騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
549 / 560
【短編】

合同会議 (4)

しおりを挟む
 会議が終わり、出席者達が王立騎士団の拠点建物を離れていく。
 バーナード騎士団長は、エドワード王太子が王宮に戻っていく姿を見送った後、団長室に戻って来た。
 フィリップ副騎士団長は、警備隊副隊長と細かな打ち合わせがあったため、参加者達の見送りには出席出来なかった。

 団長室に戻って来たバーナード騎士団長は、デスクの椅子にどっかりと座り、どこか機嫌良さそうだった。

「殿下のご提案はなかなか面白いな」

 その言葉を聞いて、フィリップはお茶を淹れる手を一瞬止めたが、そのままお茶を淹れる。そしてバーナードのデスクに静かに置いた。

「ありがとう」

 すぐにお茶を口にするバーナード。

「ただ、あのご提案は殿下だから出来たことだな。私が提案しても、難しかっただろう。わざわざ殿下が会議にご出席された理由が分かる」

 魔獣狩りを任務とする王立騎士団が、その魔獣狩りを停止して、一時的に王都の森に魔獣を溢れさせるという提案は、常識を外れたものである。例えバーナード騎士団長がそうしたいと言っても、なかなか受け入れ難い提案である。上に立つ王太子の口から出されたものだから、出席者達は受け入れる余地があったのだ。

「良かったですね、団長」

 その声が冷ややかにならないようにしようとしても、難しかった。
 そしてバーナードもすぐにそれに気が付いたようだ。

「フィリップ」

 バーナードが手招きをしたので、フィリップはそばに近づくと、彼はその大きな手でフィリップの髪を掻き混ぜるようにどこか乱暴に撫でた。

「お前は、本当に可愛い奴だな」

「!?」

「俺と殿下が仲良くするのが嫌なんだろう」

 図星すぎて、フィリップの唇が戦慄く。言葉が出ない。
 恥ずかしくて、耳が熱い。顔も赤くなっているのが分かる。
 デスクに座ったままのバーナードは、過度なスキンシップを禁止しているはずの団長室で、珍しくその禁を破った。
 ぐいとフィリップの手を掴み、バーナードの膝の上にフィリップを座らせ、そして耳元で囁いた。

「お前が一番好きだって言っているだろう。馬鹿だな」

「……………」

「仕方ないから、何度でも言ってやる。俺はお前を一番愛しているよ」

 フィリップの青い瞳が、そのバーナードの言葉に潤む。

「………………………おい、泣くほどのことか」

 フィリップがごしごしと制服の袖で、目を擦ると、バーナードが止めさせた。

「傷になるぞ」

「嬉しくて……。女々しくてすみません」

 よしよしというように、バーナードがフィリップの頭を乱暴に撫でる。もうフィリップの金色の髪は、くしゃくしゃに乱れていたが、フィリップは文句を言うつもりはなかった。いつまでもバーナードに頭を撫でて欲しかった。

 そして、自分でも本当に現金なことだと思うが、あれほど嫉妬で荒れ狂っていた心は、バーナードの甘い言葉と、頭なでなでによって、嵐の後のように、すっかり穏やかに凪いでいたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー● ►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。 俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。 しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!  理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』   ►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。 魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。 下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。 魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。 謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』   (この世界の魔族はまるマ的なものです) ※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※ ※第一巻、お茶の間編完結しました!※   舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。   登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。 HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載 【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】

メス喘ぎレッスン帖 ─団長、奥さんを抱く前に俺と発声練習しましょう!─

雲丹はち
BL
セックス経験ゼロのまま結婚しちゃった騎士団長に年下副官が初夜のイロハを教え込む話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい

雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。 賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい…… 一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長 ※ご都合主義です ※無理矢理な描写があります。 ※他サイトからの転載dす

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

処理中です...