騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

副騎士団長との休日 (4)

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 事が終わった後、バートはしばらく両手で顔を覆って、動かないでいた。
 ノリに乗って、野外でやってしまったのだ。
 王国の騎士団長としてあるまじき行為である。
 それなのに、副騎士団長のフィリップは非常に機嫌がよく、今も裸のバートを抱きしめて、「すごく良かったです」「興奮しましたね」「たまには外もいいですね」とたわけた感想を述べている。

 いや、確かに自分も欲望が止められず、フィリップに人気のない茂みに連れて来られた時も反対もせず、自分自身も「早くシテくれ」とせがんだくらいだった。
 取り憑かれたように、フィリップを求めてしまった。
 淫魔だから仕方がないという諦めの気持ちもある。だが、自制をしなければならない。その自制がここ最近は非常に難しくて、すぐに流されてしまっている。
 
「この調子でシテいたら、すぐに実りそうだな」

 苦笑混じりでそう言うと、フィリップがバートの薄い腹の辺りをそっと撫でながら、聞いた。

「もう“器”はどれほど満ちていますか」

 その“器”がどれほど満ちているのかは、バート本人にしか分からない。バートは一瞬考え込むそぶりを見せて、自分の“器”の様子を探った。

 前に尋ねた時から、そう時間は経っていない。“器”はそう満ちていないだろう。
 フィリップもバートもそう考えていた。

 しかし、バートが口にした答えは違っていた。



「………………“器”は半分を越している」

 バート自身も驚いているような声だった。
 いつの間にやら、そんなに満ちているとは思ってもみなかった。
 以前様子を見た時には、五分の一ほどだったのに、急に嵩を増したと言える。

「半分になっているんですか。私達が頑張ったからでしょうか」
 
 バートは苦笑する。

「確かにここ最近は頑張っているが……」

 そう、子作り解禁となった今、二人で頑張って励んでいたことは確かであるが、それにしては、その反映が早すぎる。

「貴方が乗り気になって下さったから、器の満ちるスピードも上がったのではないでしょうか」

「…………そうなのだろうか」

「きっとそうですよ。これからも頑張れば、あっという間に、子が実りますよ。そうしたら、どこの霊樹に実らせるか決めないといけませんね」

「……………霊樹か」

「ええ。妖精の国の霊樹がいいでしょうね。王国にも霊樹はありますが、あそこは“王家の庭”という結界が張られているため、入ることが出来ません。なので、妖精の国の霊樹一択になります」

 その言葉に、バートはフィリップの顔を見つめ、何か考え込み、心を奪われたようなぼんやりとした様子で頷いた。

「そう……だな」

 バートの脳裏に浮かんでいたのは、王国の霊樹だった。
 青い空に枝を広げ、妖精達が飛び回る緑の巨木。そこに純白の衣装を身に付けて立つ、エドワード王太子の姿。あの霊樹の下で、妃と呼ばれ抱き締められた。

 なんとなく胸騒ぎがするバートであった。
 その胸騒ぎの原因が何であるのか分からない。
 しかし、あの碧い瞳をした美しい王太子と霊樹の光景が、瞼の裏にクッキリと残り、消えることはなかったのだった。
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