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第二十九章 豊かな実り
第二十話 疲労する騎士団長
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巨竜との戦いの後、体内の膨大な魔力を失い、バーナード騎士団長が意識を失っていたのは、半日ほどの間のことだった。
王都南の森で意識を失った彼の身体は、王都のバーナードの屋敷に運ばれた。
それから半日間、寝台の上で眠り続けた後、目を覚ました彼の前には、フィリップ副騎士団長をはじめ、執事のセバスチャン、マグル王宮副魔術師長が詰めかけており、バーナードが目を開いた時には、歓声が上がり、すぐさま医師が呼ばれた。
医師から「魔力枯れです」と告げられる。急速な魔力の減少で、昏倒することは魔術師によく見られる現象だった。医師からの「しばらく安静に過ごすように」という言葉を無視して、バーナードは王宮に赴き、国王陛下に対して、直接見聞きした事態の報告を行う。
その頃には、聖王国から聖騎士や魔術師団が、アルセウス王国の要請に従い、転移魔法陣を使って王国へやって来ており、時空の歪みや、竜の遺体の処理、付近の浄化などに力を貸してくれる運びになっていた。
海の悪魔と呼ばれた巨竜は倒されたのだ。
それは喜ぶべきことだった。
そしてその第一功労者であるバーナード騎士団長は、行く先々で褒め称えられていた。
国王陛下は直々にバーナードの労苦を労い、また褒賞が彼に与えられることになっている。
実際、彼無くしては、この王国は大変な事態になっていただろう。
貴族達は、彼の銅像を王都の大広場に建立しようと言い、バーナード騎士団長はそれを聞いて、疲れた顔をしていた。
フィリップは彼のことが非常に心配だった。
体内の魔力を全て使い切ったという彼は、いつもと違って顔色も良くない上、やつれていた。
彼は、フィリップにこう言った。
「巨竜を倒すために、魔力も、器の精力も使い切った。済まない」
頭を下げる彼に、フィリップは言う。
「いえ、非常事態でしたから、バーナード」
頭を下げ続ける彼に言う。
「そんなに自分を責めないで下さい」
そうしなければ助からない中での、彼の選択だった。
どうして責めることができるだろう。
同じ立場に置かれたら、自分でも、同じ選択を採ったとフィリップは思っていた。
自分の“器”の中の精力を使い切ったことを、フィリップは責めることはなかった。
それどころか労わるような言葉をいい、彼は自分のそばにいてくれる。
いっそ、責めてくれる方が有難かった。
誰もが、バーナードが、王国を、あのような巨大な竜から守ってくれたと褒め称えた。
英雄だと快哉し、人々は騎士団長の姿を見るや顔を輝かせる。
出会う子供達は、花束を差し出し、握手を求める始末だった。
人々の賞賛の声を聞くと、何故か、バーナードの心は疲弊していっていた。
そして夜になる。
王都の自身の屋敷の寝台で、一人眠っているバーナード騎士団長の元へ、二人の小さな妖精がやって来た。
“王家の庭” の霊樹のそばにいる、そばかす顔のプラウとフラウという双子の妖精達であった。
二人の妖精は、騎士団長の枕元に立つと、可愛らしく一礼してこう言った。
「夜分遅くに失礼致します。バーナード騎士団長」
ベンジャミンではない小さな妖精が、自分のところへやって来るなど初めてのことだった。
「……どうしたんだ」
そう言えば、ベンジャミンの姿もしばらく見ていなかった。
彼はどうしたのだろう。
妖精のプラウとフラウは言った。
「王国の王子様が、バーナード騎士団長と“王家の庭”でお会いしたいとの話です」
エドワード王太子とは、国王陛下への報告の際に、少しばかり言葉を交わしただけであった。
労をいたわる言葉を賜っていたが、王太子はどこか元気のない様子であった。
先日まで彼は非常に機嫌が良かったのに、それが不思議な気がしていた。
また、小さな妖精を自分への遣いに出していることもおかしな気がした。
王太子は“王家の庭”にいる妖精達に菓子を与え、随分と懐かれている様子はあったが、自分の従者のように妖精達を使えるようになっているのだろうか。
「分かった。明日、“王家の庭”に行くと伝えてくれ」
今は深夜である。
さすがに、王宮にある“王家の庭”に、この時間帯行くことは出来ない。
そのため、明日、王宮に上がることを告げると、妖精達は承ったように一礼し、現れた時と同様にすぐに姿を消したのだった。
王都南の森で意識を失った彼の身体は、王都のバーナードの屋敷に運ばれた。
それから半日間、寝台の上で眠り続けた後、目を覚ました彼の前には、フィリップ副騎士団長をはじめ、執事のセバスチャン、マグル王宮副魔術師長が詰めかけており、バーナードが目を開いた時には、歓声が上がり、すぐさま医師が呼ばれた。
医師から「魔力枯れです」と告げられる。急速な魔力の減少で、昏倒することは魔術師によく見られる現象だった。医師からの「しばらく安静に過ごすように」という言葉を無視して、バーナードは王宮に赴き、国王陛下に対して、直接見聞きした事態の報告を行う。
その頃には、聖王国から聖騎士や魔術師団が、アルセウス王国の要請に従い、転移魔法陣を使って王国へやって来ており、時空の歪みや、竜の遺体の処理、付近の浄化などに力を貸してくれる運びになっていた。
海の悪魔と呼ばれた巨竜は倒されたのだ。
それは喜ぶべきことだった。
そしてその第一功労者であるバーナード騎士団長は、行く先々で褒め称えられていた。
国王陛下は直々にバーナードの労苦を労い、また褒賞が彼に与えられることになっている。
実際、彼無くしては、この王国は大変な事態になっていただろう。
貴族達は、彼の銅像を王都の大広場に建立しようと言い、バーナード騎士団長はそれを聞いて、疲れた顔をしていた。
フィリップは彼のことが非常に心配だった。
体内の魔力を全て使い切ったという彼は、いつもと違って顔色も良くない上、やつれていた。
彼は、フィリップにこう言った。
「巨竜を倒すために、魔力も、器の精力も使い切った。済まない」
頭を下げる彼に、フィリップは言う。
「いえ、非常事態でしたから、バーナード」
頭を下げ続ける彼に言う。
「そんなに自分を責めないで下さい」
そうしなければ助からない中での、彼の選択だった。
どうして責めることができるだろう。
同じ立場に置かれたら、自分でも、同じ選択を採ったとフィリップは思っていた。
自分の“器”の中の精力を使い切ったことを、フィリップは責めることはなかった。
それどころか労わるような言葉をいい、彼は自分のそばにいてくれる。
いっそ、責めてくれる方が有難かった。
誰もが、バーナードが、王国を、あのような巨大な竜から守ってくれたと褒め称えた。
英雄だと快哉し、人々は騎士団長の姿を見るや顔を輝かせる。
出会う子供達は、花束を差し出し、握手を求める始末だった。
人々の賞賛の声を聞くと、何故か、バーナードの心は疲弊していっていた。
そして夜になる。
王都の自身の屋敷の寝台で、一人眠っているバーナード騎士団長の元へ、二人の小さな妖精がやって来た。
“王家の庭” の霊樹のそばにいる、そばかす顔のプラウとフラウという双子の妖精達であった。
二人の妖精は、騎士団長の枕元に立つと、可愛らしく一礼してこう言った。
「夜分遅くに失礼致します。バーナード騎士団長」
ベンジャミンではない小さな妖精が、自分のところへやって来るなど初めてのことだった。
「……どうしたんだ」
そう言えば、ベンジャミンの姿もしばらく見ていなかった。
彼はどうしたのだろう。
妖精のプラウとフラウは言った。
「王国の王子様が、バーナード騎士団長と“王家の庭”でお会いしたいとの話です」
エドワード王太子とは、国王陛下への報告の際に、少しばかり言葉を交わしただけであった。
労をいたわる言葉を賜っていたが、王太子はどこか元気のない様子であった。
先日まで彼は非常に機嫌が良かったのに、それが不思議な気がしていた。
また、小さな妖精を自分への遣いに出していることもおかしな気がした。
王太子は“王家の庭”にいる妖精達に菓子を与え、随分と懐かれている様子はあったが、自分の従者のように妖精達を使えるようになっているのだろうか。
「分かった。明日、“王家の庭”に行くと伝えてくれ」
今は深夜である。
さすがに、王宮にある“王家の庭”に、この時間帯行くことは出来ない。
そのため、明日、王宮に上がることを告げると、妖精達は承ったように一礼し、現れた時と同様にすぐに姿を消したのだった。
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