205 / 711
第十一章 もう一人の転移者
第八話 王宮にて(上)
しおりを挟む
王宮内の応接室へ早速案内されたアルバート王子とルーシェ。
王子はしっかりとその腕に小さな竜姿のルーシェを抱きかかえている。
なにせ、リン王太子妃の六人の子供達が好奇心いっぱいの目で、ルーシェを見つめ、隙あらば手を伸ばして抱っこしようと狙っていたからだ。
なんとなしにその子供達の様子は、バルトロメオ辺境伯の息子アーサーと通じるものがあった。
だからルーシェは、ここでは王子の腕にしがみつき、尻尾までクルリと王子の腕に巻き付けて、離れまいとしていた。
応接室に入ると、リン王太子妃は、自身の護衛の女騎士ガヴリエラと女官メリッサの二人を残して、後の護衛と女官達は全て席を外させた。もちろん大層渋られたのだが、子供達も全員部屋から退出させられる。
今部屋の中にいるのは、アルバート王子と彼に抱きかかえられている小さな紫色の竜ルーシェ、それからリン王太子妃、女騎士ガヴリエラと女官メリッサの五人だけであった。
リンは言った。
「ガヴリエラとメリッサは、私の腹心の部下です」
そう言うと、二人の女性は頭を深々と下げる。
「彼女達の口は堅く、決して私を裏切ることはありません。ルーシェ、貴方が人化できることは友親から聞いています。貴方と話をしたいので、どうか人の姿に変わってくれないかしら」
ルーシェはリンの顔をマジマジと見つめた。
ルーシェの人化のことを話すなど、親友の三橋友親は、委員長こと石野凛のことをよほど信頼していたようだ。転生前の高校生であった頃、彼女は単なるクラスメイトで、三橋友親や沢谷雪也(ルーシェ)とはそれほど親しい間柄ではなかった。この世界へ友親が転移して以降、友親と石野凛は関係を親しくすることがあったのだろうと思う。
友親が信頼しているのならばと、ルーシェも考え、彼は石野凛の望み通り人の姿に変わることにした。
「ピルルゥ(分かった)」
そう言うと、ルーシェは一瞬で王子の膝の上に、三歳くらいの幼児の姿で現れた。
それには、王太子妃リンも女騎士ガヴリエラも女官メリッサも、目を大きく見開いて驚いていた。先ほどまでの小さくて可愛らしい竜が、今度はいたいけな黒髪の幼児に姿を変えたのである。
リンの横で、ガヴリエラとメリッサの二人は真っ赤に頬を染めて「なんてお可愛らしい」「天使だ!! 天使がいるぞ!!」と大興奮で叫んでいる。
その二人の頭を、王太子妃リンはどこから取り出したのか一本の扇子で、ビシッビシッと一撃ずつ叩いていた。
「全く、騒がないの」
「はい、申し訳ありません」
「大変申し訳ありません」
ガヴリエラとメリッサの二人は項垂れている。リンは扇を広げ、それで優雅に仰ぎながら言った。
「まぁ、確かに目の覚めるような美……美幼児というのかしらね。少年というには幼すぎるもの。友親から、貴方が素晴らしい美形になっているという話は聞いていたけど、美幼児とは思わなかったわ」
それからリンはチラリとアルバート王子を見つめ、咳払いをした。
「ルーシェと、王子殿下が婚姻を結んだという話は聞いております。……まぁ、『源氏物語』の若紫の話もありますからね……。こんな小さなルーシェ相手に……」
暗記能力が前世からからっきし駄目であったルーシェは、『源氏物語』の若紫の話と言われてもピンとこない。だからそのままアルバート王子の膝のうえで、黙って座っている。
「貴方は沢谷雪也君で間違いないのよね?」
確認するように王太子妃リンが、元クラスメイトの石野凛が尋ねてきたので、ルーシェはコクリと頷いた。
「委員長、久しぶり。委員長が異世界に来て王太子妃になっているなんて聞いてびっくりしたよ。ラノベ小説そのまんまじゃんか!!」
そのあっけらかんとした物言いに、リンは目を細めどこか懐かしそうに言った。
「本当に、貴方はユキみたいね。ちっちゃくてこんなに可愛い竜に転生しているなんて私も驚いたわ。ともあれ、また再会できて本当に嬉しいわ。積もる話もたくさんあるでしょうから、是非、王宮にゆっくりと滞在して頂戴」
そう王太子妃リンは艶然と笑って言った。
それからほどなくして、女官の一人が「お部屋のご用意が出来ました」と言って、アルバート王子とルーシェを、今日泊まらせてくれる客室へ案内してくれた。
王太子妃リンとはまた改めて話をする機会を設けるという。
案内された客室は、さすが王宮というものであった。広々として家具も立派な部屋である。
「わー、凄い!!」
三歳児姿のルーシェは、大きな寝台の上に突進しても大の字になってそのフカフカな寝具の上に横になっている。
わざわざついてきてくれた女官メリッサが、恭しく一礼しながら言った。
「後ほど、王太子殿下と王太子妃殿下が夕食を是非、ご一緒にというお話です」
王太子殿下というと、リン王太子妃の旦那さん!!
「有難うございます。喜んでご一緒させて頂きます」
そうアルバート王子が答える。
「こちらで衣装もご用意させて頂き、後ほどお持ち致します」
至れり尽くせり!!
