騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

金色の仔犬は番を見つける (1)

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 マグルに五番目の子供が生まれた。
 こげ茶色の髪の女の赤ん坊で、マグルとカトリーナはその子にティナという名を付けた。
 小さな小さな赤ん坊だった。
 少し身体が小さく生まれたため、マグルもカトリーナもその赤ん坊が風邪など引かぬようにとにかく大切に育てていた。
 そのため、友人達へのお披露目は誕生からしばらくしてから行うことになった。


「うちの二番目のお姫様に会わせてやろう」

 ティナが生まれて三か月が経った日。
 そうマグルが偉そうに言ってきたので、バーナードとフィリップは祝いの品を手に、マグルの住む屋敷を訪ねることにした。マグルはカトリーナの実家に婿入りしていた。そのため彼の住む屋敷には義父のマクレイガー教授も住んでいる。王宮魔術師であるマグルと学者であるマクレイガー教授は話も合い、かつ二人とも子供好きであったから良かった。その屋敷にはすでに四人のマグルの子供達がいて、朝から晩まで小さな子供達が駆けずり回っている大変な環境であった。マクレイガー教授が子供嫌いであったなら、きっとマグル親子は追い出されていたこと間違いないだろう。

 そして五番目の子が生まれたのである。

 それを聞いたアレキサンドラはひどく羨ましそうな顔をしていた。

「いいなぁ。セザンヌには妹が出来たのよ。羨ましいわ」

 マグルの娘セザンヌは、アレキサンドラと同い年の女の子であった。セザンヌとアレキサンドラは仲が良い。

「私も妹が欲しい!!」

「聞きましたか、バーナード!!」

 そのアレキサンドラの言葉に、フィリップは目を輝かせていた。

「貴方の大切な娘、アレキサンドラがそう望んでいるのですよ。是非叶えてあげなくては」

「………………………」

 今、三人はマグルの屋敷へ向かう馬車に乗っていた。バーナードの前にはフィリップが座り、バーナードの横の席にはアレキサンドラが座っていた。バーナードが溺愛する一人娘のアレキサンドラ。彼女のためなら何でもするところのあるバーナードであったが、こと、この願いだけは聞き届けることは出来なかった。

「アレキサンドラ。我が家はディヴィットとクリストフで打ち止めだ」

「!!」

「なんてことを子供の前で言うんですか」

「本当のことだろう」

 フィリップは目を釣り上げて怒っている。

「“打ち止め”なんて言葉使わないで下さい」

「…………なら、子供はディヴィットとクリストフで最後なのだ」

 アレキサンドラの膝の上の藤の籠の中には、二頭の金色の仔狼が座っていた。二頭ともいい子にしている。

「私は妹も欲しいです!!」

「そうです。私も可愛い子供が欲しいです」

 アレキサンドラとフィリップの二人から同時にそう言われることに、バーナードは眉間に皺を寄せ、馬車の窓から外を見て、ため息をついていた。

「フィリップ、便乗するな」

 フィリップが子供みたいに、アレキサンドラと同調として我儘を言うことに頭が痛い。
 王立騎士団の副騎士団長たる男である。
 なのに今は、娘のアレキサンドラと同じ口調で不満を表していた。

「マグルを見習って下さい。彼は五人も子供を作ったのですよ」

 何故か、フィリップは五人も子供を作ったというマグルを尊敬しているような様子を見せていた。

「…………」

「素晴らしいですよね。うちも負けないように頑張らないといけません。バーナード、貴方は勝負事には負けず嫌いだったじゃないですか」

「俺とマグルは勝負していない」

「お父様、マグルおじさまに負けないようにしなくてはなりません」

 調子に乗ってアレキサンドラまでそんなことを言い出している。
 頭が痛い。

 フィリップは昔から、バーナードとの子供を欲しがっていた。
 それで、バーナードに、アレキサンドラと二人の人狼の仔ディヴィットとクリストフまで実り落とさせたというのに、まだ彼はバーナードとの間の子が欲しいというのだ。フィリップの欲求を聞いていたら際限がない気がしてきた。彼はとにかくバーナードとの間の子がたくさん欲しいというのだ。人狼であるフィリップの本能がそれを求めるのだろうか。

「着いたぞ」

 馬車が止まる。
 バーナードはアレキサンドラの膝の上から、ディヴィットとクリストフの入った籠を取り上げて、さっさと馬車から下りていた。マグルの屋敷の入口から手伝いの女性が現れて、すぐさま案内している。

 バーナードは、更に子をもうけることに関しては後ろ向きで、決して頷くことはなかった。
 “淫魔の王女”の称号を持つ淫魔である彼は、望めば霊樹に子を実らせることができる。実際、アレキサンドラも、ディヴィットとクリストフも、妖精界にある霊樹に実って出来た子供だった。
 ただ、子を実り落とすためには相応の精力の量が必要であり、年単位での努力が必要である。
 フィリップは“作る気満々”であったのだが、バーナードには全くその気はなかった。
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