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第三十章 残滓
第一話 大妖精からの報告
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主であるレブランから、バート少年を守るように命じられていたゼトゥとネリアは、バーナード騎士団長のそばで現れる“海の悪魔”を倒すつもりでいた。
しかし、想像だにしていなかった敵の大きさであった。
そのトリトーンという悪魔は、巨大すぎた。
いかに素晴らしい魔剣を手に戦おうとしても、蟻が巨人に挑むようなものであり、この敵を倒すには、やはり神ほどの絶大な力がなければ務まらない。
ゼトゥとネリアは、自分達の手には余ると判断した。
その代わりといってはなんだが、ゼトゥは、その“海の悪魔”の召喚の手助けした淫魔のラーシェを魔剣で殺した。そうこうしているうちに、バーナード騎士団長を守るように、不気味な黒い人形が登場した。グングンと大きくなり、それは山脈のような大きさになったのを見た時、ゼトゥもネリアもまた(これは一体何なんだ)と、驚くやら呆れるやらの気持ちになる。
その黒い人形は、巨竜トリトーンと戦い出した。殴ったり、剣で斬りつけたりと、双方巨大な身体であったため、現場である森は破壊尽くされて大変な状況である。空間が大きく揺れ、森の木々や岩が飛び交う中、ゼトゥもネリアも戦闘に巻き込まれないよう避けるのが精いっぱいだった。
王都はそんな戦場近くであったから、大変な惨状になるのではないかと心配されたが、結界のようなモノに守られているようで、飛んできた大岩や、大木などからも守られていた。
そしてとうとう“海の悪魔”と呼ばれ、かつて神の地位にあったその巨竜は、耳をつんざくような轟音と共に倒れた。
“海の悪魔”が倒された瞬間、巨大な黒い人形も砂のように崩れ落ちた。
吹き付けてきた強い風に砂はさらわれ、あっという間に散って、再度目を開けた時には、その場には何も残っていなかった。巨大な巨竜の死骸が横たわっているだけだった。
戦闘終了後、バーナード騎士団長は意識を失ったようだったが、彼の生存を確認した後、ゼトゥとネリアは主への報告のため、隣国ランディアへ戻る。
戻った時、そこにご隠居様と呼ばれ、妖精達から尊敬を集める大妖精がレブランの元を訪ねていた。
ちょうど話を終えて帰るところだったようで、大妖精が去っていく姿を見送る。
ネリアは一目見て、主レブランが非常に怒っているのを感じていた。
彼は黙って椅子に座っていたが、ピリピリと空気が震えるような怒りの波動を感じる。気の弱い魔物なら近寄ることも出来ないだろう。
レブランは息をついて、告げた。
「バートは、あの黒い人形を作りだし、王都を、父親であるバーナードを守るために、“器”の中にため込んでいたもの全てを使い切ったという」
そのことを、大妖精はレブランに伝えにやって来た。
淡々と、大妖精である老人はその事実を伝えて帰っていった。
「……………」
ネリアは、あの黒い人形は魔法的な存在で、何者かによって作り出されたものだろうと思っていた。
巨竜と匹敵するほどの巨大な大きさに膨れ上がった時、それは相当な魔力を必要とするだろうとも思っていた。まさか、バート少年が自身の“器”の中の精力を使い切ってそれを作ったものとは思ってもみなかった。
そしてその“器”の中には、“神の欠片”もあったはずで。
「全部、使い切ったという話だ」
レブランは額に手を当て、深くため息をついた。
その眉間にはくっきりと皺が寄っている。
不機嫌さと怒りが頂点に達しているような様子だった。
「…………レブラン様」
気が遠くなるような長い歳月、集め続けてきた“神の欠片”の全てを失った。
もはや、神の復活は叶わない。
欠片が四散したのならば、またそれを集めるということも出来ただろう。
だが、消費され、消滅したのなら、もう二度とそれは叶わない。
巨竜を倒すため、王国を守るためには仕方がなかったのだろう。
父親は、王国を守る王立騎士団の騎士団長であるのだから、息子であるバートがそれに力を貸すことは当然のことだった。
だが、非常に不愉快だった。
いや、不愉快どころではない。
憤懣やるかたない、怒りが渦巻いて、押さえ切れなかった。
もはや、あの御方の復活は無理だ。
絶対に、蘇らせることは出来ない。
蘇らせるための欠片の全てを、バート少年に注いでいたのだから。
それを使い切ったというのなら、もう無理だ。
理性では理解できる。
だが、理解したくなかった。
しかし、想像だにしていなかった敵の大きさであった。
そのトリトーンという悪魔は、巨大すぎた。
いかに素晴らしい魔剣を手に戦おうとしても、蟻が巨人に挑むようなものであり、この敵を倒すには、やはり神ほどの絶大な力がなければ務まらない。
ゼトゥとネリアは、自分達の手には余ると判断した。
その代わりといってはなんだが、ゼトゥは、その“海の悪魔”の召喚の手助けした淫魔のラーシェを魔剣で殺した。そうこうしているうちに、バーナード騎士団長を守るように、不気味な黒い人形が登場した。グングンと大きくなり、それは山脈のような大きさになったのを見た時、ゼトゥもネリアもまた(これは一体何なんだ)と、驚くやら呆れるやらの気持ちになる。
その黒い人形は、巨竜トリトーンと戦い出した。殴ったり、剣で斬りつけたりと、双方巨大な身体であったため、現場である森は破壊尽くされて大変な状況である。空間が大きく揺れ、森の木々や岩が飛び交う中、ゼトゥもネリアも戦闘に巻き込まれないよう避けるのが精いっぱいだった。
王都はそんな戦場近くであったから、大変な惨状になるのではないかと心配されたが、結界のようなモノに守られているようで、飛んできた大岩や、大木などからも守られていた。
そしてとうとう“海の悪魔”と呼ばれ、かつて神の地位にあったその巨竜は、耳をつんざくような轟音と共に倒れた。
“海の悪魔”が倒された瞬間、巨大な黒い人形も砂のように崩れ落ちた。
吹き付けてきた強い風に砂はさらわれ、あっという間に散って、再度目を開けた時には、その場には何も残っていなかった。巨大な巨竜の死骸が横たわっているだけだった。
戦闘終了後、バーナード騎士団長は意識を失ったようだったが、彼の生存を確認した後、ゼトゥとネリアは主への報告のため、隣国ランディアへ戻る。
戻った時、そこにご隠居様と呼ばれ、妖精達から尊敬を集める大妖精がレブランの元を訪ねていた。
ちょうど話を終えて帰るところだったようで、大妖精が去っていく姿を見送る。
ネリアは一目見て、主レブランが非常に怒っているのを感じていた。
彼は黙って椅子に座っていたが、ピリピリと空気が震えるような怒りの波動を感じる。気の弱い魔物なら近寄ることも出来ないだろう。
レブランは息をついて、告げた。
「バートは、あの黒い人形を作りだし、王都を、父親であるバーナードを守るために、“器”の中にため込んでいたもの全てを使い切ったという」
そのことを、大妖精はレブランに伝えにやって来た。
淡々と、大妖精である老人はその事実を伝えて帰っていった。
「……………」
ネリアは、あの黒い人形は魔法的な存在で、何者かによって作り出されたものだろうと思っていた。
巨竜と匹敵するほどの巨大な大きさに膨れ上がった時、それは相当な魔力を必要とするだろうとも思っていた。まさか、バート少年が自身の“器”の中の精力を使い切ってそれを作ったものとは思ってもみなかった。
そしてその“器”の中には、“神の欠片”もあったはずで。
「全部、使い切ったという話だ」
レブランは額に手を当て、深くため息をついた。
その眉間にはくっきりと皺が寄っている。
不機嫌さと怒りが頂点に達しているような様子だった。
「…………レブラン様」
気が遠くなるような長い歳月、集め続けてきた“神の欠片”の全てを失った。
もはや、神の復活は叶わない。
欠片が四散したのならば、またそれを集めるということも出来ただろう。
だが、消費され、消滅したのなら、もう二度とそれは叶わない。
巨竜を倒すため、王国を守るためには仕方がなかったのだろう。
父親は、王国を守る王立騎士団の騎士団長であるのだから、息子であるバートがそれに力を貸すことは当然のことだった。
だが、非常に不愉快だった。
いや、不愉快どころではない。
憤懣やるかたない、怒りが渦巻いて、押さえ切れなかった。
もはや、あの御方の復活は無理だ。
絶対に、蘇らせることは出来ない。
蘇らせるための欠片の全てを、バート少年に注いでいたのだから。
それを使い切ったというのなら、もう無理だ。
理性では理解できる。
だが、理解したくなかった。
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