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第二十七章 新たな封印の指輪
第二話 隣国への訪問
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ランディア王国の都の中心部にある、レブラン伯爵の屋敷は大きく立派なものであった。
その門扉前に現れた十代半ばの、身なりの良い黒髪の少年は、手紙を手に門番にこう言った。
「約束はないのだが、ゼトゥ殿に取次を頼みたい」
丁寧な物言いに、一体誰であろうかと思いなら、門番は少年の名を伺った後、屋敷の奥に入り、主人レブランの護衛を務める大男に報告した。すると大男は驚き、慌てて門のところまで走って行った。
そこに、ピンと背筋を伸ばし、隙の無い身のこなしで立つバート少年を認め、いかつい顔を緩めた。
「お前から会いに来てくれたのか」
「……………」
違う、お前の方から会いに来られると困るからだと、バートは内心では言い放っていたが、バート少年はその内心は三十代の大人であるので、思慮深くそのことは口には出さず、淡々と述べた。
「父上の元に来られると困る。用件があるのなら、俺に伝えろ」
フィリップには王宮副魔術師長マグルの元へ行くと伝えたバーナード騎士団長は、マグルから“若返りの魔道具”を借り受けると、すぐさまその身を少年のものに変えて、隣国ランディアに転移魔法陣で移動した。そしてレブランの屋敷を訪ねたのだ。
ゼトゥは、わざわざ訪ねて来てくれたバートにどこか嬉しそうであった。
「折角来てくれたのだ。屋敷の中に入れ」
「ここで済ませられぬのか」
「ああ、入れ入れ」
そう言って、ゼトゥはバートの手を掴み、強引に屋敷の中へと引き込んだのだった。
憮然としながらも、バートは大人しくレブランの屋敷の中へ足を踏み入れた。
そして広大な敷地に建つ、立派なレブラン伯爵の屋敷に目を瞠っていた。
(これは、確かに凄い資産家だな)
交易で莫大な財を為したというレブラン伯爵。一国の王宮に匹敵する壮麗さを持ち、調度なども一流のものである。足音を吸い込むような毛足の長い絨毯の上を歩きながら、バートは壁に飾られている絵画などに黙って目を走らせていた。バートでさえもその名を知る高名な画家の手による絵画が無造作に飾られている。
応接室の一つに案内されると、ゼトゥは召使にお茶を頼み、二人向き合ってソファに座った。
「元気そうだな」
ゼトゥの問いかけに、バートは頷く。
「変わりはない」
「俺に会いに来てくれて嬉しい」
「…………お前に会いに来たわけではない。用件を済ませに来ただけだ。繰り返して言うが、父上をもう煩わせてくれるな。お前達が来ると困るのだ」
本当に色々と困る。
もう二度と、手紙を寄越したり、面会を求めたりしないで欲しい。
「また勝負をしよう」
こいつは人の話を聞いているのだろうか。
バートは内心、苛々としていた。
「勝負はついただろう。再度やる意味が分からぬ」
「お前は楽しくなかったのか。俺は楽しかったぞ。戦斧はお前に壊されてしまったが、今度は武器を同じ条件に揃えて勝負しよう。魔剣をレブラン様からお借りしてやるんだ」
ゼトゥの言葉に、バートはゆるゆると頭を振った。
「お前はおかしいぞ。命賭けての勝負など、繰り返すものではない。遊戯ではないのだからな」
「勝負の中でこそ、生きている実感はせぬのかバート」
ゼトゥはバートの茶色の目を覗き込むようにして言う。同意を得ようとする物言いだった。
戦いの中でこそ、最大限、自分の能力を引き出されるようにこの身は漲り、ドクドクと熱い血が身体中を巡る。足の爪先から頭のてっぺんまで神経が研ぎ澄まされる。勝つために身体が戦いを準備する。
そうした感覚は、命を介した戦いの中にこそ存在するのだ。
それをゼトゥは、目の前の少年も感じているはずだと思っていた。
自分と彼は、同じ感覚を持ち、敵味方に分かれて剣を交わしながらも、その感覚を分かち合える仲間のようなものであるとゼトゥは感じていた。
勝負に生きて、勝負に死ぬような、そんな者達なのだ。
「……」
“戦闘狂”だな。
バートは目の前の大男を見つめ、内心そう思った。
それは、以前戦いを挑んで来たイザックという男にも通じるものがあった。
戦いを挑みながらも、狂喜していたあの男。
戦いながらも、バーナードのことを「素晴らしい」と繰り返し絶賛し、戦うことが出来た幸運を感謝していた剣士だった。
(こいつらは、自分が倒されるまでこんな調子なのだろうか)
それはそれで、戦いを挑まれる方としては閉口してしまう。
吸血鬼であるゼトゥは、その心臓に杭を打ち込まれない限り、死ぬことはない。そんな怪物なのだ。
執着されるように、勝負を挑まれる方としてはたまらない。
どうしたものかと思っているところで、応接室の扉がノックされた。
そこに立っていたのは、一人の女性で、ネリアという女吸血鬼であった。
その門扉前に現れた十代半ばの、身なりの良い黒髪の少年は、手紙を手に門番にこう言った。
「約束はないのだが、ゼトゥ殿に取次を頼みたい」
丁寧な物言いに、一体誰であろうかと思いなら、門番は少年の名を伺った後、屋敷の奥に入り、主人レブランの護衛を務める大男に報告した。すると大男は驚き、慌てて門のところまで走って行った。
そこに、ピンと背筋を伸ばし、隙の無い身のこなしで立つバート少年を認め、いかつい顔を緩めた。
「お前から会いに来てくれたのか」
「……………」
違う、お前の方から会いに来られると困るからだと、バートは内心では言い放っていたが、バート少年はその内心は三十代の大人であるので、思慮深くそのことは口には出さず、淡々と述べた。
「父上の元に来られると困る。用件があるのなら、俺に伝えろ」
フィリップには王宮副魔術師長マグルの元へ行くと伝えたバーナード騎士団長は、マグルから“若返りの魔道具”を借り受けると、すぐさまその身を少年のものに変えて、隣国ランディアに転移魔法陣で移動した。そしてレブランの屋敷を訪ねたのだ。
ゼトゥは、わざわざ訪ねて来てくれたバートにどこか嬉しそうであった。
「折角来てくれたのだ。屋敷の中に入れ」
「ここで済ませられぬのか」
「ああ、入れ入れ」
そう言って、ゼトゥはバートの手を掴み、強引に屋敷の中へと引き込んだのだった。
憮然としながらも、バートは大人しくレブランの屋敷の中へ足を踏み入れた。
そして広大な敷地に建つ、立派なレブラン伯爵の屋敷に目を瞠っていた。
(これは、確かに凄い資産家だな)
交易で莫大な財を為したというレブラン伯爵。一国の王宮に匹敵する壮麗さを持ち、調度なども一流のものである。足音を吸い込むような毛足の長い絨毯の上を歩きながら、バートは壁に飾られている絵画などに黙って目を走らせていた。バートでさえもその名を知る高名な画家の手による絵画が無造作に飾られている。
応接室の一つに案内されると、ゼトゥは召使にお茶を頼み、二人向き合ってソファに座った。
「元気そうだな」
ゼトゥの問いかけに、バートは頷く。
「変わりはない」
「俺に会いに来てくれて嬉しい」
「…………お前に会いに来たわけではない。用件を済ませに来ただけだ。繰り返して言うが、父上をもう煩わせてくれるな。お前達が来ると困るのだ」
本当に色々と困る。
もう二度と、手紙を寄越したり、面会を求めたりしないで欲しい。
「また勝負をしよう」
こいつは人の話を聞いているのだろうか。
バートは内心、苛々としていた。
「勝負はついただろう。再度やる意味が分からぬ」
「お前は楽しくなかったのか。俺は楽しかったぞ。戦斧はお前に壊されてしまったが、今度は武器を同じ条件に揃えて勝負しよう。魔剣をレブラン様からお借りしてやるんだ」
ゼトゥの言葉に、バートはゆるゆると頭を振った。
「お前はおかしいぞ。命賭けての勝負など、繰り返すものではない。遊戯ではないのだからな」
「勝負の中でこそ、生きている実感はせぬのかバート」
ゼトゥはバートの茶色の目を覗き込むようにして言う。同意を得ようとする物言いだった。
戦いの中でこそ、最大限、自分の能力を引き出されるようにこの身は漲り、ドクドクと熱い血が身体中を巡る。足の爪先から頭のてっぺんまで神経が研ぎ澄まされる。勝つために身体が戦いを準備する。
そうした感覚は、命を介した戦いの中にこそ存在するのだ。
それをゼトゥは、目の前の少年も感じているはずだと思っていた。
自分と彼は、同じ感覚を持ち、敵味方に分かれて剣を交わしながらも、その感覚を分かち合える仲間のようなものであるとゼトゥは感じていた。
勝負に生きて、勝負に死ぬような、そんな者達なのだ。
「……」
“戦闘狂”だな。
バートは目の前の大男を見つめ、内心そう思った。
それは、以前戦いを挑んで来たイザックという男にも通じるものがあった。
戦いを挑みながらも、狂喜していたあの男。
戦いながらも、バーナードのことを「素晴らしい」と繰り返し絶賛し、戦うことが出来た幸運を感謝していた剣士だった。
(こいつらは、自分が倒されるまでこんな調子なのだろうか)
それはそれで、戦いを挑まれる方としては閉口してしまう。
吸血鬼であるゼトゥは、その心臓に杭を打ち込まれない限り、死ぬことはない。そんな怪物なのだ。
執着されるように、勝負を挑まれる方としてはたまらない。
どうしたものかと思っているところで、応接室の扉がノックされた。
そこに立っていたのは、一人の女性で、ネリアという女吸血鬼であった。
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