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第七章 ある護衛騎士の災難

第四話 招待状(下)

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 アルバート王子は新年会の招待状を受け取った後、ウラノス騎兵団長、エイベル副騎兵団長並びにレネ魔術師を前に、王宮での新年会の出席の件を相談した。

 レネ魔術師は、テーブルの上に置かれた白い封筒を手に、ため息混じりでこう言った。

「新年会に紫竜の出席を求める一文が加わったことは、やはり、王宮魔術師長からの手が回されたということでしょう。今まで一度もなかったことですし」

「そうですね」

 アルバート王子の膝の上で、小さな竜は「キュウウウゥゥ」とどこか不安そうな声で鳴いていた。
 その竜の頭を王子は撫でた後に言った。

「私は欠席しようと思います」

「ただ、欠席をしてそれで話が終わることにはならないだろう」

 ウラノス騎兵団長は顎に手をやり、そう言う。
 当然のことだ。それで話が終わるなら、何度も何度も手紙を出すようなことはしてこないだろう。
 諦めきれないから、そう言ってきているのだ。

「一度だけ、顔を立ててやり、それで終わりにするように話を持っていくのが良いのではないでしょうか」

 エイベル副騎兵団長がそういうが、その顔を立ててやった一度で終わらない可能性もある。
 
「新年会には、私やエイベルの他、バルトロメオ辺境伯もご出席の予定だ。魔術師長といえども、紫竜に対して無茶は言えない環境になる」

「では、団長は出席した方が良いというのですか」

 王子が問いかけると、ウラノスはこう言う。

「その後に、もっと強硬に出られるよりはマシであろう」

「………………」

 黙り込んでしまった王子に、レネも言った。

「同じ元王宮魔術師として言わせて頂きますと、魔術師長はしつこいです」

「……しつこいのか」

「魔術師の性とでもいいましょうか。研究のためなら、何を捧げてもいいと思っているところがあります。そうした熱心さがあったからこそ、魔術師長の地位まで昇りつめた御方です」

 魔術の才能は元より、生活の全てを研究に捧げる。王宮の魔術師達には皆、そういうところがある。
 実際、レネも王宮魔術師時代は、朝も昼も夜もなく、研究に明け暮れていた。
 それが当然の生活であったし、同僚の王宮魔術師達も、そして王宮魔術師長もその生活を普通にこなしていた。大体魔術師達は、痩せ細り、顔色も悪く、いつもどこかフラフラとした様子をした者達が多かった。
 レネは、この竜騎兵団に来て以来、三食きちんと食べるようになり、昼夜逆転の生活もなくなり、適度に運動もするようになってすっかり健康を取り戻していた。精神的にもバンナムと結婚して安定している。今更、王宮へ戻って王宮魔術師をするつもりもなかった。

「ですので、新年会に出席するだけで王宮魔術師長が満足することはないと思います。ですが、新年会に出席しないとなると」

「……出席しないとどうなるのだ」

 王子の聞き返す言葉に、レネはこう言った。

「王宮魔術師長が痺れを切らして、何をやりだすか分からないところがあります。可能ならば、新年会くらいは出席をして、様子を見た方が良いかもしれません」

 痺れを切らして何をやりだすか分からないところがあるとは……
 なんとなしにその言葉に、不気味なものを感じる一行であった。



 とりあえず、新年会はルーシェ共々出席する方向で進めることになった。
 ウラノス騎兵団長は「紫竜によく目を掛けてくれるよう、バルトロメオ辺境伯にもお願いしておく。あそこのアーサーも、紫竜のことを気に入っているから気にかけて下さるはずだ」と言った。

 “あそこのアーサー”と言われ、バルトロメオ辺境伯の息子、小型ジャイ●ンの姿を思い出すルーシェ。確かに、凄く気に入られている。ギューギューといつも強く抱き締められている。

「ピュルピルル(ねぇ、アーサーも出席するの?)」

 新年会には、あのアーサーも出席するのだろうかと、不安と恐怖の思いでルーシェが王子に尋ねると、王子はこう言った。

「今まではアーサーも幼く出席することはなかったが、来年には王立学園に通うことになる年齢だ。恐らく今回は出席するのではないか」

 そう言われ、再びアーサーに抱き締められる場面がルーシェの脳裏に浮かぶ。
 左右から両手を掴まれた宇宙人のように魔術師達に連れて行かれることよりは、遥かにマシだとは言え、アーサーに自分がギュウギュウされている姿を思うと少しばかり気が滅入る。
 だが、仕方がない。

「心配するな、ルー」

 アルバート王子はそっと紫竜を抱きしめた。

「絶対に、お前は私が守る」

 決意するように口にしたのだった。
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