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[挿話] そして彼は自覚する
第十二話 再びの六十一階層
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六十階層のボスを撃破した後、ボス部屋で佐久間ら一行は休息を取ることにした。
休息に入るその前に、六十階層ボス討伐報酬として、ドロップしていた宝箱を開けてみることになった。
通常、自衛隊管理下にあるダンジョンのドロップ品は、個人ではなく隊の管理下におかれる。宝箱も開封はされるが、すぐさま地上本部の調査部へ送られてしまう。
そのため、今回のように隊員達全員の前で宝箱を開けて取り出され、隊員達が真近でボスドロップ品を見ることなどまずない出来事であった。
開けた宝箱の中には、一メートル超もの長さのロングボウが入っていた。
しなやかな木製のその弓は、どこか優美で美しい姿をしている。
佐久間柚彦は、十四名の隊員達を前に尋ねた。
「長弓の経験のある者はいるか」
それに手を挙げたのが、須藤隊員であった。
「学生時代に嗜んでおりました」
「使ってみてくれないか」
ロングボウを手渡すが、宝箱の中に弓矢や弓筒は見当たらない。
「すぐには使用できないようですね」
残念そうに須藤が言う。立花はロングボウに触れたがった。
「凄いですね。須藤隊員は弓も使えるんですか」
「しかし、使おうにも弓矢がない」
立花はロングボウを手に取ると、軽く弓を放つ振りをした。
途端、引いた弓の糸に沿って白くぼんやりとした矢の姿が浮かび上がる。
「魔法武器か!?」
慌てて立花が手を離すと矢は消え去る。
「そのようだな。弓タイプの魔法武器のドロップは初めてだ」
「私が使わせて頂いて宜しいのでしょうか」
「須藤隊員しか扱えないだろう。頼む、使えるようにしてくれ」
佐久間柚彦にそう言われた須藤は、どこか恭しく弓矢を受け取り、彼はその弓矢を使う練習を一人始めた。
この定山渓ダンジョンは、やはり“拡張”をしていた。
六十階層のボスを倒した後、通常は現れることのなかった大扉が現れる。
大扉の向こうには、誰も足を踏み入れたことのない新しい階層が続いているはずだ。そしてその扉の向こうにあると思われるワープポイントを見つけ、ダンジョンの入口まで戻る。
それが、大岩の向こうに取り残された隊員達にとって、このダンジョンを脱出するための唯一の方法のように思っていた。
充分な休憩をとった後、早速五名の隊員達が、調査のため、新しい階層内へ足を踏み入れることになった。
ドローンも手元にない中では、危険ではあるが隊員自身が足を運んで調査するしかない。
地上部隊への無線は通じなかったが、今この場にいる仲間同士での間で、無線を使用することが出来た。
非常に緊張しながら、五名の隊員達は扉をくぐり、新階層へ足を踏み入れる。
無線の向こうで驚きの声が漏らされる。
「ワールドフロアです、佐久間リーダー!!」
そう、そこはダンジョンの石造りの通路や天井などの見当たらぬ、灰色の雲が続いている世界だった。
無線の報告を聞いている柚彦と須藤、立花は顔を見合わせた。
「新橋と同じか?」
新橋ダンジョン以降の二つの“拡張”ダンジョンは、ワールドフロアタイプではなく、地下への階層を連ねていく通常のタイプのダンジョンであった。あの新橋ダンジョンだけが特別なダンジョンであったのではないかという話もあったが、この定山渓もそうだというのか。
もし、定山渓も同じタイプなら。
無線に向かって、佐久間柚彦は言った。
「まだ奥へは行くな。入り口へすぐに戻れる距離を保て」
須藤も続けて問いかける。
「目の前に広がるのは、草原か、沼地か、それともジャングルか」
「ジャングルです。うわっ、なんだあれは」
叫び声と共に慌てて走り出す音。雄叫びのような音が響き渡る。
入り口へすぐに戻れる距離にいたことが幸いした。
五名の隊員達が入口の扉をくぐると同時に、ソレもまた頭を扉に突っ込もうとして跳ね返されていた。
「ドラゴンです!! ドラゴンがいます!!」
五名の隊員達の飛び込んだ扉に、頭を何度も押し込めようとしては、見えないダンジョンの壁に跳ね返され続けていたドラゴンは、やがて隊員達を喰らうことを諦めて空へと飛び立つ。
命からがら戻って来た五名の隊員達の報告から、柚彦や須藤、立花も理解していた。
広大なジャングルステージ
灰色のどこまでも続く空
そして空を羽ばたく巨大なドラゴン
「新橋ダンジョンと同じパターンの、ワールドフロアだ」
新橋ダンジョンと同じく、階層主である巨大なドラゴンを倒さない限りはこのフロアを抜けることは出来ないということだった。
かつて新橋ダンジョンでドラゴンを退治した時には、睡眠薬をたっぷりとまぶした肉の山を用意し、空腹のドラゴンにそれをたらふく食べさせた後、ワイヤー銃で拘束しドラゴンの頭を斬り落とした。
