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第二十九章 豊かな実り
第九話 追いかけて来るもの
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映像の水晶球を胸に抱いた小さな魔物は、懸命に森の中を走っていた。
猿のように木々の枝を、枝から枝へと飛び移り、茂みを抜けて走る。
だが、振り返ると後ろには凄まじい勢いであの黒い人形達が追い駆けてきていた。
アレは何だ
アレはおかしい
小さな魔物にもそれは理解できた。
森から現れた甲虫達にやられるどころか、反対に黒い靄を身体から生じさせたかと思うと、次の瞬間には辺り一面に爆発的な勢いで靄が広がり、周囲が薄暗い闇に包まれた。
その中で、雨のように何万という甲虫が落ちて地面に積み重なっていく光景は、恐ろしいものだった。
何なんだ
早く、早く逃げなくてはいけない
捕まってはマズイ
そんな気持ちで水晶玉を抱いた魔物は、行き来のために開いていた魔界への門が開いている池へ向かうと、恐怖に震えながらドボンと池の中に飛び込んだ。
水しぶきが上がる。
魔界への道を辿っている時に気が付いた。
まだ
まだついてきている!!
振り返らなくても分かる。背中の毛が恐怖に逆立っていた。
アレは同じように池に飛び込んで、開いたままの魔界への道を凄まじい勢いで辿り、追いかけてきていた。
このままだと追いつかれる。
それでもなんとか魔界への道を抜けて、魔界へやって来た瞬間に、小さな魔物は水晶球を床に落として悲鳴を上げた。
黒い靄が、キーキーと鳴き叫ぶ魔物の体を包み込み、やがて魔物もまた地面にバタンと倒れて動きを止めていた。
その目は恐怖に見開かれ、その息は完全に止まっていた。
魔界へやって来た小さな黒い人形と、それが跨る羊毛作りの羊の人形、そしてケンケンと鳴く黒い犬達は、周囲の様子を窺うように見回していた。
ここはどこだろうかというような態度である。
そして彼らは、またもや走るように動き出した。
古びてはいるが煉瓦作りの広い屋敷だった。
ここは魔界にあるオロバスの屋敷の一つで、この屋敷の一室でオロバス、甲虫の悪魔、淫魔のラーシェと“黒の司祭”達は、小さな魔物の持つ水晶玉を通じて映像を見ていたのだ。
オロバス達も、水晶玉を持った小さな魔物が何かに追われて逃げた末に、命を落としたことは察していた。叫び声と共に水晶玉が地面に落ちて、映像が途切れたからだ。
その追いかけてきたモノが、自分達の元へ、魔界へ渡って来たことを知った。
そのモノは、自分達を敵と認識しているようだった。
危険を察したオロバスは、ラーシェと“黒の司祭”に転移魔法陣を使って先に逃げておくように命じた(そして移動先ですぐに転移魔法陣を閉じるように命じる。小さな魔物と同様に、転移先まで追いかけてくる可能性があったからだ)。
ほどなくして、小さな黒い人形はオロバス達のいる広い部屋にやって来た。
甲虫の悪魔の巨大な蟲の体の前に、その人の拳ほどの大きさの、小さな小さな黒い人形が、カシャンカシャンと羊の胴体に結び付けられている鍋やヤカンなどの小物を揺らしながら現れた時、オロバスも甲虫の悪魔も目を疑った。
こんな小さな、真っ黒い人形に追いかけられているとは思わなかったからだ。
コレはなんだというように見た後、呟く。
「お前はなんだ」
当然の疑問だった。
だが、目も耳も口もない、真っ黒い人形はソレに応えることはない。応えることは出来ない。
彼は、みるからに地上へ大量の甲虫を呼び寄せたらしいその甲虫の悪魔を、敵だと認定すると、その身からブワリと黒い靄を溢れさせる。
すぐさま危険を感じたオロバスは、転移の術を唱えて転移する。
だが、すでに甲虫の悪魔は出遅れていた。
丸みを帯びた甲虫の巨体は、みるみる黒い靄に包まれ、そして一瞬、触角を動かしたかと思うとドスンとその巨体を床に倒した。ビクンビクンと痙攣を繰り返した後、動きを止めた。
しばらくの間、陶器の犬達は、ケンケンと鳴きながら甲虫の悪魔の巨体の周りを走り回っていたが、あっさりとその悪魔が死んだことを認めると、小さな人形達はまた影の中に溶けるように消えていったのだった。
猿のように木々の枝を、枝から枝へと飛び移り、茂みを抜けて走る。
だが、振り返ると後ろには凄まじい勢いであの黒い人形達が追い駆けてきていた。
アレは何だ
アレはおかしい
小さな魔物にもそれは理解できた。
森から現れた甲虫達にやられるどころか、反対に黒い靄を身体から生じさせたかと思うと、次の瞬間には辺り一面に爆発的な勢いで靄が広がり、周囲が薄暗い闇に包まれた。
その中で、雨のように何万という甲虫が落ちて地面に積み重なっていく光景は、恐ろしいものだった。
何なんだ
早く、早く逃げなくてはいけない
捕まってはマズイ
そんな気持ちで水晶玉を抱いた魔物は、行き来のために開いていた魔界への門が開いている池へ向かうと、恐怖に震えながらドボンと池の中に飛び込んだ。
水しぶきが上がる。
魔界への道を辿っている時に気が付いた。
まだ
まだついてきている!!
