164 / 711
第九章 春の訪れ
第十四話 結婚式前日
しおりを挟む
そして準備作業に忙しい中、日々はあっという間に駆け足で過ぎ去り、とうとう結婚式の日が明日に迫っていた。
バルトロメオ辺境伯の城には、続々と近郊に住む貴族達や遠方からの招待客がやってくる。
彼らは、二年前、アルバート王子が外国への婿入りをさせられそうになった時、バルトロメオ辺境伯やウラノス騎兵団長の求めに応じて、婿入りに反対する署名をしてくれた貴族達であった。結婚の式典の際には、ルーシェが身体が弱く長時間の長い儀式には耐えられないなどといった理由を付けて、身内だけの式となっているが、その後の辺境伯の城の大広間で行われるお披露目食事会では、彼らを含めて大勢の者達が出席することになっていた。
「結婚式は簡単にすると言っていたのに、食事会はこんなに大勢呼ぶなんて聞いていない」とルーシェは言いたかった。確かに当初はルーシェの“人心を惑わす”ほどの美貌のことを懸念して、食事会も少人数で行うつもりであった。しかし、アルバート王子やルーシェが世話になった、そしてこれから先、世話になる可能性のある関係者達は呼ばざるを得なかった。王家七番目の王子アルバートが、平民の美しい少年を見初め、辺境伯の好意で婿入りし、その恋を実らせたというどこかロマンチックな話を耳にしたならば、やはりその結婚式の食事会には是非とも出席して、出来ればその伴侶の姿を一目見てみたいと望む者ばかりであった。その結果、食事会の出席者は相当な人数に膨れ上がっていた。
その中には、リヨンネの兄のバンクール商会長夫妻もいたし、遠い南西地域から足を運んでくれるカルフィー魔道具店の店主とその伴侶達もいたのであった。
ルーシェはこの結婚式で、かつての親友である三橋友親に会えることが楽しみで仕方がなかった。
彼は夜になると、アルバート王子に、自分が前世でどういった生活をして過ごしていたのか話すようになっていた。アルバート王子も、別の世界のルーシェ(以前の沢谷雪也)が過ごしたという不思議な世界の話を聞きたがった。
「俺は学生で、勉強をしていたんだ。毎日学校に通っていた。友親とはずっと小さな頃から一緒だった」
アルバート王子の胸に自分の頭をすり寄せながら、ルーシェはぽつりぽつりと話し始めた。
「だから、この世界へやって来る時もあいつは当然のように一緒だったんだ」
狭い歩道にいた、高校へ向かう途中の沢谷雪也と、三橋友親はトラックにはねられて死んだ。
衝突の痛みもなくプツリと記憶が途切れ、そこからすぐに卵の中の記憶になる。
王子のそばに行かなければならないという、焦燥にも似た思いに駆られる。
(でも友親は俺と違って、何故かその後はこの異世界に“転移”していた。日本人の姿のまま“転移”していて、年を重ねていた)
その違いが不思議だと王子に話しても、王子も当然のことながらその違いの理由は分からない。ただ、友親と再会する時に、彼に尋ねればきっと教えてくれるだろうと言った。
友親は“転移”してからずっとこの世界で暮らしていたのだから。
バルトロメオ辺境伯の城では、遠方からやってくる客人の為に、前日から泊まれるように宿泊の準備が進められていた。遠い南西地域からやってくる友親もそれに含まれていた。
城に到着した馬車から、不自由な足を引きずるようにして、伴侶であるカルフィー魔術師の手を借りながら下りて現れた友親。
ルーシェも結婚式の前日から辺境伯の城に泊まっている。ルーシェは城の上層階の窓から、次々と招待客が馬車から現れるのを見つめ、その中に、馬車から下りてきた友親の姿を見つけた。
本当なら、今すぐ窓から(子竜の姿で)飛び出して、友親に飛びつきたい気持ちでいっぱいだった。でもこの城にいる間は、病弱な少年の振りをしなければならないルーシェである。だから彼は黙って、友親が二人の伴侶と護衛達に囲まれて城の中へと案内されて消えていく姿を眺めているしかなかった。
「また後で話す時間がある」
なんとなしに寂しそうな様子で、友親がいってしまう姿を見送るルーシェを、アルバート王子は抱きしめると、ルーシェはコクリと頷いていた。