今回は睡眠薬入りの肉の山も、ワイヤー銃部隊もない。
あるのは十五名の隊員達と魔法剣と、ボスを討伐した時にドロップした魔法の弓だけであった。
休息に入るその前に、六十階層ボス討伐報酬として、ドロップしていた宝箱を開けてみることになった。
通常、自衛隊管理下にあるダンジョンのドロップ品は、個人ではなく隊の管理下におかれる。宝箱も開封はされるが、すぐさま地上本部の調査部へ送られてしまう。
そのため、今回のように隊員達全員の前で宝箱を開けて取り出され、隊員達が真近でボスドロップ品を見ることなどまずない出来事であった。
開けた宝箱の中には、一メートル超もの長さのロングボウが入っていた。
しなやかな木製のその弓は、どこか優美で美しい姿をしている。
佐久間柚彦は、十四名の隊員達を前に尋ねた。
「長弓の経験のある者はいるか」
それに手を挙げたのが、須藤隊員であった。
「学生時代に嗜んでおりました」
「使ってみてくれないか」
ロングボウを手渡すが、宝箱の中に弓矢や弓筒は見当たらない。
「すぐには使用できないようですね」
残念そうに須藤が言う。立花はロングボウに触れたがった。
「凄いですね。須藤隊員は弓も使えるんですか」
「しかし、使おうにも弓矢がない」
立花はロングボウを手に取ると、軽く弓を放つ振りをした。
途端、引いた弓の糸に沿って白くぼんやりとした矢の姿が浮かび上がる。
「魔法武器か!?」
慌てて立花が手を離すと矢は消え去る。
「そのようだな。弓タイプの魔法武器のドロップは初めてだ」
「私が使わせて頂いて宜しいのでしょうか」
「須藤隊員しか扱えないだろう。頼む、使えるようにしてくれ」
佐久間柚彦にそう言われた須藤は、どこか恭しく弓矢を受け取り、彼はその弓矢を使う練習を一人始めた。
この定山渓ダンジョンは、やはり“拡張”をしていた。
六十階層のボスを倒した後、通常は現れることのなかった大扉が現れる。
大扉の向こうには、誰も足を踏み入れたことのない新しい階層が続いているはずだ。そしてその扉の向こうにあると思われるワープポイントを見つけ、ダンジョンの入口まで戻る。
それが、大岩の向こうに取り残された隊員達にとって、このダンジョンを脱出するための唯一の方法のように思っていた。
充分な休憩をとった後、早速五名の隊員達が、調査のため、新しい階層内へ足を踏み入れることになった。
ドローンも手元にない中では、危険ではあるが隊員自身が足を運んで調査するしかない。
地上部隊への無線は通じなかったが、今この場にいる仲間同士での間で、無線を使用することが出来た。
非常に緊張しながら、五名の隊員達は扉をくぐり、新階層へ足を踏み入れる。
無線の向こうで驚きの声が漏らされる。
「ワールドフロアです、佐久間リーダー!!」
そう、そこはダンジョンの石造りの通路や天井などの見当たらぬ、灰色の雲が続いている世界だった。
無線の報告を聞いている柚彦と須藤、立花は顔を見合わせた。
「新橋と同じか?」
新橋ダンジョン以降の二つの“拡張”ダンジョンは、ワールドフロアタイプではなく、地下への階層を連ねていく通常のタイプのダンジョンであった。あの新橋ダンジョンだけが特別なダンジョンであったのではないかという話もあったが、この定山渓もそうだというのか。
もし、定山渓も同じタイプなら。
無線に向かって、佐久間柚彦は言った。
「まだ奥へは行くな。入り口へすぐに戻れる距離を保て」
須藤も続けて問いかける。
「目の前に広がるのは、草原か、沼地か、それともジャングルか」
「ジャングルです。うわっ、なんだあれは」
叫び声と共に慌てて走り出す音。雄叫びのような音が響き渡る。
入り口へすぐに戻れる距離にいたことが幸いした。
五名の隊員達が入口の扉をくぐると同時に、ソレもまた頭を扉に突っ込もうとして跳ね返されていた。
「ドラゴンです!! ドラゴンがいます!!」
五名の隊員達の飛び込んだ扉に、頭を何度も押し込めようとしては、見えないダンジョンの壁に跳ね返され続けていたドラゴンは、やがて隊員達を喰らうことを諦めて空へと飛び立つ。
命からがら戻って来た五名の隊員達の報告から、柚彦や須藤、立花も理解していた。
広大なジャングルステージ
灰色のどこまでも続く空
そして空を羽ばたく巨大なドラゴン
「新橋ダンジョンと同じパターンの、ワールドフロアだ」
新橋ダンジョンと同じく、階層主である巨大なドラゴンを倒さない限りはこのフロアを抜けることは出来ないということだった。
かつて新橋ダンジョンでドラゴンを退治した時には、睡眠薬をたっぷりとまぶした肉の山を用意し、空腹のドラゴンにそれをたらふく食べさせた後、ワイヤー銃で拘束しドラゴンの頭を斬り落とした。
今回は睡眠薬入りの肉の山も、ワイヤー銃部隊もない。
あるのは十五名の隊員達と魔法剣と、ボスを討伐した時にドロップした魔法の弓だけであった。
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