それから女官メリッサは、客室の横にある浴室のことを教えてくれたり、客室から庭へ出る道を教えてくれたりした。そして彼女は一礼して部屋を立ち去る。
王子とルーシェは、部屋に二人きりになった。
ルーシェは寝台の上から飛び降りると、説明された浴室を覗いて声を弾ませた。
「王子、王子、大きなお風呂があるよ!!」
王子はしっかりとその腕に小さな竜姿のルーシェを抱きかかえている。
なにせ、リン王太子妃の六人の子供達が好奇心いっぱいの目で、ルーシェを見つめ、隙あらば手を伸ばして抱っこしようと狙っていたからだ。
なんとなしにその子供達の様子は、バルトロメオ辺境伯の息子アーサーと通じるものがあった。
だからルーシェは、ここでは王子の腕にしがみつき、尻尾までクルリと王子の腕に巻き付けて、離れまいとしていた。
応接室に入ると、リン王太子妃は、自身の護衛の女騎士ガヴリエラと女官メリッサの二人を残して、後の護衛と女官達は全て席を外させた。もちろん大層渋られたのだが、子供達も全員部屋から退出させられる。
今部屋の中にいるのは、アルバート王子と彼に抱きかかえられている小さな紫色の竜ルーシェ、それからリン王太子妃、女騎士ガヴリエラと女官メリッサの五人だけであった。
リンは言った。
「ガヴリエラとメリッサは、私の腹心の部下です」
そう言うと、二人の女性は頭を深々と下げる。
「彼女達の口は堅く、決して私を裏切ることはありません。ルーシェ、貴方が人化できることは友親から聞いています。貴方と話をしたいので、どうか人の姿に変わってくれないかしら」
ルーシェはリンの顔をマジマジと見つめた。
ルーシェの人化のことを話すなど、親友の三橋友親は、委員長こと石野凛のことをよほど信頼していたようだ。転生前の高校生であった頃、彼女は単なるクラスメイトで、三橋友親や沢谷雪也(ルーシェ)とはそれほど親しい間柄ではなかった。この世界へ友親が転移して以降、友親と石野凛は関係を親しくすることがあったのだろうと思う。
友親が信頼しているのならばと、ルーシェも考え、彼は石野凛の望み通り人の姿に変わることにした。
「ピルルゥ(分かった)」
そう言うと、ルーシェは一瞬で王子の膝の上に、三歳くらいの幼児の姿で現れた。
それには、王太子妃リンも女騎士ガヴリエラも女官メリッサも、目を大きく見開いて驚いていた。先ほどまでの小さくて可愛らしい竜が、今度はいたいけな黒髪の幼児に姿を変えたのである。
リンの横で、ガヴリエラとメリッサの二人は真っ赤に頬を染めて「なんてお可愛らしい」「天使だ!! 天使がいるぞ!!」と大興奮で叫んでいる。
その二人の頭を、王太子妃リンはどこから取り出したのか一本の扇子で、ビシッビシッと一撃ずつ叩いていた。
「全く、騒がないの」
「はい、申し訳ありません」
「大変申し訳ありません」
ガヴリエラとメリッサの二人は項垂れている。リンは扇を広げ、それで優雅に仰ぎながら言った。
「まぁ、確かに目の覚めるような美……美幼児というのかしらね。少年というには幼すぎるもの。友親から、貴方が素晴らしい美形になっているという話は聞いていたけど、美幼児とは思わなかったわ」
それからリンはチラリとアルバート王子を見つめ、咳払いをした。
「ルーシェと、王子殿下が婚姻を結んだという話は聞いております。……まぁ、『源氏物語』の若紫の話もありますからね……。こんな小さなルーシェ相手に……」
暗記能力が前世からからっきし駄目であったルーシェは、『源氏物語』の若紫の話と言われてもピンとこない。だからそのままアルバート王子の膝のうえで、黙って座っている。
「貴方は沢谷雪也君で間違いないのよね?」
確認するように王太子妃リンが、元クラスメイトの石野凛が尋ねてきたので、ルーシェはコクリと頷いた。
「委員長、久しぶり。委員長が異世界に来て王太子妃になっているなんて聞いてびっくりしたよ。ラノベ小説そのまんまじゃんか!!」
そのあっけらかんとした物言いに、リンは目を細めどこか懐かしそうに言った。
「本当に、貴方はユキみたいね。ちっちゃくてこんなに可愛い竜に転生しているなんて私も驚いたわ。ともあれ、また再会できて本当に嬉しいわ。積もる話もたくさんあるでしょうから、是非、王宮にゆっくりと滞在して頂戴」
そう王太子妃リンは艶然と笑って言った。
それからほどなくして、女官の一人が「お部屋のご用意が出来ました」と言って、アルバート王子とルーシェを、今日泊まらせてくれる客室へ案内してくれた。
王太子妃リンとはまた改めて話をする機会を設けるという。
案内された客室は、さすが王宮というものであった。広々として家具も立派な部屋である。
「わー、凄い!!」
三歳児姿のルーシェは、大きな寝台の上に突進しても大の字になってそのフカフカな寝具の上に横になっている。
わざわざついてきてくれた女官メリッサが、恭しく一礼しながら言った。
「後ほど、王太子殿下と王太子妃殿下が夕食を是非、ご一緒にというお話です」
王太子殿下というと、リン王太子妃の旦那さん!!
「有難うございます。喜んでご一緒させて頂きます」
そうアルバート王子が答える。
「こちらで衣装もご用意させて頂き、後ほどお持ち致します」
至れり尽くせり!!
それから女官メリッサは、客室の横にある浴室のことを教えてくれたり、客室から庭へ出る道を教えてくれたりした。そして彼女は一礼して部屋を立ち去る。
王子とルーシェは、部屋に二人きりになった。
ルーシェは寝台の上から飛び降りると、説明された浴室を覗いて声を弾ませた。
「王子、王子、大きなお風呂があるよ!!」
54
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる