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第二十五章 小さな妖精の罪ほろぼしと王太子の沈黙
第六話 小さな妖精の罪ほろぼし
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ベンジャミンは、朝も早い時間に、今度はバーナード騎士団長の元へと飛んで行った。
その日、彼はいつも居るフィリップの屋敷ではなく、王都の中心部にほど近い立派な屋敷に居た。
寝台で眠る彼のそばまでふよふよと飛んでいくと、パチリとその茶色の目を開ける。
一瞬、目の前に小さな妖精が居ることに驚いていたが、よく遊びに来るベンジャミンだと分かると、目を和ませていた。
「どうしたんだ、ベンジャミン」
「おはようございます。朝早くから、申し訳ありません」
「いや、そろそろ起きようと思っていたところだ。いい」
身を起き上がらせるバーナードのそばまで行くと、単刀直入にベンジャミンは尋ねた。
「バートという少年は誰なのですか?」
問いかけに、バーナードはあっさりと答えた。
「それは俺だ。魔法で少年に姿を変えた時に名乗る名が、バートだ」
「…………………………」
そうなれば、全て辻褄が合う。
霊樹に赴く王太子が連れていく、黒髪の男の子
お妃様と呼ばれる少年
王太子のいう、“特別な騎士”
「バーナード騎士団長は、エドワード王太子殿下のご寵愛を受けたことがあるのですか」
その問いかけに、バーナード騎士団長は黒髪を掻き上げ、ジロリとベンジャミンを睨みつけた。
「お前は、何を言っている」
「お答え下さい。とても大事なことなのです」
その問いかけに、バーナードは深くため息をついた。
「エドワード王太子は“最強王”の呪いを受けていることは、お前達も知っているだろう」
そう、この国の王家に脈々と受け継がれている呪いである。妖精達もそのことを知っていた。
「過去、呪いを受けている殿下を、お慰めする必要があった」
ベンジャミンは理解した。
“巨根・絶倫”というとんでもない呪いを受けている王子の欲を発散させる相手は、ただの人間では務まらない。
だが、淫魔であるバーナード騎士団長はそれを受け止めることが出来る、貴重な存在だった。
王太子に仕える騎士として、彼は忠節からそれを行ったのだろう。
バーナードの口ぶりからもそれを窺える。
一方の、あの王太子は彼のことを“特別な騎士”だと告げていた。その意味で、選んだ言葉は間違いない。
“淫魔の王女”位にある彼を抱くことになれば、王太子もまたフィリップと同様に精力を注いでいることになる。
その結果の実りも王太子は知っているのではないか。
“王家の庭”に在る霊樹の元へ、バーナード騎士団長を連れていったことも、あの王太子はその行動のもたらす結果を理解した上で行っていたのではないか。
つまりは、誰にも手が出せないあの霊樹の元なら、安全にバーナードとの実りを確保できると考えているのだ。
誰よりも早くから、あの王太子は実りを手に入れようとしていたのではないか。
碧い目をしたあの王太子の様子に、ベンジャミンは自分の推測が間違いないだろうと考えた。
(“王家の庭”の霊樹から、実りが生まれ落ちるまでは、“護る”という利害は一致しているから問題ないだろう)
(だが、実り、生まれ落ちたその子の確保となると……)
仮に妖精達がその子を確保するとなれば、あの人の国の王太子の怒りを買うことは間違いない。
ある意味、彼にも資格があるのだ。
実りの子の父親たる資格が。
黙って考え込むベンジャミンに、バーナード騎士団長は不思議そうな顔をしていたが、やがて朝の支度のために立ち上がり、着替え始めた。
その様子を見ながら、ベンジャミンは思った。
(何も知らぬということは幸福なことです)
未だに、彼は何も知らない。
その身に“神の欠片”を注ぎ込まれていることを。
そしてその小さな実が、霊樹に実り始めていることを知らない。
伯爵と呼ばれる吸血鬼と、ご隠居様と呼ばれる大妖精が、画策していることも知らない。
彼の仕える王太子が、その実りを“王家の庭”で静かに見守っていることも知らない。
それを知ったら、彼はどう思うだろう。そしてどういう行動を取るだろう。
とんでもないといって、実りを止めてしまうだろうか?
それは十分、あり得ると言って、ご隠居様はバーナード騎士団長に“神の欠片”を注いでいることを知らせないようにしている。
だから、彼は、自分の実らせる子が、愛する伴侶との子であると信じている。
フィリップ副騎士団長との子であることは間違いない。でも、その魂には“神の欠片”が混じっている。
更にはその子は王太子との間の子でもあるという。
ベンジャミンは深くため息をついた。
彼の知らぬ間に、子は実り、そして生まれ落ちる。
その子を求める手の、なんと数多いことか。
何としても、生まれ落ちるまでは無事に、護り通さなければならない。
それがある意味、ベンジャミンにとって、バーナード騎士団長に対する罪ほろぼしでもあった。
その日、彼はいつも居るフィリップの屋敷ではなく、王都の中心部にほど近い立派な屋敷に居た。
寝台で眠る彼のそばまでふよふよと飛んでいくと、パチリとその茶色の目を開ける。
一瞬、目の前に小さな妖精が居ることに驚いていたが、よく遊びに来るベンジャミンだと分かると、目を和ませていた。
「どうしたんだ、ベンジャミン」
「おはようございます。朝早くから、申し訳ありません」
「いや、そろそろ起きようと思っていたところだ。いい」
身を起き上がらせるバーナードのそばまで行くと、単刀直入にベンジャミンは尋ねた。
「バートという少年は誰なのですか?」
問いかけに、バーナードはあっさりと答えた。
「それは俺だ。魔法で少年に姿を変えた時に名乗る名が、バートだ」
「…………………………」
そうなれば、全て辻褄が合う。
霊樹に赴く王太子が連れていく、黒髪の男の子
お妃様と呼ばれる少年
王太子のいう、“特別な騎士”
「バーナード騎士団長は、エドワード王太子殿下のご寵愛を受けたことがあるのですか」
その問いかけに、バーナード騎士団長は黒髪を掻き上げ、ジロリとベンジャミンを睨みつけた。
「お前は、何を言っている」
「お答え下さい。とても大事なことなのです」
その問いかけに、バーナードは深くため息をついた。
「エドワード王太子は“最強王”の呪いを受けていることは、お前達も知っているだろう」
そう、この国の王家に脈々と受け継がれている呪いである。妖精達もそのことを知っていた。
「過去、呪いを受けている殿下を、お慰めする必要があった」
ベンジャミンは理解した。
“巨根・絶倫”というとんでもない呪いを受けている王子の欲を発散させる相手は、ただの人間では務まらない。
だが、淫魔であるバーナード騎士団長はそれを受け止めることが出来る、貴重な存在だった。
王太子に仕える騎士として、彼は忠節からそれを行ったのだろう。
バーナードの口ぶりからもそれを窺える。
一方の、あの王太子は彼のことを“特別な騎士”だと告げていた。その意味で、選んだ言葉は間違いない。
“淫魔の王女”位にある彼を抱くことになれば、王太子もまたフィリップと同様に精力を注いでいることになる。
その結果の実りも王太子は知っているのではないか。
“王家の庭”に在る霊樹の元へ、バーナード騎士団長を連れていったことも、あの王太子はその行動のもたらす結果を理解した上で行っていたのではないか。
つまりは、誰にも手が出せないあの霊樹の元なら、安全にバーナードとの実りを確保できると考えているのだ。
誰よりも早くから、あの王太子は実りを手に入れようとしていたのではないか。
碧い目をしたあの王太子の様子に、ベンジャミンは自分の推測が間違いないだろうと考えた。
(“王家の庭”の霊樹から、実りが生まれ落ちるまでは、“護る”という利害は一致しているから問題ないだろう)
(だが、実り、生まれ落ちたその子の確保となると……)
仮に妖精達がその子を確保するとなれば、あの人の国の王太子の怒りを買うことは間違いない。
ある意味、彼にも資格があるのだ。
実りの子の父親たる資格が。
黙って考え込むベンジャミンに、バーナード騎士団長は不思議そうな顔をしていたが、やがて朝の支度のために立ち上がり、着替え始めた。
その様子を見ながら、ベンジャミンは思った。
(何も知らぬということは幸福なことです)
未だに、彼は何も知らない。
その身に“神の欠片”を注ぎ込まれていることを。
そしてその小さな実が、霊樹に実り始めていることを知らない。
伯爵と呼ばれる吸血鬼と、ご隠居様と呼ばれる大妖精が、画策していることも知らない。
彼の仕える王太子が、その実りを“王家の庭”で静かに見守っていることも知らない。
それを知ったら、彼はどう思うだろう。そしてどういう行動を取るだろう。
とんでもないといって、実りを止めてしまうだろうか?
それは十分、あり得ると言って、ご隠居様はバーナード騎士団長に“神の欠片”を注いでいることを知らせないようにしている。
だから、彼は、自分の実らせる子が、愛する伴侶との子であると信じている。
フィリップ副騎士団長との子であることは間違いない。でも、その魂には“神の欠片”が混じっている。
更にはその子は王太子との間の子でもあるという。
ベンジャミンは深くため息をついた。
彼の知らぬ間に、子は実り、そして生まれ落ちる。
その子を求める手の、なんと数多いことか。
何としても、生まれ落ちるまでは無事に、護り通さなければならない。
それがある意味、ベンジャミンにとって、バーナード騎士団長に対する罪ほろぼしでもあった。
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