騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
471 / 560
第二十九章 豊かな実り

第二十話 疲労する騎士団長

しおりを挟む
 巨竜との戦いの後、体内の膨大な魔力を失い、バーナード騎士団長が意識を失っていたのは、半日ほどの間のことだった。
 王都南の森で意識を失った彼の身体は、王都のバーナードの屋敷に運ばれた。
 それから半日間、寝台の上で眠り続けた後、目を覚ました彼の前には、フィリップ副騎士団長をはじめ、執事のセバスチャン、マグル王宮副魔術師長が詰めかけており、バーナードが目を開いた時には、歓声が上がり、すぐさま医師が呼ばれた。

 医師から「魔力枯れです」と告げられる。急速な魔力の減少で、昏倒することは魔術師によく見られる現象だった。医師からの「しばらく安静に過ごすように」という言葉を無視して、バーナードは王宮に赴き、国王陛下に対して、直接見聞きした事態の報告を行う。
 その頃には、聖王国から聖騎士や魔術師団が、アルセウス王国の要請に従い、転移魔法陣を使って王国へやって来ており、時空の歪みや、竜の遺体の処理、付近の浄化などに力を貸してくれる運びになっていた。
 海の悪魔と呼ばれた巨竜は倒されたのだ。
 それは喜ぶべきことだった。

 そしてその第一功労者であるバーナード騎士団長は、行く先々で褒め称えられていた。
 国王陛下は直々にバーナードの労苦を労い、また褒賞が彼に与えられることになっている。
 実際、彼無くしては、この王国は大変な事態になっていただろう。
 貴族達は、彼の銅像を王都の大広場に建立しようと言い、バーナード騎士団長はそれを聞いて、疲れた顔をしていた。
 フィリップは彼のことが非常に心配だった。
 体内の魔力を全て使い切ったという彼は、いつもと違って顔色も良くない上、やつれていた。
 彼は、フィリップにこう言った。

「巨竜を倒すために、魔力も、器の精力も使い切った。済まない」

 頭を下げる彼に、フィリップは言う。

「いえ、非常事態でしたから、バーナード」

 頭を下げ続ける彼に言う。

「そんなに自分を責めないで下さい」

 そうしなければ助からない中での、彼の選択だった。
 どうして責めることができるだろう。
 同じ立場に置かれたら、自分でも、同じ選択を採ったとフィリップは思っていた。

 



 自分の“器”の中の精力を使い切ったことを、フィリップは責めることはなかった。
 それどころか労わるような言葉をいい、彼は自分のそばにいてくれる。
 いっそ、責めてくれる方が有難かった。

 誰もが、バーナードが、王国を、あのような巨大な竜から守ってくれたと褒め称えた。
 英雄だと快哉し、人々は騎士団長の姿を見るや顔を輝かせる。
 出会う子供達は、花束を差し出し、握手を求める始末だった。
 人々の賞賛の声を聞くと、何故か、バーナードの心は疲弊していっていた。

 そして夜になる。
 王都の自身の屋敷の寝台で、一人眠っているバーナード騎士団長の元へ、二人の小さな妖精がやって来た。
 “王家の庭” の霊樹のそばにいる、そばかす顔のプラウとフラウという双子の妖精達であった。
 二人の妖精は、騎士団長の枕元に立つと、可愛らしく一礼してこう言った。

「夜分遅くに失礼致します。バーナード騎士団長」

 ベンジャミンではない小さな妖精が、自分のところへやって来るなど初めてのことだった。
 
「……どうしたんだ」

 そう言えば、ベンジャミンの姿もしばらく見ていなかった。
 彼はどうしたのだろう。

 妖精のプラウとフラウは言った。

「王国の王子様が、バーナード騎士団長と“王家の庭”でお会いしたいとの話です」

 エドワード王太子とは、国王陛下への報告の際に、少しばかり言葉を交わしただけであった。
 労をいたわる言葉を賜っていたが、王太子はどこか元気のない様子であった。
 先日まで彼は非常に機嫌が良かったのに、それが不思議な気がしていた。

 また、小さな妖精を自分への遣いに出していることもおかしな気がした。
 王太子は“王家の庭”にいる妖精達に菓子を与え、随分と懐かれている様子はあったが、自分の従者のように妖精達を使えるようになっているのだろうか。

「分かった。明日、“王家の庭”に行くと伝えてくれ」

 今は深夜である。
 さすがに、王宮にある“王家の庭”に、この時間帯行くことは出来ない。
 そのため、明日、王宮に上がることを告げると、妖精達は承ったように一礼し、現れた時と同様にすぐに姿を消したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー● ►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。 俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。 しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!  理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』   ►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。 魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。 下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。 魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。 謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』   (この世界の魔族はまるマ的なものです) ※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※ ※第一巻、お茶の間編完結しました!※   舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。   登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。 HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載 【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された

亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。 隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。 『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。 ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。 社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。 本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。 郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。 前編、中編、後編に分けて投稿します。 全編Rー18です。 アルファポリスBLランキング4位。 ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。 BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。 pixiv ブクマ数2600突破しました。 各サイトでの応援、ありがとうございます。

【完結】僕は、妹の身代わり

325号室の住人
BL
☆全3話  僕の双子の妹は、病弱な第3王子サーシュ殿下の婚約者。 でも、病でいつ儚くなってしまうかわからないサーシュ殿下よりも、未だ婚約者の居ない、健康体のサーシュ殿下の双子の兄である第2王子殿下の方が好きだと言って、今回もお見舞いに行かず、第2王子殿下のファンクラブに入っている。 妹の身代わりとして城内の殿下の部屋へ向かうのも、あと数ヶ月。 けれど、向かった先で殿下は言った。 「…………今日は、君の全てを暴きたい。 まずは…そうだな。君の本当の名前を教えて。 〜中略〜 ねぇ、君は誰?」 僕が本当は男の子だということを、殿下はとっくに気付いていたのだった。

処理中です...