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【短編】
騎士団長の子供達 (2) ~騎士を目指す姫君~
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小さな双子の弟が生まれたことを聞いた、長女のアレキサンドラはその時、三歳であった。
対面する前に、アレキサンドラは、弟が人の姿をとっておらず、狼の姿であることは聞いていた。
アレキサンドラは、どうも自分の家族が普通の家族と違うことに気が付き始めていた。
まず、自分の母親は、バーナードお父様であるらしい。
お父様が、アレキサンドラを産んだという話だが、それは他の人には絶対に内緒にするよう話をされた。
普通、男の人は子供を産むことは出来ないからだ。
どうやって私を産んだの?
そんな素朴な疑問に、バーナード達はアレキサンドラを、屋敷の二階にある、妖精の国へ通じる扉を開き、巨大な木の元へと連れていってくれた。
この木から生まれたと話してくれた。
緑の葉をさやさやと揺らし、天に向かって伸びている巨大なその木を見た時、アレキサンドラは圧倒された。
小さな妖精達に、「わたしはこの木で生まれたの?」と確認するように尋ねると、妖精達も頷いた。
「アレキサンドラちゃんが生まれた時、僕達もそばにいたんだよ」
そう妖精達は優しく教えてくれた。
桃色の実から、スルリと生まれ落ちたアレキサンドラを囲んで、みんな大喜びで、夜を徹して祝いの宴が開かれたという。
「僕達は、アレキサンドラちゃんが大好きだよ」
そう話す妖精達のことも、アレキサンドラは大好きだった。
アレキサンドラは、二階のその扉から、頻繁に妖精の国へ行き来をしていた。
妖精の国には綺麗な妖精のお姫様や王子様もいて、おじいちゃんのような大妖精もいて、皆、アレキサンドラに優しい。
おじいちゃんのような大妖精は、アレキサンドラに“妖精の愛し子”をという称号をくれた。何かあれば、妖精達が彼女を助けてくれる。
でも、アレキサンドラには自信があった。
(何かあれば、お父様達が助けてくれるもの。大丈夫)
バーナードお父様も、フィリップお父様も、誰よりも強くて眩しいほど綺麗で、アレキサンドラは二人が大好きだった。
そして生まれた弟二人は、可愛い可愛い金色の仔犬だった。
アレキサンドラは夢中になって、弟達を可愛がっていた。
とても幸せだった。
*
マグル王宮副魔術師長は、ため息をついていた。
「また、殿下にアレキサンドラちゃんを王宮に連れて来いって言われてたな」
「ああ」
フィリップの屋敷の居間で、王宮から帰ってきた三人の男はテーブルを囲んで話し合っていた。
マグルの問いかけに、バーナードは不機嫌そうな顔で頷く。
椅子に長い足を組んで座る彼は、相変わらずどこか偉そうな態度である。
王国の誇る王立騎士団長であるからして、当然だった。
彼は今年で、三十も半ば過ぎになるはずだ。
なのに、相変わらず、彼は年齢不詳の若さを保っていた。人々は、バーナード騎士団長が毎年、妖精の国の“黄金のリンゴ”を箱一杯入手しており、そのせいで若さが保たれているのだろうと噂していたが、マグルはそれは違うと思っていた。バーナードが、淫魔だからだ。
淫魔は、人を惑わし、精力を得るために、若々しく魅力的な姿をとる。年老いて醜くなった淫魔の話など聞いたことない。だから、バーナードはいつまでも若く、誰をも魅了するのだろうと思っていた。そしてそれは相変わらず、エドワード王太子に対しても影響を与えている。
アレキサンドラが生まれた後、バーナードは人間として生まれた彼女をすぐに自分の養女として届け出た。
マグルは、初めてアレキサンドラを見た時、驚いた。
青い目の色こそしていたが、目元はキリリとしたバーナード騎士団長そのもので、それ以外はフィリップ副騎士団長の美貌。赤子なれど、青い目を炯々と光らせた綺麗な赤ん坊だった。
「うん、バーナード、間違いなく、お前とフィリップの子だな」
乾いた笑い声が漏れそうになる。
ここまで二人の父親達(正確にはバーナードは母だが)の特徴を持ち得る子供はいないだろう。
そして、フィリップは子供の頃は、何度もかどわかされそうになっていたほどの美少年であった。
アレキサンドラはその父親によく似ている。
「将来、すごい美人さんになるな」
「ああ、フィリップそっくりだからな」
バーナードも腕を組んで頷いている。
ここに親馬鹿がいる。内心マグルは呟いた。
だが、事実として、将来の美貌が約束された子供だった。
バーナードとフィリップは、自分がいない日中は、バーナードの王都の屋敷にアレキサンドラを連れていき、手ぐすね引いて待ち構えている執事のセバスチャン達にある程度養育を任せていた。そして、時に妖精の国へ連れていき、妖精達と遊ばせたりしている。
養女の届け出はすんなりと受理されたが、以来、国王を始めとした者達が、アレキサンドラに会いたいと言うようになった。
バーナード騎士団長は、頑としてそれを拒否していた。
バーナード騎士団長は、“王家の剣”“剣豪”と呼ばれる武人であった。特に、数年前の“海の悪魔”と呼ばれる海竜が出現した時は、王国を守った英雄である。その立場から、ある程度、王家に強く出ることが出来ていた。
しかし、エドワード王太子をはじめ、誰もが彼の子を見たがり、会いたがっていた。
陛下や殿下に会う度に、「アレキサンドラは大きくなったか」と尋ねられる。仕事の話をしていても、最後は必ずその話になってしまう。
バーナード騎士団長の眉間には険しい皺が寄っていた。
そしてアレキサンドラが三歳になったこの年にもまだ、しつこく言われるのだ。
「もう、一度くらい、王宮に連れていって見せてあげたらどう?」
マグルがそう言うと、バーナードは頭を振った。
「会わせたくない」
「でもずーと、連れていかないわけには行かないだろう? 貴族たるもの、アレキサンドラだっていつかは王宮に行かなければならない」
「…………………………」
「いつかは会わせないといけないんだよ、バーナード」
バーナードはため息をつく。
特に、陛下をはじめとした王家の方々から特別に目をかけられているバーナードである。
自分の立場も理解していた。
対面する前に、アレキサンドラは、弟が人の姿をとっておらず、狼の姿であることは聞いていた。
アレキサンドラは、どうも自分の家族が普通の家族と違うことに気が付き始めていた。
まず、自分の母親は、バーナードお父様であるらしい。
お父様が、アレキサンドラを産んだという話だが、それは他の人には絶対に内緒にするよう話をされた。
普通、男の人は子供を産むことは出来ないからだ。
どうやって私を産んだの?
そんな素朴な疑問に、バーナード達はアレキサンドラを、屋敷の二階にある、妖精の国へ通じる扉を開き、巨大な木の元へと連れていってくれた。
この木から生まれたと話してくれた。
緑の葉をさやさやと揺らし、天に向かって伸びている巨大なその木を見た時、アレキサンドラは圧倒された。
小さな妖精達に、「わたしはこの木で生まれたの?」と確認するように尋ねると、妖精達も頷いた。
「アレキサンドラちゃんが生まれた時、僕達もそばにいたんだよ」
そう妖精達は優しく教えてくれた。
桃色の実から、スルリと生まれ落ちたアレキサンドラを囲んで、みんな大喜びで、夜を徹して祝いの宴が開かれたという。
「僕達は、アレキサンドラちゃんが大好きだよ」
そう話す妖精達のことも、アレキサンドラは大好きだった。
アレキサンドラは、二階のその扉から、頻繁に妖精の国へ行き来をしていた。
妖精の国には綺麗な妖精のお姫様や王子様もいて、おじいちゃんのような大妖精もいて、皆、アレキサンドラに優しい。
おじいちゃんのような大妖精は、アレキサンドラに“妖精の愛し子”をという称号をくれた。何かあれば、妖精達が彼女を助けてくれる。
でも、アレキサンドラには自信があった。
(何かあれば、お父様達が助けてくれるもの。大丈夫)
バーナードお父様も、フィリップお父様も、誰よりも強くて眩しいほど綺麗で、アレキサンドラは二人が大好きだった。
