309 / 711
第十五章 この世界で君と共に
第二十話 最後に手にするのは(下)
しおりを挟む
佐藤優斗が、殺された。
自分と離れた後、どうやら佐藤の周囲を“結界”が包み込み、佐藤は“転移”できなくなり、閉じ込められたようだ。
最初から、佐藤の殺害は計算されていた。
このアレドリア王国に佐藤が“転移”してきて、ハルヴェラ王国に“星弾”を撃ち込むことを、彼らは待ち構えていた。
そして佐藤は、彼らの計画通り、殺害された。
首に剣を突き刺された佐藤優斗が命を落としていることは明らかだった。
その魂が抜け出て、元の世界に還ろうとするのを、ヴィータは止めた。間に合ったことはヴィータにとっては幸いだった。
もし“結界”が解かれず、佐藤の死からもっと時間が経っていたならば、抜け出たその魂を捕まえることは出来なかったはずだ。
ヴィータは、佐藤優斗の魂が入った、小さなシャボン玉のような器を大切そうに懐に持っていた。
そして彼は、元の佐藤の王国に戻ることはなく、その器を抱えたまま“魔の領域”にある自分の居城に戻っていったのだった。
ようやく佐藤の魂が手に入ったからだ。
十八年前、佐藤優斗が“混沌の女神”に唆されるまま、勇者鈴木を殺し、勇者の持つ能力を奪った後、彼はこの大陸を統一すると言い出した。
それに興じた魔の領域に棲む三公は彼に従い、彼の望むまま働き出した。ヴィータ以外の二公は、佐藤がもたらす破壊を愉しみ、勝利品とばかりに数多くの人間達を魔の領域に連れ去っていた。それが二公が佐藤に黙って従う目的の報酬であったからだ。
でもヴィータは違った。
彼は最初から、この佐藤優斗という男の魂を貰い受けるつもりだった。
何千、何万という人間を殺害しても平然としている佐藤。普通では考えつかないような発想をする佐藤のそばにいることは楽しかった。
彼が、“転移”魔法や“召喚”魔法を習得した後、何度も元の世界へ戻ろうと呪文を唱えたが、効果が掻き消され、元の世界へ帰還することは出来なかった。その原因を佐藤は分からず困惑し、最後には魔法を使って元の世界へ戻ることを諦めていた。
魔法が掻き消されていたのは、ヴィータがいつも妨害していたからだ。
戻ることが出来なくて当然だった。
界を飛び越える召喚魔法や転移魔法には、膨大な魔力を要する。
魔素を使える佐藤や他の転移者が、たとえ神の力によって元の世界に戻れなかったとしても(神は勇者に従って試練の旅に同行した異世界人しか元の世界に戻すことはなかった)、いつか苦労の末、独力で召喚魔法や転移魔法を習得して、元の世界へ戻ることだって可能なはずだった。
でもそれを、ずっと妨害し続けたのはヴィータだった。
理由は簡単だった。
ずっと佐藤がこの世界を壊し続ける姿を、そして最後にはこの大陸を統一する姿を見てみたかったからだ。
佐藤優斗は面白い男だったからだ。
それをヴィータは気に入っていた。
佐藤優斗は、「統一を成し遂げた後は、三公に、この世界に在るものすべて、何でも捧げる」と述べていた。本人は大陸を統一した後、元の世界に戻れると信じ切っていただろう。
だが、ヴィータは大陸統一をした瞬間、佐藤を要求するつもりだった。
その瞬間、あの男はどんな顔をするだろうと、そのことを思うと楽しくて仕方なかった。
ずっと自分の部下のように忠実に仕えていた魔族の男が、元の世界に戻ることを許さないと告げるのだ。
その瞬間、佐藤は気が触れてしまうかも知れないと思っていた。そして彼の気の狂う瞬間を見ることを楽しみにしていた。
なのに、これはない。
そんな楽しい時を迎える前に、佐藤は殺されてしまった。
今はもう、その魂しか手元にはない。
ヴィータはシャボン玉の中の佐藤の魂をじっと見つめ、これからどうしようかと考え込む。
また何か、この魂で楽しい遊びが出来るだろうかと、頭を悩ませるのだった。
自分と離れた後、どうやら佐藤の周囲を“結界”が包み込み、佐藤は“転移”できなくなり、閉じ込められたようだ。
最初から、佐藤の殺害は計算されていた。
このアレドリア王国に佐藤が“転移”してきて、ハルヴェラ王国に“星弾”を撃ち込むことを、彼らは待ち構えていた。
そして佐藤は、彼らの計画通り、殺害された。
首に剣を突き刺された佐藤優斗が命を落としていることは明らかだった。
その魂が抜け出て、元の世界に還ろうとするのを、ヴィータは止めた。間に合ったことはヴィータにとっては幸いだった。
もし“結界”が解かれず、佐藤の死からもっと時間が経っていたならば、抜け出たその魂を捕まえることは出来なかったはずだ。
ヴィータは、佐藤優斗の魂が入った、小さなシャボン玉のような器を大切そうに懐に持っていた。
そして彼は、元の佐藤の王国に戻ることはなく、その器を抱えたまま“魔の領域”にある自分の居城に戻っていったのだった。
ようやく佐藤の魂が手に入ったからだ。
十八年前、佐藤優斗が“混沌の女神”に唆されるまま、勇者鈴木を殺し、勇者の持つ能力を奪った後、彼はこの大陸を統一すると言い出した。
それに興じた魔の領域に棲む三公は彼に従い、彼の望むまま働き出した。ヴィータ以外の二公は、佐藤がもたらす破壊を愉しみ、勝利品とばかりに数多くの人間達を魔の領域に連れ去っていた。それが二公が佐藤に黙って従う目的の報酬であったからだ。
でもヴィータは違った。
彼は最初から、この佐藤優斗という男の魂を貰い受けるつもりだった。
何千、何万という人間を殺害しても平然としている佐藤。普通では考えつかないような発想をする佐藤のそばにいることは楽しかった。
彼が、“転移”魔法や“召喚”魔法を習得した後、何度も元の世界へ戻ろうと呪文を唱えたが、効果が掻き消され、元の世界へ帰還することは出来なかった。その原因を佐藤は分からず困惑し、最後には魔法を使って元の世界へ戻ることを諦めていた。
魔法が掻き消されていたのは、ヴィータがいつも妨害していたからだ。
戻ることが出来なくて当然だった。
界を飛び越える召喚魔法や転移魔法には、膨大な魔力を要する。
魔素を使える佐藤や他の転移者が、たとえ神の力によって元の世界に戻れなかったとしても(神は勇者に従って試練の旅に同行した異世界人しか元の世界に戻すことはなかった)、いつか苦労の末、独力で召喚魔法や転移魔法を習得して、元の世界へ戻ることだって可能なはずだった。
でもそれを、ずっと妨害し続けたのはヴィータだった。
理由は簡単だった。
ずっと佐藤がこの世界を壊し続ける姿を、そして最後にはこの大陸を統一する姿を見てみたかったからだ。
佐藤優斗は面白い男だったからだ。
それをヴィータは気に入っていた。
佐藤優斗は、「統一を成し遂げた後は、三公に、この世界に在るものすべて、何でも捧げる」と述べていた。本人は大陸を統一した後、元の世界に戻れると信じ切っていただろう。
だが、ヴィータは大陸統一をした瞬間、佐藤を要求するつもりだった。
その瞬間、あの男はどんな顔をするだろうと、そのことを思うと楽しくて仕方なかった。
ずっと自分の部下のように忠実に仕えていた魔族の男が、元の世界に戻ることを許さないと告げるのだ。
その瞬間、佐藤は気が触れてしまうかも知れないと思っていた。そして彼の気の狂う瞬間を見ることを楽しみにしていた。
なのに、これはない。
そんな楽しい時を迎える前に、佐藤は殺されてしまった。
今はもう、その魂しか手元にはない。
ヴィータはシャボン玉の中の佐藤の魂をじっと見つめ、これからどうしようかと考え込む。
また何か、この魂で楽しい遊びが出来るだろうかと、頭を悩ませるのだった。
31
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる