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【短編】
とんだ騒動 (4)
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妃殿下の前に出るにふさわしい上質な装いに(無理やり)改めさせられたバートは、エドワード王太子にその手を掴まれ、更には前と後ろをリュイとラーナに固められ、逃げることを許されないような様子で、セーラ妃の住まう建物へ案内される。
セーラ妃の宮の、応接室へ招き入れられると、ほどなくして美しく着飾ったセーラ妃が入ってきた。
彼女は、夫であるエドワード王太子もバートと一緒にいることに一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま笑顔を見せる。
「殿下もいらして下さったのですね」
「ああ、私も同席させてもらおう」
二人は微笑み合っている。
一方のバートは、目に光を失い、どこか虚ろであった。
(…………何故、俺がこんな場所にいなければならないんだ)
バーナード騎士団長としては、セーラ妃には何度も会っている。
セーラ妃が子を出産した折には、直々にお祝いを申し上げたくらいだ。
セーラ妃はバートを見ても、その中身がバーナード騎士団長であると気づいている様子はない。
当然だろう。
騎士団長が、“若返りの魔道具”を使って少年の姿で現れることなど考えもよらないであろうから。
バートを見る彼女の目には純粋な、好意があった。
そのことが、バートには理解できなかった。
普通、妻は夫の愛人を嫌悪し、憎悪するものだろう。
だから、エドワード王太子と関係のあるバートを、セーラ妃が冷ややかに侮蔑して見てもおかしくはなかった。
バーナードが知る正妻と夫の愛人達の関係は、ドロドロとしたもので、時に血生臭い争いすら生み出してしまう。やれ毒を盛られたとか、「この泥棒猫が」と叫びながら妻と愛人同士でつかみ合いの喧嘩になったいう話を耳にする。
それなのに、正妃である彼女はバートを温かく歓迎しているのだ。
「初めまして、バート。貴方と会うのは初めてですね」
バート少年は一礼した。
「セーラ妃殿下、お会いできて光栄です」
殿下、セーラ妃、そしてバートの三人は白いテーブルクロスの張られた丸テーブルの席に就く。女官達が音も立てずに茶器を運び、菓子の載ったトレーを置いていく。
(…………なんなんだ、この茶番は)
針の筵であった。
だが、セーラ妃は笑顔で、エドワード王太子も微笑みを浮かべている。
バートだけが引きつった顔でいた。
愛人を前に、妻とその夫でお茶会か!!
おかしいだろう!!
いっそのこと、この場から走り出して窓を破って脱走してしまいたかった。
いやもう、いっそ、そうしてしまおうかと真剣に考えている時、セーラ妃が恥ずかしそうにこう言った。
「わたくし、ずっと前からバート、貴方とお会いしたかったのです。手紙にも書きましたが、殿下にお仕えする者同士、どうぞこれからも仲良く致しましょう」
その時勧められたお茶や菓子は、最高級のもので、非常に美味しかったはずなのだが、砂の味しかしなかった。
その後、どうセーラ妃の宮を後にしたのか記憶がない。
そして与えられている部屋に戻ってきたバートの身体を、エドワードは抱きしめ、その耳元で言った。
「セーラは私達のことを認めているんだ。バート、だからお前は安心して……」
その後、エドワードがなんとバートの耳に囁いたのか聞こえなかった。
もう聞きたくなかった。
バートはふらふらとしながら、なんとか王宮を後にしたのであった。
セーラ妃の宮の、応接室へ招き入れられると、ほどなくして美しく着飾ったセーラ妃が入ってきた。
彼女は、夫であるエドワード王太子もバートと一緒にいることに一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま笑顔を見せる。
「殿下もいらして下さったのですね」
「ああ、私も同席させてもらおう」
二人は微笑み合っている。
一方のバートは、目に光を失い、どこか虚ろであった。
(…………何故、俺がこんな場所にいなければならないんだ)
バーナード騎士団長としては、セーラ妃には何度も会っている。
セーラ妃が子を出産した折には、直々にお祝いを申し上げたくらいだ。
セーラ妃はバートを見ても、その中身がバーナード騎士団長であると気づいている様子はない。
当然だろう。
騎士団長が、“若返りの魔道具”を使って少年の姿で現れることなど考えもよらないであろうから。
バートを見る彼女の目には純粋な、好意があった。
そのことが、バートには理解できなかった。
普通、妻は夫の愛人を嫌悪し、憎悪するものだろう。
だから、エドワード王太子と関係のあるバートを、セーラ妃が冷ややかに侮蔑して見てもおかしくはなかった。
バーナードが知る正妻と夫の愛人達の関係は、ドロドロとしたもので、時に血生臭い争いすら生み出してしまう。やれ毒を盛られたとか、「この泥棒猫が」と叫びながら妻と愛人同士でつかみ合いの喧嘩になったいう話を耳にする。
それなのに、正妃である彼女はバートを温かく歓迎しているのだ。
「初めまして、バート。貴方と会うのは初めてですね」
バート少年は一礼した。
「セーラ妃殿下、お会いできて光栄です」
殿下、セーラ妃、そしてバートの三人は白いテーブルクロスの張られた丸テーブルの席に就く。女官達が音も立てずに茶器を運び、菓子の載ったトレーを置いていく。
(…………なんなんだ、この茶番は)
針の筵であった。
だが、セーラ妃は笑顔で、エドワード王太子も微笑みを浮かべている。
バートだけが引きつった顔でいた。
愛人を前に、妻とその夫でお茶会か!!
おかしいだろう!!
いっそのこと、この場から走り出して窓を破って脱走してしまいたかった。
いやもう、いっそ、そうしてしまおうかと真剣に考えている時、セーラ妃が恥ずかしそうにこう言った。
「わたくし、ずっと前からバート、貴方とお会いしたかったのです。手紙にも書きましたが、殿下にお仕えする者同士、どうぞこれからも仲良く致しましょう」
その時勧められたお茶や菓子は、最高級のもので、非常に美味しかったはずなのだが、砂の味しかしなかった。
その後、どうセーラ妃の宮を後にしたのか記憶がない。
そして与えられている部屋に戻ってきたバートの身体を、エドワードは抱きしめ、その耳元で言った。
「セーラは私達のことを認めているんだ。バート、だからお前は安心して……」
その後、エドワードがなんとバートの耳に囁いたのか聞こえなかった。
もう聞きたくなかった。
バートはふらふらとしながら、なんとか王宮を後にしたのであった。
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