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[挿話] 勇者の願い

第十三話 協議の合間に

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 “汚染地拡大阻止の為の実務者協議”と並行して、秘密裡に“ダンジョン外大型魔獣等駆除の為の実務者協議”が行われた。
 後者は、自衛隊の勇者を軸とした世界的な魔獣駆除チームを作成するための協議であった。

 東京のホテル会議室を借り切って行われた会議では、そのメンバー選考に具体的な名前が次々と挙げられて、まとめられていった。
 後日、各国の軍や民間組織を通じて、名の知れたモンスター討伐者に対して、個別に声がけがされると言われていた。
 その辺りについて、秋元はまったく興味を持っていなかった。

 とにかくメンバーの中に、自分と柚彦と、そして麗子が加われば間違いないだけの話だった。 
 麗子の話は、機会を見て上層部に話をつけておくしかないだろう。
 彼女の“聖女”称号を見せれば、参加は一発で許可されるだろうことはわかっていた。
 でも、なるべく身バレしたくないという麗子の願いもわかる。
 彼女の正体がバレた時には、彼女だけではなく、今住んでいる家も家族も、マスコミに追われる生活が始まる。
 “転移”でさっさと逃げることのできる自分と違って、彼女はこの世界のあの場所にしっかりと足を付けて生活しているのだ。
 その生活をできるだけ守る必要があるだろう。
 顔を隠す為に、なにか付けさせた方がいいのだろうか。

 仮面がいいか、被り物がいいかと、秋元が会議室から席を外し、一人ロビーで考えていた時、若者が近づいてきた。
 佐久間柚彦だった。

 自衛隊の隊服姿の長身の柚彦を見て、秋元は目を細めた。

「やぁ。八年間で、随分と君も立派になった。席を外していいのかい? 君は重要人物だろう」

「…………一度も会いに来て下さいませんでしたね」

 柚彦の、どこか恨み節が感じられる口調に、秋元は笑った。

「仕方ないだろう。指名手配されているんだ。こっちに来たらすぐに捕まって、公安にでも連れていかれる」

「……でも、今は来ているじゃないですか」

「緊急事態で、人類存亡の危機だからだよ。それにしばらくは、そう、魔王を倒すまではこちらにいるよ、柚彦君。君は勇者で、僕はそれを助ける役柄だ」

 秋元は柚彦に微笑んだ。

「しばらく宜しく頼むよ」


 八年前、秋元が指名手配される話を聞いた時、柚彦は驚愕した。
 そんなことをしてしまえば、秋元はもう自分に会いに来られないのではないかと思って、養父の佐久間晃にやめてくれるように頼んだ。
 どうも、そうするように手を回したのは、自衛隊の高官の養父らしかった。
 だが、彼は秋元への告発を取り下げることはなく、それから公訴時効が成立するまでの間、秋元はずっと指名手配されていた。
 それでも、秋元が警察や公安の目をくぐって、自分に会いに来てくれるかも知れない。
 そう思っていた。

 でも結局、八年間、秋元は一度も会いに来てくれなかったのだ。

 自分がひどい恨み言を言っているのはわかっている。
 だけど、待ち続けるのは辛かった。

 彼の名を、リストで見つけた時、血が逆流するような思いがした。
 そして空港でその姿を見つけた時も、八年前とまったく変わらない彼の姿を見た時も、自分の目は彼から離れることはなかった。
 
 彼が戻ってきたのは、この世界に穢れが広がり、いよいよ魔王が降臨し、それを倒す仕事を果たすためだ。
 “勇者”である柚彦を手助けするため。そう彼は言った。



 相変わらず、自分は“勇者”としてしか、彼からは必要とされていない。
 それはそうだ。

 だから、彼は八年間、一度も会いに来なかったのだ。
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