バルトロメオ辺境伯の城には、続々と近郊に住む貴族達や遠方からの招待客がやってくる。
彼らは、二年前、アルバート王子が外国への婿入りをさせられそうになった時、バルトロメオ辺境伯やウラノス騎兵団長の求めに応じて、婿入りに反対する署名をしてくれた貴族達であった。結婚の式典の際には、ルーシェが身体が弱く長時間の長い儀式には耐えられないなどといった理由を付けて、身内だけの式となっているが、その後の辺境伯の城の大広間で行われるお披露目食事会では、彼らを含めて大勢の者達が出席することになっていた。
「結婚式は簡単にすると言っていたのに、食事会はこんなに大勢呼ぶなんて聞いていない」とルーシェは言いたかった。確かに当初はルーシェの“人心を惑わす”ほどの美貌のことを懸念して、食事会も少人数で行うつもりであった。しかし、アルバート王子やルーシェが世話になった、そしてこれから先、世話になる可能性のある関係者達は呼ばざるを得なかった。王家七番目の王子アルバートが、平民の美しい少年を見初め、辺境伯の好意で婿入りし、その恋を実らせたというどこかロマンチックな話を耳にしたならば、やはりその結婚式の食事会には是非とも出席して、出来ればその伴侶の姿を一目見てみたいと望む者ばかりであった。その結果、食事会の出席者は相当な人数に膨れ上がっていた。
その中には、リヨンネの兄のバンクール商会長夫妻もいたし、遠い南西地域から足を運んでくれるカルフィー魔道具店の店主とその伴侶達もいたのであった。
ルーシェはこの結婚式で、かつての親友である三橋友親に会えることが楽しみで仕方がなかった。
彼は夜になると、アルバート王子に、自分が前世でどういった生活をして過ごしていたのか話すようになっていた。アルバート王子も、別の世界のルーシェ(以前の沢谷雪也)が過ごしたという不思議な世界の話を聞きたがった。
「俺は学生で、勉強をしていたんだ。毎日学校に通っていた。友親とはずっと小さな頃から一緒だった」
アルバート王子の胸に自分の頭をすり寄せながら、ルーシェはぽつりぽつりと話し始めた。
「だから、この世界へやって来る時もあいつは当然のように一緒だったんだ」
狭い歩道にいた、高校へ向かう途中の沢谷雪也と、三橋友親はトラックにはねられて死んだ。
衝突の痛みもなくプツリと記憶が途切れ、そこからすぐに卵の中の記憶になる。
王子のそばに行かなければならないという、焦燥にも似た思いに駆られる。
(でも友親は俺と違って、何故かその後はこの異世界に“転移”していた。日本人の姿のまま“転移”していて、年を重ねていた)
その違いが不思議だと王子に話しても、王子も当然のことながらその違いの理由は分からない。ただ、友親と再会する時に、彼に尋ねればきっと教えてくれるだろうと言った。
友親は“転移”してからずっとこの世界で暮らしていたのだから。
バルトロメオ辺境伯の城では、遠方からやってくる客人の為に、前日から泊まれるように宿泊の準備が進められていた。遠い南西地域からやってくる友親もそれに含まれていた。
城に到着した馬車から、不自由な足を引きずるようにして、伴侶であるカルフィー魔術師の手を借りながら下りて現れた友親。
ルーシェも結婚式の前日から辺境伯の城に泊まっている。ルーシェは城の上層階の窓から、次々と招待客が馬車から現れるのを見つめ、その中に、馬車から下りてきた友親の姿を見つけた。
本当なら、今すぐ窓から(子竜の姿で)飛び出して、友親に飛びつきたい気持ちでいっぱいだった。でもこの城にいる間は、病弱な少年の振りをしなければならないルーシェである。だから彼は黙って、友親が二人の伴侶と護衛達に囲まれて城の中へと案内されて消えていく姿を眺めているしかなかった。
「また後で話す時間がある」
なんとなしに寂しそうな様子で、友親がいってしまう姿を見送るルーシェを、アルバート王子は抱きしめると、ルーシェはコクリと頷いていた。
63
お気に入りに追加
3,602
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる