249 / 711
第十三章 失われたものを取り戻すために
第十二話 魔術師達のギルド(下)
しおりを挟む
アレドリア王国の魔術師ギルド長レーベンは「協力が必要なことがあれば何なりとお申しつけ下さい」と言って、副ギルド長と共に退室した。
それで、部屋の中には魔術師ルティと、アルバート王子の二人が残された(ルーシェはアルバート王子の胸元に小さな竜の姿のまま潜んでいる)。
魔術師ルティは三十代の痩身の男で、どことなく神経質そうな様子があった。
彼はアルバート王子に軽く頭を下げた後、ラウデシア王国が現状得ている情報をすべて提供して欲しいと言った。調査には当然それが必要だろうと王子は事前に用意していた、ラウデシア王国で魔術師から聞いた話をまとめた書きつけと、自分が現地で見たものを口頭で伝える。
「ラウデシア王国で起こっている事象は厳密には“召喚”の中断状態になります。サトー王国の術者がその召喚者であるなら、召喚者は“召喚”を途中で止めたために、あのような“消失”状態になっているのでしょう。今の状況を回復するためには“召喚”の途中状態にある対象物を、同じ場所に“到着”させるか、若しくは別次元に待機状態のまま置かれている対象物を再度“召喚”する方法をとるしかないでしょう。前者はサトー王国の術者でなければ出来ないでしょう。だから、事象の解消には、後者の別次元を漂う対象物を再“召喚”するしかないのではないかと思います」
アルバート王子の胸元に隠れていた小さな竜姿のルーシェは、あまりにも話が難解になっていたので、目をパチクリとしていた。難しくてよく分からない。
しかし、アルバート王子は魔術師ルティの話についていっていた(ルーシェ曰く「さすが俺の王子は天才だ!!」)。
「次元を漂う対象物を再“召喚”するなんてことが出来るんですか」
「幸いにも、今回の対象物は非常に巨大で、空間を歪ませるほどの規模です。事実ラウデシア王国の北方地方で起きた異変はあまりにも規模が大きかったが故に、我々アレドリア王国の魔術師がすぐに知覚できるほどのものでした。規模が小さかったのなら、次元を漂う対象物を見つけることは至難であったでしょう」
「規模の大きさが幸いしたということですね」
「そうなります。ただし、大きな問題が一つあります」
魔術師ルティは、ラウデシア王国で発生している“消失”発生の事象の話を聞いてから、ずっとその解決法について考えてきた。結局、事象解消には“消失”していたものを元の場所に戻すしかない。そしてその元の場所に戻すことは、サトー王国の術者が使った魔力と同じくらいの、桁違いの魔力量を消費するしかないのだ。
「次元を越える、これほど規模の大きな“召喚”魔法を行うためには、桁違いの大量の魔力が必要になります。そんな魔力がどこにあるのでしょうか」
「…………」
黙り込むアルバート王子の胸元で、小さな紫竜が囁くように鳴いた。
「ピルルルゥ(“魔素”だ)」
アルバート王子もそれを分かっている。異世界からやって来た者達が、空気中にある膨大な“魔素”を使えばそれが出来るだろう。ルーシェは昔から、空気中の“魔素”を貯め込んできた。そしてルーシェだけでは足りないと言うのなら、前世からの友人だというハルヴェラ王国のリン王太子妃や、カルフィー魔道具店の三橋友親の協力を仰ぐことも出来るはずだ。
「膨大な魔力の当てはあります」
魔術師ルティは、アルバート王子の言葉に目を見開いた。
「本当ですか」
「はい。ただ、何人かの者達に協力を仰がなければならないでしょう。これから急ぎ、連絡を取ってみます。ですが、“召喚”魔法は誰がふるって下さるのでしょうか」
魔術師ルティは笑んで、自分の胸元に手をやって言った。
「勿論、この私が行います」
アルバート王子は、ハルヴェラ王国のリン王太子妃に、魔法を使った通信で急ぎ連絡を取った。魔法を使用する通信は非常に高度な魔術と大量の魔力が必要だったが、魔術師ルティが手配してくれた。なお、通信の秘密も担保されているとルティは言ってくれた。そしてリン王太子妃に協力を要請したところ、彼女は即座に快諾する。あまりにも即決なので、伴侶の王太子に相談しないで勝手に決めていいのだろうかと、アルバート王子の方が考え悩んでしまったくらいである。
問題は、カルフィー魔道具店のトモチカの方であった。
カルフィー魔道具店に連絡したところ、店員から、トモチカは長期の休暇を取っていると伝えられる。それではカルフィー魔術師と話がしたいと頼んでも、カルフィー魔術師は忙しいので応対出来ないと、連絡を切られてしまった。
そのあまりにも素っ気ない応対に、アルバート王子の胸元にいた小さな竜は頭を傾げ、それから言った。
「ピルルゥピル。ピルピルルルゥ(なんかおかしい。トモチカのところへ行ってみようよ)」
それにアルバート王子も頷き、二人は大陸南西部に在るというカルフィー魔道具店へ向かうことにしたのだった。ちなみに魔術師ルティは、「私は“消失”の事象を現地で見ておきたいので、先にラウデシア王国へ行きます」と早々に北方の国目指して出立することにしていた。
