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【短編】
春きたりて (下)
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アレキサンドラが、王立騎士学校を受験する。
その話を、シャルル王子や、シャルル王子のお付きの者達から報告を受けたエドワード王太子は、密かにバーナード騎士団長を王宮の奥にある、私室へ呼び出した。
「アレキサンドラが、王立騎士学校を受験するという報告を受けている」
「はい。娘は受験致します」
エドワード王太子の問いかけに、バーナード騎士団長は平然と肯定していた。
その平然さに、エドワード王太子は内心苛立つ。
椅子に座るエドワード王太子の前で、バーナード騎士団長は直立したまま報告を続けた。
「来年、娘は八歳になります。王立騎士学校の受験資格を得ます」
「彼女がそう望んでいるのか」
「はい」
アレキサンドラは熱烈に望んでいる。そして彼女には、才能があった。剣を扱う才能が。
その事実に、バーナードは歓喜していた。愛娘が、自分と同じ剣の道に進んでくれると言うのだ。父親として応援しないではいられないだろう。
それで、エドワード王太子はもう一度、その事実を認識させるように突きつけた。
「彼女はシャルルの婚約者だ」
「はい」
バーナードが、本当はその肩書をアレキサンドラから外したいと、長年に渡って望んできたことをエドワード王太子は知っていた。
そもそも、三歳のアレキサンドラをシャルル王子の婚約者に据えた時も、バーナードはなんとかその栄誉を拒否しようとしていたくらいなのだ。
そしてバーナードへの“貸し”の履行を求めることで、彼はようやく渋々と、愛娘の婚約を受け入れることになった。
だが、アレキサンドラとシャルル王子の相性は悪くないようで、二人は幼いながらも仲睦まじく過ごしている。このまま、何事もなく婚姻まで至るのではないかと思っていたところで、これである。
「婚約を解消することは許さない」
「分かっております。娘も婚約を解消するつもりはないようです」
その言葉に、エドワード王太子もため息をついた。
「お前の娘が、婚約者の教育も受け続けながら、騎士も目指したいという話も聞いている。そのようなことが出来るのか」
「娘は、我が娘ながら、非常に優秀です。そしておそらく」
バーナードは、エドワード王太子に初めてそのことを報告した。
「彼女は私と同じ、“剣豪”の称号持ちです」
エドワード王太子はその報告に、呆気にとられた顔をした。
外で遠く、鳥の鳴く声がする。
部屋の中が静まり返る。
「…………まだ、八歳の娘だろう。鑑定は受けたのか?」
「まだです。ですが、おそらくそうでしょう」
自身も“剣豪”の称号を持つ騎士団長である。同類を認識することは可能だった。
「お前の娘だからか」
どこか乾いた笑い声を上げるエドワード王太子に、バーナード騎士団長は答えずに軽く頭を下げる。
アレキサンドラは、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の養女である。
男同士の婚姻では、子を為すことが出来ない。男同士で婚姻した場合、養子を受け入れることが慣例だった。そしてバーナード騎士団長が養女として連れてきたアレキサンドラは、その顔立ちはフィリップ副騎士団長にそっくりであった。
だから、フィリップ副騎士団長に関係する親族から養女を迎えたのではないかという、専らの噂であったのだ。
だが、エドワード王太子は、その非常に美しい幼女を初めて見た時から、青い瞳の鋭さや、艶やかな黒い巻き毛を見て、彼女の中に、バーナード騎士団長の姿を認めていた。
だから、絶対に彼女を王家に迎え入れなければならないと考えていた。
バーナードが手に入らなかったのなら、その娘を。
結局、エドワード王太子は、バーナード騎士団長の娘アレキサンドラが、王立騎士学校を受験することを認めた。
彼女が見事、王立騎士学校の合格を果たしたという報告を侍従長から受けた時には、わざわざバーナード騎士団長を呼び寄せて、知らせたくらいである。
愛娘の合格に、バーナードは見るからに嬉しそうであり、エドワード王太子からの祝いの品も礼を言って受け取っていった。
そしてこの春、王立騎士学校の制服に身を包んだアレキサンドラは、入学者の誰よりも美しく、凛々しい姿で、婚約者のシャルル王子を夢中にさせたのだった。
その話を、シャルル王子や、シャルル王子のお付きの者達から報告を受けたエドワード王太子は、密かにバーナード騎士団長を王宮の奥にある、私室へ呼び出した。
「アレキサンドラが、王立騎士学校を受験するという報告を受けている」
「はい。娘は受験致します」
エドワード王太子の問いかけに、バーナード騎士団長は平然と肯定していた。
その平然さに、エドワード王太子は内心苛立つ。
椅子に座るエドワード王太子の前で、バーナード騎士団長は直立したまま報告を続けた。
「来年、娘は八歳になります。王立騎士学校の受験資格を得ます」
「彼女がそう望んでいるのか」
「はい」
アレキサンドラは熱烈に望んでいる。そして彼女には、才能があった。剣を扱う才能が。
その事実に、バーナードは歓喜していた。愛娘が、自分と同じ剣の道に進んでくれると言うのだ。父親として応援しないではいられないだろう。
それで、エドワード王太子はもう一度、その事実を認識させるように突きつけた。
「彼女はシャルルの婚約者だ」
「はい」
バーナードが、本当はその肩書をアレキサンドラから外したいと、長年に渡って望んできたことをエドワード王太子は知っていた。
そもそも、三歳のアレキサンドラをシャルル王子の婚約者に据えた時も、バーナードはなんとかその栄誉を拒否しようとしていたくらいなのだ。
そしてバーナードへの“貸し”の履行を求めることで、彼はようやく渋々と、愛娘の婚約を受け入れることになった。
だが、アレキサンドラとシャルル王子の相性は悪くないようで、二人は幼いながらも仲睦まじく過ごしている。このまま、何事もなく婚姻まで至るのではないかと思っていたところで、これである。
「婚約を解消することは許さない」
「分かっております。娘も婚約を解消するつもりはないようです」
その言葉に、エドワード王太子もため息をついた。
「お前の娘が、婚約者の教育も受け続けながら、騎士も目指したいという話も聞いている。そのようなことが出来るのか」
「娘は、我が娘ながら、非常に優秀です。そしておそらく」
バーナードは、エドワード王太子に初めてそのことを報告した。
「彼女は私と同じ、“剣豪”の称号持ちです」
エドワード王太子はその報告に、呆気にとられた顔をした。
外で遠く、鳥の鳴く声がする。
部屋の中が静まり返る。
「…………まだ、八歳の娘だろう。鑑定は受けたのか?」
「まだです。ですが、おそらくそうでしょう」
自身も“剣豪”の称号を持つ騎士団長である。同類を認識することは可能だった。
「お前の娘だからか」
どこか乾いた笑い声を上げるエドワード王太子に、バーナード騎士団長は答えずに軽く頭を下げる。
アレキサンドラは、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の養女である。
男同士の婚姻では、子を為すことが出来ない。男同士で婚姻した場合、養子を受け入れることが慣例だった。そしてバーナード騎士団長が養女として連れてきたアレキサンドラは、その顔立ちはフィリップ副騎士団長にそっくりであった。
だから、フィリップ副騎士団長に関係する親族から養女を迎えたのではないかという、専らの噂であったのだ。
だが、エドワード王太子は、その非常に美しい幼女を初めて見た時から、青い瞳の鋭さや、艶やかな黒い巻き毛を見て、彼女の中に、バーナード騎士団長の姿を認めていた。
だから、絶対に彼女を王家に迎え入れなければならないと考えていた。
バーナードが手に入らなかったのなら、その娘を。
結局、エドワード王太子は、バーナード騎士団長の娘アレキサンドラが、王立騎士学校を受験することを認めた。
彼女が見事、王立騎士学校の合格を果たしたという報告を侍従長から受けた時には、わざわざバーナード騎士団長を呼び寄せて、知らせたくらいである。
愛娘の合格に、バーナードは見るからに嬉しそうであり、エドワード王太子からの祝いの品も礼を言って受け取っていった。
そしてこの春、王立騎士学校の制服に身を包んだアレキサンドラは、入学者の誰よりも美しく、凛々しい姿で、婚約者のシャルル王子を夢中にさせたのだった。
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