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外伝 はじまりの物語  第一章 召喚された少年達と勇者の試練

第一話 異世界への“転移”

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 学校帰り、三橋友親は親友の沢谷雪也と喋りながら歩いていた。
 高校一年生の彼らは学校指定の制服を身につけ、ナップザックを背中に背負っている。たわいもないことを話しながら歩いているそこに、暴走するトラックが一台、まるで人のいる方へ吸い寄せられるように突っ込んで来た。
 歩いていた道が狭かったから、避けることもできずに、次々と跳ねられる生徒達。
 大きな衝突音が響き渡った。






 痛みを覚える間もなく、意識がプツリと途切れる。
 ブラックアウトした視界。
 
(……もしかして、俺は死んだのか?)

 あんな大きなトラックが突っ込んできたんだ。生きていられるはずがない。
 
(一瞬で死んだのかな。まぁ、痛い思いをしなかったから良かったけれど)

 そんなことを思っていた次の瞬間、グラグラと身体が揺すられた。

「三橋君、三橋君、ちょっと目を覚ましてよ!!」

 その声は、同じクラスの委員長と呼ばれる石野凛のものだった。
 仕方なしに目を開けると、目の前に黒髪をポニーテールに結んでいる石野が、ホッとした表情でそこにいた。

「良かった、目を覚ましたのね」

 周囲を見回す。そこは広い部屋で、その部屋の中には三橋達と同じ年くらいの高校生達に、裾の長いドレスをまとった綺麗な若い女性が一人と、頭の上に長い烏帽子みたいな帽子を被った白い衣装の男達と、騎士みたいないでたちの大柄な男達がいた。

 トラックではね飛ばされたはずなのに、体には傷の一つもなく、痛みもなかった。
 これは一体どういうことなのだろうと、トラックのぶつかった箇所を擦っているところで、友親は、自分のそばで未だ目を閉じて横になっている沢谷雪也の存在に気が付いた。
 委員長と同じように、雪也の身体をグラグラと揺する。

「おい、ユキ、起きろよ。お前が一番最後だぞ。寝ているのはお前だけだぞ」

 すると雪也は目を薄く開いた。

「……死後の世界も一緒なのか、友親」

 その雪也の言葉に、友親は吹き出していた。

「死後の世界じゃねーよ、ユキ」

 友親は目を覚ます前の状況と、目を覚ました後の光景から思いついた言葉をそのまま口にしていた。

「俺達は異世界に転移したみたいだ」

「……は?」

 当然のことながら、雪也は口をぽかんと開けていた。そんな表情がひどく子供っぽい。

「ラノベとかでいう、異世界転移なんだよ。トラックに跳ねられた、歩道にいた奴らはみんなこの異世界に転移したんだ!!」

 友親の説明に、雪也は慌てて周囲を見回していた。
 そして、裾の長いドレスをまとった綺麗な若い女性が、自分達と一緒に転移したらしき他校の生徒(あれは偏差値の高い青陵学園の制服じゃないか)の一人の男子に向かって、熱っぽくこう話していた。

「貴方が勇者様なのですね。どうか、どうか私達の願いを聞き届けて下さい」




「おい、これって」

 雪也が尋ねて、友親の肩をつっつく。それで友親も訳知り顔で頷いていた。

「ああ。これはそーいうことみたいだな」

 そんなことを話していると、ツッコミ担当のように委員長がこう言う。

「何あんた達、納得しているのよ!! どういうことなのか説明しなさい!!」
 
 とビシッと指を差されてしまう。
 だから、友親と雪也は、声を揃えて言った。

「「勇者の巻き込まれ転移だな」」




 そう。
 異世界へ勇者や聖女が召喚された時、ウッカリと第三者が巻き込まれる。
 大抵、足元で召喚陣が開いた時に、たまたま近くにいた第三者がその召喚陣を踏んでたりしていて、あれよあれよと異世界へ一緒に運ばれてしまうのだ。
 それが巻き込まれ転移・召喚であった。
 ラノベ界では非常にポピュラーな現象である。

「それで、あいつが勇者なの?」

 雪也が尋ねてくるので、友親は頷いた。
 
「そうみたいだ」

 しばらく室内で耳を澄ませていた友親は、周囲の会話からそう判断していた。
 友親と雪也があれよあれよとトラックにはね飛ばされた後、ダイレクトにこの場で意識を取り戻したのとは別に、勇者だという高校生の前には、一度女神が現れて、勇者のこなす試練を指図したらしい。

 雪也は頭を押さえながら呟くように言う。

「しっかし、巻き込まれ転移だとしても、乱暴じゃないか。トラックにぶつかって転移? いや、普通は召喚魔法による召喚魔法陣だろう!!」

「確かにそうだよな。俺達のあっちの身体は大丈夫なのかね。というか、あっちに身体は残っているのかな? トラックに跳ね飛ばされた途端にこっちに身体ごと飛ばされたということ? 召喚魔法陣じゃなくて、召喚トラック? 狙った獲物は逃さないスタイル?」

「お前、何馬鹿なこと言ってんだよー」

 そう友親と雪也が話をしていると、勇者だという青陵学園の紺色のブレザーを着た、賢そうでいてハンサムな若者が声を張り上げて、友親達に告げた。

「僕は、青陵学園一年の鈴木陸と言います。周りの人々の話だと、ここは異世界で、勇者を召喚するためにトラックを突っ込ませたと言われました」

 凄い台詞だった。
 勇者を召喚するためにトラックを突っ込ませた。
 殺人罪で召喚主を摘発できるんじゃないかと友親達は思った。

「それで、僕とその場にいたみんながこの世界に召喚されたようです。元の世界に戻るためには、女神の試練をクリアしなければ、戻ることは出来ないと言われています」

 そのあんまりな台詞に、召喚されている生徒達は騒めいていた。
 塾に間に合わないとか言っている者がいるが、間に合うわけはないと言いたい。
 もしかしたら、永遠に塾へ行くことは出来ないかも知れない。

「こうなった以上、僕は勇者として試練を果たすしかないと思っています」

 そのキッパリとした鈴木陸の物言いに、友親は小声で「さすが勇者様だな。試練を果たすと言っている」と言った。「そうしないと帰れないんだから、仕方ないじゃん」と雪也は言った。
 全く縁もゆかりもない世界へ勝手に呼び出されて、帰る為にはその試練をクリアしないといけないとか。正直酷い。勝手すぎる。呼び出したという異世界の者達を雪也はジロジロと見つめてしまった。怒ることもせずに、冷静に、仕方なくもあるだろうけど、試練を果たすと言っている鈴木陸という奴は偉いくらいだ。

「それで、一緒に異世界へ渡って来た皆さんにお知らせします。ここにいるアルダンテ王国のラーマ王女が、僕が試練を果たすまでの間、皆さんをお預かりすると言っています。その間の身の安全は彼女が保証するそうです」

 鈴木陸の隣に立つ、金髪碧眼の美女が綺麗に一礼した。
 異国人(おまけに異世界人)だと年齢が分かりにくいけど、二十歳くらいか。気品に溢れた美女だった。
 腰まである金髪サラサラストレートヘアの王女様。目鼻立ちのクッキリとした美女だった。男子だけではなく、女子ですらその美貌に見惚れていた。
 ラーマ王女は胸に手を当て、言った。

「勇者様が試練を果たし終わるまでの間、ご不便のないように、わたくし共で図らせて頂きます。どうぞご安心下さい」

 その言葉に、友親と雪也は顔を見合わせたのだった。
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