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第二章 恋に落ちては一途な騎士の物語
第一話 愛しの姫君と一途な騎士
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「聞いてくれ、バーンズワース」
騎士アルセーヌは、そのハンサムな顔を真っ赤に染めながら言った。
「姫様に、シロツメクサの花冠を作って頂いた。どうだ、この花冠を。見事だろう」
あの小さな姫様が、一生懸命に花冠を作っている姿を考えるだけでも可愛らしく、いじらしい。
アルセーヌは、まるで家宝のように両手で恭しくシロツメクサの冠を掲げていた。
「このような素晴らしきものを授けて下さるとは。私は一生を姫様に捧げるぞ」
話しかけられていた同僚のバーンズワースは、いささか呆れた視線をアルセーヌに向けた。
「お前の生涯の忠誠は、随分と安いな。シロツメクサの花冠一つときたか」
それにアルセーヌはキッとバーンズワースを睨みつけた。
「この冠は黄金にも匹敵するのだ」
「はいはい」
バーンズワースは呆れていた。
騎士アルセーヌは伯爵家出身の美麗な若者であり、王の覚えもめでたい、腕の良い騎士だった。
彼は望めばもっと良い環境に自分を置くことができただろう。
だが、彼は幼い王家の末姫のユーフェリアに夢中であった。
毎日毎日うんざりするほど、ユーフェリア姫の話をしてくれる。
彼女が今日は何を食べて、何をして過ごしたのか、嬉々として話す彼は、いわゆる幼女趣味の者であるのではないかと疑うこともあったが、どうもそうではなく、その熱い想いはユーフェリア姫の許だけにあるようだった。
「あー、婚約を解消して、ユーフェリア姫と結婚したい」
「……そういえば、お前、婚約しているんだっけ」
その問いに、アルセーヌはうなずいた。
「父上からの命令で、婚約している。解消したい。解消したい。解消したい。解消したい」
「…………お前の今の婚約者が可愛そうだな。そうまで言うならば、解消してやればいいじゃないか」
「ゆくゆくは婚約を解消するつもりだ。今、婚約したままにしておかないと、父上が、姫様付きから外させるというんだ!!」
アルセーヌはバンとテーブルを叩いた。非常にそのことが不満そうだった。
「なるほどね」
実際、騎士アルセーヌが姫様と結婚できるはずもなかった。
ユーフェリア姫には、何かと彼女の足を引っ張る義母とその娘達がおり、ユーフェリア姫は彼女達の考えで、おそらく政略結婚の駒として使われる。伯爵家嫡男の騎士アルセーヌがその身を望んでも、ただちに却下されるだろう。
幸せな結婚など、望めるはずがなかった。
「あの女達がいるから、姫様は不幸だ」
ぽつりと言ったアルセーヌの口を、バーンズワースは慌てて塞いだ。
「……黙れ。どこに耳があるかわからないぞ。不用意なことを言うな」
「…………」
アルセーヌの碧い目が、バーンズワースを見つめ返す。時々、彼はひやっとするほど冷たい目付きをする時があった。
「本当のことだ」
そして、年頃になったユーフェリア姫は遠方の国の王の許へ嫁ぐことが決まった。
その王は、ユーフェリア姫よりも四十も年上の男で、それを聞いたアルセーヌは呆然として、次にこう言った。
「駆け落ちすべきだと思わないか、バーンズワース。姫様は不幸になるに違いない」
「…………年の差があったとしても、大切にしてもらえるかも知れない。そういう話はよく聞く」
「五十のジジイの許に嫁ぐんだぞ!! 幸せになれるはずがないだろう」
珍しくも、アルセーヌは怒りで頬を紅潮させ、叫ぶように言った。
「止めないでくれ。私は姫様と駆け落ちする」
「……………」
バーンズワースはため息をついた。
「…………姫様はお身体が弱い。駆け落ちするにしても、ちゃんと準備をしないといけない。俺が、輿入れの際の旅程表を手に入れてやる」
「バーンズワース!!」
喜びに声を上げるアルセーヌに、バーンズワースは言った。
