騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
502 / 560
ずっと貴方を待っている

第十四話 木剣を握る

しおりを挟む
 近衛騎士ジェラルドは、王宮にいるバート少年がバーナード騎士団長であることを知っても、自身の伴侶であるディーターに話す事ができなかった。
 バートに係るほとんど全てのことが、魔法契約により口外を禁止されていたからだ。
 目の前のバートに、「本当は貴方は妃ではなく、バーナード騎士団長であり、フィリップ副騎士団長の伴侶だった」と真実を話す事もできない。
 つくづく魔法契約に縛られてしまったことが恨めしかった。

 こうなっては、バート自身に記憶を取り戻してもらうしかないだろう。
 それが最善の方法であるように思えたジェラルドは、バートが好きだったことを積極的に彼にさせ、それで触発させて記憶を取り戻させたいと考えた。

「お暇なら、バート様、私と一戦してみませんか」

 本来、王太子の妃であるバートに対しては、バート妃殿下と呼ぶことが正式である。
 しかし、バートはそう呼ばれることを好まず、近くにいる者達には様付で呼ばせていた(本当は様付けで呼ばれるのも嫌だと言っていた)。

 それにバートは頭を傾げた。

「一戦?」

 ジェラルドは用意していた木剣を、少年の前のテーブルの上に置いた。

「真剣はバート様にお怪我をさせてしまう恐れがあるため、木剣で失礼致します」

 ジェラルドのその申し出に、その場にいた同僚の近衛騎士が慌てた。

「おい、ジェラルド」

 その慌てる様子の近衛騎士には構わず、ジェラルドは続ける。

「良い運動になると思います」

 バートは木剣を手に取ると、ブンブンと軽く振った。それからニッコリと笑みを浮かべた。

「いい考えだな」

 侍従も他の近衛騎士達も慌ててそれを止めようとする。王太子の妃たるものが、木剣といえども、近衛騎士と手合わせをするというのだ。
 危険である。

 だが、ジェラルドはバートが、本来“剣豪”の称号を持つ騎士の男であることを知っていた。
 彼が怪我をするはずがなかった。

 宮に面した中庭に出て、ジェラルドとバートは木剣を手に向き合う。
 最初は軽く、木剣の先を合わせていたが、次第にその木剣を振るう手が早くなっていく。
 
(相変わらず、強い御方だ)

 カンカンカンと木剣と木剣がぶつかり合う。少年の茶色の瞳が輝いていく。
 その伸びやかな手にある木剣は、スピードを上げ、近衛騎士の木剣とリズミカルにぶつかり合う。
 やがて、カーンと音を立てて木剣を弾き飛ばされたのはジェラルドの方だった。
 バートは息も上げずにいたが、楽しそうに笑い、落ちた木剣を拾いあげる。

「またやろう」

「はい。私だけではなく、別の近衛にもやらせましょう」

 それに、同席して見守っていた近衛騎士の若い男は、本気なのかというような顔でジェラルドを見つめたが、ジェラルドはその近衛騎士の男の手に木剣を握らせ、バートと戦わせた。
 バートは非常に楽しそうにその男を倒し、そしてまたジェラルドが相手をし、他の近衛騎士にも声をかけて、バートと手合わせをさせたのだった。

 バートは非常に生き生きと、あたかも水を得た魚のように木剣を握って手合わせをしていた。



 その日、バート少年の宮を訪れたエドワード王太子は、侍従達から少年が近衛騎士達と中庭で木剣を手に戦い合い、非常に楽しんでいたという話を聞く。
 一瞬、(騎士団長であった頃の記憶を取り戻したか)と危惧したが、少年に記憶を取り戻した様子はなかった。
 そのことに安堵する。

「随分と楽しんだようだな」

 そう話しながら、少年の耳朶を食み、手は彼の前に触れていく。
 その身を抱きしめ、寝台の上にゆっくりと倒す。

「剣を触るのは楽しい」

 彼は素直にそう言った。
 そうだろう。彼は“剣豪”の称号を持ち、武道大会では負けなしの男だった。
 それを、この宮に妃として閉じ込めているのだ。
 妃としてどんなに贅沢をさせようとも、彼が今の立場に飽きているのは明らかであった。

 シャツの前を開け、淡い胸の突起を摘まみ上げながら、愛でていく。
 何度となく身体を交えている。どこをどう可愛がれば、彼がどう反応するのかもう分かっていた。
 
「ふ……う……」

 潤む茶色の瞳に、吐息は熱い。その身はしっとりと汗に濡れ、肌は張り詰める。

「剣が欲しければ、剣を買ってやってもいい」

 エドワードのその言葉に、初めてバートは目を輝かせた。

「本当か!?」

 その剣幕に一瞬驚いたが、エドワードは頷いた。

「ああ。お前は剣を欲しがるのか」

 どんな贅沢も望まなかった男が、剣だけは欲しがるというのがおかしい。
 いや、剣だけではない。

 エドワードは思い出した。
 
 彼がもう一つ持っていた趣味を。
 夢中になっていた趣味を。

 それを言うことで、彼が過去を思い出してしまうかも知れない。
 でも、それでも、退廃に飽きている彼を喜ばせたかった。

「王家の森に美しい湖がある。お前をそこに連れていってやろう」

「そこに、何があるのか」

 その腰を掴み、愛撫に滴るように濡れてきた後孔に、己が男根をゆっくりと挿し入れていく。
 男の大きさに、切なげに眉を寄せ喘ぐ彼。
 エドワードもまた荒く息をつきつつ、少年の耳元で囁いた。

「船を浮かべて、釣りをするのだ。きっと楽しいぞ」

「本当か!!」

 茶色の瞳を輝かせて、自分を振り返って見る彼。
 途端にぎゅぅぅと強い締め付けをされたので、エドワードは呻いたが、明らかにバートは喜んでいた。

「絶対に、絶対に連れていくんだぞ」

「……わかった、だからそんなに、締めるな」
 
「あ……ぁぁ」

 立ち上がっている前を扱くと、バートも甘く啼く。
 そのしなやかな身体を震わせ、たちまち前を濡らして果てるのだが、その日の彼はどこか機嫌が良く見えた。
 そんな少年を見ながら、エドワードは心密かに思っていた。

(このまま、記憶を失ったままの彼と毎日を過ごしていき、新たな記憶で上書きしていけば)

(もしやこの手に)

 それは何度も何度も願ってきたことだった。
 決して願ってはならないと思っていたこと。

(この手に、彼が堕ちてくるかも知れない)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された

亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。 隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。 『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。 ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。 社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。 本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。 郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。 前編、中編、後編に分けて投稿します。 全編Rー18です。 アルファポリスBLランキング4位。 ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。 BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。 pixiv ブクマ数2600突破しました。 各サイトでの応援、ありがとうございます。

LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー● ►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。 俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。 しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!  理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』   ►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。 魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。 下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。 魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。 謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』   (この世界の魔族はまるマ的なものです) ※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※ ※第一巻、お茶の間編完結しました!※   舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。   登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。 HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載 【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】

メス喘ぎレッスン帖 ─団長、奥さんを抱く前に俺と発声練習しましょう!─

雲丹はち
BL
セックス経験ゼロのまま結婚しちゃった騎士団長に年下副官が初夜のイロハを教え込む話。

本物のシンデレラは王子様に嫌われる

幸姫
BL
自分の顔と性格が嫌いな春谷一埜は車に轢かれて死んでしまう。そして一埜が姉に勧められてついハマってしまったBLゲームの悪役アレス・ディスタニアに転生してしまう。アレスは自分の太っている体にコンプレックを抱き、好きな人に告白が出来ない事を拗らせ、ヒロインを虐めていた。 「・・・なら痩せればいいんじゃね?」と春谷はアレスの人生をより楽しくさせる【幸せ生活・性格計画】をたてる。 主人公がとてもツンツンツンデレしています。 ハッピーエンドです。 第11回BL小説大賞にエントリーしています。 _______ 本当に性格が悪いのはどっちなんでしょう。    _________

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...