騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

合同会議 (1)

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 王立騎士団、副騎士団長のフィリップは非常に機嫌が良かった。

 仕事中も微笑みを絶やさず、歌でも歌い出しそうなほどの明るい様子でバーナード騎士団長の傍らに控えている。
 “王都一”と称えられる美貌の主である。
 なんとなしに、彼がそんな朗らかな様子であると、王立騎士団の彼のいる部屋は華やいだ雰囲気があった。そしてそんな幸せそうな様子は伝染するのだろう、王立騎士団の騎士達も皆、明るい表情であった。
 そんなふわふわとした柔らかな雰囲気の王立騎士団で、厳しい顔をしているのは団長室のデスクにどっかりと座るバーナード騎士団長一人であった。

「フィリップ、この書類の数字が間違えているようだ。確認してくれ」

「了解致しました!!」

 嬉しそうに書類を受け取るフィリップ副騎士団長。
 彼は敬愛するバーナード騎士団長に命令されて、まるで犬が大好きな飼い主に声をかけてもらい、飛びはねているかのように、声を弾ませている。
 一方のバーナード騎士団長は、頭が痛そうな顔をしている。

「それから、来週の合同会議だが」

 王立騎士団は、王都の警備を担う警備隊と合同任務を担うことが多い。定期的に会議を行い、それは持ち回りで実施していた。

「来週はうちの担当だろう。会議室は押さえてあるな」

「勿論です」

 フィリップは念のためもう一度確認し、そこがきちんと押さえられていることも確認した。

「大丈夫です。会議のこちら側の出席者にも時間など、連絡済です。議題は前回と同じく」

 そこで明るかったフィリップの声が、真剣なものに切り替わる。
 それは明るい口調で話せる話ではなかったからだ。

「夜睡草の密輸に関するものですね」

「そうだ」

 バーナード騎士団長はため息混じりで、同意していた。

 夜睡草
 それは鎮痛効果をもたらす薬草の一つである。
 房のように青みがかった小さな白い花がみっしりと咲く植物である。そのどこか青みがかった白い花弁と茎の部分に、強い鎮痛効果がある。乾燥させて、粉状にして使用する薬草だった。だが服用した者に、同時に強い多幸感をもたらすことから、最近はその薬を常用し、昼間から街に、酔いつぶれたように、寝っ転がる者達が出ていた。
 夜睡草というように、それには安眠効果もある。
 なかなか夜眠れない者も、夜睡草は値段が安価な薬であったことから、かつては気軽に手にとれる薬であった。

 夜睡草を乱用する常用者が増え始めたことから、アルセウス王国でも厳しい禁輸の措置がとられることになったが(鎮痛効果のある薬草は、夜睡草の他にも存在し、それで代替できた。その薬草には依存性はない)、今まで夜睡草に、ある意味はまっていた者達にとってはたまらず、夜睡草をどうにか入手したいと貴族の常習者達は、金をうず高く積み上げてでもそれを入手しようとしていた。そして夜睡草の王都への持ち込みが金になると目をつけた者達が、あの手この手を使って、アルセウス王国の王都に持ち込もうとするのである。警備隊にとっても王立騎士団にとってもまったく頭の痛い状況であった。

 王都内の入場については警備隊が、王都の周辺の森に出没する魔物退治は王立騎士団が担当している。王都内の森のことをよく知るのは警備隊よりも王立騎士団であった。馬鹿正直に、正門から夜睡草の密輸をしようとする者達だけではない。当然、王都に広がる森の中を突っ切って、夜睡草を運ぼうとする者も多いのだ。他国からの入国審査は、各地の入国門を管理する騎士団の担当であるが、やはり目が行き届かないことも多いようで、そこをくぐり抜けた者達が、なんとか今度は王都内に持ち込もうとする。理由は簡単で、王都に持ち込むことが一番金になるからだ。
 
 王立騎士団は、王都の森の魔獣退治がその任務である。
 広い森内を抜けて夜睡草を持ち込もうとする密輸者達を取り締まるには、そもそもの王立騎士団が担っている任務の質と違うものだから、王都内の森全域の管理を網羅することなど出来なかった。

「……団長、疲れているみたいですね」

 デスクの椅子に座っているバーナード騎士団長がため息をついている様子に、フィリップ騎士団長が心配そうに声をかける。

「密輸者のことを考えると頭が痛くなる」

 その言葉を聞いて、どこか明るかったフィリップ副騎士団長も、美しい顔を曇らせていた。

「……大丈夫ですか」

 フィリップ副騎士団長は、すぐにバーナード騎士団長のために温かなお茶を淹れ、マグル副魔術師長推薦の焼き菓子を皿に載せて差し出していた。
 デスクの上に、湯気の上がる温かなお茶と、美味しそうな焼き菓子が用意されたことに、バーナード騎士団長はチロリと茶色の目を向けた後、厳しかった目を少しだけ和ませていた。

「ありがとう」

 男らしい声で、そう礼を言われた瞬間、こんな状況であるのに、フィリップ副騎士団長はパッと顔を輝かせて、どこか幸せそうにバーナード騎士団長のそばに控えるのだった。
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