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第十五章 この世界で君と共に

第二十話 最後に手にするのは(下)

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 佐藤優斗が、殺された。
 自分と離れた後、どうやら佐藤の周囲を“結界”が包み込み、佐藤は“転移”できなくなり、閉じ込められたようだ。
 最初から、佐藤の殺害は計算されていた。

 このアレドリア王国に佐藤が“転移”してきて、ハルヴェラ王国に“星弾”を撃ち込むことを、彼らは待ち構えていた。
 そして佐藤は、彼らの計画通り、殺害された。




 首に剣を突き刺された佐藤優斗が命を落としていることは明らかだった。
 その魂が抜け出て、の世界に還ろうとするのを、ヴィータは止めた。間に合ったことはヴィータにとっては幸いだった。
 もし“結界”が解かれず、佐藤の死からもっと時間が経っていたならば、抜け出たその魂を捕まえることは出来なかったはずだ。

 ヴィータは、佐藤優斗の魂が入った、小さなシャボン玉のような器を大切そうに懐に持っていた。
 そして彼は、元の佐藤の王国に戻ることはなく、その器を抱えたまま“魔の領域”にある自分の居城に戻っていったのだった。

 ようやく佐藤の魂が手に入ったからだ。





 
 
 十八年前、佐藤優斗が“混沌の女神”に唆されるまま、勇者鈴木を殺し、勇者の持つ能力を奪った後、彼はこの大陸を統一すると言い出した。
 それに興じた魔の領域に棲む三公は彼に従い、彼の望むまま働き出した。ヴィータ以外の二公は、佐藤がもたらす破壊を愉しみ、勝利品とばかりに数多くの人間達を魔の領域に連れ去っていた。それが二公が佐藤に黙って従う目的の報酬であったからだ。
 でもヴィータは違った。
 彼は最初から、この佐藤優斗という男の魂を貰い受けるつもりだった。

 何千、何万という人間を殺害しても平然としている佐藤。普通では考えつかないような発想をする佐藤のそばにいることは楽しかった。
 彼が、“転移”魔法や“召喚”魔法を習得した後、何度も元の世界へ戻ろうと呪文を唱えたが、効果が掻き消され、元の世界へ帰還することは出来なかった。その原因を佐藤は分からず困惑し、最後には魔法を使って元の世界へ戻ることを諦めていた。
 魔法が掻き消されていたのは、ヴィータがいつも妨害していたからだ。
 戻ることが出来なくて当然だった。

 界を飛び越える召喚魔法や転移魔法には、膨大な魔力を要する。
 魔素を使える佐藤や他の転移者が、たとえ神の力によって元の世界に戻れなかったとしても(神は勇者に従って試練の旅に同行した異世界人しか元の世界に戻すことはなかった)、いつか苦労の末、独力で召喚魔法や転移魔法を習得して、元の世界へ戻ることだって可能なはずだった。

 でもそれを、ずっと妨害し続けたのはヴィータだった。

 理由は簡単だった。
 ずっと佐藤がこの世界を壊し続ける姿を、そして最後にはこの大陸を統一する姿を見てみたかったからだ。

 佐藤優斗は面白い男だったからだ。
 それをヴィータは気に入っていた。

 佐藤優斗は、「統一を成し遂げた後は、三公に、この世界に在るものすべて、何でも捧げる」と述べていた。本人は大陸を統一した後、元の世界に戻れると信じ切っていただろう。
 だが、ヴィータは大陸統一をした瞬間、佐藤を要求するつもりだった。



 その瞬間、あの男はどんな顔をするだろうと、そのことを思うと楽しくて仕方なかった。
 ずっと自分の部下のように忠実に仕えていた魔族の男が、元の世界に戻ることを許さないと告げるのだ。
 その瞬間、佐藤は気が触れてしまうかも知れないと思っていた。そして彼の気の狂う瞬間を見ることを楽しみにしていた。

 なのに、これはない。

 そんな楽しい時を迎える前に、佐藤は殺されてしまった。
 今はもう、その魂しか手元にはない。




 ヴィータはシャボン玉の中の佐藤の魂をじっと見つめ、これからどうしようかと考え込む。
 また何か、この魂で楽しい遊びが出来るだろうかと、頭を悩ませるのだった。
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