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第二十八章 聖王国の最後の神子
第三話 神託
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バーナード騎士団長が聖王国へ渡る前、聖王国の大神殿には、ある神託が下された。
その神託があったからこそ、聖王国はバーナード騎士団長を神子の名で招くことにしたのだ。
神託にはこうあった。
『王国のバーナード騎士団長に、聖王国の持つ全ての欠片を渡すこと』
『供につく妖精の言葉に従うこと』
その神託に、聖王国の大神殿にいる高位の神官達は当然、困惑し、大混乱となった。
欠片というのは、代々の神子の魂から取り出されたものである。
取り出された欠片は白い宝珠の中に納めて安定化させる。その宝珠の量たるは、大きな壺五つ分にも達していた。初代の神子から先代神子のものまで、取り出された欠片は全てそこに在ったのだ。
それら全てを、他国のアルセウスの騎士に渡すというのかと、神官達は神託を受けてから、連日、喧々諤々の議論を交わしていた。欠片は、ほんの爪の先ほどの大きさのものでも恐ろしいほど豊かな魔力を蓄えており(神の欠片であるのだから当然である)、その価値たるや凄まじいものがあるのだ。
だが、神託は絶対である。逆らうことは許されない。
そして神託には最後にこうあった。
その言葉もまた、聖王国の神官達を揺るがせるものであった。
『現神子を最後に、神子は今後、生まれることはない』
その神託を聞いた時、マラケシュの心の中には安堵の思いがあった。
自分が、次の神子を選ぶことが無くなったのだ。
神子になるのは、この自分で最後になる。
ほっとした。
生まれた時からその魂に神の欠片を内在した神子は、親元から離され、この大神殿に連れて来られる。
そして多くの神官達にかしづかれて、妻帯することもなく、その生涯をこの大神殿の中で終える。
神子は次の神子を選ぶことが倣いだった。
それをしなくてよいことに、マラケシュは安堵した。
自分のような人間はもう二度と、現れないのだ。
だが一方で、疑問がある。
自分はそれでいい。
自分を最後に、聖王国の神子という存在は終わるだろう。
だが、バーナード騎士団長はどうなるのだろう?
過去の全ての欠片を受け取って、彼はどうなるのだろう?
当然、彼が、全てを引き受けることになる。
今まで、神子を狙っていた魔族からも、彼は狙われることになるだろう。
聖王国の神子は、大神殿の中で、神殿騎士に守られ、国全体の強固な結界でも守られている。
だが、バーナード騎士団長は、自身が非常に強い騎士とはいえ、誰にも守られてはいない。
そのことが心配だった。
だからこそ、咄嗟にそうした台詞がマラケシュの口から出てしまったのだ。
バーナード騎士団長が、聖王国に来てくれれば、自分がずっと守れるのに、と。
夜になり、小さな妖精がマラケシュの元へ飛んできた。
バーナード騎士団長は部屋で眠りについている。それを確認してから、小さな妖精ベンジャミンは、この聖王国の最後の神子の元へとやって来たのだった。
銀髪のふくふくしいほっぺをした愛らしい妖精は、神子マラケッシュを前に綺麗に一礼した。
「お会い出来て光栄に存じます。私はベンジャミンと申します。妖精族の大妖精の遣いで参りました。私がバーナード騎士団長の受け取るべき欠片をお預かり致します」
その言葉に、マラケシュはすぐにお付きの神官を呼び、ベンジャミンを大神殿の宝物庫に案内させた。
そこに、神の欠片を納めた壺が置かれているのだ。
ベンジャミンはどこからともなく、魔法の袋、いわゆるマジックバックという無限収納の袋を取りだすと、その壺ごと上から被せて、袋の中に全て納めてしまった。
一瞬で、全ての欠片を持ち去るベンジャミンに、その場にいた神官は元より、マラケシュも驚いたように小さな妖精を見ていた。
多くの神子達の魂に食い込み、内在して、ある意味神子達を苦しめてきた欠片が、一瞬で消えたのだ。
それは可笑しく思うほどだった。
「確かにすべて頂戴致しました」
ぺこりとベンジャミンは一礼する。
そして、神子マラケシュの目の前まで飛んで行くと、ベンジャミンは言った。
「マラケシュ様の魂に在る欠片は、マラケシュ様の最期の時に、この私がまたこちらへ伺い、頂戴致します。貴方様を最後に、聖王国にある神の魂の欠片は全て、無くなるのです」
「その欠片をどうするのですか」
マラケシュの問いかけに、ベンジャミンは微笑みながらもハッキリと言った。
「これから先のことにつきましては、神々のお考え、大妖精のお考えによるものになり、私のような下々の者の口からはお伝えすることは出来ません。悪しからずご了承ください」
そう言って一礼する。
台詞といい、態度といい、それはどこか慇懃無礼なものにも思えたが、この小さな妖精が神託を受けてやって来た特別な存在であるが故に、誰もそのことを注意できなかった。
賢しげな小さな妖精は、欠片の全てを受け取り、それをバーナード騎士団長に捧げるのだろう。
“淫魔の王女”位を持つバーナード騎士団長にそれを捧げる理由について、神官達も幾つかの推測をしていた。そしてその最も有力な推測が、彼の持つ実りの能力に、欠片の全てを注ぎ込むことだった。
