523 / 560
【短編】
金色の仔犬は番を見つける (1)
しおりを挟む
マグルに五番目の子供が生まれた。
こげ茶色の髪の女の赤ん坊で、マグルとカトリーナはその子にティナという名を付けた。
小さな小さな赤ん坊だった。
少し身体が小さく生まれたため、マグルもカトリーナもその赤ん坊が風邪など引かぬようにとにかく大切に育てていた。
そのため、友人達へのお披露目は誕生からしばらくしてから行うことになった。
「うちの二番目のお姫様に会わせてやろう」
ティナが生まれて三か月が経った日。
そうマグルが偉そうに言ってきたので、バーナードとフィリップは祝いの品を手に、マグルの住む屋敷を訪ねることにした。マグルはカトリーナの実家に婿入りしていた。そのため彼の住む屋敷には義父のマクレイガー教授も住んでいる。王宮魔術師であるマグルと学者であるマクレイガー教授は話も合い、かつ二人とも子供好きであったから良かった。その屋敷にはすでに四人のマグルの子供達がいて、朝から晩まで小さな子供達が駆けずり回っている大変な環境であった。マクレイガー教授が子供嫌いであったなら、きっとマグル親子は追い出されていたこと間違いないだろう。
そして五番目の子が生まれたのである。
それを聞いたアレキサンドラはひどく羨ましそうな顔をしていた。
「いいなぁ。セザンヌには妹が出来たのよ。羨ましいわ」
マグルの娘セザンヌは、アレキサンドラと同い年の女の子であった。セザンヌとアレキサンドラは仲が良い。
「私も妹が欲しい!!」
「聞きましたか、バーナード!!」
そのアレキサンドラの言葉に、フィリップは目を輝かせていた。
「貴方の大切な娘、アレキサンドラがそう望んでいるのですよ。是非叶えてあげなくては」
「………………………」
今、三人はマグルの屋敷へ向かう馬車に乗っていた。バーナードの前にはフィリップが座り、バーナードの横の席にはアレキサンドラが座っていた。バーナードが溺愛する一人娘のアレキサンドラ。彼女のためなら何でもするところのあるバーナードであったが、こと、この願いだけは聞き届けることは出来なかった。
「アレキサンドラ。我が家はディヴィットとクリストフで打ち止めだ」
「!!」
「なんてことを子供の前で言うんですか」
「本当のことだろう」
フィリップは目を釣り上げて怒っている。
「“打ち止め”なんて言葉使わないで下さい」
「…………なら、子供はディヴィットとクリストフで最後なのだ」
アレキサンドラの膝の上の藤の籠の中には、二頭の金色の仔狼が座っていた。二頭ともいい子にしている。
「私は妹も欲しいです!!」
「そうです。私も可愛い子供が欲しいです」
アレキサンドラとフィリップの二人から同時にそう言われることに、バーナードは眉間に皺を寄せ、馬車の窓から外を見て、ため息をついていた。
「フィリップ、便乗するな」
フィリップが子供みたいに、アレキサンドラと同調として我儘を言うことに頭が痛い。
王立騎士団の副騎士団長たる男である。
なのに今は、娘のアレキサンドラと同じ口調で不満を表していた。
「マグルを見習って下さい。彼は五人も子供を作ったのですよ」
何故か、フィリップは五人も子供を作ったというマグルを尊敬しているような様子を見せていた。
「…………」
「素晴らしいですよね。うちも負けないように頑張らないといけません。バーナード、貴方は勝負事には負けず嫌いだったじゃないですか」
「俺とマグルは勝負していない」
「お父様、マグルおじさまに負けないようにしなくてはなりません」
調子に乗ってアレキサンドラまでそんなことを言い出している。
頭が痛い。
フィリップは昔から、バーナードとの子供を欲しがっていた。
それで、バーナードに、アレキサンドラと二人の人狼の仔ディヴィットとクリストフまで実り落とさせたというのに、まだ彼はバーナードとの間の子が欲しいというのだ。フィリップの欲求を聞いていたら際限がない気がしてきた。彼はとにかくバーナードとの間の子がたくさん欲しいというのだ。人狼であるフィリップの本能がそれを求めるのだろうか。
「着いたぞ」
馬車が止まる。
バーナードはアレキサンドラの膝の上から、ディヴィットとクリストフの入った籠を取り上げて、さっさと馬車から下りていた。マグルの屋敷の入口から手伝いの女性が現れて、すぐさま案内している。
バーナードは、更に子をもうけることに関しては後ろ向きで、決して頷くことはなかった。
“淫魔の王女”の称号を持つ淫魔である彼は、望めば霊樹に子を実らせることができる。実際、アレキサンドラも、ディヴィットとクリストフも、妖精界にある霊樹に実って出来た子供だった。
ただ、子を実り落とすためには相応の精力の量が必要であり、年単位での努力が必要である。
フィリップは“作る気満々”であったのだが、バーナードには全くその気はなかった。
こげ茶色の髪の女の赤ん坊で、マグルとカトリーナはその子にティナという名を付けた。
小さな小さな赤ん坊だった。
少し身体が小さく生まれたため、マグルもカトリーナもその赤ん坊が風邪など引かぬようにとにかく大切に育てていた。
そのため、友人達へのお披露目は誕生からしばらくしてから行うことになった。
「うちの二番目のお姫様に会わせてやろう」
ティナが生まれて三か月が経った日。
そうマグルが偉そうに言ってきたので、バーナードとフィリップは祝いの品を手に、マグルの住む屋敷を訪ねることにした。マグルはカトリーナの実家に婿入りしていた。そのため彼の住む屋敷には義父のマクレイガー教授も住んでいる。王宮魔術師であるマグルと学者であるマクレイガー教授は話も合い、かつ二人とも子供好きであったから良かった。その屋敷にはすでに四人のマグルの子供達がいて、朝から晩まで小さな子供達が駆けずり回っている大変な環境であった。マクレイガー教授が子供嫌いであったなら、きっとマグル親子は追い出されていたこと間違いないだろう。
そして五番目の子が生まれたのである。
それを聞いたアレキサンドラはひどく羨ましそうな顔をしていた。
「いいなぁ。セザンヌには妹が出来たのよ。羨ましいわ」
マグルの娘セザンヌは、アレキサンドラと同い年の女の子であった。セザンヌとアレキサンドラは仲が良い。
「私も妹が欲しい!!」
「聞きましたか、バーナード!!」
そのアレキサンドラの言葉に、フィリップは目を輝かせていた。
「貴方の大切な娘、アレキサンドラがそう望んでいるのですよ。是非叶えてあげなくては」
「………………………」
今、三人はマグルの屋敷へ向かう馬車に乗っていた。バーナードの前にはフィリップが座り、バーナードの横の席にはアレキサンドラが座っていた。バーナードが溺愛する一人娘のアレキサンドラ。彼女のためなら何でもするところのあるバーナードであったが、こと、この願いだけは聞き届けることは出来なかった。
「アレキサンドラ。我が家はディヴィットとクリストフで打ち止めだ」
「!!」
「なんてことを子供の前で言うんですか」
「本当のことだろう」
フィリップは目を釣り上げて怒っている。
「“打ち止め”なんて言葉使わないで下さい」
「…………なら、子供はディヴィットとクリストフで最後なのだ」
アレキサンドラの膝の上の藤の籠の中には、二頭の金色の仔狼が座っていた。二頭ともいい子にしている。
「私は妹も欲しいです!!」
「そうです。私も可愛い子供が欲しいです」
アレキサンドラとフィリップの二人から同時にそう言われることに、バーナードは眉間に皺を寄せ、馬車の窓から外を見て、ため息をついていた。
「フィリップ、便乗するな」
フィリップが子供みたいに、アレキサンドラと同調として我儘を言うことに頭が痛い。
王立騎士団の副騎士団長たる男である。
なのに今は、娘のアレキサンドラと同じ口調で不満を表していた。
「マグルを見習って下さい。彼は五人も子供を作ったのですよ」
何故か、フィリップは五人も子供を作ったというマグルを尊敬しているような様子を見せていた。
「…………」
「素晴らしいですよね。うちも負けないように頑張らないといけません。バーナード、貴方は勝負事には負けず嫌いだったじゃないですか」
「俺とマグルは勝負していない」
「お父様、マグルおじさまに負けないようにしなくてはなりません」
調子に乗ってアレキサンドラまでそんなことを言い出している。
頭が痛い。
フィリップは昔から、バーナードとの子供を欲しがっていた。
それで、バーナードに、アレキサンドラと二人の人狼の仔ディヴィットとクリストフまで実り落とさせたというのに、まだ彼はバーナードとの間の子が欲しいというのだ。フィリップの欲求を聞いていたら際限がない気がしてきた。彼はとにかくバーナードとの間の子がたくさん欲しいというのだ。人狼であるフィリップの本能がそれを求めるのだろうか。
「着いたぞ」
馬車が止まる。
バーナードはアレキサンドラの膝の上から、ディヴィットとクリストフの入った籠を取り上げて、さっさと馬車から下りていた。マグルの屋敷の入口から手伝いの女性が現れて、すぐさま案内している。
バーナードは、更に子をもうけることに関しては後ろ向きで、決して頷くことはなかった。
“淫魔の王女”の称号を持つ淫魔である彼は、望めば霊樹に子を実らせることができる。実際、アレキサンドラも、ディヴィットとクリストフも、妖精界にある霊樹に実って出来た子供だった。
ただ、子を実り落とすためには相応の精力の量が必要であり、年単位での努力が必要である。
フィリップは“作る気満々”であったのだが、バーナードには全くその気はなかった。
20
お気に入りに追加
1,131
あなたにおすすめの小説
LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~
東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー●
►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。
俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。
しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!
理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』
►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。
魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。
下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。
魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。
謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』
(この世界の魔族はまるマ的なものです)
※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※
※第一巻、お茶の間編完結しました!※
舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。
登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。
HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載
【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる