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第三章 現世ダンジョン編 ~もう一人の勇者~

第二十四話 迎えに来た男

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 やがて現れた宝箱から、戦利品を回収している最中に異変が起きた。
 瞬間、顔を上げたのは光少年、柚彦、秋元の三人であった。
 秋元が叫んだ。

「下がって」

 その声に、慌てて皆、部屋の中央部から距離を置く。
 次の瞬間、ぐにゃりと空間が歪み、その場に吐き出されたのは一人の男だった。

 彼はシャツにズボンというラフな格好をしていた。
 だが、ハンサムな容貌の彼にはそうした格好でさえ、上質なものを身に付けているように錯覚させた。
 赤い髪に、緑色の瞳の、がっしりとした筋骨逞しいその大男のことを光と秋元はよく知っていた。

 秋元は呟いた。

「……ゼノン君か」

 光にいたっては、剣を手に呆然と立ち尽くしていた。




 転移魔法を使えないゼノンが、異世界からこちらの世界に転移してきたということは、異世界で彼に協力する魔法使いがいたということだ。竜族の王族の一員であるゼノンであるから、転移魔法が使える優秀な魔法使いへの伝手があったのだろう。

 ゼノンは部屋を見回し、そこがダンジョンの内部であり、男達の姿が大勢あることに、眉間に皺を寄せ、ひどく不機嫌な顔になった。
 自衛隊員や開発推進機構のスタッフ達は、突然空間から現れた大男の存在に戸惑っていた。

 ゼノンは光と秋元の姿を見つけると、獰猛に笑った。

「……秋元さん、あなたが光を連れていったんですか」

 緑の瞳は怒りに満ちている。

「違う!! ゼノン」

 叫ぶ光に、ゼノンはどこからともなく、長い槍を取り出していた。
 秋元は額に手を当て、天を仰いだ。

 彼は頭に血が上っていて、どうしようもない。
 未だ、自衛隊の隊員達は、撮影を続けているはずだ。
 空間を歪ませて現れ、槍までも空間から取り出したゼノンの存在をごまかしきれない……。
 いや、撮影機器を壊せばいけるかも。

 そう思いついた秋元が顔を上げた時、すぐ目の前までゼノンが距離を詰めてきて、槍を突き出そうとしていた。

 そこに立ちはだかったのが、佐久間柚彦と光であった。
 二人揃って“焔の剣”を構え、ゼノンに相対する。

「ゼノン、やめろ。秋元さんは関係ない」

 必死に言う光に、ゼノンは視線を向けた。とろけるような甘い視線である。

「光、秋元を始末した後に、家に帰ろう。彼はお前にまずいことばかり教える。彼が転移魔法なんて教えるから、君も家を出るなんてことをするんだ。彼がいなければ……」

 その言葉に、柚彦はまなじりを吊り上げた。

「秋元さんに手は出させない!!」

 ゼノンが手にしている槍は、彼の十八番オハコの武器であった。
 長いそれをやすやすと振り回し、突き出した。
 それを光が剣で払う。

「ゼノン、やめてくれ」

 ブォンと空を斬る音がするそれを、光は剣で払い続けるが、先刻のボスモンスターと戦った時と違って、威力がない。
 ゼノン相手に本気で戦いたくない様子だった。

 それを察したゼノンはなおも言葉を続けた。

「いやだ。光。お前は彼がいると、何度でもこちらへ逃げ出すつもりだろう」

「…………」

 それは否定できなかった。

「光、何が嫌だったんだ。……私の何が嫌だったんだ」

 槍を振り回しながら、ゼノンは問いかける。

「お前が嫌なんじゃない。嫌なのは……」

 光がその問いに答えようとする。

 秋元はまた天を仰いでいた。

 痴話喧嘩なら、ここでやらないで欲しい。
 
 思い切り撮影されているのに!!

 だから、秋元は光の耳に届くように言った。

「光君、ここのやりとり、撮影されているからね」

 それに、光は「うわぁぁぁぁぁぁ」と叫んで真っ赤になり、目にも止まらぬ速さでゼノンの腰にしがみつき、“転移”した。

 一瞬で消えた光少年と、赤い髪の大男の姿。

 あたりは沈黙に包まれ、しばらくして柳隊長がぽんと秋元の肩を叩くのであった。

「………………少し、説明してもらえますか」

「…………はい」

 どこまでごまかせるか。
 秋元は虚ろな目で虚空を眺めていた。
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