転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第三話 竜とお茶を飲む

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 青い竜は、『まず、お前は子供の面倒を看ろ』といい、その場に荷物を置かせたまま、リヨンネを自分の背に跨らせた。
 鞍も命綱もなしに竜に跨るのは初めての経験である。

「落とさないでくれよ」

 そう言ってリヨンネは竜の背にしがみついたが、青い竜は鼻で笑い『もし落としてもすぐに拾ってやる』と言った。
 それはどういう意味なのか聞き返したかったが、どうにも嫌な想像しか出来なかった。
 
 それでも青い竜は背中に乗るリヨンネのことを気遣いながら、ゆっくりと空を羽ばたいてくれた。
 空から見たこの山奥深くの光景は、リヨンネの胸を感動で震わせた。
 竜達が空を飛びかい、雪がまだ被る険しい山がずっと果てしなく続いている。白い霧のようなものが漂っている。
 人の手の入らない大森林地帯である。

 半刻も経たないうちに、青い竜は山の中腹にある洞穴にリヨンネを連れていった。
 リヨンネを地面に下ろした途端、彼は人の姿に変わる。
 当然、素っ裸であった。最初に着ていた貫頭衣は、おそらく竜の姿に変わった時にビリビリに破れてしまったのではないかと思われた。

 リヨンネは「何か着た方がいい。寒いだろう」と男に向かって言ったが、男は素っ気なく「寒くない」と答え、裸のままスタスタと洞窟内に入っていった。
 やはり思っていた通り、男の髪色も青かった。
 洞窟の中は薄暗い。リヨンネは慎重に足を進めた。
 明りは、洞窟内の奥の方で灯されているようだった。
 その奥の部屋には、一人の子供が横になり、苦しそうに息をしていた。

 慌ててリヨンネは子供のそばに近づいた。
 思っていたよりも小さい。六歳、七歳というところか。
 額に手をやると燃えるように熱い。リヨンネは持ってきた薬を急いで袋から取り出した。

「水を用意してくれないか」

「分かった」

 男はすぐさま水を用意し、リヨンネは子供になんとか薬を飲ませた後、男に対してもっと部屋の中を暖めるように頼んだ。
 それから毛布を用意させる。

「この部屋は病人には寒すぎる。もっと暖めないといけない」

「分かった」

 男はリヨンネの言葉に素直に従ってくれた。野生竜は乱暴者が多く、まるで人の話を聞かないという噂を聞いていたが、有難いことに目の前の竜の男はそうではなかった。

 火を焚いて、部屋の中を十分に暖め、薬を飲ませたところで、子供の青白かった顔にも少しだけ血の気が戻ったような気がした。
 熱を出して具合が悪いのに、部屋の中は凍えるように寒かった。どう考えても悪化するしかない状況である。
 ただ竜は、人間と比べて寒さに強い強靭な肉体を持っている。
 実際、目の前の青い竜の男は、人化してもなお、裸のままでいて「寒くない」と平然としていた。

 少し落ち着いたところで、リヨンネは男に尋ねた。

「どうしてここに人間の子供がいるんだ」

 粗末なくたびれかけた服を着た男の子だった。ひどく汚れている。
 手も足も細く、満足に食事をとっていないような様子があった。
 それに竜の男は答えた。

「ここからずっと北に上がり、更にずっと西にいったところで、戦争が起きている」

 リヨンネは男の黄色い目を見つめた。青い髪に黄色の瞳というその組み合わせは、人間のもつ色合いではなかった。特にその黄色の濃い目は、目の前の男が異質なものであることをつくづくと感じさせた。
 リヨンネは頭の中で、地図を思い浮かべた。

 ずっと北に上がり、ずっと西にいったところには大陸一の大きな湖がある。そしてその湖周辺の国で、最近、戦が続けざまに起きていることを聞いていた。
 ただそれは大森林のずっと先に位置する場所で、ここからは随分と遠いように思えた。

「戦争が起きてから、大森林の中にも逃げ込む人間達が増えている。たいていは、雪のせいで先に進むことも出来ずに死んでいる」

 大森林の奥といえば、豪雪の場所で、春とはいえまだまだ雪深いはずだ。
 そこに避難民が逃げてきても、自然に阻まれて命を落とすだろう。その痛ましさにリヨンネは眉を寄せた。

「この子はその逃げてきた避難民の子だというのか」

「ああ。皆死んで、この子しか生き残っていなかった。捨て置くにはあまりにも哀れに思えて、この子だけ連れてきた。だが、この子も死にかけていた」

「…………そうか」

 雪の中、累々と避難民の死体の転がる中で、一人生き残った子供。放っておけば間違いなく凍え死んでいた。
 それも自然の摂理ではないかと、最初、青い竜は子供を捨て置くことも考えた。
 皆が死んだのなら、一人生き残って生きていくのも辛かろう。そのまま親兄弟と共に亡くなってしまった方が、幸せなのではないかと。
 だが、雪の中でもぞもぞと動いて、空を行く竜を見上げた子供の目は、強く生を渇望していた。
 
 だから助けてやろうと思った。


 リヨンネは毛布をまた一枚、子供の体に掛けた後、「何か食べ物はないか」と青い竜の男に尋ねる。男は「こっちだ」と洞窟内の別の部屋へリヨンネを連れていった。
 リヨンネはその部屋に入って驚いた。
 そこには様々な荷物が山のように積み上げられていたからだ。




「子供が目を覚ましたら、何が必要になるか分からなかった。だから、転がっていた荷物は全部運んできた」

 それは避難民達の運んでいた荷物だったのだろう。皆、袋や木箱に入ったもので、リヨンネは適当な袋の中を開いた。
 
「貴方が子供を拾ってここに連れてきたのはいつのことだ?」

「二日前だ」

 それならば、避難民達が持ち運んでいた食べ物もまだ食べられるものだろう。袋の中からパンや干し肉を見つけ出し、リヨンネは部屋の中へと運んだ。
 そしてお茶の葉と小さな鍋を見つけると、またリヨンネは鍋に水を入れて、火にかけた。

「人間の飲み物は飲めるのか」

 そう尋ねると、男は「飲んだことがない」と告げた。
 だからリヨンネは、男にお茶を勧め、そして自分もカップを傾けてお茶を飲んだ。
 だがお茶を口にした男は「熱い!!」と怒ったような顔でリヨンネを睨みつけてきた。

 紫竜ルーシェは猫舌であった。
 もしかしたら、竜は皆、猫舌なのか?

 新たな発見に、リヨンネは小さく笑っていた。


 具合の悪い子供のそばでリヨンネは横になって眠った。
 そして朝になり、目が覚めた時、子供もまた目を覚ましていた。
 リヨンネは手を子供の額に当てる。

「熱は下がっているね。お腹は空いているかい」

 頷く子供に、リヨンネはまた火に水を入れた鍋をかけた。
 湯になったところで、固いパンを浸す。

「あまり美味しくないと思うけど、病人なのでこうした方がいいと思ったんだ」

 ひたひたになったパンを別の木皿に移し、スプーンを添えて出すと、子供はガツガツとそれを目の色変えて食べていた。
 
(逃げている間は随分と食べ物を切りつめていたのかも知れない。こんな小さな子供なのに我慢していたんだろう)
 
 お代わりが欲しそうな顔をしていたので、リヨンネはもう一回パンを湯に浸したものを作り、それを子供が食べたところでストップをかけた。
 子供は際限なく欲しそうであったが、空腹の中で急に物をたくさん食べさせることは、身体によくないとリヨンネは知っていたからだ。

「あとは薬を飲んで、また眠ってくれるかな」

 子供は素直に頷いた。
 リヨンネから差し出された薬も飲み、また毛布にくるまって瞼を伏せる。
 
 子供は小さいながらにも理解していたのだろう。
 親兄弟のことは、一度も口にしなかった。



 子供が飲んだ薬の影響もあって、深く寝入ったところでリヨンネは竜の男に言った。

「この子は、私が連れていくべきだろう」

 具合の悪い、熱を出している子供を、極寒の部屋の中において、手当をどうすればいいのか分からない状態の竜である。彼がこれから先、この子供の面倒を看られるとは思えなかった。
 竜も当然のように頷いていた。

「分かった」

「一緒にこの子も観察地へ行く。観察が終わったところで竜騎兵団の拠点に連れていくつもりだ。それでいいか」

「ああ、お前に任せる。お前は同族だ。どうすればいいのか分かっているだろう」

 正直、足手まといでしかない。
 だが、置いていくことは考えられないし、竜も連れていってくれることを期待して、自分をここへ連れてきた節があった。

「観察地にも、竜騎兵団の拠点にも、私とこの子と荷物を運んで欲しい」

「分かった」

 引き受けてくれることにホッとした。意外と面倒見がいい竜である。
 まぁ、だからこそ、この子供も後々彼にとって面倒事になることが分かっていたのに、拾ってきたのだろう。

 とりあえず、もう少し子供の具合がよくなるまでこの洞窟から動かさない方がいいだろう。
 リヨンネはそう思い、先ほど竜が教えてくれた避難民の運んでいた荷物の中から、子供の服など使えそうなものをまとめようと立ち上がったのだった。







 そしてその頃、リヨンネは知らなかったのだが、リヨンネ達のいる洞窟よりも更に下の地点にある竜騎兵団の拠点では騒動が起きていた。

「リヨンネ先生が雪崩に巻き込まれたかもしれないって!?」

 話を聞いたレネは蒼白となり、よろけたところでバンナムに支えられていた。
 そしてアルバート王子も顔を強張らせ、腕の中の紫竜をぎゅっと抱きしめていた。

 副騎兵団長エイベルは、一堂を集めたホールで告げたのだ。

「山頂で発生した大規模な雪崩で、観察地にある建物は崩壊したと思われます」

 朝方発生したその雪崩は、崩落部分が何か所にも及ぶ大規模なもので、リヨンネが辿っていた道も雪に埋もれてしまった。山の下方までその雪崩が到着したことから、巡回に出ていた竜騎兵達も気が付き、慌てて報告が上げられたのだ。
 遠目から見ても、その雪崩が裾幅広く、多くの木々を押し倒し、押し流していることが分かる。地形が変わるほどの雪崩であった。
 観察地あたりも雪に埋もれていることが離れた上空からも見てとれた。

「ピルピルルルルピルピルルル!!」

 小さな紫竜は、王子に抱きかかえられながらも必死にこう言っていた。

 「雪崩に巻き込まれたなら、先生をすぐに助けてあげないと命が危ない!!」と。

 勿論王子もそう思っていた。だから尋ねた。

「捜索隊は派遣されたのでしょうか」

 その言葉に、隊長の一人が首を振った。

「リヨンネ先生の向かった地域は、野生竜のテリトリー内にある。ウラノス騎兵団長のいない状態で、あそこに立ち入ることは出来ない」

 そう言えば、ウラノス騎兵団長の姿が見えなかった。
 見回す王子の耳に、護衛騎士バンナムがそっと告げた。

「ウラノス騎兵団長は辺境伯との定例の会合のため、昨日リヨンネ先生を見送った後にすぐ出立されました」

 タイミングが悪い。

「ピルピルルルピルピルルル」

 紫竜はそれでも何度も何度も鳴いて、王子に言った。

 「リヨンネ先生を早く助けに行かないと、死んじゃうよ」と。
 だが、王子は小さな紫竜をぎゅっと抱きしめたまま、苦しそうな表情をしていたのだった。







 その頃リヨンネは、洞窟の中で荷物整理にいそしみ、子供のための服やらを一生懸命袋にまとめていたのだった。
 当然の事ながら、彼はそうした竜騎兵団の騒動など何一つ知らなかったのだ。
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