「俺にはそれしか出来ないからな。後は、お前が頑張るんだ」
「わかった」
騎士アルセーヌは、そのハンサムな顔を真っ赤に染めながら言った。
「姫様に、シロツメクサの花冠を作って頂いた。どうだ、この花冠を。見事だろう」
あの小さな姫様が、一生懸命に花冠を作っている姿を考えるだけでも可愛らしく、いじらしい。
アルセーヌは、まるで家宝のように両手で恭しくシロツメクサの冠を掲げていた。
「このような素晴らしきものを授けて下さるとは。私は一生を姫様に捧げるぞ」
話しかけられていた同僚のバーンズワースは、いささか呆れた視線をアルセーヌに向けた。
「お前の生涯の忠誠は、随分と安いな。シロツメクサの花冠一つときたか」
それにアルセーヌはキッとバーンズワースを睨みつけた。
「この冠は黄金にも匹敵するのだ」
「はいはい」
バーンズワースは呆れていた。
騎士アルセーヌは伯爵家出身の美麗な若者であり、王の覚えもめでたい、腕の良い騎士だった。
彼は望めばもっと良い環境に自分を置くことができただろう。
だが、彼は幼い王家の末姫のユーフェリアに夢中であった。
毎日毎日うんざりするほど、ユーフェリア姫の話をしてくれる。
彼女が今日は何を食べて、何をして過ごしたのか、嬉々として話す彼は、いわゆる幼女趣味の者であるのではないかと疑うこともあったが、どうもそうではなく、その熱い想いはユーフェリア姫の許だけにあるようだった。
「あー、婚約を解消して、ユーフェリア姫と結婚したい」
「……そういえば、お前、婚約しているんだっけ」
その問いに、アルセーヌはうなずいた。
「父上からの命令で、婚約している。解消したい。解消したい。解消したい。解消したい」
「…………お前の今の婚約者が可愛そうだな。そうまで言うならば、解消してやればいいじゃないか」
「ゆくゆくは婚約を解消するつもりだ。今、婚約したままにしておかないと、父上が、姫様付きから外させるというんだ!!」
アルセーヌはバンとテーブルを叩いた。非常にそのことが不満そうだった。
「なるほどね」
実際、騎士アルセーヌが姫様と結婚できるはずもなかった。
ユーフェリア姫には、何かと彼女の足を引っ張る義母とその娘達がおり、ユーフェリア姫は彼女達の考えで、おそらく政略結婚の駒として使われる。伯爵家嫡男の騎士アルセーヌがその身を望んでも、ただちに却下されるだろう。
幸せな結婚など、望めるはずがなかった。
「あの女達がいるから、姫様は不幸だ」
ぽつりと言ったアルセーヌの口を、バーンズワースは慌てて塞いだ。
「……黙れ。どこに耳があるかわからないぞ。不用意なことを言うな」
「…………」
アルセーヌの碧い目が、バーンズワースを見つめ返す。時々、彼はひやっとするほど冷たい目付きをする時があった。
「本当のことだ」
そして、年頃になったユーフェリア姫は遠方の国の王の許へ嫁ぐことが決まった。
その王は、ユーフェリア姫よりも四十も年上の男で、それを聞いたアルセーヌは呆然として、次にこう言った。
「駆け落ちすべきだと思わないか、バーンズワース。姫様は不幸になるに違いない」
「…………年の差があったとしても、大切にしてもらえるかも知れない。そういう話はよく聞く」
「五十のジジイの許に嫁ぐんだぞ!! 幸せになれるはずがないだろう」
珍しくも、アルセーヌは怒りで頬を紅潮させ、叫ぶように言った。
「止めないでくれ。私は姫様と駆け落ちする」
「……………」
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「…………姫様はお身体が弱い。駆け落ちするにしても、ちゃんと準備をしないといけない。俺が、輿入れの際の旅程表を手に入れてやる」
「バーンズワース!!」
喜びに声を上げるアルセーヌに、バーンズワースは言った。
「俺にはそれしか出来ないからな。後は、お前が頑張るんだ」
「わかった」
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