振り返らなくても分かる。背中の毛が恐怖に逆立っていた。
アレは同じように池に飛び込んで、開いたままの魔界への道を凄まじい勢いで辿り、追いかけてきていた。
このままだと追いつかれる。
それでもなんとか魔界への道を抜けて、魔界へやって来た瞬間に、小さな魔物は水晶球を床に落として悲鳴を上げた。
黒い靄が、キーキーと鳴き叫ぶ魔物の体を包み込み、やがて魔物もまた地面にバタンと倒れて動きを止めていた。
その目は恐怖に見開かれ、その息は完全に止まっていた。
魔界へやって来た小さな黒い人形と、それが跨る羊毛作りの羊の人形、そしてケンケンと鳴く黒い犬達は、周囲の様子を窺うように見回していた。
ここはどこだろうかというような態度である。
そして彼らは、またもや走るように動き出した。
古びてはいるが煉瓦作りの広い屋敷だった。
ここは魔界にあるオロバスの屋敷の一つで、この屋敷の一室でオロバス、甲虫の悪魔、淫魔のラーシェと“黒の司祭”達は、小さな魔物の持つ水晶玉を通じて映像を見ていたのだ。
オロバス達も、水晶玉を持った小さな魔物が何かに追われて逃げた末に、命を落としたことは察していた。叫び声と共に水晶玉が地面に落ちて、映像が途切れたからだ。
その追いかけてきたモノが、自分達の元へ、魔界へ渡って来たことを知った。
そのモノは、自分達を敵と認識しているようだった。
危険を察したオロバスは、ラーシェと“黒の司祭”に転移魔法陣を使って先に逃げておくように命じた(そして移動先ですぐに転移魔法陣を閉じるように命じる。小さな魔物と同様に、転移先まで追いかけてくる可能性があったからだ)。
ほどなくして、小さな黒い人形はオロバス達のいる広い部屋にやって来た。
甲虫の悪魔の巨大な蟲の体の前に、その人の拳ほどの大きさの、小さな小さな黒い人形が、カシャンカシャンと羊の胴体に結び付けられている鍋やヤカンなどの小物を揺らしながら現れた時、オロバスも甲虫の悪魔も目を疑った。
こんな小さな、真っ黒い人形に追いかけられているとは思わなかったからだ。
コレはなんだというように見た後、呟く。
「お前はなんだ」
当然の疑問だった。
だが、目も耳も口もない、真っ黒い人形はソレに応えることはない。応えることは出来ない。
彼は、みるからに地上へ大量の甲虫を呼び寄せたらしいその甲虫の悪魔を、敵だと認定すると、その身からブワリと黒い靄を溢れさせる。
すぐさま危険を感じたオロバスは、転移の術を唱えて転移する。
だが、すでに甲虫の悪魔は出遅れていた。
丸みを帯びた甲虫の巨体は、みるみる黒い靄に包まれ、そして一瞬、触角を動かしたかと思うとドスンとその巨体を床に倒した。ビクンビクンと痙攣を繰り返した後、動きを止めた。
しばらくの間、陶器の犬達は、ケンケンと鳴きながら甲虫の悪魔の巨体の周りを走り回っていたが、あっさりとその悪魔が死んだことを認めると、小さな人形達はまた影の中に溶けるように消えていったのだった。
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