バーナード騎士団長は、そう利用されることを、知っているのだろうか。
その神託があったからこそ、聖王国はバーナード騎士団長を神子の名で招くことにしたのだ。
神託にはこうあった。
『王国のバーナード騎士団長に、聖王国の持つ全ての欠片を渡すこと』
『供につく妖精の言葉に従うこと』
その神託に、聖王国の大神殿にいる高位の神官達は当然、困惑し、大混乱となった。
欠片というのは、代々の神子の魂から取り出されたものである。
取り出された欠片は白い宝珠の中に納めて安定化させる。その宝珠の量たるは、大きな壺五つ分にも達していた。初代の神子から先代神子のものまで、取り出された欠片は全てそこに在ったのだ。
それら全てを、他国のアルセウスの騎士に渡すというのかと、神官達は神託を受けてから、連日、喧々諤々の議論を交わしていた。欠片は、ほんの爪の先ほどの大きさのものでも恐ろしいほど豊かな魔力を蓄えており(神の欠片であるのだから当然である)、その価値たるや凄まじいものがあるのだ。
だが、神託は絶対である。逆らうことは許されない。
そして神託には最後にこうあった。
その言葉もまた、聖王国の神官達を揺るがせるものであった。
『現神子を最後に、神子は今後、生まれることはない』
その神託を聞いた時、マラケシュの心の中には安堵の思いがあった。
自分が、次の神子を選ぶことが無くなったのだ。
神子になるのは、この自分で最後になる。
ほっとした。
生まれた時からその魂に神の欠片を内在した神子は、親元から離され、この大神殿に連れて来られる。
そして多くの神官達にかしづかれて、妻帯することもなく、その生涯をこの大神殿の中で終える。
神子は次の神子を選ぶことが倣いだった。
それをしなくてよいことに、マラケシュは安堵した。
自分のような人間はもう二度と、現れないのだ。
だが一方で、疑問がある。
自分はそれでいい。
自分を最後に、聖王国の神子という存在は終わるだろう。
だが、バーナード騎士団長はどうなるのだろう?
過去の全ての欠片を受け取って、彼はどうなるのだろう?
当然、彼が、全てを引き受けることになる。
今まで、神子を狙っていた魔族からも、彼は狙われることになるだろう。
聖王国の神子は、大神殿の中で、神殿騎士に守られ、国全体の強固な結界でも守られている。
だが、バーナード騎士団長は、自身が非常に強い騎士とはいえ、誰にも守られてはいない。
そのことが心配だった。
だからこそ、咄嗟にそうした台詞がマラケシュの口から出てしまったのだ。
バーナード騎士団長が、聖王国に来てくれれば、自分がずっと守れるのに、と。
夜になり、小さな妖精がマラケシュの元へ飛んできた。
バーナード騎士団長は部屋で眠りについている。それを確認してから、小さな妖精ベンジャミンは、この聖王国の最後の神子の元へとやって来たのだった。
銀髪のふくふくしいほっぺをした愛らしい妖精は、神子マラケッシュを前に綺麗に一礼した。
「お会い出来て光栄に存じます。私はベンジャミンと申します。妖精族の大妖精の遣いで参りました。私がバーナード騎士団長の受け取るべき欠片をお預かり致します」
その言葉に、マラケシュはすぐにお付きの神官を呼び、ベンジャミンを大神殿の宝物庫に案内させた。
そこに、神の欠片を納めた壺が置かれているのだ。
ベンジャミンはどこからともなく、魔法の袋、いわゆるマジックバックという無限収納の袋を取りだすと、その壺ごと上から被せて、袋の中に全て納めてしまった。
一瞬で、全ての欠片を持ち去るベンジャミンに、その場にいた神官は元より、マラケシュも驚いたように小さな妖精を見ていた。
多くの神子達の魂に食い込み、内在して、ある意味神子達を苦しめてきた欠片が、一瞬で消えたのだ。
それは可笑しく思うほどだった。
「確かにすべて頂戴致しました」
ぺこりとベンジャミンは一礼する。
そして、神子マラケシュの目の前まで飛んで行くと、ベンジャミンは言った。
「マラケシュ様の魂に在る欠片は、マラケシュ様の最期の時に、この私がまたこちらへ伺い、頂戴致します。貴方様を最後に、聖王国にある神の魂の欠片は全て、無くなるのです」
「その欠片をどうするのですか」
マラケシュの問いかけに、ベンジャミンは微笑みながらもハッキリと言った。
「これから先のことにつきましては、神々のお考え、大妖精のお考えによるものになり、私のような下々の者の口からはお伝えすることは出来ません。悪しからずご了承ください」
そう言って一礼する。
台詞といい、態度といい、それはどこか慇懃無礼なものにも思えたが、この小さな妖精が神託を受けてやって来た特別な存在であるが故に、誰もそのことを注意できなかった。
賢しげな小さな妖精は、欠片の全てを受け取り、それをバーナード騎士団長に捧げるのだろう。
“淫魔の王女”位を持つバーナード騎士団長にそれを捧げる理由について、神官達も幾つかの推測をしていた。そしてその最も有力な推測が、彼の持つ実りの能力に、欠片の全てを注ぎ込むことだった。
バーナード騎士団長は、そう利用されることを、知っているのだろうか。
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