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第二十三章 砕け散る魔剣
第九話 ついてきた刺客(上)
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アルセウス王国へ帰国したバーナード騎士団長は、王宮の陛下の御前でランディア王国での魔獣討伐の報告を行い、シュルフス魔術師長から託された魔法陣の解析記録を王宮魔術師長に提出した。
陛下より、直々に討伐の成果を讃えられ、バーナードら派遣されていた騎士達は、三日間の休暇を与えられる。
バーナードは王宮からすぐに、王立騎士団の拠点に足を向け、フィリップ副騎士団長の元を訪ねた。
バーナードはランディア王国へ渡ったとしても、何度か夢の中でフィリップと会っていた。どんなに離れていても、夢の中で会おうと思えば会えるところが淫魔の良い点である。けれどこうして、直接会うことはまた違う。
会った瞬間に、フィリップ副騎士団長はバーナードを抱きしめ、彼の無事の帰国を心の底から喜んだ。
声を弾ませて言う。
「二週間、ご苦労様でした。ご無事でのご帰国なによりです」
「ああ」
フィリップがバーナードの全身に目を走らせる。
「怪我もないようですね。良かった」
笑顔で自分を見つめる。そのフィリップの金色の髪をバーナードは軽く撫でた。
「久しぶりだな」
「はい」
見つめ合う二人の視線は柔らかく、再会の喜びに満ちていることが互いに分かった。
「騎士団は変わりはないか」
「はい、何事もなく、いつも通りであります」
きちんと副騎士団長のフィリップが統率していてくれた。彼にはその能力があることをバーナードもよく知っていた。自分の片腕ともいえる男だったからだ。
「よくやったな」
その彼の顎に手をやり、形の良い唇に指で触れる。
その唇につい、口付けをしたくなったが、ここは騎士団の拠点の団長室である。自制しなくてはならない。
その手が唇から離れようとした時、ぐっとフィリップは彼の手を掴んだ。
「……フィリップ」
フィリップの唇が、バーナードの指を軽く噛んだ。じっとその青い目が、バーナードを見つめる。
ゾクリとするほどの、男の色気をたたえていた。
くわえた口の中で、舌がその指を舐める。
「よせ」と声を上げたかったが、声が出ない。
フィリップの仕草を見ているだけで、バーナードもまた身体の奥が熱くなるのを感じていた。
「半休を取っています。一緒に私の屋敷に帰りましょう」
フィリップの目は、バーナードの上から決して離れない。
どんな遠くへ行っても、どんな危険な目に遭ったとしても、彼は必ず自分の許へ帰って来てくれることを信じている。
飛び立つ鳥が、止まり木にとまるように、彼もまた自分の許で心安らかに翼を休めて欲しかった。
そして二人はフィリップの屋敷へ帰り、それまでの日々と同じ日常を送るはずだった。
だが、屋敷へ帰宅して早々、フィリップはひどく苛立った様子だった。
拠点からフィリップの屋敷へ帰る道中、つけられている気配をずっと感じていたからだ。
そしてその気配はその後も消えない。
「誰かに見られていますね」
これでは気が休まらない。
バーナードは、騎士団の制服から、シャツにズボンというラフな格好に着替えた後、腰にまた剣を下げた。
「バーナード?」
「ランディアからつけて来たのだろう。面倒だ。話してくる」
任務を果たした隣国からつけて来ているとは何事だという視線で見るフィリップに、バーナードは「心配するな」と淡々と言う。
そう言われても、心配しないはずがない。
「私も行きます」
「……お前は手を出すなよ」
バーナードはフィリップの屋敷の裏庭に続く扉を開けた。
彼の屋敷は裏庭が森に面している。夕暮れ時ともなれば、薄暗くなり人気もなく静かであった。
穏やかな話し合いになることはないだろうと、バーナードは考えていた。
その話し合いは、あのランディア王国ですでに終えていた。
このタイミングでついてきた気配は、あの魔剣を欲しがるレブラン教授に関係する者しか思いつかなかった。
そしてその考えは間違えていなかった。
森の木々の間から、するりと一人の男が姿を現した。
笑みを浮かべながら現れたその男の顔を、バーナードは忘れていなかった。
面会に来たレブラン教授のそばで、護衛のように立っていた剣士である。
「おやおや、屋敷から出て来てくれたのですか」
「連れが、貴様の気配がうるさいと迷惑している」
「私の気配を察することができるなど、お連れ様も素晴らしい感覚の持ち主ですね。バーナード騎士団長」
男はうっそりと笑みを浮かべる。
その目は闇の中で、ギラギラとどこか赤く輝いていた。
彼の手が、腰の剣に伸びている。
「剣士たるもの、剣によってのみ話し合えるでしょう。騎士団長、貴方もそういう人だと思います」
そして彼は剣を一息で抜いて、前へと足を進めたのだった。
バーナードも腰の剣を鞘から抜いて、勢いよく前へと身体を進める。
二人の剣と剣が切り結ぶ。
フィリップは、呆然と、突然裏庭で激しく斬り合いを始めた二人の男の姿を見つめていた。
陛下より、直々に討伐の成果を讃えられ、バーナードら派遣されていた騎士達は、三日間の休暇を与えられる。
バーナードは王宮からすぐに、王立騎士団の拠点に足を向け、フィリップ副騎士団長の元を訪ねた。
バーナードはランディア王国へ渡ったとしても、何度か夢の中でフィリップと会っていた。どんなに離れていても、夢の中で会おうと思えば会えるところが淫魔の良い点である。けれどこうして、直接会うことはまた違う。
会った瞬間に、フィリップ副騎士団長はバーナードを抱きしめ、彼の無事の帰国を心の底から喜んだ。
声を弾ませて言う。
「二週間、ご苦労様でした。ご無事でのご帰国なによりです」
「ああ」
フィリップがバーナードの全身に目を走らせる。
「怪我もないようですね。良かった」
笑顔で自分を見つめる。そのフィリップの金色の髪をバーナードは軽く撫でた。
「久しぶりだな」
「はい」
見つめ合う二人の視線は柔らかく、再会の喜びに満ちていることが互いに分かった。
「騎士団は変わりはないか」
「はい、何事もなく、いつも通りであります」
きちんと副騎士団長のフィリップが統率していてくれた。彼にはその能力があることをバーナードもよく知っていた。自分の片腕ともいえる男だったからだ。
「よくやったな」
その彼の顎に手をやり、形の良い唇に指で触れる。
その唇につい、口付けをしたくなったが、ここは騎士団の拠点の団長室である。自制しなくてはならない。
その手が唇から離れようとした時、ぐっとフィリップは彼の手を掴んだ。
「……フィリップ」
フィリップの唇が、バーナードの指を軽く噛んだ。じっとその青い目が、バーナードを見つめる。
ゾクリとするほどの、男の色気をたたえていた。
くわえた口の中で、舌がその指を舐める。
「よせ」と声を上げたかったが、声が出ない。
フィリップの仕草を見ているだけで、バーナードもまた身体の奥が熱くなるのを感じていた。
「半休を取っています。一緒に私の屋敷に帰りましょう」
フィリップの目は、バーナードの上から決して離れない。
どんな遠くへ行っても、どんな危険な目に遭ったとしても、彼は必ず自分の許へ帰って来てくれることを信じている。
飛び立つ鳥が、止まり木にとまるように、彼もまた自分の許で心安らかに翼を休めて欲しかった。
そして二人はフィリップの屋敷へ帰り、それまでの日々と同じ日常を送るはずだった。
だが、屋敷へ帰宅して早々、フィリップはひどく苛立った様子だった。
拠点からフィリップの屋敷へ帰る道中、つけられている気配をずっと感じていたからだ。
そしてその気配はその後も消えない。
「誰かに見られていますね」
これでは気が休まらない。
バーナードは、騎士団の制服から、シャツにズボンというラフな格好に着替えた後、腰にまた剣を下げた。
「バーナード?」
「ランディアからつけて来たのだろう。面倒だ。話してくる」
任務を果たした隣国からつけて来ているとは何事だという視線で見るフィリップに、バーナードは「心配するな」と淡々と言う。
そう言われても、心配しないはずがない。
「私も行きます」
「……お前は手を出すなよ」
バーナードはフィリップの屋敷の裏庭に続く扉を開けた。
彼の屋敷は裏庭が森に面している。夕暮れ時ともなれば、薄暗くなり人気もなく静かであった。
穏やかな話し合いになることはないだろうと、バーナードは考えていた。
その話し合いは、あのランディア王国ですでに終えていた。
このタイミングでついてきた気配は、あの魔剣を欲しがるレブラン教授に関係する者しか思いつかなかった。
そしてその考えは間違えていなかった。
森の木々の間から、するりと一人の男が姿を現した。
笑みを浮かべながら現れたその男の顔を、バーナードは忘れていなかった。
面会に来たレブラン教授のそばで、護衛のように立っていた剣士である。
「おやおや、屋敷から出て来てくれたのですか」
「連れが、貴様の気配がうるさいと迷惑している」
「私の気配を察することができるなど、お連れ様も素晴らしい感覚の持ち主ですね。バーナード騎士団長」
男はうっそりと笑みを浮かべる。
その目は闇の中で、ギラギラとどこか赤く輝いていた。
彼の手が、腰の剣に伸びている。
「剣士たるもの、剣によってのみ話し合えるでしょう。騎士団長、貴方もそういう人だと思います」
そして彼は剣を一息で抜いて、前へと足を進めたのだった。
バーナードも腰の剣を鞘から抜いて、勢いよく前へと身体を進める。
二人の剣と剣が切り結ぶ。
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