それで、部屋の中には魔術師ルティと、アルバート王子の二人が残された(ルーシェはアルバート王子の胸元に小さな竜の姿のまま潜んでいる)。
魔術師ルティは三十代の痩身の男で、どことなく神経質そうな様子があった。
彼はアルバート王子に軽く頭を下げた後、ラウデシア王国が現状得ている情報をすべて提供して欲しいと言った。調査には当然それが必要だろうと王子は事前に用意していた、ラウデシア王国で魔術師から聞いた話をまとめた書きつけと、自分が現地で見たものを口頭で伝える。
「ラウデシア王国で起こっている事象は厳密には“召喚”の中断状態になります。サトー王国の術者がその召喚者であるなら、召喚者は“召喚”を途中で止めたために、あのような“消失”状態になっているのでしょう。今の状況を回復するためには“召喚”の途中状態にある対象物を、同じ場所に“到着”させるか、若しくは別次元に待機状態のまま置かれている対象物を再度“召喚”する方法をとるしかないでしょう。前者はサトー王国の術者でなければ出来ないでしょう。だから、事象の解消には、後者の別次元を漂う対象物を再“召喚”するしかないのではないかと思います」
アルバート王子の胸元に隠れていた小さな竜姿のルーシェは、あまりにも話が難解になっていたので、目をパチクリとしていた。難しくてよく分からない。
しかし、アルバート王子は魔術師ルティの話についていっていた(ルーシェ曰く「さすが俺の王子は天才だ!!」)。
「次元を漂う対象物を再“召喚”するなんてことが出来るんですか」
「幸いにも、今回の対象物は非常に巨大で、空間を歪ませるほどの規模です。事実ラウデシア王国の北方地方で起きた異変はあまりにも規模が大きかったが故に、我々アレドリア王国の魔術師がすぐに知覚できるほどのものでした。規模が小さかったのなら、次元を漂う対象物を見つけることは至難であったでしょう」
「規模の大きさが幸いしたということですね」
「そうなります。ただし、大きな問題が一つあります」
魔術師ルティは、ラウデシア王国で発生している“消失”発生の事象の話を聞いてから、ずっとその解決法について考えてきた。結局、事象解消には“消失”していたものを元の場所に戻すしかない。そしてその元の場所に戻すことは、サトー王国の術者が使った魔力と同じくらいの、桁違いの魔力量を消費するしかないのだ。
「次元を越える、これほど規模の大きな“召喚”魔法を行うためには、桁違いの大量の魔力が必要になります。そんな魔力がどこにあるのでしょうか」
「…………」
黙り込むアルバート王子の胸元で、小さな紫竜が囁くように鳴いた。
「ピルルルゥ(“魔素”だ)」
アルバート王子もそれを分かっている。異世界からやって来た者達が、空気中にある膨大な“魔素”を使えばそれが出来るだろう。ルーシェは昔から、空気中の“魔素”を貯め込んできた。そしてルーシェだけでは足りないと言うのなら、前世からの友人だというハルヴェラ王国のリン王太子妃や、カルフィー魔道具店の三橋友親の協力を仰ぐことも出来るはずだ。
「膨大な魔力の当てはあります」
魔術師ルティは、アルバート王子の言葉に目を見開いた。
「本当ですか」
「はい。ただ、何人かの者達に協力を仰がなければならないでしょう。これから急ぎ、連絡を取ってみます。ですが、“召喚”魔法は誰がふるって下さるのでしょうか」
魔術師ルティは笑んで、自分の胸元に手をやって言った。
「勿論、この私が行います」
アルバート王子は、ハルヴェラ王国のリン王太子妃に、魔法を使った通信で急ぎ連絡を取った。魔法を使用する通信は非常に高度な魔術と大量の魔力が必要だったが、魔術師ルティが手配してくれた。なお、通信の秘密も担保されているとルティは言ってくれた。そしてリン王太子妃に協力を要請したところ、彼女は即座に快諾する。あまりにも即決なので、伴侶の王太子に相談しないで勝手に決めていいのだろうかと、アルバート王子の方が考え悩んでしまったくらいである。
問題は、カルフィー魔道具店のトモチカの方であった。
カルフィー魔道具店に連絡したところ、店員から、トモチカは長期の休暇を取っていると伝えられる。それではカルフィー魔術師と話がしたいと頼んでも、カルフィー魔術師は忙しいので応対出来ないと、連絡を切られてしまった。
そのあまりにも素っ気ない応対に、アルバート王子の胸元にいた小さな竜は頭を傾げ、それから言った。
「ピルルゥピル。ピルピルルルゥ(なんかおかしい。トモチカのところへ行ってみようよ)」
それにアルバート王子も頷き、二人は大陸南西部に在るというカルフィー魔道具店へ向かうことにしたのだった。ちなみに魔術師ルティは、「私は“消失”の事象を現地で見ておきたいので、先にラウデシア王国へ行きます」と早々に北方の国目指して出立することにしていた。
37
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる