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【短編】
リンゴ狩り再び (5)
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(5)対決の日
そしていよいよ、ムクドリ達との対決の日がやって来た。
バーナード騎士団長達は、小さな妖精達に案内され、妖精達の果樹園にやって来た。
その果樹園では、白っぽい石を積み上げた石垣の中に、リンゴの木が整然と並んで植えられていた。いずれも赤いリンゴの実をたわわに実らせている。そしてその果樹園の一番奥に、見上げるほど大きいリンゴの巨木が立っていた。その巨木にはまた大人の頭ほどの大きさのリンゴがたわわに実っている。真っ赤に色づき、艶やかで、甘い匂いを発しているそれが、紛れもなく“黄金のリンゴ”である。
巨大な“黄金のリンゴ”の木と、実った真っ赤な果実を見て、アレキサンドラは子供らしくぽかんと口を開けて驚いていた。
「凄いですわ、お父様」
「そうだろう」
すでに戦闘は開始されており、巨大なリンゴの木の周りを妖精達がブンブンと飛び回り、石を手にしてムクドリにぶつけたり、魔法を放っていたりする。
「朝、話したように、ある程度ムクドリ達を倒すとムクドリ達は集合化して巨大化する」
「はい」
父親であるバーナード騎士団長の説明する話を、アレキサンドラは真剣な表情で聞いていた。
「ムクドリが巨大化することは避けられない現象だ」
「はい」
「なら、お前はどうムクドリと戦えば良いと思うか」
バーナード騎士団長の問いかけに、アレキサンドラは答える。
「攻める陣営を二つに分けます。一陣はムクドリ達を集合化させるために攻撃を続け、二陣はムクドリ達が集合化した時にすぐに倒せるように控えます。攻撃を一陣と二陣で交替できるようにするのです」
「二つに陣営を分けることにはデメリットもあるぞ。二手に分けることで攻撃力が二分の一になってしまう。だが、そうしてまでも分ける理由はなんだ」
「二陣は体力を温存できます。何かあってもすぐに対応できるでしょう。過去の戦いぶりのお話を聞いていたところ、二手に分けたとしても戦力は充分だと思います」
アレキサンドラの回答に、バーナード騎士団長は腕を組んだまま、満足そうに頷いていた。
「分かった。お前の作戦でいってみよう。俺とディーターは第一陣としてムクドリを攻撃する。アレキサンドラとフィリップの二人は集合化した後のムクドリを倒してみろ」
「はい」
凛々しくも答えるアレキサンドラに、バーナード騎士団長は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「では、ディーター、いくぞ」
そしてバーナード騎士団長は剣を抜き放ち、真っ黒い大きな狼の姿になったディーターと共に、リンゴの巨木の周りでムクドリ達を倒しまくった。みるみるうちに屍が積み上げられていく。
その一人の騎士と一頭の凄まじい戦いぶりに、アレキサンドラは見惚れていた。
「お父様、凄いです」
(……昨日、たっぷり私が精力で満たしたおかげもあって、バーナードの体力は有り余るほど満ち溢れているから)
バーナードの振り上げた剣の一刀でムクドリの首が刎ね飛び、ディーターも走りながらムクドリ達を引き裂いていく。そして自分達の不利を察したムクドリ達がより集まる。次の瞬間、彼らの体は眩しいほどの光を放ち、ムクドリは巨大な一羽の巨鳥に変化していた。相変わらず馬鹿みたいに大きい。見上げるほどの巨体である。
黄色い嘴を開いて、「キェェェェェェェェェェェェ」と甲高い叫び声を上げる。
それに、金色の大きな狼の姿に変わったフィリップが飛び付いて首元に噛みつく。アレキサンドラは準備していた腰の“ヴァンドライデン・小”の柄を掴み、煌めくその刀身を一気に一閃させた。
その瞬間を待ち構えていたアレキサンドラは、気力も体力も充分であった。
そして小さくても、子供サイズでもさすが国宝、斬れぬものはないと言われる“ヴァンドライデン”である。切れ味は抜群であった。
次の瞬間、巨大なムクドリの頭に縦に赤い線がサッと走り、その身は真っ二つに分かたれる。
音を立ててその身は地面に倒れ、ドクドクと真っ赤な血が地面へ広がっていく。
アレキサンドラは血に濡れた剣を払った後、腰の鞘に仕舞った。
笑顔をバーナードに向け、そしてバーナードもまた「よくやった」と言って彼女の巻き毛の頭を撫でている。
そしてリンゴの木の影から、王宮副魔術師長マグルが「なんだか僕の出番が全く無かったんだけど!!」と言いながら出てきて、巨大ムクドリの叫び声で落ちたリンゴを、妖精達と一緒にせっせと拾っていたのだった。
“ヴァンドライデン・小”を腰に佩いたアレキサンドラの姿を見ながら、フィリップは思っていた。
(アレキサンドラは本当に、バーナードの娘だ)
“剣豪”の称号を持つバーナードの血を色濃く引く美しい娘である。シャルル王子の将来の王子妃として教育を受けている一方、彼女はこうして敵を容赦なく一刀両断できる能力を持っている。綺麗なだけの令嬢ではないのだ。たった七歳とは思えないほどの明晰な頭脳とやり遂げる度胸のある娘である。
(だから結局)
フィリップは、アレキサンドラが騎士学校に入学することを懸念していたが、その懸念は間違えていたということだ。彼女は騎士になるべく生まれた娘でもある。
(結局、バーナードの判断が間違いではないということか)
バーナードに頭を撫でられていたアレキサンドラは、フィリップにも笑顔を向ける。その彼女のそばに、金色の大きな狼の姿のフィリップも近づいて彼女の手を舐めたのだった。
そしていよいよ、ムクドリ達との対決の日がやって来た。
バーナード騎士団長達は、小さな妖精達に案内され、妖精達の果樹園にやって来た。
その果樹園では、白っぽい石を積み上げた石垣の中に、リンゴの木が整然と並んで植えられていた。いずれも赤いリンゴの実をたわわに実らせている。そしてその果樹園の一番奥に、見上げるほど大きいリンゴの巨木が立っていた。その巨木にはまた大人の頭ほどの大きさのリンゴがたわわに実っている。真っ赤に色づき、艶やかで、甘い匂いを発しているそれが、紛れもなく“黄金のリンゴ”である。
巨大な“黄金のリンゴ”の木と、実った真っ赤な果実を見て、アレキサンドラは子供らしくぽかんと口を開けて驚いていた。
「凄いですわ、お父様」
「そうだろう」
すでに戦闘は開始されており、巨大なリンゴの木の周りを妖精達がブンブンと飛び回り、石を手にしてムクドリにぶつけたり、魔法を放っていたりする。
「朝、話したように、ある程度ムクドリ達を倒すとムクドリ達は集合化して巨大化する」
「はい」
父親であるバーナード騎士団長の説明する話を、アレキサンドラは真剣な表情で聞いていた。
「ムクドリが巨大化することは避けられない現象だ」
「はい」
「なら、お前はどうムクドリと戦えば良いと思うか」
バーナード騎士団長の問いかけに、アレキサンドラは答える。
「攻める陣営を二つに分けます。一陣はムクドリ達を集合化させるために攻撃を続け、二陣はムクドリ達が集合化した時にすぐに倒せるように控えます。攻撃を一陣と二陣で交替できるようにするのです」
「二つに陣営を分けることにはデメリットもあるぞ。二手に分けることで攻撃力が二分の一になってしまう。だが、そうしてまでも分ける理由はなんだ」
「二陣は体力を温存できます。何かあってもすぐに対応できるでしょう。過去の戦いぶりのお話を聞いていたところ、二手に分けたとしても戦力は充分だと思います」
アレキサンドラの回答に、バーナード騎士団長は腕を組んだまま、満足そうに頷いていた。
「分かった。お前の作戦でいってみよう。俺とディーターは第一陣としてムクドリを攻撃する。アレキサンドラとフィリップの二人は集合化した後のムクドリを倒してみろ」
「はい」
凛々しくも答えるアレキサンドラに、バーナード騎士団長は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「では、ディーター、いくぞ」
そしてバーナード騎士団長は剣を抜き放ち、真っ黒い大きな狼の姿になったディーターと共に、リンゴの巨木の周りでムクドリ達を倒しまくった。みるみるうちに屍が積み上げられていく。
その一人の騎士と一頭の凄まじい戦いぶりに、アレキサンドラは見惚れていた。
「お父様、凄いです」
(……昨日、たっぷり私が精力で満たしたおかげもあって、バーナードの体力は有り余るほど満ち溢れているから)
バーナードの振り上げた剣の一刀でムクドリの首が刎ね飛び、ディーターも走りながらムクドリ達を引き裂いていく。そして自分達の不利を察したムクドリ達がより集まる。次の瞬間、彼らの体は眩しいほどの光を放ち、ムクドリは巨大な一羽の巨鳥に変化していた。相変わらず馬鹿みたいに大きい。見上げるほどの巨体である。
黄色い嘴を開いて、「キェェェェェェェェェェェェ」と甲高い叫び声を上げる。
それに、金色の大きな狼の姿に変わったフィリップが飛び付いて首元に噛みつく。アレキサンドラは準備していた腰の“ヴァンドライデン・小”の柄を掴み、煌めくその刀身を一気に一閃させた。
その瞬間を待ち構えていたアレキサンドラは、気力も体力も充分であった。
そして小さくても、子供サイズでもさすが国宝、斬れぬものはないと言われる“ヴァンドライデン”である。切れ味は抜群であった。
次の瞬間、巨大なムクドリの頭に縦に赤い線がサッと走り、その身は真っ二つに分かたれる。
音を立ててその身は地面に倒れ、ドクドクと真っ赤な血が地面へ広がっていく。
アレキサンドラは血に濡れた剣を払った後、腰の鞘に仕舞った。
笑顔をバーナードに向け、そしてバーナードもまた「よくやった」と言って彼女の巻き毛の頭を撫でている。
そしてリンゴの木の影から、王宮副魔術師長マグルが「なんだか僕の出番が全く無かったんだけど!!」と言いながら出てきて、巨大ムクドリの叫び声で落ちたリンゴを、妖精達と一緒にせっせと拾っていたのだった。
“ヴァンドライデン・小”を腰に佩いたアレキサンドラの姿を見ながら、フィリップは思っていた。
(アレキサンドラは本当に、バーナードの娘だ)
“剣豪”の称号を持つバーナードの血を色濃く引く美しい娘である。シャルル王子の将来の王子妃として教育を受けている一方、彼女はこうして敵を容赦なく一刀両断できる能力を持っている。綺麗なだけの令嬢ではないのだ。たった七歳とは思えないほどの明晰な頭脳とやり遂げる度胸のある娘である。
(だから結局)
フィリップは、アレキサンドラが騎士学校に入学することを懸念していたが、その懸念は間違えていたということだ。彼女は騎士になるべく生まれた娘でもある。
(結局、バーナードの判断が間違いではないということか)
バーナードに頭を撫でられていたアレキサンドラは、フィリップにも笑顔を向ける。その彼女のそばに、金色の大きな狼の姿のフィリップも近づいて彼女の手を舐めたのだった。
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