騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

金色の仔犬は番を見つける (3)

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 当然、バーナードやフィリップ、アレキサンドラは血相変えてディヴィットを探し始めた。
 屋敷の中にも見つからず、屋敷のそばの森の中まで探そうかとバーナードが言い出したところで、双子の仔狼クリストフがバーナードのズボンの裾を噛んで引っ張った。
 それから「こっちだ」というように、先頭に立って走り始める。
 クリストフが何か知っていそうだと後を追い駆けたバーナード達。そのクリストフが門をくぐったのは、昨日訪れたマグルの屋敷だった。

 ちょうどマグルが上着を羽織って、仔狼のディヴィットを抱いて玄関の扉を開けたところであった。
 それを見て、バーナードは驚いて声を上げた。

「良かった、ここにいたのか」

「バーナード……その仔が昨日の夜にやって来て」

 勝手に部屋に入り込んで、ディヴィットは赤ん坊のティナの眠るゆりかごの下に丸くなっていたのだ。
 朝になってそれを見つけたマグルとカトリーナは当然驚いて、とりあえずバーナードの屋敷に連れて行こうとしていたところに、バーナード達がやって来たわけである。

「済まなかったな。こんなことをする奴ではないんだが……」

 マグルに抱き上げられている金色の仔狼は尻尾をダランと下げ、耳を下げて悲しんでいる様子がある。
 行きたくないように、クゥンクゥンと鳴き続けている。

 バーナードは仔狼ディヴィットを受け取り、彼を連れてフィリップの屋敷へ帰宅した。それからとりあえず妖精の国の妖精達に仔狼の世話は任せて、急いで仕事へ出かけた。アレキサンドラは王宮の王妃教育を受けるために、迎えの馬車に乗り込んでいった。


 夕方になり、帰宅したバーナードとフィリップが屋敷の居間に入ると、そこには、妖精の国の王子の伴侶となり、今や妖精になったセリーヌがいて、彼女は金色の仔狼の一頭を抱いており、もう片方の手で小さな子供の手を引いていた。
 その子供を見て、バーナードは驚いてフィリップを見返していた。

「フィリップ、お前の小さいのがいるぞ!!」

 そう、そこにはフィリップに瓜二つの四歳くらいの幼児がいた。フィリップと同じ色合いの綺麗な金の髪。フィリップと同じ整った顔立ちの幼児であるが、瞳の色が違う。瞳の色は茶色であった。

「……ディヴィット?」

 そう呼びかけると、その幼児はコクリと頷いた。

「と……とさま」

 たどたどしい声で言われ、バーナードとフィリップは破顔した。
 人狼の仔は生まれてから幼い間は人の姿を取らず、狼の姿で育つと聞いていた。いつか人の姿を取ることができるようになるだろうと思っていたが、その日がついにやってきたわけである。

「ああ、父さまだ。ディヴィット、人の姿を取ることができたのだな」

 嬉しくて、バーナードはディヴィットを抱き上げる。
 ディヴィットはシャツにズボンと、子供用の服をちゃんと着ていた。
 そこで、セリーヌが口を開いた。

「バーナード騎士団長、フィリップ副騎士団長、ご無沙汰しています」

 妖精として妖精の国の城で暮らすセリーヌは、二階の扉をくぐって妖精の城へ毎日遊びに来るディヴィットとクリストフの面倒をよく見てくれていた。
 だから今回も、突然人の姿に変わったディヴィットの世話をして(おそらく服を用意して着せてくれたのも彼女だろう)、ここまで連れてきたのだろう。

「ありがとうございます、セリーヌ。助かりました」

 それにフィリップが礼を言うと、セリーヌは微笑みながら頷いている。

「人の姿を取ることができるようになって良かったですね。フィリップ副騎士団長に本当によく似ています」

「眼の色は団長ですよ!!」

 何故か、バーナードに似ている部分のアピールを熱心にするフィリップである。
 セリーヌは微笑みを浮かべながら、その言葉を受け流し、話し続けた。

「ディヴィットが突然、人の姿をとったことには理由があります」

「…………そうなのか」

 バーナードが抱き上げているディヴィットに尋ねると、ディヴィットは頷いていた。

「まだ人の姿に変わったばかりで、言葉も覚束ないのですが。あちらにいる時に、聞いてみました。うまく伝えられないと困るので私についてきて欲しいとディヴィットから頼まれたのです」

 セリーヌがディヴィットと一緒にフィリップの屋敷の居間にいることにも理由があったらしい。

「そうなのか。何を伝えたいんだ、ディヴィット?」

 またバーナードが尋ねると、セリーヌが代わって答えた。

「ディヴィットは番を見つけたそうです。だから、ディヴィットは番のそばに行きたいそうです」




「「え?」」

 バーナードとフィリップのリアクションは一緒であった。
 驚きしかない。
 まだ四歳の仔狼である。
 番を見つけるなんて早すぎる。

「だ、誰なんだ」

 動揺を抑えながら、バーナードはそれを尋ねると、セリーヌがチラリとバーナードが抱っこしているディヴィットを見つめた。自分の口からそれは伝えなさいと言うのだ。

「ティナ」

 子供の幼い声がそうハッキリと、番の名を告げた時、再度、バーナードとフィリップは驚愕していた。

「まだ、赤ん坊じゃないか!!」

「おしめも取れていない、生まれて三か月の赤ん坊ですよ!!」

 そう二人の親達が驚いて声を上げている様子に、セリーヌは困ったように眉を寄せていた。それから彼女は淡々と告げた。

「人狼族は、本能で番を嗅ぎ分けるといいます。赤ん坊が番というケースは過去にもありました。それほどおかしなことではありません」

「でも、ディヴィットはまだ四歳。ティナは零歳児だぞ」

 信じられないといった表情で、頭を振るバーナード。

「今すぐ二人がどうこうということはないでしょう。でも、ディヴィットはティナのそばに自分が行くことを認めて欲しいそうです」

「…………」

「本当はずっとそばで暮らしたいらしいのですが」

「それはダメだ」

 即座にバーナードが、セリーヌから伝えられたディヴィットの要求を拒否すると、幼児のディヴィットは茶色の瞳をみるみる潤ませ始め、ボタボタと涙を零して泣き始めてしまった。それに困った顔をするバーナード。慌ててタオルでディヴィットの大粒の涙を拭うフィリップ。

「お前はまだ子供だ。それも小さな子供だ。ちゃんと親元で育っていく必要がある。教育も受けなければならない」

 ディヴィットの、目をごしごしと擦ろうとする小さな手を、バーナードは止めた。

「目が傷つくぞ。タオルでほら、押さえて。もう泣くな。それではティナを守れる男になれないぞ」

 そう言われると、ディヴィットは泣くまいと唇を噛み締めていた。
 そんな彼の様子を見て、バーナードは少し寂しさを覚えていた。

「そうか、番か……」

 昨日までは、バーナード達の足元で跳ね回り、楽しそうに走り回っているだけの仔狼であったのに、もう、彼は番を見つけ、その番のために、人の姿を望んでいる。少しずつ成長して、そして自分の手から離れていこうとしている。

 その成長が嬉しくもあった。でも、ほんの少しだけ寂しい。

「明日、マグルに会いに行こう。……あいつが認めてくれるかな」

 零歳児の赤ん坊に、恋い焦がれているディヴィット(四歳児)である。
 その恋をバーナードもフィリップも応援するつもりであったが、ティナの父親であるマグルの返答の予想がつかなかった。
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