59 / 62
【外伝】
竜の番の少年の物語 (1)
しおりを挟む
レオンハルト皇子が、自身の息子であるウィルを抱き上げて現れた時、十二歳の子供が八歳の子供をお姫様抱っこをする腕力があるのだと驚く一方で、塔の魔術師ゼファーの胸の中には嫌な予感が広がっていた。
レオンハルトの金色の瞳が、とろけるように甘く、自分と同じ顔をしている子供のウィルを見つめ、決して離れない。
そう、その眼差しは……彼の父親であるアレクサンドロスがフランシスを見るものとまったく同じだった。
愛する番を見つめるあの、眼差し。
フランシスとゼファーは立ち尽くし、ゼファーはすぐに皇子に言った。
その声はどこか固く、冷ややかなものだったかもしれない。
「……殿下、息子を連れてきて下さってありがとうございます」
そして、ゼファーはウィルをレオンハルトの腕から受け取る。手放すことを惜しむようにレオンハルトはウィル少年を見つめ続けていた。
「いえ、とんでもありません」
アレクサンドロスと違って、非常に礼儀正しい、理性のある対応だ。
しかし、油断はできない。
フランシスはレオンハルトとウィルの二人を交互に見つめた後、息子の異変に気が付き、やがて口に手を当てて言った。
「ウィルは、あなたの番なの? レオンハルト」
それに、レオンハルトはしっかりとうなずいた。
「はい。母上」
その揺るぎない言葉に、ゼファーは奈落の底に落ちていくような絶望感を覚えた。
ウィルが……ウィルがこの皇子の番?
そんな馬鹿な……
自分と同じ顔をしているウィルが、大嫌いなにっくきアレクサンドロスと瓜二つの顔立ちをしている、レオンハルトの番?
誰か嘘だと言ってくれ。
嘘だと言ってくれ。
愛情たっぷりの眼差しで、ウィルを見つめるレオンハルトを見て、ゼファーは絶叫しそうになっていた。
絶対にいやだ。いやだ。いやだ!!
帰宅したゼファーは、なんとか竜の番から愛する息子を外す術はないのかと、懸命に書物を漁ることになった。
だが、いずれの書物も「竜は番絶対至上主義」「番なくして生きていけぬ生き物」「番がさらわれたせいで、さらった国に攻め込んだこともある」という嫌な記録しか見つからなかった。
レオンハルトが、父であるアレクサンドロスと瓜二つの姿形をしていることが特に辛かった。
あの顔で、自分と同じ顔をしているウィルに、とろける眼差しを向けるのだ。
もうゾッとして、総毛だつ思いだった。
前世からの因縁で、ゼファーはアレクサンドロスのことが大嫌いであったし、アレクサンドロスも同じように自分を嫌っている。
フランシスが取り持つことがなければ、絶対に皇宮に足を向けることはない。
今回だって、フランシスがお茶に誘ってくれたから、ウィルを連れていったのだ。
結果的に、ウィルはあの男の息子に見つかってしまった。
「…………」
ゼファーはぎりりと歯を噛んだ。
どうにかして、ウィルをあの男の息子の魔の手から逃れさせる手段を見つけなければならない。
レオンハルトの金色の瞳が、とろけるように甘く、自分と同じ顔をしている子供のウィルを見つめ、決して離れない。
そう、その眼差しは……彼の父親であるアレクサンドロスがフランシスを見るものとまったく同じだった。
愛する番を見つめるあの、眼差し。
フランシスとゼファーは立ち尽くし、ゼファーはすぐに皇子に言った。
その声はどこか固く、冷ややかなものだったかもしれない。
「……殿下、息子を連れてきて下さってありがとうございます」
そして、ゼファーはウィルをレオンハルトの腕から受け取る。手放すことを惜しむようにレオンハルトはウィル少年を見つめ続けていた。
「いえ、とんでもありません」
アレクサンドロスと違って、非常に礼儀正しい、理性のある対応だ。
しかし、油断はできない。
フランシスはレオンハルトとウィルの二人を交互に見つめた後、息子の異変に気が付き、やがて口に手を当てて言った。
「ウィルは、あなたの番なの? レオンハルト」
それに、レオンハルトはしっかりとうなずいた。
「はい。母上」
その揺るぎない言葉に、ゼファーは奈落の底に落ちていくような絶望感を覚えた。
ウィルが……ウィルがこの皇子の番?
そんな馬鹿な……
自分と同じ顔をしているウィルが、大嫌いなにっくきアレクサンドロスと瓜二つの顔立ちをしている、レオンハルトの番?
誰か嘘だと言ってくれ。
嘘だと言ってくれ。
愛情たっぷりの眼差しで、ウィルを見つめるレオンハルトを見て、ゼファーは絶叫しそうになっていた。
絶対にいやだ。いやだ。いやだ!!
帰宅したゼファーは、なんとか竜の番から愛する息子を外す術はないのかと、懸命に書物を漁ることになった。
だが、いずれの書物も「竜は番絶対至上主義」「番なくして生きていけぬ生き物」「番がさらわれたせいで、さらった国に攻め込んだこともある」という嫌な記録しか見つからなかった。
レオンハルトが、父であるアレクサンドロスと瓜二つの姿形をしていることが特に辛かった。
あの顔で、自分と同じ顔をしているウィルに、とろける眼差しを向けるのだ。
もうゾッとして、総毛だつ思いだった。
前世からの因縁で、ゼファーはアレクサンドロスのことが大嫌いであったし、アレクサンドロスも同じように自分を嫌っている。
フランシスが取り持つことがなければ、絶対に皇宮に足を向けることはない。
今回だって、フランシスがお茶に誘ってくれたから、ウィルを連れていったのだ。
結果的に、ウィルはあの男の息子に見つかってしまった。
「…………」
ゼファーはぎりりと歯を噛んだ。
どうにかして、ウィルをあの男の息子の魔の手から逃れさせる手段を見つけなければならない。
23
お気に入りに追加
1,958
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる