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あなただけしかいらない
第三話 護衛の騎士
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サナの言葉通り、それからほどなくして、ルシスに言い寄る王家の男達がちらほらとみられた。
王宮の庭を散策していると、どこからともなく花を手に、甘く、くどいてくるような男もいれば、文や贈り物を遣わす者まで見られる。
正直、それらに遭遇するたびに、ルシスの眉間にはくっきりと皺が寄せられ、露骨に不快そうな様子を見せていた。
だからある時、彼はアドルに言ったのだ。
「私は絶対に、お前以外の夫は受け入れないからな!!」
その言葉に、アドルは少し感動した様子だった。
「ルシス……君はそんなにも私のことを」
そう言って、腰に手を回し抱きしめようとしているアドルの胸を押した。
「今はそういう話じゃなくて、アドル、聞け」
そのまま寝台に押し倒されそうな気がしたルシスはもがきながら言った。
「最近言い寄る奴らが出てきて私は嫌な気持ちになっている。どうにかできないのか」
「君が私以外の夫は持たない話はしているのだが、勝手にいいように思い込んでやっているようだ」
アドルも不愉快そうな顔をしている。
それに、内心ルシスはほっとしていた。
彼が、ルシスに複数の夫を持つように説得してきたら、どうしようかと思っていたのだ。
長いスシャールの歴史の中では、やむなく複数の夫を持たざるを得なかったスシャールの天人は多かったのだ。
だが、どう考えても、そのような状況には自分は耐えられそうになかった。
「わかった。じゃあ、言い寄ってきた男は、私が叩き斬ってもいいか」
「…………それはダメだな」
「無礼討ちということにならないのか」
「…………わかった、何か考えるよ」
アドルは苦笑して言った。
そして愛しいルシスの唇に、自分の唇を重ねたのだった。
アドルの解決策は、ルシスに護衛の騎士を付けることだった。
全部で三人、常時そばにいるのは二人で、三人が交代でルシスのそばに付くらしい。
元から、次代王の伴侶であるルシスには、護衛騎士が付けられる予定であった。
(今までもそれなりに剣の腕が立つ従者はそばにいた)
好んで剣を使うルシスは、自分に付けられた護衛騎士達に興味津々であった。
三人とも、王家の一族メイセン家に連なる逞しい身体つきの若者で、いずれも明るい金髪の持ち主であった。
「左から、デュラム、ライン、ヴァイスだ」
椅子に座り、足を組んでいるアドルは、彼らを傍らのルシスに紹介した。
若者達は一人ずつ一礼する。
凛々しい男達を、ルシスはじっと見つめた後、アドルに言った。
「剣に強いんだろう。アドル、彼らと手合わせしてもいいか」
その言葉に、護衛騎士の三人はぎょっとしてアドル王子を見つめる。
アドルは笑いながら言った。
「ああ、あなたが望むならいいだろう」
「大丈夫、怪我させないようにするから」
長い黒髪を一つに結わえ、大きな青い瞳を持つ美しい貴人を前に、護衛騎士三人は内心戸惑っていた。
彼が剣を使うという話は聞いていた。実際、腰には剣を佩いている。
だが、本当にそれを振り回すのか疑問に思っていたのだ。
その後、手合わせをした護衛騎士の若者達は、ルシスが相応に剣を使えることに驚いた。
もちろん、剣を専門に扱う護衛騎士の方が、腕前は上ではある。
だが、そうだとしても十分な腕前だろう。
アドルはルシスに言った。
「ルシス、彼らにお前はその手から、魔力を移してやるといい」
「……」
「手からなら、いいだろう」
不満そうな様子を見せたが、ルシスはアドルにうなずいた。
「わかった。手だけだからな」
王宮の庭を散策していると、どこからともなく花を手に、甘く、くどいてくるような男もいれば、文や贈り物を遣わす者まで見られる。
正直、それらに遭遇するたびに、ルシスの眉間にはくっきりと皺が寄せられ、露骨に不快そうな様子を見せていた。
だからある時、彼はアドルに言ったのだ。
「私は絶対に、お前以外の夫は受け入れないからな!!」
その言葉に、アドルは少し感動した様子だった。
「ルシス……君はそんなにも私のことを」
そう言って、腰に手を回し抱きしめようとしているアドルの胸を押した。
「今はそういう話じゃなくて、アドル、聞け」
そのまま寝台に押し倒されそうな気がしたルシスはもがきながら言った。
「最近言い寄る奴らが出てきて私は嫌な気持ちになっている。どうにかできないのか」
「君が私以外の夫は持たない話はしているのだが、勝手にいいように思い込んでやっているようだ」
アドルも不愉快そうな顔をしている。
それに、内心ルシスはほっとしていた。
彼が、ルシスに複数の夫を持つように説得してきたら、どうしようかと思っていたのだ。
長いスシャールの歴史の中では、やむなく複数の夫を持たざるを得なかったスシャールの天人は多かったのだ。
だが、どう考えても、そのような状況には自分は耐えられそうになかった。
「わかった。じゃあ、言い寄ってきた男は、私が叩き斬ってもいいか」
「…………それはダメだな」
「無礼討ちということにならないのか」
「…………わかった、何か考えるよ」
アドルは苦笑して言った。
そして愛しいルシスの唇に、自分の唇を重ねたのだった。
アドルの解決策は、ルシスに護衛の騎士を付けることだった。
全部で三人、常時そばにいるのは二人で、三人が交代でルシスのそばに付くらしい。
元から、次代王の伴侶であるルシスには、護衛騎士が付けられる予定であった。
(今までもそれなりに剣の腕が立つ従者はそばにいた)
好んで剣を使うルシスは、自分に付けられた護衛騎士達に興味津々であった。
三人とも、王家の一族メイセン家に連なる逞しい身体つきの若者で、いずれも明るい金髪の持ち主であった。
「左から、デュラム、ライン、ヴァイスだ」
椅子に座り、足を組んでいるアドルは、彼らを傍らのルシスに紹介した。
若者達は一人ずつ一礼する。
凛々しい男達を、ルシスはじっと見つめた後、アドルに言った。
「剣に強いんだろう。アドル、彼らと手合わせしてもいいか」
その言葉に、護衛騎士の三人はぎょっとしてアドル王子を見つめる。
アドルは笑いながら言った。
「ああ、あなたが望むならいいだろう」
「大丈夫、怪我させないようにするから」
長い黒髪を一つに結わえ、大きな青い瞳を持つ美しい貴人を前に、護衛騎士三人は内心戸惑っていた。
彼が剣を使うという話は聞いていた。実際、腰には剣を佩いている。
だが、本当にそれを振り回すのか疑問に思っていたのだ。
その後、手合わせをした護衛騎士の若者達は、ルシスが相応に剣を使えることに驚いた。
もちろん、剣を専門に扱う護衛騎士の方が、腕前は上ではある。
だが、そうだとしても十分な腕前だろう。
アドルはルシスに言った。
「ルシス、彼らにお前はその手から、魔力を移してやるといい」
「……」
「手からなら、いいだろう」
不満そうな様子を見せたが、ルシスはアドルにうなずいた。
「わかった。手だけだからな」
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