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第二十四章 夢のこども
第三話 驚きの提案(中)
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バーナードがフィリップの屋敷を訪れたのは、それから三日後のことであった。
フィリップが部屋の模様替えをすると言い、その間、屋敷には来ないで欲しい旨の知らせがあったからだ。
(部屋の模様替えか……それであいつの気分が少しでも晴れればいいが)
ここしばらく、フィリップは気落ちしている。
子供が欲しいのに、それをバーナードの前で口にできない不満が、フィリップの中で渦巻いているのを感じる。
バーナードはため息をついた。
(思っても仕方がないことだ。うまく折り合いをつけてくれればいいのだが)
そんなことを思いながら、フィリップの屋敷の扉を開けると(その日、フィリップは半休を取っており、先に屋敷へ帰宅していた)、フィリップがどこか晴れやかな笑顔でバーナードを迎えてくれた。
「お疲れ様です」
その笑顔を見て、バーナードも内心ほっとする。
彼が自分の中の感情をうまく処理できたようだと思ったのだ。
居間に足を進め、バーナードの羽織っていたマントを受け取るフィリップ。襟元を緩めながら、バーナードは部屋の中を見回した。
「模様替えをしたという話だが……」
居間の様子に変化はない。いつものテーブルにソファーに、壁紙だった。
「二階の廊下に、部屋を作りました」
「部屋?」
その言葉に、怪訝な表情をするバーナード。
模様替えと聞いていたが、部屋を新たに作るとは、大掛かりな工事ではないかと思ったのだ。しかし、三日でそれが終わったというのなら、大した工事ではなかったのか。
「ご覧になりますか」
「ああ」
フィリップはニコニコと笑顔でいる。
なんとなしに、その様子を見て、バーナードも自然に口元に笑みが零れた。
気落ちしたフィリップの姿を見るのは、バーナードも辛かった。
彼を悲しませたくなかったからだ。
(たとえ二人きりで、これから先、生きていくことになろうとも、俺はこいつを大切にして、この笑顔を守って生きていきたい)
軋む階段を上り、二階へ上がると、二階の廊下の奥の突き当りに新しい扉があった。
バーナードは明らかに不可解な顔をした。
その突き当りには、以前には窓があったのだ。
それが今は、茶色の扉があり、金色のノブが光っている。
おかしい。
この壁に扉を作ることなどできない。
その壁の向こうには、空が広がっているだけのはずだから。
「……………フィリップ、この扉の向こうに部屋なんぞないだろう」
不安が胸中に広がる。
「この扉は、私とバーナード、そしてマグルの三人だけが開けられるように“呪い”がかかっているそうです」
「…………………」
どういうことだと思いながら、バーナードはひんやりと冷たい金色のノブに手をかけ、それを回した。
押して扉を開けると。
目の前にはたくさんの小さな妖精達がわらわらと輪になって楽しそうに踊っていた。軽快な音楽まで流れて聞こえてくる。
バンッ
バーナードはすぐさま扉を勢いよく閉めた。
見てはならないものを見てしまったと思ったのだ。
バーナードはフィリップの顔を見つめる。
「おい……妖精が踊っていたぞ」
「はい」
「どうして妖精がいるんだ?」
「扉の向こうは“妖精の国”ですから。ご隠居様が、この屋敷から“妖精の国”の城へ直接通じる扉を作って下さいました」
その言葉に、バーナードは思い切り疑問の表情を見せた。
「……どういうことだ? 何故、俺達の住む屋敷に、そんな扉を作ったんだ?」
フィリップはバーナードの身体を抱きしめ、そして耳元で囁くように言ったのだ。
それは、小さな妖精ベンジャミンから告げられた提案であった。
「貴方が子を作ることへの不安を抱いているのは、私も知っています。子が魔族であったのなら、人の世界では辛酸を舐めるであろうことを心配しているのですよね。でも、もし子が人ではない者であったとしても、大丈夫です」
フィリップは眩しいような笑顔で、バーナードにこう告げた。
「この“妖精の国”に通じる扉の向こうの部屋で育てればいいのです」
バーナードは、口をぽかんと開けた。
「は?」
あまりにも驚いて、しばらくの間、空いた口が塞がらなかった。
フィリップが部屋の模様替えをすると言い、その間、屋敷には来ないで欲しい旨の知らせがあったからだ。
(部屋の模様替えか……それであいつの気分が少しでも晴れればいいが)
ここしばらく、フィリップは気落ちしている。
子供が欲しいのに、それをバーナードの前で口にできない不満が、フィリップの中で渦巻いているのを感じる。
バーナードはため息をついた。
(思っても仕方がないことだ。うまく折り合いをつけてくれればいいのだが)
そんなことを思いながら、フィリップの屋敷の扉を開けると(その日、フィリップは半休を取っており、先に屋敷へ帰宅していた)、フィリップがどこか晴れやかな笑顔でバーナードを迎えてくれた。
「お疲れ様です」
その笑顔を見て、バーナードも内心ほっとする。
彼が自分の中の感情をうまく処理できたようだと思ったのだ。
居間に足を進め、バーナードの羽織っていたマントを受け取るフィリップ。襟元を緩めながら、バーナードは部屋の中を見回した。
「模様替えをしたという話だが……」
居間の様子に変化はない。いつものテーブルにソファーに、壁紙だった。
「二階の廊下に、部屋を作りました」
「部屋?」
その言葉に、怪訝な表情をするバーナード。
模様替えと聞いていたが、部屋を新たに作るとは、大掛かりな工事ではないかと思ったのだ。しかし、三日でそれが終わったというのなら、大した工事ではなかったのか。
「ご覧になりますか」
「ああ」
フィリップはニコニコと笑顔でいる。
なんとなしに、その様子を見て、バーナードも自然に口元に笑みが零れた。
気落ちしたフィリップの姿を見るのは、バーナードも辛かった。
彼を悲しませたくなかったからだ。
(たとえ二人きりで、これから先、生きていくことになろうとも、俺はこいつを大切にして、この笑顔を守って生きていきたい)
軋む階段を上り、二階へ上がると、二階の廊下の奥の突き当りに新しい扉があった。
バーナードは明らかに不可解な顔をした。
その突き当りには、以前には窓があったのだ。
それが今は、茶色の扉があり、金色のノブが光っている。
おかしい。
この壁に扉を作ることなどできない。
その壁の向こうには、空が広がっているだけのはずだから。
「……………フィリップ、この扉の向こうに部屋なんぞないだろう」
不安が胸中に広がる。
「この扉は、私とバーナード、そしてマグルの三人だけが開けられるように“呪い”がかかっているそうです」
「…………………」
どういうことだと思いながら、バーナードはひんやりと冷たい金色のノブに手をかけ、それを回した。
押して扉を開けると。
目の前にはたくさんの小さな妖精達がわらわらと輪になって楽しそうに踊っていた。軽快な音楽まで流れて聞こえてくる。
バンッ
バーナードはすぐさま扉を勢いよく閉めた。
見てはならないものを見てしまったと思ったのだ。
バーナードはフィリップの顔を見つめる。
「おい……妖精が踊っていたぞ」
「はい」
「どうして妖精がいるんだ?」
「扉の向こうは“妖精の国”ですから。ご隠居様が、この屋敷から“妖精の国”の城へ直接通じる扉を作って下さいました」
その言葉に、バーナードは思い切り疑問の表情を見せた。
「……どういうことだ? 何故、俺達の住む屋敷に、そんな扉を作ったんだ?」
フィリップはバーナードの身体を抱きしめ、そして耳元で囁くように言ったのだ。
それは、小さな妖精ベンジャミンから告げられた提案であった。
「貴方が子を作ることへの不安を抱いているのは、私も知っています。子が魔族であったのなら、人の世界では辛酸を舐めるであろうことを心配しているのですよね。でも、もし子が人ではない者であったとしても、大丈夫です」
フィリップは眩しいような笑顔で、バーナードにこう告げた。
「この“妖精の国”に通じる扉の向こうの部屋で育てればいいのです」
バーナードは、口をぽかんと開けた。
「は?」
あまりにも驚いて、しばらくの間、空いた口が塞がらなかった。
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