そして生まれた弟二人は、可愛い可愛い金色の仔犬だった。
アレキサンドラは夢中になって、弟達を可愛がっていた。
とても幸せだった。
*
マグル王宮副魔術師長は、ため息をついていた。
「また、殿下にアレキサンドラちゃんを王宮に連れて来いって言われてたな」
「ああ」
フィリップの屋敷の居間で、王宮から帰ってきた三人の男はテーブルを囲んで話し合っていた。
マグルの問いかけに、バーナードは不機嫌そうな顔で頷く。
椅子に長い足を組んで座る彼は、相変わらずどこか偉そうな態度である。
王国の誇る王立騎士団長であるからして、当然だった。
彼は今年で、三十も半ば過ぎになるはずだ。
なのに、相変わらず、彼は年齢不詳の若さを保っていた。人々は、バーナード騎士団長が毎年、妖精の国の“黄金のリンゴ”を箱一杯入手しており、そのせいで若さが保たれているのだろうと噂していたが、マグルはそれは違うと思っていた。バーナードが、淫魔だからだ。
淫魔は、人を惑わし、精力を得るために、若々しく魅力的な姿をとる。年老いて醜くなった淫魔の話など聞いたことない。だから、バーナードはいつまでも若く、誰をも魅了するのだろうと思っていた。そしてそれは相変わらず、エドワード王太子に対しても影響を与えている。
アレキサンドラが生まれた後、バーナードは人間として生まれた彼女をすぐに自分の養女として届け出た。
マグルは、初めてアレキサンドラを見た時、驚いた。
青い目の色こそしていたが、目元はキリリとしたバーナード騎士団長そのもので、それ以外はフィリップ副騎士団長の美貌。赤子なれど、青い目を炯々と光らせた綺麗な赤ん坊だった。
「うん、バーナード、間違いなく、お前とフィリップの子だな」
乾いた笑い声が漏れそうになる。
ここまで二人の父親達(正確にはバーナードは母だが)の特徴を持ち得る子供はいないだろう。
そして、フィリップは子供の頃は、何度もかどわかされそうになっていたほどの美少年であった。
アレキサンドラはその父親によく似ている。
「将来、すごい美人さんになるな」
「ああ、フィリップそっくりだからな」
バーナードも腕を組んで頷いている。
ここに親馬鹿がいる。内心マグルは呟いた。
だが、事実として、将来の美貌が約束された子供だった。
バーナードとフィリップは、自分がいない日中は、バーナードの王都の屋敷にアレキサンドラを連れていき、手ぐすね引いて待ち構えている執事のセバスチャン達にある程度養育を任せていた。そして、時に妖精の国へ連れていき、妖精達と遊ばせたりしている。
養女の届け出はすんなりと受理されたが、以来、国王を始めとした者達が、アレキサンドラに会いたいと言うようになった。
バーナード騎士団長は、頑としてそれを拒否していた。
バーナード騎士団長は、“王家の剣”“剣豪”と呼ばれる武人であった。特に、数年前の“海の悪魔”と呼ばれる海竜が出現した時は、王国を守った英雄である。その立場から、ある程度、王家に強く出ることが出来ていた。
しかし、エドワード王太子をはじめ、誰もが彼の子を見たがり、会いたがっていた。
陛下や殿下に会う度に、「アレキサンドラは大きくなったか」と尋ねられる。仕事の話をしていても、最後は必ずその話になってしまう。
バーナード騎士団長の眉間には険しい皺が寄っていた。
そしてアレキサンドラが三歳になったこの年にもまだ、しつこく言われるのだ。
「もう、一度くらい、王宮に連れていって見せてあげたらどう?」
マグルがそう言うと、バーナードは頭を振った。
「会わせたくない」
「でもずーと、連れていかないわけには行かないだろう? 貴族たるもの、アレキサンドラだっていつかは王宮に行かなければならない」
「…………………………」
「いつかは会わせないといけないんだよ、バーナード」
バーナードはため息をつく。
特に、陛下をはじめとした王家の方々から特別に目をかけられているバーナードである。
自分の立場も理解していた。
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