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第二十六章 騎士団長の長い一日
第二話 喜びの王宮副魔術師長
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「バーナード、フフフフフフ、僕はもう、十年前の僕とは違うんだよ」
王立騎士団の団長室に入って来るなり、王宮副魔術師長マグルは勝手に椅子に座り、片手を顎に手をやり、もう片手でキザッたらしく前髪をすいて見せた。
「そうか」
王立騎士団長バーナードは、淡々とそう言い、顔を上げることもなく書類仕事をこなしている。
一枚を決済済みの箱に入れた後、もう一枚は横に控えるフィリップ副騎士団長に手渡して、何か言って指示している。
マグルは立ち上がった。
「おいおいおい、そこは、どう違うんだと突っ込むべきところだろう!!」
理不尽にキレている。
「あー、十年前とどこか違うんですか」
仕方ないのでフィリップ副騎士団長がお義理で尋ねてくれる。
そこでようやく、マグルはわざとらしい笑顔を見せて言った。
「ほら、僕、十年前はペーペーの魔術師だっただろう? それがこの十年の間に、王宮副魔術師長まで昇りつめたんだ!!」
「はぁ……」
何を言いたいのか分からず、困惑した面持ちのフィリップ副騎士団長。
マグルは拳を握り締めて言った。
「権力!! そう、僕は権力を手に入れた!!」
くるりとその場で一回転し、両手を天に突き上げる。
オーバーな奴だと、バーナード騎士団長は親友にして、王宮副魔術師長という要職に就く男を呆れて眺めていた。
十年前から、地位は変わったが、その中身は子供のようであった。
「で、権力を手に入れてどうしたんだ」
仕方なしにバーナード騎士団長もマグルに尋ねてやると、マグルは満面の笑みで答えた。
「魔術会議に堂々と出席できるんだー!!」
ヤッターヤッターと万歳をしている。
そこでようやく、バーナード騎士団長も思い出したのだ。
十年前、やはり開催された魔術会議に、当時は王宮魔術師達の中でも平の身分であったマグルは、いかな才能があったとしても、出席することが叶わなかったのである。
彼は天涯孤独の身で、確たる後ろ盾もない。身分もない。
だから、当時の上司達に「お前は留守番だ」と言われても我慢するしかなく、大層悔しい思いをしていたらしい。
当時のマグルは「魔術会議に行けば、展示されている最新の魔道具もあれば、魔導書も山のようにある。どうしてこの僕が、行けないんだ」と本当に涙を浮かべて悔しがっていたのだ。
それが十年経って、彼は堂々とそれに出席できる身分を手に入れたというわけだ。
多くの魔術師達がこぞって出席するという魔術会議。
「そんなに多くの魔術師達が出払うと、国の護りが薄くなるのではないですか」
当然のフィリップの問いに、バーナードは答えた。
「最低限の留守番役を置いていくのが通例だ。だから、マグルは十年前は行けなかった。しかし、今回は行けるみたいで大喜びしているわけだ」
「なるほど。良かったですね、マグル」
そう言うフィリップに、マグルはクルリと振り向いて、「そうだろう!! フィリップ」と言う。
無邪気に大喜びしているその様子に、バーナードもまた笑って言った。
「おめでとう、マグル」
「ありがとう、バーナード!!」
心底、マグルは嬉しそうである。
王宮の魔術師達も数多く出席するであろう魔術会議であるが、王立騎士団にとっては全く関係のない話であった。
喜ぶマグルと裏腹に、騎士達は淡々と日々の仕事をこなしていたのだった。
王立騎士団の団長室に入って来るなり、王宮副魔術師長マグルは勝手に椅子に座り、片手を顎に手をやり、もう片手でキザッたらしく前髪をすいて見せた。
「そうか」
王立騎士団長バーナードは、淡々とそう言い、顔を上げることもなく書類仕事をこなしている。
一枚を決済済みの箱に入れた後、もう一枚は横に控えるフィリップ副騎士団長に手渡して、何か言って指示している。
マグルは立ち上がった。
「おいおいおい、そこは、どう違うんだと突っ込むべきところだろう!!」
理不尽にキレている。
「あー、十年前とどこか違うんですか」
仕方ないのでフィリップ副騎士団長がお義理で尋ねてくれる。
そこでようやく、マグルはわざとらしい笑顔を見せて言った。
「ほら、僕、十年前はペーペーの魔術師だっただろう? それがこの十年の間に、王宮副魔術師長まで昇りつめたんだ!!」
「はぁ……」
何を言いたいのか分からず、困惑した面持ちのフィリップ副騎士団長。
マグルは拳を握り締めて言った。
「権力!! そう、僕は権力を手に入れた!!」
くるりとその場で一回転し、両手を天に突き上げる。
オーバーな奴だと、バーナード騎士団長は親友にして、王宮副魔術師長という要職に就く男を呆れて眺めていた。
十年前から、地位は変わったが、その中身は子供のようであった。
「で、権力を手に入れてどうしたんだ」
仕方なしにバーナード騎士団長もマグルに尋ねてやると、マグルは満面の笑みで答えた。
「魔術会議に堂々と出席できるんだー!!」
ヤッターヤッターと万歳をしている。
そこでようやく、バーナード騎士団長も思い出したのだ。
十年前、やはり開催された魔術会議に、当時は王宮魔術師達の中でも平の身分であったマグルは、いかな才能があったとしても、出席することが叶わなかったのである。
彼は天涯孤独の身で、確たる後ろ盾もない。身分もない。
だから、当時の上司達に「お前は留守番だ」と言われても我慢するしかなく、大層悔しい思いをしていたらしい。
当時のマグルは「魔術会議に行けば、展示されている最新の魔道具もあれば、魔導書も山のようにある。どうしてこの僕が、行けないんだ」と本当に涙を浮かべて悔しがっていたのだ。
それが十年経って、彼は堂々とそれに出席できる身分を手に入れたというわけだ。
多くの魔術師達がこぞって出席するという魔術会議。
「そんなに多くの魔術師達が出払うと、国の護りが薄くなるのではないですか」
当然のフィリップの問いに、バーナードは答えた。
「最低限の留守番役を置いていくのが通例だ。だから、マグルは十年前は行けなかった。しかし、今回は行けるみたいで大喜びしているわけだ」
「なるほど。良かったですね、マグル」
そう言うフィリップに、マグルはクルリと振り向いて、「そうだろう!! フィリップ」と言う。
無邪気に大喜びしているその様子に、バーナードもまた笑って言った。
「おめでとう、マグル」
「ありがとう、バーナード!!」
心底、マグルは嬉しそうである。
王宮の魔術師達も数多く出席するであろう魔術会議であるが、王立騎士団にとっては全く関係のない話であった。
喜ぶマグルと裏腹に、騎士達は淡々と日々の仕事をこなしていたのだった。
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