騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
378 / 560
第二十四章 夢のこども

第三話 驚きの提案(中)

しおりを挟む
 バーナードがフィリップの屋敷を訪れたのは、それから三日後のことであった。
 フィリップが部屋の模様替えをすると言い、その間、屋敷には来ないで欲しい旨の知らせがあったからだ。
 
(部屋の模様替えか……それであいつの気分が少しでも晴れればいいが)

 ここしばらく、フィリップは気落ちしている。
 
 子供が欲しいのに、それをバーナードの前で口にできない不満が、フィリップの中で渦巻いているのを感じる。

 バーナードはため息をついた。

(思っても仕方がないことだ。うまく折り合いをつけてくれればいいのだが)

 そんなことを思いながら、フィリップの屋敷の扉を開けると(その日、フィリップは半休を取っており、先に屋敷へ帰宅していた)、フィリップがどこか晴れやかな笑顔でバーナードを迎えてくれた。

「お疲れ様です」

 その笑顔を見て、バーナードも内心ほっとする。
 彼が自分の中の感情をうまく処理できたようだと思ったのだ。
 居間に足を進め、バーナードの羽織っていたマントを受け取るフィリップ。襟元を緩めながら、バーナードは部屋の中を見回した。

「模様替えをしたという話だが……」

 居間の様子に変化はない。いつものテーブルにソファーに、壁紙だった。

「二階の廊下に、部屋を作りました」

「部屋?」

 その言葉に、怪訝な表情をするバーナード。
 模様替えと聞いていたが、部屋を新たに作るとは、大掛かりな工事ではないかと思ったのだ。しかし、三日でそれが終わったというのなら、大した工事ではなかったのか。

「ご覧になりますか」

「ああ」

 フィリップはニコニコと笑顔でいる。
 なんとなしに、その様子を見て、バーナードも自然に口元に笑みが零れた。
 気落ちしたフィリップの姿を見るのは、バーナードも辛かった。
 彼を悲しませたくなかったからだ。

(たとえ二人きりで、これから先、生きていくことになろうとも、俺はこいつを大切にして、この笑顔を守って生きていきたい)

 軋む階段を上り、二階へ上がると、二階の廊下の奥の突き当りに新しい扉があった。
 バーナードは明らかに不可解な顔をした。
 その突き当りには、以前には窓があったのだ。
 それが今は、茶色の扉があり、金色のノブが光っている。

 おかしい。
 この壁に扉を作ることなどできない。
 その壁の向こうには、空が広がっているだけのはずだから。

「……………フィリップ、この扉の向こうに部屋なんぞないだろう」

 不安が胸中に広がる。

「この扉は、私とバーナード、そしてマグルの三人だけが開けられるように“まじない”がかかっているそうです」

「…………………」

 どういうことだと思いながら、バーナードはひんやりと冷たい金色のノブに手をかけ、それを回した。
 押して扉を開けると。
 目の前にはたくさんの小さな妖精達がわらわらと輪になって楽しそうに踊っていた。軽快な音楽まで流れて聞こえてくる。


 バンッ

 バーナードはすぐさま扉を勢いよく閉めた。
 見てはならないものを見てしまったと思ったのだ。
 バーナードはフィリップの顔を見つめる。

「おい……妖精が踊っていたぞ」

「はい」

「どうして妖精がいるんだ?」

「扉の向こうは“妖精の国”ですから。ご隠居様が、この屋敷から“妖精の国”の城へ直接通じる扉を作って下さいました」

 その言葉に、バーナードは思い切り疑問の表情を見せた。

「……どういうことだ? 何故、俺達の住む屋敷に、そんな扉を作ったんだ?」

 フィリップはバーナードの身体を抱きしめ、そして耳元で囁くように言ったのだ。
 それは、小さな妖精ベンジャミンから告げられた提案であった。




「貴方が子を作ることへの不安を抱いているのは、私も知っています。子が魔族であったのなら、人の世界では辛酸を舐めるであろうことを心配しているのですよね。でも、もし子が人ではない者であったとしても、大丈夫です」

 フィリップは眩しいような笑顔で、バーナードにこう告げた。

「この“妖精の国”に通じる扉の向こうの部屋で育てればいいのです」

 バーナードは、口をぽかんと開けた。

「は?」

 あまりにも驚いて、しばらくの間、空いた口が塞がらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴
ファンタジー
●実は「魔王のひ孫」だった初心者魔王が本物魔王を目指す、まったりストーリー● ►30才、フリーター兼同人作家の俺は、いきなり魔王に殺されて、異世界に魔王の身代わりとして転生。 俺の愛する二次嫁そっくりな女騎士さんを拉致って、魔王城で繰り広げられるラブコメ展開。 しかし、俺の嫁はそんな女じゃねえよ!!  理想と現実に揺れる俺と、軟禁生活でなげやりな女騎士さん、二人の気持ちはどこに向かうのか――。『一巻お茶の間編あらすじ』   ►長い大戦のために枯渇した国庫を元に戻すため、金策をしにダンジョンに潜った魔王一行。 魔王は全ての魔法が使えるけど、全てLV1未満でPTのお荷物に。 下へ下へと進むPTだったが、ダンジョン最深部では未知の生物が大量発生していた。このままでは魔王国に危害が及ぶ。 魔王たちが原因を究明すべく更に進むと、そこは別の異世界に通じていた。 謎の生物、崩壊寸前な別の異世界、一巻から一転、アクションありドラマありの本格ファンタジー。『二巻ダンジョン編あらすじ』   (この世界の魔族はまるマ的なものです) ※ただいま第二巻、ダンジョン編連載中!※ ※第一巻、お茶の間編完結しました!※   舞台……魔族の国。主に城内お茶の間。もしくはダンジョン。   登場人物……元同人作家の初心者魔王、あやうく悪役令嬢になるところだった女騎士、マッドな兎耳薬師、城に住み着いている古竜神、女賞金稼ぎと魔族の黒騎士カップル、アラサークールメイド&ティーン中二メイド、ガチムチ親衛隊長、ダンジョンに出会いを求める剣士、料理好きなドワーフ、からくり人形、エロエロ女吸血鬼、幽霊執事、親衛隊一行、宰相等々。 HJ大賞2020後期一次通過・カクヨム併載 【HOTランキング二位ありがとうございます!:11/21】

メス喘ぎレッスン帖 ─団長、奥さんを抱く前に俺と発声練習しましょう!─

雲丹はち
BL
セックス経験ゼロのまま結婚しちゃった騎士団長に年下副官が初夜のイロハを教え込む話。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい

雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。 賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい…… 一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長 ※ご都合主義です ※無理矢理な描写があります。 ※他サイトからの転載dす

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...