騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

緩やかな巣立ち (下)

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 その日、騎士団の仕事を終えて帰宅したバーナードとフィリップは、どこかガランとしている部屋を見て立ち尽くしていた。

 アレキサンドラは、王立騎士学校の寮に入っている。今度の休みまで戻って来ないだろう。
 そして人狼のディヴィットというと、今日はマグルの子供達と一緒に遊んでいるうちに、遊び疲れて眠ってしまったようだ。おまけにマグルの子供達がディヴィットにしがみつくようにして眠ってしまったので、「ディヴィットは泊っていくといい」とマグルから言われ、バーナード達はディヴィットをマグル宅に預けて帰宅したのだ。

 クリストフはというと、テーブルの上に一枚の置手紙があった。
 その手紙は、妖精の国の妖精王子に嫁いだセリーヌの字によるものだった。
 そこには、クリストフも妖精達と遊び疲れて深く眠ってしまったので、今日は妖精の城に泊めるとあった。


「子供達はみんな、お泊まりみたいですね」

「そのようだな」

 バーナードはため息をつく。
 そして上着を脱いで、バサリと椅子にかけていた。
 その様子がどこか寂しそうに思えて、フィリップは彼の肩に手をやると、そっと耳元で囁いた。

「いつかは子供達も巣立っていくのです。そうなると、私とバーナードの二人きりの生活に戻りますね」

 フィリップの手が、バーナードの肩から下りて、その身体を撫で回すようにすると、バーナードはたちまち頬を赤く染めて、フィリップの手を掴んだ。

「……子供がいないからといって、すぐに盛るのはよせ」

「いいじゃないですか」

 フィリップはバーナードの体を引き寄せると、彼の額に、自分の額をコツンと軽くぶつけた。
 バーナードは、真近で見る、フィリップの顔の美しさに内心では感嘆していた。
 彼は本当に美しい男だった。
 その美しい男は、どこか訥々と語り始めた。

「子供達がいると、私はいつも貴方に触れたいのに、それが出来ずに我慢しているんです。子供達の目の前でそういう行為をするのはよくないことですからね」

「そうだな」

 自制するのは良いことだと、バーナードもフィリップの言葉に頷く。
 実際、人狼になったことで並外れた絶倫になっているフィリップであるが、自身を厳しく律して、子供達の前では一線を越えるようなスキンシップを、バーナードに対してすることはなかった。その点ではフィリップは常識を弁え、理性的なのである。

 だが、それから、フィリップが口にした言葉にバーナードは慄いた。

「でも、子供達がいないのなら、もう自制する必要はありませんね」

「おい、フィリップ」

 フィリップはそのままバーナードの唇を奪う。強引に舌をねじ込むような荒々しい口づけに、バーナードの茶色の目は驚きに開いていた。
 長々とした、唾液を互いの口の中に流し込むような濃厚な口づけに、バーナードは眩暈すら覚えていた。そしてバーナードもまた、フィリップとの口づけに、体が熱くなってくるのが分かっていた。“淫魔”の本性は、どんなに“封印の指輪”でそれを留めようとしても、愛しい男との口づけですぐにその封印も解けてしまう。
 フィリップはバーナードの体をソファの上に優しく押し倒した。

「こんなところでするのか」

 問いかけるバーナードの顔に、フィリップは何度も口付けを落とし、自身も服をポイポイと脱ぎ捨て、脱ぎ終わったら今度はバーナードの服に手をかけていた。

「もう止まりませんから」

 フィリップの青い目がギラギラと欲望に輝いている。
 そんな発情しきったフィリップの顔を、バーナードは呆れて見上げた後、いつものように、彼もまたフィリップの背に手を回して抱きしめた。

「しようもない奴だ」

 その言い草に、フィリップも声を上げて笑い、今度はバーナードの唇に啄むように口づける。

「そうですよ。でも、私は貴方を愛しているから、いつまでもずっと愛しているから、貴方をこうして抱きたくて仕方がないんです」

 その台詞を聞いた時、バーナードは、子供達がいない寂しさを、フィリップが埋めようとして、こんなことをやっていると気が付いた。
 そうやって自分の気持ちを思いやろうとするフィリップが愛おしくて、バーナードもまたフィリップの唇に口づけた。

「俺もお前を愛しているよ」

 そのバーナードの言葉に、フィリップは輝くような笑みを浮かべて、それから愛しい男の体をソファーに沈み込ませていつまでも愛し合ったのだった。


 きっと、あと何年かすれば、ディヴィットもクリストフも、アレキサンドラのように将来の道を決めて、自分達の元を巣立っていくだろう。そのことを嬉しく思いながらも、寂しい気持ちがどうしても出てしまう。彼らのことを愛しているから、それは仕方のない感情だった。

 いつか、子供達も誰かを愛し、その誰かと手を取り合って、これから先、生きていくのだろう。
 その様子を、自分達は愛し合いながら、見守り続けるのだ。











「おい、フィリップ!!」

 とはいえ、久々の交歓に発奮したフィリップの発情はなかなか収まらなかった。いつまでもバーナード騎士団長の体にのしかかろうとする金色狼の大きな体を、バーナード騎士団長は最後には蹴り飛ばしてソファの上から落としたのだった。
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