜いた。
他者の能力を奪うとされる剣が、“黄金の剣”と呼ばれる煌びやかな外見のものであるのとは対照的に、鈴木が持つ“勇者の剣”は、何の変哲もない、装飾の一つもない無骨な、ただの剣にしか見えなかった。
だがそれは、他人が手にしても、鞘から刀身を抜くことが出来ない、選ばれた勇者だけが使うことができる剣なのだった。
何度かその剣で、相手を倒す練習をしていたが、その剣の威力は凄まじい。
目の前に立った相手を一刀両断、その後ろにあるものまで斬り倒してしまう。
斬れぬものはないような切れ味なのだ。
鈴木の後ろから騎士達や、コリーヌ王女が走ってくる。
だが、彼らが来る前に、鈴木は剣を思い切りよく振り下ろした。
大きな戦斧を手にした水牛のような角を持つ魔人は、その体を真っ二つにして倒れた。
あまりにもあっさりと魔人を倒したことに、コリーヌ王女も騎士達も驚いている。
友親は慌てて、シーラ王女が無残な死体を見る事のないように、その両眼を手で塞いでいた。真っ二つになった魔人の身体は、なかなかグロイものがあり、友親は吐きそうな顔をしている。それに気が付いたカルフィー魔術師が「大丈夫かトモチカ!!」と心配して声を上げていた。
雪也も魔人のグロ遺体を見ないよう、視線を下の方に向けないようにしながら、鈴木のそばまで走ってきた。
「凄いな!! 鈴木は!!」
ちょっと青ざめた顔をしているけれど、子供のように素直に賛嘆の声を上げる雪也を見て、勇者の剣を腰に下げた鞘に納めた鈴木は微笑んでいた。
その泉の水は、どこまでも透明で澄んでいた。
とても魔人が生まれる泉とは思えない、綺麗な泉である。
事前に、その泉の封印の方法を鈴木は聞いていた。
泉の水が溢れ出すその場所に、勇者の剣を突き立てるのだ。
それだけで、これから生まれる魔人の命を、聖剣が吸い込むらしい。
その話を聞いた沢谷雪也は「なんか変なの」と話していた。
友親が「何が変なのか」と尋ねると「勇者の剣なのに、命を吸い込むというところだよ」と答えていた。
ただ、コリーヌ王女の説明するところ、それは別に変なことではないらしい。
王宮にも、別の似たような剣があるという。
その剣は、その突き刺された相手の、能力を吸い取る剣だという。なかなかなチートな性能だ。
「その剣のせいで随分と争いが起きたという話です」
声を潜めて魔術師カルフィーが話してくれた。魔術師の間ではよく知られた有名な剣らしい。
王宮にあるその剣は“黄金の剣”と呼ばれていた。
物騒な能力の癖に、ゴージャスな名前である。
「剣の柄も刀身も金色なんです。神代の剣とされ、国宝に指定されています。ただ、能力が能力なので争いの原因になりました」
そうなってしまう理由も理解できる。
その剣がもし、他者の能力を吸い込むというのなら、吸い込まれた者はその能力を失ってしまうのだろう。
当然奪われた側は怒り、能力を返せと言うはずだ。
しかし、奪うほどに素晴らしい能力なら、返すはずもない。争いが起こるだろう。
雪也は聞いた。
「その剣はどうなっているの?」
カルフィーは答える。
「王宮の宝物庫の中で、封印されているという話です。もう長いこと、誰もその剣の姿を見ていませんね」
そして、鈴木が勇者の剣の柄に手をやって、泉に近づこうとした時、ふいにシーラ王女が友親にしがみついて叫んだ。
「生まれようとしている。急いで!!」
鈴木は走った。
何が生まれようとしているのかと尋ねる必要もなかった。
泉の水面が、ブクブクブクブクと激しく泡立ち、あれほど透明で綺麗だった水に陰りが生じていた。
その水の中から何かが起き上がろうとしている。
間に合わないか。
ザブザブと泉の水が溢れ出し、水牛のような巨大な二本の角を頭に生やした、隆々とした筋肉が盛り上がった大男が現れた。
言われずとも、非戦闘員であるシーラ王女、友親、雪也、委員長を守るように何人かの騎士達が陣形を作り、その他の騎士とコリーヌ王女が加勢しようと鈴木のそばに走ってくる。
「生まれたてなのに武器を持っているなんてずるい!!」
雪也が怒ったような声を上げていた。
そう、泉から生まれたばかりだというのに、その水牛のような頭を持つ魔人は、大きな戦斧を手にしていた。
「ここから出ないで下さいね」
カルフィー魔術師が、何やら魔法陣のようなものを、シーラ王女を中心に張った。その陣の中には、シーラ王女、カルフィーを含めた二人の魔法使い、そして友親と雪也、委員長が入っていた。
鈴木は目を走らせ、雪也達が魔術師達に守られて安全な場所にいることに、内心安堵しながら、腰に下げた勇者の剣を鞘から抜いた。
他者の能力を奪うとされる剣が、“黄金の剣”と呼ばれる煌びやかな外見のものであるのとは対照的に、鈴木が持つ“勇者の剣”は、何の変哲もない、装飾の一つもない無骨な、ただの剣にしか見えなかった。
だがそれは、他人が手にしても、鞘から刀身を抜くことが出来ない、選ばれた勇者だけが使うことができる剣なのだった。
何度かその剣で、相手を倒す練習をしていたが、その剣の威力は凄まじい。
目の前に立った相手を一刀両断、その後ろにあるものまで斬り倒してしまう。
斬れぬものはないような切れ味なのだ。
鈴木の後ろから騎士達や、コリーヌ王女が走ってくる。
だが、彼らが来る前に、鈴木は剣を思い切りよく振り下ろした。
大きな戦斧を手にした水牛のような角を持つ魔人は、その体を真っ二つにして倒れた。
あまりにもあっさりと魔人を倒したことに、コリーヌ王女も騎士達も驚いている。
友親は慌てて、シーラ王女が無残な死体を見る事のないように、その両眼を手で塞いでいた。真っ二つになった魔人の身体は、なかなかグロイものがあり、友親は吐きそうな顔をしている。それに気が付いたカルフィー魔術師が「大丈夫かトモチカ!!」と心配して声を上げていた。
雪也も魔人のグロ遺体を見ないよう、視線を下の方に向けないようにしながら、鈴木のそばまで走ってきた。
「凄いな!! 鈴木は!!」
ちょっと青ざめた顔をしているけれど、子供のように素直に賛嘆の声を上げる雪也を見て、勇者の剣を腰に下げた鞘に納めた鈴木は微笑んでいた。
23
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる