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ずっと貴方を待っている
第十七話 騎士団長奪還作戦の立案
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長い休暇からフィリップ副騎士団長が戻って来た。彼が王立騎士団へ復帰した話を耳にした近衛騎士ジェラルドは、すぐさまフィリップの屋敷に、彼に会いに行く。
ディーターを伴ってやって来たジェラルドの前で、扉を開けたフィリップ副騎士団長は、王都一と謳われたその容色をやつれさせている一方で、神経をピリピリと張りつめさせているような様子も見せていた。
「大丈夫か、フィリップ」
ディーターが気遣う声を掛けるが、フィリップの暗い表情は変わらない。
「ええ、大丈夫です」
屋敷の中にはマグル副魔術師長もいたのか、彼はディーターやジェラルドの訪れに気が付いて、部屋の中から声を上げていた。
「二人とも、久しぶりだな」
彼のどこか明るい声だけが救いのような気がする。
ディーターとジェラルドは屋敷の居間の中へと招かれた。
椅子に座り、額に手を当て苦悩の表情でいるフィリップとは別に、マグルはいそいそとよく動いていた。
「お茶を飲むか? フィリップのところにはバーナードへの貢ぎ物のお茶が横流しされていて、いいお茶の葉がいっぱいあるんだぞ」
「横流しとか、ヒドイこと言わないで下さい。私と彼は夫婦なんですから、横流しではありません」
フィリップの苦情は無視して、マグルはお茶を淹れ、勝手に棚の中から菓子まで取り出していた。
「それで、わざわざお前達がここまで来てくれたってことは、バーナードの事なんだろう。どこまでお前達はわかってる?」
一応、マグルはフィリップの屋敷といえども、テーブルの上で“静寂の魔道具”を起動させていた。
この王国の王太子にも関係する話である。用心を重ねて間違いはない。
ディーターはチロリと自分の伴侶である、傍らの美貌の近衛騎士ジェラルドを見た後、言った。
「ジェラルドは、近衛の仕事の関係上、魔法契約で話せることを制限されている。この俺にも話せないと彼は言っている」
ジェラルドは眉間に皺を寄せながら、頷いた。
「はい。魔法契約で話すことは出来ません」
「殿下も徹底しているなー。まぁ、バーナードのことだもんな。大丈夫、僕達はある程度知っているさ。ジェラルド、君は話す事は出来ないけれど、僕の話す事を聞く分には大丈夫だろう?」
マグルは用意したお茶を、黙り込んでいるフィリップにも手渡しながらそう言った。
「はい。恐らく聞く分には大丈夫なはずです」
ジェラルドは答える。
それにマグルは、皿の上にのせたクッキーをもぐもぐと口にしながら話し始めた。
「バーナードが毒刃で倒れて記憶を失った後、王宮で少年姿で妃として迎えられているってことだよね」
ジェラルドは大きく目を開いた。
「どうやってその話を知ったのですか」
「僕は一大諜報網を持っているのさ!!」
腰に手を当て、胸を反らして格好をつけて言うマグルであるが、マグルは単に王宮に出入りする小さな妖精達から話を聞いただけである。
しかし、マグルのたった一行でまとめられたバーナード騎士団長の現在の境遇の話を聞いた、フィリップ副騎士団長は、手にしていたお茶のカップをバキンと握り壊して、ポタポタとお茶の雫を手から落として見せて、傍らのマグルを驚愕させていた。
「お……おまっ、何壊してるんだよ」
馬鹿力過ぎる。
そしてお茶が熱くなかったのかと慌てるマグルに構わず、暗く青い目を光らせて、フィリップは言っていた。
「バーナードを取り返さなければなりません。彼は、殿下のもとで酷い目に遭っているはずです」
しかし、ジェラルドは近衛騎士としてバート少年のそばについていたので知っていた。
バートが毎日、王宮の白鳥の森の湖へ釣りに出かけていることを。そして王宮詰めの近衛騎士達に木剣で、手合わせと称して、最近では挑みまくって勝ちまくっていることに。
それなりに、彼が王宮の生活に順応し始めていることを知っていた。
そしてエドワード王太子も、バート少年を溺愛している。王太子がバートを酷い目に遭わせる様子など一度も見たことがなかった。
だが、それでバーナード騎士団長が幸せそうに見えるかというと、そうではない。
時折、彼は何かを探すように目を彷徨わせる。どこか寂しそうな顔をしている。
それはきっと……。
「バーナード騎士団長にはフィリップ副騎士団長が必要です」
近衛騎士ジェラルドにとって、バーナード騎士団長は憧れの人だった。
誰よりも強いあの人が、優しい眼差しで見ていたのはフィリップ副騎士団長であった。
二人が一緒にいる姿を見ることが、ジェラルドも好きであった。二人して憧れの人達であったからだ。
だからフィリップ副騎士団長が、バーナード騎士団長を取り返すというのなら、喜んで自分は協力するつもりだった。
しかし、王宮の奥の宮には、フィリップ副騎士団長といえども簡単に立ち入ることは出来ない。
フィリップ副騎士団長を、バートの前にそのまま連れていくことは出来ない。
だが、ジェラルドは一つ方法を思いついていた。
「私は、魔法契約であの方の前で、副騎士団長の名を話す事も出来ません」
「うわ、本当に殿下はバーナードに記憶を取り戻させないつもりなんだなー」
マグルがしかめっ面でそう言う前で、ジェラルドは言った。
「でも、仔犬の姿であるフィリップ副騎士団長ならば、魔法契約の適用対象外になるのです」
ジェラルドは、人狼族の長の息子ディーターから、フィリップ副騎士団長もまたディーターと同族の人狼族であることを教えられていた。そしてバーナード騎士団長の可愛がっていたあの金色の仔犬の姿が、フィリップ副騎士団長の人狼の仔狼の姿であることも知っていたのだ。
だが、エドワード王太子を含め、王宮の者達はフィリップが、人狼であることを知らない。騎士団長の飼う愛らしい金色の仔犬が、その実フィリップ副騎士団長のもう一つの姿であることを知らない。
「なるほど、バーナードもとい、バートの前に、可愛い仔犬フィリップを連れていくというわけか。いい考えだと思うぞ、僕は」
仔犬好きのマグルは大賛成であった。
しかし、フィリップは不安そうな様子を見せる。
「仔犬の私の姿を見たとして、彼は、それが私だと分かるのでしょうか」
「分からなくてもいいのです。バーナード騎士団長の犬好きの話は有名です。きっと、バートもそうでしょう。ですので、貴方の可愛らしい仔犬の姿でおびき寄せて、そして」
ジェラルドはキッパリと言った。
「バート少年を王宮から連れ出しましょう」
ディーターを伴ってやって来たジェラルドの前で、扉を開けたフィリップ副騎士団長は、王都一と謳われたその容色をやつれさせている一方で、神経をピリピリと張りつめさせているような様子も見せていた。
「大丈夫か、フィリップ」
ディーターが気遣う声を掛けるが、フィリップの暗い表情は変わらない。
「ええ、大丈夫です」
屋敷の中にはマグル副魔術師長もいたのか、彼はディーターやジェラルドの訪れに気が付いて、部屋の中から声を上げていた。
「二人とも、久しぶりだな」
彼のどこか明るい声だけが救いのような気がする。
ディーターとジェラルドは屋敷の居間の中へと招かれた。
椅子に座り、額に手を当て苦悩の表情でいるフィリップとは別に、マグルはいそいそとよく動いていた。
「お茶を飲むか? フィリップのところにはバーナードへの貢ぎ物のお茶が横流しされていて、いいお茶の葉がいっぱいあるんだぞ」
「横流しとか、ヒドイこと言わないで下さい。私と彼は夫婦なんですから、横流しではありません」
フィリップの苦情は無視して、マグルはお茶を淹れ、勝手に棚の中から菓子まで取り出していた。
「それで、わざわざお前達がここまで来てくれたってことは、バーナードの事なんだろう。どこまでお前達はわかってる?」
一応、マグルはフィリップの屋敷といえども、テーブルの上で“静寂の魔道具”を起動させていた。
この王国の王太子にも関係する話である。用心を重ねて間違いはない。
ディーターはチロリと自分の伴侶である、傍らの美貌の近衛騎士ジェラルドを見た後、言った。
「ジェラルドは、近衛の仕事の関係上、魔法契約で話せることを制限されている。この俺にも話せないと彼は言っている」
ジェラルドは眉間に皺を寄せながら、頷いた。
「はい。魔法契約で話すことは出来ません」
「殿下も徹底しているなー。まぁ、バーナードのことだもんな。大丈夫、僕達はある程度知っているさ。ジェラルド、君は話す事は出来ないけれど、僕の話す事を聞く分には大丈夫だろう?」
マグルは用意したお茶を、黙り込んでいるフィリップにも手渡しながらそう言った。
「はい。恐らく聞く分には大丈夫なはずです」
ジェラルドは答える。
それにマグルは、皿の上にのせたクッキーをもぐもぐと口にしながら話し始めた。
「バーナードが毒刃で倒れて記憶を失った後、王宮で少年姿で妃として迎えられているってことだよね」
ジェラルドは大きく目を開いた。
「どうやってその話を知ったのですか」
「僕は一大諜報網を持っているのさ!!」
腰に手を当て、胸を反らして格好をつけて言うマグルであるが、マグルは単に王宮に出入りする小さな妖精達から話を聞いただけである。
しかし、マグルのたった一行でまとめられたバーナード騎士団長の現在の境遇の話を聞いた、フィリップ副騎士団長は、手にしていたお茶のカップをバキンと握り壊して、ポタポタとお茶の雫を手から落として見せて、傍らのマグルを驚愕させていた。
「お……おまっ、何壊してるんだよ」
馬鹿力過ぎる。
そしてお茶が熱くなかったのかと慌てるマグルに構わず、暗く青い目を光らせて、フィリップは言っていた。
「バーナードを取り返さなければなりません。彼は、殿下のもとで酷い目に遭っているはずです」
しかし、ジェラルドは近衛騎士としてバート少年のそばについていたので知っていた。
バートが毎日、王宮の白鳥の森の湖へ釣りに出かけていることを。そして王宮詰めの近衛騎士達に木剣で、手合わせと称して、最近では挑みまくって勝ちまくっていることに。
それなりに、彼が王宮の生活に順応し始めていることを知っていた。
そしてエドワード王太子も、バート少年を溺愛している。王太子がバートを酷い目に遭わせる様子など一度も見たことがなかった。
だが、それでバーナード騎士団長が幸せそうに見えるかというと、そうではない。
時折、彼は何かを探すように目を彷徨わせる。どこか寂しそうな顔をしている。
それはきっと……。
「バーナード騎士団長にはフィリップ副騎士団長が必要です」
近衛騎士ジェラルドにとって、バーナード騎士団長は憧れの人だった。
誰よりも強いあの人が、優しい眼差しで見ていたのはフィリップ副騎士団長であった。
二人が一緒にいる姿を見ることが、ジェラルドも好きであった。二人して憧れの人達であったからだ。
だからフィリップ副騎士団長が、バーナード騎士団長を取り返すというのなら、喜んで自分は協力するつもりだった。
しかし、王宮の奥の宮には、フィリップ副騎士団長といえども簡単に立ち入ることは出来ない。
フィリップ副騎士団長を、バートの前にそのまま連れていくことは出来ない。
だが、ジェラルドは一つ方法を思いついていた。
「私は、魔法契約であの方の前で、副騎士団長の名を話す事も出来ません」
「うわ、本当に殿下はバーナードに記憶を取り戻させないつもりなんだなー」
マグルがしかめっ面でそう言う前で、ジェラルドは言った。
「でも、仔犬の姿であるフィリップ副騎士団長ならば、魔法契約の適用対象外になるのです」
ジェラルドは、人狼族の長の息子ディーターから、フィリップ副騎士団長もまたディーターと同族の人狼族であることを教えられていた。そしてバーナード騎士団長の可愛がっていたあの金色の仔犬の姿が、フィリップ副騎士団長の人狼の仔狼の姿であることも知っていたのだ。
だが、エドワード王太子を含め、王宮の者達はフィリップが、人狼であることを知らない。騎士団長の飼う愛らしい金色の仔犬が、その実フィリップ副騎士団長のもう一つの姿であることを知らない。
「なるほど、バーナードもとい、バートの前に、可愛い仔犬フィリップを連れていくというわけか。いい考えだと思うぞ、僕は」
仔犬好きのマグルは大賛成であった。
しかし、フィリップは不安そうな様子を見せる。
「仔犬の私の姿を見たとして、彼は、それが私だと分かるのでしょうか」
「分からなくてもいいのです。バーナード騎士団長の犬好きの話は有名です。きっと、バートもそうでしょう。ですので、貴方の可愛らしい仔犬の姿でおびき寄せて、そして」
ジェラルドはキッパリと言った。
「バート少年を王宮から連れ出しましょう」
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