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[挿話] 勇者の願い

第三話 治療(下)

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 リチャード=ブルマンは、翌日、病院を退院した。
 血液検査によるガンの数値は大幅に改善していたのだ。彼の担当医は「信じられない」と言って、肺のレントゲン写真を何度も見入っていた。
 あれほど広がっていたガンの転移も、ほぼ全て消失しているのだ。
 何をどうしたのかと、医師達は額を突き合わせて話し合っているようだった。

 リチャードは、病院まで迎えに来た運転手の運転するリムジンに乗って、自宅であるペントハウスまで帰った。
 使用人達も驚きながらも、喜んで彼の唐突な退院を迎えてくれる。
 食事も美味しく口にできることに、リチャードは驚きつつ、にわかに取り戻した健康に感謝していた。
 そして一度手に入れたその健康を、二度と失いたくないと思うのは当然であった。

 夜になり、一人自室の寝台に横たわっている時、再びあの魔法使いだという男が現れた。


「もう退院できたなんて、よかったですね」

 アキモトという男は、現れるなりそう言って、「ここ、座っていいですか?」と聞いて、寝室に置かれているソファーに座った。
 ふわっと包み込むような感触のソファーに驚いて目を瞠っている。

「うわっ、いいソファーですね。こういうのって高いんですよね」

 と言っている。リチャードは彼に向かって熱を込めた口調で言った。

「アキモト、君の願いを私は叶えよう。どんなことをしても、私は君の願いを叶える。だから」

 その先の言葉をアキモトは知っていた。
 自分のしていることが、脅しにも似たひどいことだと知っている。
 だが、最も効果的で、最も人を従順に従属させることのできる手段だった。
 自分の命がかかっているともなれば、誰もが懸命になる。
 それは老いも若きも、富も貧しさも関係なくいえることだった。

 アキモトはソファーに足を組んで座り、胸の前で指を合わせた。

「なら、私の後見人になってください。私は魔法使いなのですが、この世界では天涯孤独の身で、頼るべきものを持たない身の上です。貴方が私の後見人になってくれるなら、きっとなんでもできるでしょう」

「……ああ」

 金をせがまれると思っていたリチャードは少し拍子抜けしていた。
 後見人になることを求められるとは思わなかった。

「私には身分証も何もありません。ですので、私の身分証を作ってくれませんか。それから……」

 アキモトは微笑んでこう言った。

「米国ダンジョン開発機構に、私を推薦して下さい」



 アキモトは、二回目の治療をしてくれた。

「完全に一度消失させるためには、あと二回くらいの治療が必要でしょう」

「君は……君は本当に魔法使いなのか?」

 リチャードの言葉に、アキモトはうなずいた。

「そうですよ。最初からそう言っているでしょう」

「いや、信じられなかった……」

「いろいろな魔法が使えますよ」

「そうなのか」

「はい。貴方が私の後見人になってくれるのなら、本当に助かります。どうぞこれから、よろしくお願いします」

 そう、アキモトはにっこりと笑って言った。
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