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第二十五章 小さな妖精の罪ほろぼしと王太子の沈黙
第七話 その正体を知る(上)
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先日の盗賊団の捕縛に、王立騎士団バーナード騎士団長が飼う金色の仔犬が大活躍をしたという話を聞いて、近衛騎士団の騎士達はくやしさに歯噛みしていた。
それというのも、過去、近衛騎士団の中にも、バーナード騎士団長の飼う犬と匹敵するほどの賢い犬がいたからだ。
緑色のつぶらな瞳に、黒い毛並みのディーターという名の仔犬を、近衛騎士達は大層可愛がっていた。
それなのに、ある日、突然その仔犬は近衛騎士団の建物から消えてしまった。
しばらくの間、懸命にその行方を捜していた近衛騎士達であったが、一週間、二週間と仔犬が出て来ることが無く、更には仔犬の付けていた王家から下賜された金色のメダルが、近衛騎士団長のデスクに置かれていたことから、「覚悟して出ていったのだろう」と諦めの空気が流れ始めていた。
もしあの黒い仔犬が近衛騎士団にいたのなら、絶対に王立騎士団に後れを取ることなどなかったはずである。金色の仔犬よりも早く、盗賊の拠点を突き止めることが出来たはずだと信じている。
それも仔犬が居たらという前提の話であって、今はもう居ない。今更「たられば」を幾ら口にしても仕方のないことであった。
近衛騎士達は、虚しさを胸に抱えていた。
そんな気落ちした近衛騎士達の様子に、少しばかりジェラルドは胸を痛めていた。
それというのも、黒い仔犬は、ジェラルドの恋人である“人狼”のディーターの仮の姿であり、ディーターが恋人らしく過ごすため、仔犬の姿を取ることはもう止めると言ったから、近衛騎士団から黒い仔犬が姿を消すことになったのだ。
(それに、いくらみんなにせがまれても、今更、ディーターを近衛騎士団に戻すことは考えられない)
時間が経てば、近衛騎士達も黒い仔犬が居ないという状況に慣れていくはずだ。
そうジェラルドは願うしかなかった。
そしてその当の本人のディーターであるが、ジェラルドが購入した小さな小さな家で、愛しいジェラルドと共に仲良く暮らしていた。ジェラルドは近衛騎士団の騎士として毎日王宮に行き、残されたディーターは、小さな家の手入れをしたり、ジェラルドのために洗濯や掃除をし、時間があれば、庭から続く森の中に足を踏み入れて、獣を狩って来ては、夕食にその丸焼きを出したりする。そして夜になれば、愛しい恋人を思う存分愛するのだ。
ディーターにとって毎日が充実していた!!
人狼とは番のそばで暮らすことこそ幸福と信じる種族であるから、この穏やかで優しい日々に、ディーターはまさしく満足していたのだった。
少しばかり不満があるとすれば、とある事情から手配されることになってしまったディーターは、大人の姿をとることが出来ず、人目に触れることがある時は、十歳ほどの幼い姿でいなければならないことだった。だが、子供姿のディーターのことも、ジェラルドは「弟みたいで可愛い」と言って、ジェラルドの膝の上にのせて甘やかせてくれるので、番とイチャイチャすることが大好きなディーターとしては耐えきれない不満というわけではなかった。
子供の姿をとるためにも、“若返りの魔道具”は欠かせないもので、茶色い革製の首輪であったソレを、ディーターは今も右手首に腕輪のようにして付けている。そこに嵌められている黒い魔石には魔力が必要であったが、今もバーナード騎士団長が四週間に一度程度の割合で、魔力を込めにやって来てくれる。
以前の仔犬の姿の時は、夜も仔犬の姿を取っていたため、魔力が相当量必要であった。だが、現在、夜に腕輪の力は必要ない。そのため、今はもうバーナード騎士団長がわざわざ魔力を込めにやってくる頻度も少ない回数で良くなった。
ディーターは愛する番に隠し事をする気は一つもなかったため、この“若返りの魔道具”の話も、ジェラルドに話していたし、魔力を込めるためにバーナード騎士団長に協力してもらっていることも話していた。
王立騎士団の騎士団長に、そんな協力をしてもらっていることに、はじめ、ジェラルドは驚いていた。
少しだけ、話を聞いた時のジェラルドの頬が赤くなっていたことがディーターは気に入らなかった。
どうもジェラルドは、バーナード騎士団長に対して憧れの気持ちがあるようだ。
いや、ジェラルドだけではない。
近衛騎士団に居た時から感じていたのだが、近衛騎士団の騎士達は、バーナード騎士団長が他の騎士団に所属した者でありながらも、あの黒髪の騎士団長に畏怖や崇拝といった感情を抱いている。
(確かに、あのバーナードは強い奴だ)
美しい金色の人狼フィリップの番。
凛々しく逞しい黒髪の騎士の男。
人狼間では、他人の番のことを詮索することは嫌われる行為であったから、ディーターはフィリップの番のバーナードのことを調べたりするつもりはなかった。
だが、どう見てもバーナードはただの人間ではないだろう。
自分の首輪にたっぷりと魔力を注いでくれることは助かる。
それだけの魔力を込められる能力を人間の彼が持つことが驚きであった。
そして、副騎士団長として仕えるフィリップの、金色の人狼の愛情を真正面から受け止めている。
へばることもせずに平然と過ごしている様子が、不思議に感じられつつも羨ましい。
(俺のジェラルドは、あんまり可愛がり過ぎると寝込んでしまうから)
一晩中愛してあげたいのだが、二度三度と身体を重ねているうちに、ジェラルドが気絶したように眠ってしまうことが多々あった。
(番の身体が弱いことが気になる。もっと大事にしなければならない)
※ジェラルドは近衛騎士で、普通の人間よりも体力はありますが、それでも人狼のディーターの性欲には付き合い切れません。
ディーターは、ふと、そろそろバーナード騎士団長が自分の首輪に魔力を込めにやってくる頃合いだと気が付いた。前回、自分は彼に頼んでいたことがあったのだが、その約束を忘れてはいないだろうかと思ったのであった。
それというのも、過去、近衛騎士団の中にも、バーナード騎士団長の飼う犬と匹敵するほどの賢い犬がいたからだ。
緑色のつぶらな瞳に、黒い毛並みのディーターという名の仔犬を、近衛騎士達は大層可愛がっていた。
それなのに、ある日、突然その仔犬は近衛騎士団の建物から消えてしまった。
しばらくの間、懸命にその行方を捜していた近衛騎士達であったが、一週間、二週間と仔犬が出て来ることが無く、更には仔犬の付けていた王家から下賜された金色のメダルが、近衛騎士団長のデスクに置かれていたことから、「覚悟して出ていったのだろう」と諦めの空気が流れ始めていた。
もしあの黒い仔犬が近衛騎士団にいたのなら、絶対に王立騎士団に後れを取ることなどなかったはずである。金色の仔犬よりも早く、盗賊の拠点を突き止めることが出来たはずだと信じている。
それも仔犬が居たらという前提の話であって、今はもう居ない。今更「たられば」を幾ら口にしても仕方のないことであった。
近衛騎士達は、虚しさを胸に抱えていた。
そんな気落ちした近衛騎士達の様子に、少しばかりジェラルドは胸を痛めていた。
それというのも、黒い仔犬は、ジェラルドの恋人である“人狼”のディーターの仮の姿であり、ディーターが恋人らしく過ごすため、仔犬の姿を取ることはもう止めると言ったから、近衛騎士団から黒い仔犬が姿を消すことになったのだ。
(それに、いくらみんなにせがまれても、今更、ディーターを近衛騎士団に戻すことは考えられない)
時間が経てば、近衛騎士達も黒い仔犬が居ないという状況に慣れていくはずだ。
そうジェラルドは願うしかなかった。
そしてその当の本人のディーターであるが、ジェラルドが購入した小さな小さな家で、愛しいジェラルドと共に仲良く暮らしていた。ジェラルドは近衛騎士団の騎士として毎日王宮に行き、残されたディーターは、小さな家の手入れをしたり、ジェラルドのために洗濯や掃除をし、時間があれば、庭から続く森の中に足を踏み入れて、獣を狩って来ては、夕食にその丸焼きを出したりする。そして夜になれば、愛しい恋人を思う存分愛するのだ。
ディーターにとって毎日が充実していた!!
人狼とは番のそばで暮らすことこそ幸福と信じる種族であるから、この穏やかで優しい日々に、ディーターはまさしく満足していたのだった。
少しばかり不満があるとすれば、とある事情から手配されることになってしまったディーターは、大人の姿をとることが出来ず、人目に触れることがある時は、十歳ほどの幼い姿でいなければならないことだった。だが、子供姿のディーターのことも、ジェラルドは「弟みたいで可愛い」と言って、ジェラルドの膝の上にのせて甘やかせてくれるので、番とイチャイチャすることが大好きなディーターとしては耐えきれない不満というわけではなかった。
子供の姿をとるためにも、“若返りの魔道具”は欠かせないもので、茶色い革製の首輪であったソレを、ディーターは今も右手首に腕輪のようにして付けている。そこに嵌められている黒い魔石には魔力が必要であったが、今もバーナード騎士団長が四週間に一度程度の割合で、魔力を込めにやって来てくれる。
以前の仔犬の姿の時は、夜も仔犬の姿を取っていたため、魔力が相当量必要であった。だが、現在、夜に腕輪の力は必要ない。そのため、今はもうバーナード騎士団長がわざわざ魔力を込めにやってくる頻度も少ない回数で良くなった。
ディーターは愛する番に隠し事をする気は一つもなかったため、この“若返りの魔道具”の話も、ジェラルドに話していたし、魔力を込めるためにバーナード騎士団長に協力してもらっていることも話していた。
王立騎士団の騎士団長に、そんな協力をしてもらっていることに、はじめ、ジェラルドは驚いていた。
少しだけ、話を聞いた時のジェラルドの頬が赤くなっていたことがディーターは気に入らなかった。
どうもジェラルドは、バーナード騎士団長に対して憧れの気持ちがあるようだ。
いや、ジェラルドだけではない。
近衛騎士団に居た時から感じていたのだが、近衛騎士団の騎士達は、バーナード騎士団長が他の騎士団に所属した者でありながらも、あの黒髪の騎士団長に畏怖や崇拝といった感情を抱いている。
(確かに、あのバーナードは強い奴だ)
美しい金色の人狼フィリップの番。
凛々しく逞しい黒髪の騎士の男。
人狼間では、他人の番のことを詮索することは嫌われる行為であったから、ディーターはフィリップの番のバーナードのことを調べたりするつもりはなかった。
だが、どう見てもバーナードはただの人間ではないだろう。
自分の首輪にたっぷりと魔力を注いでくれることは助かる。
それだけの魔力を込められる能力を人間の彼が持つことが驚きであった。
そして、副騎士団長として仕えるフィリップの、金色の人狼の愛情を真正面から受け止めている。
へばることもせずに平然と過ごしている様子が、不思議に感じられつつも羨ましい。
(俺のジェラルドは、あんまり可愛がり過ぎると寝込んでしまうから)
一晩中愛してあげたいのだが、二度三度と身体を重ねているうちに、ジェラルドが気絶したように眠ってしまうことが多々あった。
(番の身体が弱いことが気になる。もっと大事にしなければならない)
※ジェラルドは近衛騎士で、普通の人間よりも体力はありますが、それでも人狼のディーターの性欲には付き合い切れません。
ディーターは、ふと、そろそろバーナード騎士団長が自分の首輪に魔力を込めにやってくる頃合いだと気が付いた。前回、自分は彼に頼んでいたことがあったのだが、その約束を忘れてはいないだろうかと思ったのであった。
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